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特集 主役登場

しなやかな社会の実現に向けた環境負荷ゼロと環境適応への取り組み

行動変容を軸とした未来予測技術の実現をめざして

篠塚 真智子
NTT宇宙環境エネルギー研究所
研究員

新型コロナウイルス感染症によるパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻など、これまで予測できなかったような問題が顕在化し、企業活動や私たちの生活にも影響を及ぼしています。企業は従来の利益追求型の体質から転換し、地球環境・社会問題にも取り組むことが求められており、サステナビリティ経営の重要性が高まっています。NTTグループでは環境エネルギービジョンにおいて環境負荷ゼロと経済成長の同時実現を掲げています。今回の特集で紹介しているNTT宇宙環境エネルギー研究所の取り組みは、環境エネルギービジョンの実現に直結する研究です。
私の所属するESG経営科学技術グループでは、このような社会の変化に対して企業がとるべきESGに関する経営戦略の立案に資するため、人間社会と地球環境影響についての未来予測シミュレーションに取り組んでいます。企業の経営戦略はこれまで、専門家の知見や経験に基づいて策定されるのが一般的でしたが、将来起こり得る社会の変化(災害、景気の変動などのイベントや新技術の発展)と、それらの影響に関する複数のシナリオを科学的な根拠に基づいて体系的に描けるようにすることが目標です。議論が定性的になりがちな、複雑な物事の関係性を体系化する点に難しさ、技術的な要素があります。複雑な社会構造をモデル化し、あらゆる事象を仮想空間上でシミュレーションした結果を実社会にフィードバックすること、例えば企業にとっての長期的なリスクと機会に対応するための意思決定を支援することをめざしています。
その中で私は、人や組織の行動に着目した環境・社会モデルの構築、人間の行動変容を予測するシミュレーション技術に取り組んでいます。人や組織の動きは時間とともに変化するうえに不確実性が高いため、将来起こり得る社会の変化の影響を考えるにあたり重要な要素の1つです。私自身は一見非合理と表現されるような面も含めた個人や集団の心理的な行動と、マクロな社会との相互作用に関心を持ち、入社以来、行動変容を軸としてライフサイクルアセスメントをはじめとした環境・社会影響評価技術を研究してきました。最近の研究では、エージェントベースモデルを応用しコロナ禍でのテレワーク実施率の予測モデルを構築しました。労働者と企業、感染者数や行動制限などのマクロな社会状況との関係性を構造化し、過去の類似事象発生後の統計データを援用することで、人々の感情の変化を表現し、実社会の傾向を再現することができました。
今後は事例を蓄積しながらさまざまな事象の共通性を見出し、個人、企業と社会状況の関係を汎用的に記述できるモデルを構築したいと考えています。そのためにはこれまでに培ってきた環境・社会影響評価技術に加え、数理モデルや経営学、さらには人文科学といった幅広い分野の知見が必要になるため、社内外と連携し研究を加速していきます。地球環境や社会の不確実性が増していく未来を予測しあるべき姿への道筋を描くことで、NTTグループの環境エネルギービジョンの実現を支えるとともに、変化に対応しながら人々が豊かに暮らせるしなやかな社会の実現に貢献したいと考えています。