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IOWN構想の未来に欠かせない高性能な光機能デバイスのためのスマートフォトニクス技術

現在、光機能デバイスの用途は拡大の一途を辿り重要性を増していますが、スペックの高度化・多様化といった要求に対応するためには機能や性能の向上はもちろんのこと、開発期間や製造スループットの改善なども図る必要があります。今回は、光デバイスの製造におけるこれらの課題を解決するスマートフォトニクス技術について、鈴木賢哉特別研究員にお話を伺いました。

鈴木賢哉 特別研究員
NTTデバイスイノベーションセンタ

PROFILE

2000年東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。同年、日本電信電話株式会社に入社、NTTフォトニクス研究所に所属。2022年よりNTTデバイスイノベーションセンタ/フォトニックネットワークデバイスプロジェクト特別研究員。石英系平面光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuits)や空間光学型デバイスの研究開発、それらの応用に関する研究開発に従事。電子情報通信学会学術奨励賞、エレクトロニクスソサイエティ活動功労表彰等を受賞。

スマートフォトニクス技術で安定した光機能デバイスの製造を可能にする

◆ご研究されているスマートフォトニクス技術とはどのようなものでしょうか。

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想のオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)をはじめとした光通信や光センシングなどの幅広い領域で、光デバイス技術は重要なものですが、設計、製造の過程で発生する性能の制限や製造性において課題もあります。スマートフォトニクス技術は、自動化や統計的な予測を用いて開発期間の短縮や製造スループットの改善を行い、高精度な光機能デバイスを簡単に実現する技術的な取り組みとして定義しました(図1)。
従来の光機能デバイスは、製造工程で発生する誤差を手作業で補正などを行ってきましたが、属人的な技術が必要であり、それによってヒューマンエラーが起きるなどの問題が多々ありました。この従来の方法に代わって、自動化を行い安定したデバイス製造を行うことをめざして立ち上げた研究テーマがスマートフォトニクス技術です。
建築を例にとって考えてみると次のような説明ができるかもしれません。建物を建てるとき、木材などの切り出しの精度には公差が定義されると思います。ある範囲のずれであれば最終的に建物は隙間なくできます。一般的に、たくさんの工程を経て建物は完成すると思いますが、その各々の工程で許容公差が定義されると、最終的にとても大きな公差を許容しなければなりません。そのような工程ごとの公差やずれの許容量を極限まで低減し、最終的にできるものの性能を高めていくということがスマートフォトニクスで提案する目的の1つです。つまりスマートフォトニクス技術では、製造の各工程で前工程の誤差を補正しながら目標とする性能に近づけていき、最終的に良いものが安定してできるようにするために研究を行っています。これはいわゆるスマート工場と同じような考え方かもしれません。自動化などの課題意識は同じところにあり、さらに、光デバイスの特徴に着目したスマート化を主軸に研究を進めています。
私がプロジェクトリーダを務めている光スイッチモジュールプロジェクトでは、マルチキャストスイッチと呼ばれるデバイスを開発しています。これは例えば地震や災害が起きて光ファイバが切れてしまったときに、迂回経路を設けて通信を確保するために、ルーティングや光のパスの切り替えに使うキーとなるデバイスです。このスイッチは、CPUやメモリなどといったいわゆるLSI(Large Scale Integrated Circuit)の製造技術を転用して作製します。私のグループでは、光ファイバと同じガラス材料でウエハの上に光の集積回路をつくる石英系平面光波回路技術を使って、マルチキャストスイッチの開発に取り組んでいます。このようなデバイスを高性能につくるための基盤技術として始めた研究が、スマートフォトニクス技術です。
APNで求められている高性能な光機能デバイス製造を実現したいというのが、この研究のモチベーションです。さらには、光デバイスの製造現場において、さまざまなエラーで発生するデバイスのつくり直しを減らしたいという思いもあります。例えば将来的に光機能デバイスが一般家庭に普及するなど用途が多様化して需要が拡大した場合も、スマートフォトニクス技術により、安定かつ大量に光機能デバイスを製造することができると考えています。

◆スマートフォトニクス技術による製造は具体的にどのような方法で行うのでしょうか。

スマートフォトニクス技術を実現する鍵として、プロセスフィードフォワード法という手法を提案しています。プロセスフィードフォワード法とは、製造過程において発生する誤差情報を後の工程に反映して、各々の工程で逐次的に補正することで高性能な光機能デバイスを実現するというアイデアです。光デバイスウエハはさまざまな工程を経てつくられますが、前述したように工程ごとに最適化するのではなく、全体として良いものができるように各工程を協調させるようなイメージです。さらにはウエハプロセスだけではなく、石英系平面光波回路と光半導体のような異なる材料を組み合わせたデバイスにも展開を考えています。性能結果の良いものどうしが組み合わされた場合に良い性能が出るというのは当たり前ですが、中程度の性能のものを組み合わせた場合においても、ベストミックスとなるよう、最大限の性能を引き出して、目標値を達成する高性能なデバイスを製造することもねらっています。
図2は光機能デバイス製造工程におけるプロセスフィードフォワード法を表したものです。ウエハを基板とする光の集積回路において、屈折率という指標がありデバイスとしての光学特性に大きな影響を及ぼします。この屈折率の数値が製造するたびにばらつくことがあり、大きな問題です。そのため、まずはガラスの屈折率や厚みを精密に計測し、そのデータを基にして標準的な幅でガラスをつくるとどうなるか、統計的な手法を使って光学特性推定を行います。そしてばらつきが出て誤差が生じそうな場合には、次の工程で光が伝搬するコア部分の太さなどを変えて、等価的な屈折率が同じになるように最適化を行います。こういった補正を各工程で繰り返して行うことで、従来の工程では誤差が累積して性能分布が広がっていたものが性能のばらつきも小さくなり、安定して高性能なデバイスを実現することができるというのがプロセスフィードフォワード法です。

高性能な光機能デバイスをつくりIOWN構想を実現する

◆スマートフォトニクス技術を応用した今後の展望について教えてください。

スマートフォトニクス技術は、ようやく研究の結果が出てきたという段階ですが、ゆくゆくは本技術を使ってIOWN構想を実現するために、さらにさまざまなデバイスをつくり世の中に広めていくことを目標にしています。現在は主に石英系平面光波回路技術に適用していますが、ここで磨いたアイデアやエッセンスを光半導体やそのほかの材料の光デバイスにも展開して、良い性能が出せるように技術を応用していきたいと考えています。
スマートフォトニクス技術は、さまざまな光デバイス研究の基礎になるような基盤的な技術です。今まで光デバイスの分野では材料ごとの専門性が高く、技術者どうしの専門分野の垣根を越えた話が少し難しいところもあったように感じます。スマートフォトニクス技術をさまざまな分野に広げてそれぞれの専門分野のエッセンスを共有できるようにしたいと考えています。すべてのデバイスにスマートフォトニクス技術を展開することで、それぞれの材料の良いところを組み合わせた、今までにない集積デバイスをつくることも目標の1つです。
また光デバイスの製造はその特殊性もあって、少し古い設計の装置を使って製造することがあります。古くて更改するのが難しい装置が残っているような分野においては、それらを制御の自動化技術にも応用できるのではないかと考えています。DX(デジタルトランスフォーメーション)市場の規模は2030年には数1000億円にもなると見積もられており、この研究で培った技術の一部をそういった装置が残る中小企業、町工場のようなところにも幅広く展開して、自動化やIoT(Internet of Things)化といったもののバックグラウンド技術として活用できればとも考えています。

◆研究者や学生、ビジネスパートナーへメッセージをお願いいたします。

私は現在NTTデバイスイノベーションセンタに所属しており、ここは日本で有数の研究環境だと感じています。特にハードウェアの研究は豊富な設備が用意されていて、研究が好きで新しい何かをつくることや、さまざまな意味で挑戦することが好きな人にとっては、自分のアイデアを試して実現することができるNTTの研究環境はとても魅力的だと思います。
論文を書くこともありますが、NTTデバイスイノベーションセンタはデバイスの実用化を目的とした組織ですので、ユーザに価値を感じて実際に使ってもらえるデバイスを研究することが求められます。そのためにはユーザの声に日々耳を傾け課題を見つけると同時に、業界のトレンドをつくっていくことも必要です。光デバイス業界の市場はグローバルなので、海外との会議も多々あります。そういった意味でデバイスの研究開発は論文を書くこととは別の厳しさがありますが、自らが提案した技術や方式がリアルに世界のトレンドになるのは面白いです。
これから研究開発を通じて、日本のみならず世界に評価される価値を、研究者や学生、ビジネスパートナーの皆さんと一緒に創出していきたいと思っています。

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