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2025年12月号

特集2 主役登場

NTTドコモのRAN仮想化(vRAN)技術

コストメリットのある無線インフラをめざして

鈴木 勇斗
NTTドコモ
無線アクセスデザイン部
担当

モバイル通信は私たちの仕事や生活に深く浸透し、今では当たり前のように享受しているサービスとなっています。私自身も仕事のちょっとした資料の確認や返信を移動中にスマートフォンで行うこともあります。近所への買い物は財布をもたずスマートフォンの電子決済で済ませてしまっています。
NTTドコモでは、2020年3月から5G(第5世代移動通信システム)サービスを提供開始し順次拡大に取り組んでいます。一方で、お客さまにご利用しやすいサービスとなるよう、無線インフラを担う部門の使命としては高品質なエリアをより低コストで提供することが求められています。システムの世代としても6G(第6世代移動通信システム)を見据えた技術議論も始まっており、継続的かつ安定した品質・価格で設備を構築していくことが重要です。
これまでドコモではモバイルネットワーク専用に開発された装置を導入していました。一方、IT分野の技術革新は目覚ましく、ハードウェアの性能向上や仮想化技術によるハードウェアとソフトウェアの分離が進み、RANの仮想化(vRAN)を実現できるようになりました。その中でも、本記事のシステム構築はドコモ主導で行うという、基地局装置の開発としてはチャレンジとなるプロジェクトでした。サーバ、アクセラレータ、ルータなど、システムに必要なハードウェアやソフトウェアを完全に異なるベンダで構成する実装を試み、コストメリットの大きいベンダ製品の組み合わせを選定することで実現に至りました。実現に際しては、ハードウェアとソフトウェアそれぞれにおいて、さまざまなプレイヤ、多数のステークホルダが存在する中、相互の仕様理解の促進、コンポーネント間の工程の見える化やアライン、コミュニケーションをつなぐことが重要でした。
また、RANの仮想化の知見が少ないこともあり、開発中は問題が発生することもしばしばありましたが、クリティカルパスを早期に解消するため、ベンダとの技術議論を高頻度で実施しました。ほぼ毎日、ベンダの方々と対策の立案・検討、スケジュール管理を粘り強く行いました。お客さまへ提供するエリアに直結する設備ですので、特に装置の安定的な動作品質については試験チームと慎重に見極めました。その結果、実現に至ることができたと感じています。
さらに、商用の試験環境をくみ上げることもゼロからの試みでした。商用の構成をそのまま配備すればいいというものでもなく、要件を維持しつついかに電力・スペースを必要最低限に抑えながら、他のシステムの試験へも影響を与えずにくみ上げることを求められました。試験環境向けに急な仕様変更を取らざるを得ない場合もあり、そのときは夜遅くまでサーバのマウントや配線、設定変更を実施し、試験への影響を最小限となるようにし、開発計画のリカバリに奔走しました。社内の試験体制としても部をまたがる体制であり、社内の開発に対する考え方や所掌の違いから意見がぶつかることもありました。ただ、それはより良いシステムを提供したいという想いから来ており、実現に至った大事なプロセスだったと感じています。
今回ご紹介したシステムは、社内でも注目されている中、実は私が企画・立案の担当で企画し、その後開発部門に異動してそのまま開発するという、エンジニアとして大変貴重な経験と成長の機会をいただいたシステムです。それまでの保全・設計業務で経験した知見をこのシステムで活かせる点はどこか、この装置や仕様に詳しい人は誰かなど社内のつながりもどう活かせるか、といった今までの業務経験で活かせるものはすべて使う、そこからさらに知見を広げていく、といった姿勢で取り組まなければ実現に至らなかったと感じており、過去における自身の1つひとつの積み重ねが実ったという実感がありました。今後は培ったノウハウを他のシステムの導入や検討に活かし、引き続きコストメリットのあるシステム開発を進め、お客さまにご利用しやすいモバイルネットワークの提供に貢献していきます。

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