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グローバルスタンダード最前線

TM Forum最新動向

TM Forumは、1988年の設立から30年来行ってきたTelecommunications Management Network(TMN)モデルに基づくテレコムオペレーション〔通信事業者のBSS(Business Support Systems)/OSS(Operation Support Systems)〕の検討・標準化から、次世代の他事業者・産業と連携したB2B2Xサービス向けのオペレーションシステムのフレームワーク、アーキテクチャの検討・標準化にシフトしてきています。最近は、特にAI(人工知能)技術を活用した業務の自動化をめざしたAutonomous Networkや顧客指向のオペレーションをめざしたCustomer Experience Managementに関する標準化に向けた取り組みがさかんに行われています。NTTグループは、本団体で、NTTグループの技術・ビジネス要件の標準化への反映を進めているとともに、本団体のドキュメントを活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)化に向けたOSS/BSSのアーキテクチャの検討を進めています。

堀内 信吾(ほりうち しんご)/田山 健一(たやま けんいち)
NTTアクセスサービスシステム研究所

TM Forumとは

TM Forum(1)は1988年にOSI/NM(Open Systems Interconnection/Network Management)Forumとして設立され、現在世界の主要キャリア、ベンダ850社以上が加盟するテレコムマネージメント分野で最大の国際標準化団体です。相互接続性の推進を目的に、オペレーション分野の業界標準を検討しています。BSS(Business Support Systems)/OSS(Operation Support Systems)のアーキテクチャとしてOpen Digital Architecture(ODA)を提唱するとともに、このアーキテクチャを実装するためのフレームワークをOpen Digital Framework(ODF)(2)として定めています。また、昨今のビジネス動向などを踏まえて議論カテゴリを設定(Project化)し、具体的なユースケース、シナリオベースにアーキテクチャ、API(Application Programming Interface)、情報モデル等の議論が行われています。昨今では、ネットワークの自律運用をめざすAutonomous Network Project、顧客満足度の向上に視点をおいたCustomer Experience Management(顧客志向オペレーション) Project、IoT(Internet of Things)も対象としたSmart Cityなどへの適用を検討するDigital Ecosystem Management Projectなどのプロジェクトでの議論が精力的に行われています。ドキュメンテーションは年2回のメインリリースと2カ月単位(Sprint)でのマイナーリリースにより迅速に市中動向を反映するような営みが行われています。また、これら標準ドキュメントを、実装面からフィージビリティを示すととも、新たなビジネス領域での適用性を示すために、PoC(Catalyst)Programもさかんに行われており、年40チーム程度(1チーム5から10社程度のキャリア・ベンダで構成)が参画しています。これらのPoC(Proof of Concept)は、年数回行われるTMFのイベント(Digital Transformation World等)にて展示する機会が設けられ、数多くのキャリア・ベンダが新たなビジネスモデルとともに標準化に資する技術力をアピールしています(図1)。

テレコムにおけるビジネス動向

従来、通信事業者は、電話・インターネット等のライフラインとしてのサービスを提供し、その中で、オペレーションには、それらサービスの持続接続性とコスト削減が求められ、TM Forumでも、そのためのビジネスプロセス・管理情報モデルの検討が行われてきました。一方、5G(第5世代移動通信システム)に代表される新しいネットワーク上では、法人・個人等の直接の回線利用者向けだけでなく、異業種産業のビジネス向けにネットワークサービスを提供する形態が増えてきました。このため、従来のB2Cビジネスから、B2B2Xビジネスに対応すべく事業者間での連携も見据えたオペレーションのアーキテクチャ、インタフェース(API)が、TM Forumの主要なテーマとなってきています。TM Forumでは、ビジネスモデルをベースとした議論を重要視しており、これが他の標準化団体とは異なるTM Forumの大きな特徴の1つとなっています。アーキテクチャ・API・情報モデル等を標準として制定するために、これらの要求条件についてビジネスモデルから議論を展開しています。Catalystと呼ばれるTM ForumでのPoCでは、新たなビジネスモデルを複数のキャリア・ベンダで検討を行い、TM Forumで定める標準仕様等のアセットの有効性示すだけでなく、新たなビジネス要件に必要な標準化要素に関する議論を展開しており、この取り組みにおいても、ビジネスモデルを重視していることが大きな特徴となっています。

動向

■オペレーションアーキテクチャ:ODF/ODA

従来TM ForumではNGOSS(New Generation OSS)時代からの資産を受け継いだFrameworxと呼ばれる仕様群があり、eTOM、 SID、 TAM、 Open API、 Metricsとこれらを用いたBest Practiceがドキュメント化されています。2018年ごろから、これらのフレームワークを大幅に変更し、Open Digital Framework(ODF)として再編を進めています。このODFの中のシステムのつくりに関するアーキテクチャをOpen Digital Architecture(ODA)と呼び、Frameworxの資産を引き継ぎつつ、B2B2Xのビジネスモデル、顧客志向、AIの活用等の要素を踏まえた新しいアーキテクチャの議論が進められています。
ODAについては、従来の検討に加えODAを活用したITソリューション構築を加速化するODA-Component Accelerator (ODA-CA)と呼ばれるImplementationに関する検討がスタートしています。また、ODAでより広範囲なビジネス向けのシステムフレームワークとする観点と、ODAと従来のFrameworxの資産との整合性を高める観点から大規模な再編を図っています。ODFからみたODAのライフサイクルやドキュメント間の整合性のためのODA Governanceを新設し、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の考え方(TOGAF)を基にBusiness Architecture、Data Architecture、Functional Architecture、Components、Open APIsを軸に分け、これまでのeTOM、SID、TAMなどの資産をライブラリとして位置付けてマッピングすることを考えています(図2)。

■API

TM Forumでは、通信事業者主導で他産業と連携したビジネス創出のために、さまざまな産業と連携した議論を行うだけでなく、多くの通信事業者とそのシステムを提供するベンダでTM ForumのAPI(Open API)を活用していく方針に賛同してもらうManifestを掲げ71企業が実際に同意しています。近年では、特定のビジネスやネットワーク技術を意識し、必要なAPI群をまとめたAPI Suiteの検討もさかんであり、Edge Management Component Suite APIsやAI Closed Loop Management Component Suite APIs、Connectivity as a Service Component Suite APIsなどの議論が実際に行われています。

(1) Autonomous Networkの検討

以前より、TM Forumではネットワークなどの管理対象の情報の収集・分析・最適化・実行を通して管理対象のオペレーションの自動化を実現させる枠組みであるClosed Loopの実現に向けた取り組みが行われてきました。昨今は、従来のClosed Loopの考え方を発展させ、業務の自動化をめざし、そのビジネスモデル、アーキテクチャ、APIの検討が、Autonomous Network Projectで行われています。ネットワークのリソースレイヤ、サービスレイヤ、ビジネスレイヤの各レイヤのClosed Loopを連携させて、業務の自動化を実現する取り組みです。Autonomous Network Projectでは、自動化の実現レベルを設定し、各キャリアが自動化の実現レベルを客観的に把握することが可能です(図3)。

このような自動化に向けた枠組みは他の標準化団体(ETSI ZSM(2)、ENI(3)、F5G(4))/オープンソース団体(ONAP(5))でも検討が進められていますが、TM Forumが全体を主導しており、各団体と連携した検討もさかんに行われています(図4)。

2020年度は、ビジネス要件やアーキテクチャのドキュメント化が進みました。アーキテクチャの中では、各レイヤのClosed Loop間を連携させる要素としてIntent(上位レイヤの要求条件と下位レイヤの要求条件の関係性)の概念が注目されており、2021年度はこのIntentのモデル化、API化の議論が進む予定です。

また、このAutonomous Networkでは、インフラを抽象化し、Network as a Service(NaaS)として、扱っています。このNaaS上で、場所、価格、SLAに基づくサービスのコネクティビティをConnectivity as a Service (CaaS)として表現しています。Autonomous Network では、インフラの抽象化を基に、対象範囲を5Gネットワークだけではなくレガシーネットワークにも拡げ、AIを活用したオペレーションの自動化に向けた検討を進めています(図5)。

(2) AIを活用したオペレーション

TM Forumでは、AI個別の議論ではなくAIをオペレーションに適用し効果を得られるようにするために、以下の4つの検討アイテムとして議論を実施しています。

① Closed Loop AI Automation:異常分析のAIを使って自動化を実現するアーキテクチャの検討

② AI Governance:AIを活用したオペレーションを広く展開するための管理方法及びリスク低減方法の検討

③ AIOps:AIを活用した運用プロセスの再設計の検討

④ Data Governance:倫理的で安全なフレームワークの検討

①では、異常検知・解決の想定ユースケースや論理アーキテクチャ等の整理を進めています。②では、ビジネスアライメント、ビジネスデザインなども踏まえ、AIを活用したオペレーション上でのライフサイクルマネジメントの実現方法の検討をしています。また、③では、AIを活用したオペレーションプロセス、さらにそのガバナンスに注目しています。その中でDevOps、ITILなどをベースにしたService Operationの従来の管理プロセスとAIをベースとしたプロセスのギャップを分析し、そこから抽出される要件に基づいたフレームワークとしてAIOps Service Management Frameworkの検討が進められています。④としては、AIを活用したオペレーションの学習データのカテゴリ分け、データの共有・利用権限等の検討が行われています。

(3) 顧客志向のオペレーション

これまでCustomer Experience Managementとして、顧客が利用するサービスに特化したKQIを採用し、顧客満足度向上につながるサービスマネジメントプロセスなどの検討が行われてきました。近年は顧客が多様なサービスを組み合わせて利用する状況を考慮し、顧客の生活スタイルの変化等によって利用するサービスを乗り換えていく状況を踏まえて顧客視点でのサービス利用のライフサイクルを基にした検討が進められています。5G向けビジネスでの顧客志向オペレーションや顧客のサービス要件の意図(Intent)に基づいたオペレーションの検討も最近のホットトピックとなっています。

NTTグループの活動

NTTグループでは、TM Forumの場を活用し、DXに向けた市中動向・技術の把握、研究所を中心としたオペレーション技術の標準化(ガラパゴス化の回避)と市中技術と組み合わせたビジネスモデルの創出、NTTグループのパッケージ製品等によるビジネス化のアピール等を行っています。例えば、NTTアクセスサービスシステム研究所で取り組んでいるネットワークリソース情報のモデル化技術(NOIM)を、ネットワーク管理の情報モデルの要件に反映するとともにリソース情報の事業者間連携、ネットワーク・サービス・ビジネス間連携等も見据えた関連APIの策定を進めています。その他のNTTグループでの活動も含め、NTTグループとしての一体的な活動と運営を目的に、TM Forumの主要な会合・イベントの前後でNTTグループ会社が参加するTM Forum標準化専門委員会を開催しています。専門委員会では、各社からのアップストリーム・ダウンストリーム情報の共有、関連する他の標準化団体の動向・TMFとの関連性の共有を行うとともに、各社のアップストリーム・ダウンストリーム活動を効果的にすするためのサポート体制を構築しています。

■参考文献

(1) http://www.tmforum.org/

(2) https://www.etsi.org/committee/zsm

(3) https://www.etsi.org/committee/eni

(4) https://www.etsi.org/committee/f5g

(5) https://www.onap.org/