NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

テクニカルソリューション

IPネットワークのトラブル解析を支援するツール(10Gbit/s対応パケットキャプチャ装置の開発)

IPネットワークで難解なトラブルが発生した場合の原因究明をするためには、的確な場所(複数個所)でIPパケットをキャプチャし、通信区間の異常を特定することが有効な手段となります。NTT東日本技術協力センタでは、これまで故障対応の現場でも容易にキャプチャを実施するツールについても開発してきました。ここでは「10Gbit/s対応パケットキャプチャ装置」を紹介します。

はじめに

NTT東日本が提供する光回線サービスでは、インターネット接続に加えてひかり電話などの電話サービスも利用可能となっており、お客さまのネットワークにさまざまなIP機器や電話機が多数接続されています。ユーザのネットワークにて「つながらなくなる」や「時々通信が遅くなる」といったトラブルが発生した際には、まずは配線や機器交換、機器設定見直しによって解消を図ることを試みます。しかし、中にはそれでも解消しない「特異故障」もあります。例えばひかり電話の音声が突然聞こえなくなる事例(1)やFAX画像の一部分が白抜けする事象の原因調査(2)のような例では、通信シーケンスやパケットの不良が発生するタイミングや個所を特定することが、故障発生個所および原因の究明の有効な手段となります。
IPパケットを取得するパケットキャプチャ装置には市販品でも扱いがありますが、操作が複雑であったり、値段が高価であったりするなど、すべての現場故障対応者が取り扱うには障壁がありました。
NTT東日本技術協力センタでは、10年以上前からすべての故障対応者がキャプチャを容易に扱い、また解析するためのツールの開発を行い、現場での故障解決を支援してきました。その間、100Mbit/sから1Gbit/sと高速なイーサネットインタフェースが普及し、昨今ではさまざまな事業者から10Gbit/sインタフェースを有する光回線サービスやIP機器が提供されており、お客さまのネットワーク設備でも帯域の10Gbit/s化が進んでいます。10Gbit/sの帯域を有するお客さまネットワークで特異故障が発生した場合に、従来の1Gbit/s対応のパケットキャプチャ装置では、設置区間でのネットワーク帯域が1Gbit/sに制限されてしまい、お客さまの通信に影響を与えてしまいます。そこで技術協力センタでは10Gbit/sに対応したパケットキャプチャ装置、「キャプ10G(キャプテンジー)」を開発しました。

10Gbit/s対応パケットキャプチャ装置(キャプ10G)の開発

キャプ10Gの開発にあたっては、専用ハードウェアではなく、x86系プロセッサやSSDストレージ、ネットワークインタフェースカード(NIC)などを組み合わせた汎用PC上で、開発したパケットキャプチャソフトを動作させることで価格の低減を試みました。しかし、OS(Operating system)上で動作するアプリケーションで実現しようとすると、OSからの割り込みなどの影響を受けて、パケットキャプチャ性能が十分に得られません。OSを介してハードウェアを制御すると、アプリケーションはハードウェア種別を気にせずにさまざまなハードウェアを容易に利用することができる一方で、OSによるプロセス管理やメモリ管理によりハードウェアの性能を十分に発揮できないことがあります。そのためOSを介さずに直接CPUやNIC、メモリを制御するDPDK(Data Plane Development Kit)を採用することとしました。DPDKはカーネルを介さずに直接ハードウェアを制御するため、カーネルでの割り込み処理の制約を受けずにハードウェアを利用することが可能で、高速なパケット処理が可能です(図)。起動パーティションにはOverlayFSを採用しており、シャットダウン操作を行わずに機器の電源を切ることができます。
またキャプ10Gのユーザインタフェースについては、故障対応者が必要とする最小限の機能に限定することで、容易な操作を実現しています。ここでは2つの機能について説明します。
(1) 装置操作
キャプ10Gは専用のイーサネットインタフェースに故障対応者が保有するPCを接続し、WebGUIを介して操作します。パケットキャプチャを行う必要がある故障トラブルには発生頻度が非常に低く、故障が発生するまで1カ月以上継続してパケットをキャプチャする事例も少なくありません。その場合、キャプ10Gはキャプチャ対象のネットワーク機器の近くに長期間、設置されることとなります。そのような場合においても、キャプ10Gの管理用インタフェースをVPN等のIPネットワークに接続してWebGUIから操作できるため、遠隔から装置の状態確認、操作、データ取得が可能です。
(2) 時刻設定
複数個所で取得したパケットキャプチャデータを比較、分析することは、故障発生個所を特定するために有効です。その際には、比較するデータ間で時刻情報が同期していることが非常に重要となります。以前、技術協力センタで開発したキャプチャ機器(キャプツー)と同様に、キャプ10Gも2セットのTAP機能を有し同時に2カ所のパケットキャプチャが可能で、同じ時刻情報に基づいたキャプチャデータの取得が可能です。また、3カ所以上でパケットキャプチャする場合は2台以上のキャプ10Gを使用し、それぞれをNTP(Network Time Protocol)サーバ、クライアントとして動作させることで複数のキャプ10G間の時刻同期が可能です。

今後の展望

ここでは、10Gbit/sのネットワーク帯域のパケットキャプチャを可能とするキャプ10Gについて紹介しました。本装置を用いることにより広がりつつある10Gbit/sのネットワークで発生する特異故障での原因究明にも貢献できると考えており、2024年度の提供開始を予定しています。当センタでの技術支援活動の中で活用するとともに、保守部門でも取得可能とし活用いただけるよう進めていきます。
NTT東日本技術協力センタでは、60年以上にわたり技術協力活動を行ってきました。引き続き全国の現場で生じる難解な故障の解決に向けた技術支援を行いながら、技術支援で得たノウハウや知見等を蓄積・活用し、現場の技術力向上や効率化に貢献するようなツール等の開発を行っていきます。

■参考文献
(1) 技術基礎講座:“ひかり電話の音声が突然聞こえなくなる事例紹介,”Raisers,Vol.72,No.2,pp.26-28,2024.
(2) 技術基礎講座:“FAX画像の一部分が白抜けする事象の原因調査,”Raisers,Vol.67,No.5,pp.20-22,2019.

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ ネットワークインタフェース技術担当
TEL 03-5480-3702
E-mail nif-ml@east.ntt.co.jp