特集2 主役登場
3GPPにおける6G国際標準化リードをめざして
熊谷 慎也
NTTドコモ
担当課長
これまで移動通信技術は、約10年ごとに新しい世代へと大きく進化しており、それとともに通信需要も拡大し、新たな通信サービスが生まれてきました。2018年に3GPP(3rd Generation Partnership Project) Release(Rel)-15として標準仕様が策定された第5世代移動通信システム(5G)では、高速・大容量、高信頼・低遅延、多数端末同時接続の3つの技術的特長を、これまでよりも高い周波数帯を用いることや、さまざまなサービスに適用可能となるような高い柔軟性をシステムにもたせることにより実現し、社会基盤として新たな価値・サービスを提供することをめざして世界各国にて商用サービスが展開されています。5Gは最初の標準仕様であるRel-15が仕様化された後にも、Rel-16、Rel-17と新たなリリースにて機能改善や機能追加が行われるなど進化を続けてきました。私は主に無線物理層の技術検討・仕様化を担当する3GPP RAN1(Radio Access Network working group 1)にRel-16から参加し、NTTドコモの代表として5G無線技術の高度化・発展を通してお客さまに新たな価値を提供することに貢献してきました。Rel-17では、それまでの標準化貢献が評価され、5GにおけるIoT(Internet of Things)向け端末であるRedCap(Reduced Capability)の議論モデレータや、Rel-17で仕様化された機能のUE(User Equipment:ユーザ端末)サポート有無の詳細(UE capability)を規定する議論のアドホック議長に任命されるなど、標準仕様の策定に大きく貢献してきました。いずれのトピックでも会社間での方向性の違いを議論リード役としてどのように解決していくのかが難しく、単純な技術力だけでなく、それに裏付けされた交渉力や、各社の意見を俯瞰して理解し、妥当な判断を下す力が必要であることを学びました。
3GPPではRel-18以降で標準仕様化される5Gを5G-Advancedと定義し、2020年代後半の商用サービス化をターゲットとした新たな機能の仕様化や、中長期的なモバイルネットワークの進化をめざした機能の検討を行っています。Rel-18は、5G-Advancedの最初の標準仕様として2022年から仕様策定作業が行われ、2024年6月に完成しました。私は、RedCapをさらに機能簡易化したeRedCap(enhanced RedCap)の議論モデレータや、Rel-18 UE capabilityを規定する議論のアドホック議長をRel-17から継続で任命されるなど、標準仕様の策定に継続的に貢献してきました。仕様検討の途中にはさまざまなトラブルに直面し心身ともに苦しい時期もありましたが、社内メンバのサポートはもちろんのこと、標準化の場で形成してきた人脈の多数の人からも多くの応援をもらい、仕様策定作業をスケジュールどおりに無事完了することができました。
現在、3GPPではRel-19の仕様策定作業が行われています。私はその中で、UEの消費電力を抜本的に改善できる可能性のある新機能LP-WUS/WUR(Low-Power Wake-Up Signal/Receiver)のRAN1議論モデレータとして、さらに他のRANワーキンググループも含めた全体取りまとめ役(ラポータ)としても、標準仕様の策定に貢献しています。普段自分自身が参加しないRANワーキンググループの議論内容や進捗を踏まえて適切に全体議論を進める必要があり、RAN1だけに注力していた過去のリリースとは異なる難しさがあるとともに、社内外の専門家の力を借りながら議論全体を進める面白さも感じています。
また、Rel-19では、WRC-23(World Radiocommunication Conference 2023:2023年世界無線通信会議)にて合意された第6世代移動通信システム(6G)向け候補周波数帯にも含まれている7〜24GHzのチャネルモデルや、ITU-R(International Telecommunication Union-Radiocommunication sector)より示されたIMT(International Mobile Telecommunications)-2030フレームワーク勧告にも含まれている無線センシング向けのチャネルモデルなど、6Gを見据えた検討も始まっています。なお、6GはRel-20で技術検討を行った後、Rel-21で仕様策定を行いIMT-2030へ提案を行う予定です。私はこれまでの標準化経験で培った力や人脈を最大限に活用して6G標準化全体をリードしていきたいと考えています。そして、NTTドコモが6Gにおいてもお客さまに新たな価値を提供することに貢献していきます。