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グループ企業探訪

第211回 NTT印刷株式会社

「印刷ソリューション」でお客さまのビジネスをサポート

NTT印刷は電話帳をはじめとした商業印刷や、請求書などのデータプリントを主軸とするNTTグループ唯一の総合印刷会社である。デジタル印刷技術を含むさまざまな技術革新が進み、印刷業界も大きく変化する事業環境の中、事業内容や今後のビジョンについて、安田雅美社長にお話を伺った。

NTT印刷 安田雅美社長

NTTグループ唯一の総合印刷会社

設立の背景と目的をお聞かせください。

NTT印刷はNTTクオリスとNTTコムウェア・ビリングソリューションが2014年に合併して設立された会社です。NTTクオリスの電話帳を中心としたオフセット印刷・製本技術に加え、NTTコムウェア・ビリングソリューションの通話明細などの請求書を中心とした1 to 1マーケティングを可能とするバリアブル印刷技術により、商業印刷分野において事業領域を拡大するとともに、お客さまに対する高品質・高付加価値サービス提供に貢献してきました。
また、紙媒体の印刷だけでなく、利便性と環境保全の観点から需要の高まっている電子帳票や電子メディアなどを含むあらゆる媒体に関して、企画からアフターフォローまで一貫した「印刷ソリューション」サービスを提供しています。近年では、新サービスの開発や効率的な生産体制の構築にも取り組み、常に進化し続けることでお客さまの事業活動をサポートしています。

事業概要を教えてください。

大きく3つの事業に分けられます。1番目がペーパーメディア事業です。電話帳と請求書で培ったオフセットとデータプリントの印刷技術を、チラシやパンフレット・DMなどの各種印刷物に活用し、企画制作から各種印刷、封筒製袋、封入封緘、製本加工に至るまで、訴求力のあるサービス提供と一貫した生産体制により、総合的に対応しています。また、近年ではより多くの情報掲載が可能となる大判サイズや6ページ、8ページといった通常冊子状の印刷物を積層化したDM(写真1)の提供など、効果の高い商材ラインアップをそろえ、お客さまのセールスプロモーションに貢献しています。
2番目はデジタルメディア事業です。ペーパーメディアに閲覧性や検索性といった付加価値を加えた電子ブックの作成や、紙媒体の資料を効率的に情報管理する文書管理システムなどを提供しています。また、請求書を電子化する電子帳票サービスにより、請求情報のWeb閲覧が可能となり、エンドユーザだけでなく、お客さまのコールセンター業務支援にも活用されています。
3番目はこれまでに多くの印刷物を扱ってきたノウハウを活かした各種サービスの展開です。発送コストの削減を支援する郵便ソリューションサービスや、お客さま企業のサービス利便性を向上させるためのWebサイト構築やアプリ開発、また書類保管の新しいカタチとして、AI-OCRといった新たな技術を活用したドキュメント電子化サービス開始など、お客さまへの最適なご提案に向け、独自のサービス拡大に取り組んでいます。

事業環境や課題について教えてください。

印刷事業というとまずイメージするのは、パンフレットや書籍といった紙媒体への印刷だと思います。印刷市場全体では、そうした印刷関連媒体の売れ行きは減少傾向に歯止めがかからず、また、自治体などで利用される各種帳票を例にとっても、無駄の象徴のようにいわれることもあり、印刷だけに注目すると産業としては衰退方向にあるように思われています。
こうした市場環境の中、これまで当社は電話帳や請求書という印刷事業で、前述のように完成品の形が定まったものをつくることが前提の世界で生きてきました。しかし、これからは視野を広げ、「印刷」というキーワードを切り口に、印刷周辺のプロセス、さらにはお客さま企業の業務そのものに当社が参画することで、ビジネスパートナーとして付加価値を提案・提供できる会社に変わっていかなければならないと考えています。
印刷というのは、紙を媒体にした人類最初の情報通信手段であり、発明後には、画期的な技術革新や、社会構造の変革を起こしました。そうした意味においては、印刷とは情報通信やトランスフォーメーションそのものであり、新たな未来社会に向け、よりスマートな社会を実現すべく、印刷の視点からお客さまのデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援することができるのではないかと考えています。

印刷から郵送までの一貫したソリューションを提案

貴社の強みを教えてください。

皆さんが一般的に思う印刷は原稿があって、同じものを大量に印刷するものだと思います。しかし当社では、例えばクレジット明細のように、 1ページ目にはお客さまの名前や請求金額、引き落とし日、明細を印刷し、2ページ目には明細のみを印刷あるいはエンドユーザの属性や購買履歴などを踏まえた広告情報を差し替えて印刷することで、1人ひとりに異なった情報をお届けする1 to 1印刷が可能です。また、お客さま情報のデータ受領・編集から、郵送を含む印刷物の発行管理から郵送するところまで一貫して実施することにより、BPO(Business Process Outsourcing)のニーズにこたえ、単なる印刷にとどまらないマーケティングやパーソナルプリントといった付加価値のあるソリューションの提供が可能になります。
また、2018年10月からWeb上で印刷物の発注を行うことが可能となる「プリントミックス」をスタートさせました。商品のパンフレットや会社案内、キャンペーンチラシといった印刷の都度変更する個所が限定的なものは、当社でテンプレート化し、お客さまには対象個所をWeb上で変更いただくことでスムーズな発注とスピーディな印刷物のお届けを実現しています。

印刷技術に関する貴社の強みはいかがでしょうか。

印刷にかかわる特許はいくつか取得していますが、2018年4月に新たに「可変潜像印刷技術」の特許を取得しました。一般的に複写機やスキャナーなどのデジタル機器を使用した印刷物の偽造行為への対策としては、視認が難しい文字(潜像文字)やデザインなどを印刷する「潜像印刷技術」が活用されていますが、今回の特許により、これまで実現ができなかった印刷物1枚1枚に異なる潜像文字・デザインを印刷することが可能となりました。
また、特許ではありませんが、印刷物へ視認できないような小さな文字(マイクロ文字)を印刷する技術と、「可変潜像印刷技術」を組み合わせることで、より高度な偽造印刷物抑止対策が可能となります。このような印刷技術を研鑽し続け、今後の事業推進における活用を進めていきたいと考えています。

経営戦略についてはどのようにお考えですか。

産業全体として、紙への依存がますます低下していますが、働き方改革を踏まえたBPOニーズの高まりやデータマーケティングと融合したパーソナライズ化推進など、印刷に付加価値をつけたサービスや事業は上向き傾向となっています。
当社としては、商業印刷分野の事業領域拡大として、お客さまのBPOニーズをとらえた印刷周辺のプロセスへ積極的にアプローチし、AI-OCRなどの新たな技術を活用したデータ分析やコンサルティング業務などの非印刷分野にも取り組んでいきたいと考えています。また、NTT東日本グループが取り組みを強化している工場IoT(Internet of Things)に対しても、NTTグループで工場設備を保有する唯一の企業として、全面的に協力し、ノウハウ蓄積に貢献するだけでなく、当社としてもスマートファクトリー化の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。従来の印刷から発送までにとどまらない一連のサービスとして、ソリューション提案が可能となる事業体制を構築したいと考えています。

会社は人生の3分の1面白おかしく仕事を

会社の雰囲気を教えてください。

当社は、20代、30代の若手が多く、若手のころからさまざまなプロジェクトに参画し、アイデアや意見を積極的に出し合い、会社を盛り上げてくれています。また、女性も多く活躍しており、入社志望の学生についても女性の志望者が多いという特徴があります。

最後に社員へのメッセージをお願いします。

社員にはいつも、「自分の人生なのだから、少しでも面白おかしく楽しんで仕事に取り組んでほしい」と伝えています。この考えは着任以来変わっていません。どのようなことかというと、 1日24時間のうちの8時間、つまり3分の1も会社で仕事をしていることになります。残りは寝るか食べるかなどしかありません。 20歳ごろから働くとして、人生のうちの一番面白い時代である多くの時間を仕事に費やすことになります。働かなければいけない限りは楽しく働いたほうが良いでしょう。自分が成長した、自己実現したと思えることを見つけられるほうが楽しいですよね。そうした意識を持って仕事に取り組む社員がもっと増えてほしいと思います。

担当者に聞く

デジタルとアナログを組み合わせた新しいサービスの提供

生産本部ソリューション 開発グループ
主査 細川 勉さん
主査 上田 真也さん

(左から)細川勉さん、上田真也さん

業務内容を教えてください。

細川:新しいビジネスを創出するということに尽きます。新しいビジネスの考案、企画から、ニーズ調査、ターゲット選定、市場への適応性および事業性を確認し、ファーストユーザを獲得することがミッションです。ビジネスモデルを策定、構築し、事業化された際には営業部や生産本部に引き継ぎます。

どのような分野での新ビジネスを考えているのでしょうか。

細川:私たちは印刷事業を柱としてきた長い歴史があるため、どうしても印刷の延長線上や、その周辺にあるものに焦点を当ててしまいます。しかし、新しいビジネスを発想するうえで、既存事業だけに縛られていてはなかなか良いアイデアは出てきません。そこで、新しいアイデアを生み出すためアイデアソン等を取り入れ、新事業のタネを出し、ビジネスとして成立するかどうか議論するといった手法を定期的に行っており、その中で一定のビジネスモデルが描けたものについては、幹部層へプレゼンテーションして継続的に取り組むかを判断しています。
上田:事業領域拡大の一例は、“デジタルとアナログの融合”です。デジタル領域で個々に合った内容へと編集し、リアルな媒体として1人ひとりにパーソナル化されたDMを発行し、高い反応率を実現します。
時代の流れに敏感なデジタル先進企業では、早期にデジタルアプローチに注力し、大衆向けのマスマーケティングから個々のエンドユーザに向けたダイレクトマーケティングへと予算を振り向け、大きな成果を上げてきました。相手の属性、行動履歴から最適なタイミングでサービスを訴求するのはデジタルメディアの得意とするところです。しかしながら、多くの企業がデジタルを活用する一方で、目新しさが薄れ、その他大勢から選択されることが困難となり、エンドユーザ側も情報過多により情報に触れること自体が億劫になるという状況も生まれています。加えて、シニア層などリーチできない層も存在します。そこでデジタルの穴を埋めるべく、アナログ回帰に進むという動きが出てきました。なぜならば、費用の最小化という効率のベクトルと、効果の最大化というベクトルは別のものだからです。目で見て触れられる物理的なDMは、エンドユーザの心理的な認知可能領域にも入りやすく、母数の拡大や購買意思決定の最後の一押しとして、今再びスポットライトが当たっています。デジタル一辺倒でなく、デジタルと紙を組み合わせ、効果を最大化するサービスを提供、支援することが当社にとってもお客さま企業にも重要だと考えています。

新しいものを生み出し、世の中に出していくうえでのご苦労をお聞きかせください。

上田:新しいサービスの立ち上げは、例外なく苦労するものです。例えば私が担当したコンパクトな冊子状の新DM媒体の立ち上げで特に苦労した点は、策定した戦略を他人に共有し、理解してもらうことでした。もちろん説明するうえでは、各組織やマネージャなどのポジションによって重要な視点、情報が異なることを考慮しました。 例えば営業担当への共有では、100人集めて一方的に情報を押し付けても、大勢の中の1人という意識もあり我が事化が難しいだろうと考え、勉強会参加者を選抜しました。この方法なら説明を受けた者は自身が持ち帰ってチーム内に説明しなければならないから、説明会において能動的に戦略・戦術を理解しようと努めると考えたからです。
また、実際に私も営業活動を行い、お客さま企業の評価をフィードバックし、戦略・戦術をブラッシュアップ、クイックにPDCAを回し、新商材における社内ムーブメントが沈静化してしまわないよう走り続け、その甲斐あって早期に受注につながり、現在ではDM媒体の新たな選択肢として定着しています。会社としての成果が上がっただけでなく、周りを巻き込む力を発揮し、私自身大きく成長することができたと感じています。
細川:違うサービスの経験談ですが、社長からも話があった「プリントミックス」をリリースする際、営業担当者には、プリントミックスにより新たな営業機会を創出できるのだと説明しました。プリントミックスの仕組みをうまく使うことができれば、お客さまと当社双方で受注から生産に至るまでの業務が簡素化され、効率化を図ることができ、その結果新たな営業リソースが生まれると考えたからです。
しかし、サービスを開始すると想定外の見積依頼や要望が出るなど、私たちが意図していない対応に追われる、という事象が多発しました。意見のすり合わせが足りなかったのと同時に、お客さまにも営業担当にも享受する価値をしっかりと伝えられていなかったという点に反省です。
上田: お客さまや当社の営業担当にとっての困りごとに対する、解決策の1つがこれなのだと気付いてもらう働きかけが十分でなかったのかもしれません。対面レスで、お客さまの好きなタイミングで修正・発注ができ、指示ミスリスクも解消し、新たな時間を生み出すというサービスモデルの価値に、しっかりスポットライトを当てないと、商材ごとの品質、納期、価格という従来の競争領域にしか目が向かなくなってしまいます。今後は営業担当との情報連携をさらに密に取り、より良いサービスの実現にこれからも邁進していきたいと考えています。

今後の展望について教えてください。

細川:当社はこれまで印刷を軸に、お客さまへさまざまなサービスを展開してきました。NTTグループ全体がDXに邁進する中で、私たちはデジタル印刷を主軸とした印刷物のパーソナル化を通じて、1人ひとりに最適な情報、最適な価値を提供できるよう取り組んでいきたいと考えています。また、現在NTT東日本様とのアライアンスによりAI-OCR、RPAを活用した新たなサービス構築を行っていますが、このように今後もサービスでアライアンスを組みながら、NTTグループの総合印刷会社としての存在感を高めるサービスの確立をめざし、新ビジネス創出の動きを加速していきたいと考えています。

NTT印刷 ア・ラ・カルト

社内コミュニケーション施策で共通の話題をつくる

社内のコミュニケーション施策として社員の思いの丈を語るプレゼン大会や役員や外部講師が講演する田町塾などが開催されています(写真2)。また拠点が複数ある同社の取り組みとして社内報を発行しており、さまざまな拠点の社員に記事へ登場してもらうことで、拠点間の距離を縮めています。

写真2

若手が管理者必携マニュアルを作成

最近、社内不正やセクハラ・パワハラなどの事例をまとめた管理者必携マニュアルを社内で作成し、管理者に配布したそうです(写真3)。なんと管理者向けにもかかわらず若手が中心となって作成したとのこと。「若手が管理者向けのマニュアルをつくって良いのかという意見もありましたが、育成の意味もあり、若手に任せています」と経営企画部曲尾課長は言います。このようなところからも若手に対する期待の大きさが伺えました。

写真3

芝浦から新富町へ事務所移転

この取材は東京都港区芝浦の事務所で行われましたが、2019年4月末には中央区入船(最寄駅:新富町)に移転することが決定しており、取材当時はフロアレイアウトをはじめ、移転の段取りを着々と進めていました。10連休のゴールデンウィーク明けから心機一転、新たなNTT印刷が始まるでしょう。