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2025年5月号

特集 主役登場

IOWN開発現場の最前線──IOWNを支えるハードウェアおよびソフトウェアの開発と社会実装活動

IOWN展開におけるユースケース実証の取り組みについて

伊藤 哲郎
NTT IOWNプロダクトデザインセンタ
担当課長

2019年に発表したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を受け、2022年に早期の事業化、プロダクト化および研究開発へのフィードバックを加速する組織としてIOWNプロダクトデザインセンタが発足しました。現在、市場に流通する多くのデバイスやアプリケーションは既存のネットワーク容量や遅延の制約を踏まえた仕様となっています。IOWNの高い性能を活かして国内外の市場に展開していくためには、多くのユースケースでの適用を積み重ねて前述のデバイス等の仕様やお客さまの困りごとなどを深く理解することが必要です。そのためにもプロジェクト推進においては、常に以下の3つのことを大切にしています。

■ゴールイメージを詳細に描き続けること

IOWNの特性を活かしたユースケースの1つとして、撮影したデータを、高速通信を利用して速やかに遠隔地にある放送局などへ送り映像制作をするリモートプロダクションがあります。映像制作業界は世界的にも競争が激しい中で、リモートプロダクションは、従来のように撮影現場に中継制作車や多くの制作スタッフを派遣する必要がなく効率的であり、近年検討が加速しています。
リモートプロダクションへのIOWN活用においては、全国の制作拠点と撮影拠点をAPN(All-Photonics Network)により多対多で接続し、クラウドも用いることで広域に効率的な映像制作を可能とするプラットフォームをゴールイメージに掲げました。放送局様のコミュニティにおける講演などを通じその有用性をアピールすることで実証のご要望をいただくようになり、ネットワーク上の時刻同期プロトコルのPTP(Precision Time Protocol)におけるAPNの圧倒的な遅延揺らぎの少なさなど、フィールド実証などを通じその価値が認知されはじめました。2024年度にはTVの生放送番組への活用が始まるまで進展し、さらには柔軟な光パス切り替えなどの開発に期待が寄せられています。まさに、アプローチ当初より描いていたIOWNを活用したゴールイメージの具体化の一例です。

■業界のキーマンとの信頼関係を築くこと

さまざまなお客さまへのアプローチを進める中で、業界のキーマンに徹底的に寄り添うことで真の課題がみえ新たな開発への足掛かりになると同時に、お客さまから各種講演や記事などでIOWNの価値を発信していただけるなど、業界全体へのプロモーションや市場導入に向けた後押しをいただいています。また、お客さまや関連メーカ等と技術協定(MoU)を結ぶなど、ユースケースを通じて、より強固で親密な関係構築が進んでいます。
学術系のお客さまにおいては、全国規模の大規模研究情報の広域利活用における課題感を研究機関のキーマンと徹底的に議論し、研究拠点をつなぐIOWNの実証を進め、相互の課題理解を深めました。日々の大量な研究データの扱いに関する困りごとなどを多くの研究者から直接ヒヤリングさせていただくことで、付加価値の高い商用導入に向けた共同検討へつながってきています。このような活動を通じ、業界やお客さまをリードするキーマンとの信頼関係を築いています。

■イノベーションを促進するプロモーションをすること

手術ロボットの遠隔操作ユースケースでは、まだAPNサービスが世に出る前の2022年から複数回にわたり国際的な展示会等でのプロモーションを実施しました。各国政府や地域の方々など多くの参加者にその有用性をアピールすべく本物の手術室のような展示とし、遠隔拠点であることを感じさせない低遅延操作と遠隔コミュニケーションを体感いただくようリアリティを追求しました。こうしたプロモーションを通して、APNの価値が新聞やTVニュースにも多く取り扱われ、2024年度には遠隔手術の保険収載に向けた政府プロジェクトにおける実証回線の1つとしてAPNを採用いただくなど、知名度向上およびイノベーションの促進が着実に進んできています。
IOWNがこれからもさらに発展していく中で、イノベータやアーリーアダプタが唸るような技術進化と同時に、引き続く多くのユーザにもメリットを分かりやすくお伝えしながら、真の課題をとらえることで、市場浸透までに直面する溝「キャズム」を飛び越えることが必要です。常にお客さまと接しユースケースを積み重ね、多くの研究者や開発者との連携を密にしていく先に大きなイノベーションがあると信じて、これからもさらなる市場開拓と攻略を進めていきたいと思います。

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