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2026年5月号

特集

NTT技術史料館25周年記念──過去と未来をつなぐ知の架け橋

NTT武蔵野研究開発センタの次世代教育活動

NTT武蔵野研究開発センタではNTT技術史料館を中核として、子どもや学生に向けた次世代教育活動にも力を入れています。本稿では「夏休み体験型科学教室」や「小学校向け社会科見学プログラム」など、その活動内容について具体例を交えて紹介します。

横瀬 史拓(よこせ ふみひろ)/村上 真知子(むらかみ まちこ)
柴田 朋子(しばた ともこ)
NTT情報ネットワーク総合研究所

次世代教育に求められる観点

■AI時代の教育のあり方

AI(人工知能)技術は2000年代の深層学習の飛躍的な発展から始まり、ChatGPTをはじめとしたLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)の登場で私たちの生活を大きく変えつつあります。今や表面的な知識を問う質問には、AIは人間よりも速く正確に答えを出すことができます。一方で、高度な概念理解や深い思考・洞察を必要とする質問ではまだ人間には追いついていません。これは、現在のLLM技術が膨大な文章を学習しそこから統計的にそれらしい言葉を予測するように動作するためで、現実の因果や物体の振る舞いといったモデルをまだ内在化できていないためと考えられます。AI技術の発展は著しく、推論についてもさらに能力が高まっていくことは確実ですが、このようなAIの挙動からは多くの示唆が得られます。
今後、AI技術の発展は教育にどのような変化をもたらすのでしょうか。UNESCOは、AIが教育の前提を揺さぶる“破壊的転換”をもたらしていると指摘しています(1)。その影響は教育の方法だけにとどまらず、教育の位置付けや意味にも及びます。知識の記憶や単純な正解を求める定型処理はAIにゆだね、人間には本質的な問いを立てる創造力やAIが出した正解を吟味する批判的思考、そして経験に根ざした直感や他者と協働する力がより重要になってきています(2)。教育においても、正解を素早く正確に出すことよりも、AIを上手く使うために必要なその人独自の価値観の軸を育む必要性が高まっています。

■温故知新

AIと協働していくための能力を育てるヒントは、千利休の時代から日本に伝わる「守破離」という教えの中にあります。守破離は、茶道や武道などにおける修業の段階を表す言葉で、「守=基本を忠実に守り、知識や技術を身体化すること」「破=知識や技術を応用したり、自分の特性に合わせて変化させること」「離=新たな知識や技術を自ら創造すること」を表しています。能力の発達をこの3段階でとらえるとすれば、“守”の段階でとどまっていてはAIと競合してしまうでしょう。人間とAIがうまく協働していくには、人間は“破”や“離”の段階をめざしていく必要があります。
“破”や“離”の段階に至るにはどうしたらよいでしょうか。基本を身に付ける“守”の段階を飛ばすことはできませんが、“守”からさらに上の段階に到達するには過去の歴史から学ぶことが効果的と考えます。例えば技術の歴史的発展において、現代の私たちにとっては取るに足らない技術であっても、その技術が開発された当時は最先端の技術でした。過去の人々の思考は決して現代の私たちよりも劣っていたわけではありません。歴史を学びその時代時代の人々の創意工夫や試行錯誤を追体験することで、言葉だけでは伝えきれない技術発展の本質をつらぬく抽象的・精神的な理解の助けになるはずです。過去の史料を残しその精神的な部分も含めて歴史を後世へ伝えていくことは決して懐古主義ではありません。未来を創るための強力な助けとなることにこそ重要な意味があるのです。NTT技術史料館においても、通信の歴史を体系的に残し次世代へと伝えていくことは、現役世代の重要な責務と考え取り組んでいます。

■好きこそ物の上手なれ

しかし、子どもたちにどんなに「守破離」の重要性を説いたとしても、簡単に会得できるものではありません。試行錯誤を重ね、深く考え、理解の段階を上がるには長い時間と労力がかかります。だからこそ、本人の強い内発的動機が欠かせません。とりわけ重要なのが好奇心です。「好き」「楽しい」という気持ちこそ、その道を極めるための鍵となります。
現代社会は高度化・細分化が進み、通信技術に限らず、世界にはさまざまな興味深いものがあふれています。しかし、その存在を知ることができなければ、子どもたちが興味を持つこともできません。NTT武蔵野研究開発センタの次世代教育の取り組みでは、特に子どもたちが自分らしい「好き」を見つけられる場の提供に力を入れています。

夏休み体験型科学教室

■概要

NTT武蔵野研究開発センタでは毎年夏に「夏休み体験型科学教室」を開催しています。理工系分野への興味を実体験で育むことをねらいとして、工作と史料館見学を組み合わせて実施しているプログラムです。対象を小学3年生〜中学3年生に設定し、参加費は無料で、例年2日間の午前・午後(計4回)、各回50人(計200人)の枠で開催しています。工作物は1000円程度の材料費で準備しており、完成品のキットを持ち帰ることができます。直近の2024年・2025年の工作は音を扱う電子工作を実施しました。工作の後には「通信の歴史を学ぶ技術史料館ツアー」を行い、クイズを解きながら史料館の展示を巡り、通信技術が社会に与えてきた影響を学びます。毎年、開催の告知は主に史料館ホームページで6~7月ごろに周知しています(3)

■2024年工作体験「イヤホンを使ってアナログ電話を作ってみよう!」

2024年は、イヤホンの片方をマイクとして使い、2組のイヤホンで通話ができる電子回路を組み立て、通話実験を行いました(図1)。電子回路は2つのオーディオアンプが内蔵されたICを利用して2つの増幅回路をつくっています(図2、3)。座学では簡単な電磁誘導の仕組みと、ダイナミックマイク・スピーカーの構造について解説しました。

■2025年工作体験「電子楽器を作って音の仕組みを学ぼう!」

2025年は、発振回路を組み立て、自分で手書きした図形にプローブを当てて音の高さを変える実験を行いました。電子回路はタイマーICを利用して発信回路をつくり、紙に鉛筆で手書きした図形にプローブを当てて可変抵抗として機能させ発振周波数を変えています(図4、5)。自由に図形を書けるように「手書き抵抗シート」も用意しました(図6)。座学では音の高さと振動数の関係と、電子回路の発振によって高さの違う音をつくり出せることを解説しました。

■所感

昨今は家電製品などの修理を行うことも少なく、普段の生活の中では子どもたちが回路に直接触れる機会はほとんどないため、工作体験をとおして初めて電子回路を組み立てる経験をした子どもたちも多かったようです。組み立てた電子回路はごく簡単なものでしたが、数個の部品を組み合わせて興味深い機能を実現できることに新鮮な驚きの顔を見せていました。電子回路の組み立てはブレッドボードを使うことで、ニッパなどの刃物は不要で安全に数十分程度の時間内で組み立てが可能でした。ブレッドボード上の部品を差し込む位置を間違えたり、部品の足が接触したりなどの原因で、なかなか上手く動かない例もありましたが手厚くスタッフを配置することで対応しました。座学のほうは、工作・実験に比べると興味の度合いは落ちる様子でしたが、実験の思い出とセットで少しでも記憶に残れば、自分で深く学ぶ助けになることでしょう。

小学校向け社会科見学プログラム

■概要

史料館では、小学生高学年を対象として年間を通して社会科見学の受け入れを行っています。特に、小学5年生の社会科単元「工業生産と私たちの暮らし」「くらしを支える情報」に合わせてプログラムを用意しています。授業と接続しやすいように、ティーチャーズガイド、児童用ワークブック、映像付きスライドなどの事前・事後学習教材を学校へ無償提供しています。2026年5月時点では、1回につき最大100名までとし、年末年始および一般公開時間帯(木・金の午後)を除いた平日に受け入れています。2025年度の実績では32校を受け入れました。申し込みは史料館ホームページから受け付けています(3)

■プログラムの構成

社会科見学プログラムは「事前学習」「史料館見学」「事後学習」の3段階に分かれています。見学前には、映像やスライド、ワークブックを使った事前学習を行い、教科書の内容とつなげて理解を深められるようにしています。見学当日は、史料館内の展示見学で通信技術の進化や仕組みを学ぶだけでなく、展示とは別に社会科見学用に用意されたワークショップで最新技術の体験もできるように構成されています。歴史的な展示物の見学だけでなく、NTT研究所で研究開発された最新技術にも触れることで幅広い体験ができるようにしています。見学後には、事後学習として見学内容を振り返るとともに、「未来の電話を考えよう!」というテーマで子どもたち自身に考えさせることで、これからの未来を自分たちでつくっていこうという意欲を高めるようにしています。

■所感

事前学習の効果もあり、「調べた答えを確かめたい」「どんな技術が使われているのか知りたい」と意欲的な姿が多く見られます。先生からのアンケート結果でも、「クイズやスライドで興味が高まった」「ワークブックと見学内容がつながっていて取り組みやすかった」という声が多く寄せられ、事前学習用の教材が学びの助けになっていることが伺えます。
本物の機器に触れられる電話交換手体験は特に好評で、手動交換機で実際に電話をつなげる操作を体験して「おもしろい!」「つながった!」「むずかしいけど楽しい!」と声が上がり、スタッフへ積極的に話しかけてくれる場面も見られました。手動交換機という現代からみれば非常に単純なネットワーク機器の体験を通して、日々何気なく使っているネットワークが、長い技術発展の積み重ねに支えられていることを実感できているようです。海底ケーブルや1970年大阪万博のワイヤレステレホンの実物展示では、生活を支えている裏に複雑な仕組みが存在していることに驚く姿が見られます。先生からは「本物に触れることで理解が深まった」「子どもたちが興味津々で、発言も増えていた」といったコメントがありました。小グループでの丁寧な説明や、展示と体験のバランスの良さについても高く評価され、全体の満足度は96.4%となっています。
これからも“本物に触れて学ぶ”豊かな体験を大切にしながら、内容をさらに充実させていきます。

その他の活動

■子ども向けワークブック

史料館では子どもでも楽しんで展示物を見て回れるように「探検用ワークブック」を用意しています。展示を手掛かりにクイズを解きながら各フロアを“探検”する教材で、館内で希望者向けに無料配布されています。展示を見つけるためのヒントと問いがセットになっているため、初めてでも主体的に館内を巡れるのが特長です。内容は、展示へ導く「Travel(探訪)」ページと、学びを言語化する「Work(問題)」ページで構成されています。見て・読んで・確かめるプロセスを通じて、通信の歴史と技術を体験的に学べます。
2025年11月には新ミッション(Mission6)が追加され、2026年5月時点では「Mission1:電話がつながるヒミツ」「Mission2:電話機の進化のヒミツ」「Mission3:情報を遠くまで伝えるヒミツ」「Mission4:メッセージ通信の進化のヒミツ」「Mission5:公衆電話機の進化のヒミツ」「Mission6:インターネットの進化のヒミツ」の全6種です。例えば Mission1では、ベル電話機や手動交換機から自動交換機へという“つながる仕組み”の変遷をたどる内容になっています。自宅でも答え合わせができるように各ミッションの解答は公式サイトで公開されており、教室・家庭での事後学習や自由研究などにも使いやすいように工夫しています。

■学生特別見学会

史料館では、月に一度「学生特別見学会」を定期開催しています。対象は高等専門学校・大学・大学院の学生で、文理は問いません(教員などの引率不要)。電気通信の発展を「技術×社会」という文脈で学べるプログラムで、NTT研究所概要の紹介(10分)と、NTT出身のOB運営サポーターによるガイドツアー(50分)で構成されています。各時代の最先端技術について、開発当時のOB体験談を交えた解説が聞けるのが特徴で、参加者の学部・専攻や関心領域に合わせた案内にも対応します。見学後の自由見学は任意、参加費は無料です。
OB運営サポーターによるガイドツアーは、一般公開日に予約制の「電伝探訪」としても実施していますが、学生であれば本見学会のほうがより気軽に参加いただけます。開催案内の周知は主に史料館ホームページで行っており、申し込みは各開催日の約1カ月前から受け付けています(応募多数の際は調整・お断りの可能性もあり)(3)

■むさしのサイエンスフェスタ

NTT武蔵野研究開発センタは、所在地である武蔵野市の次世代教育にも協力しています。武蔵野市教育委員会とむさしのサイエンスフェスタ実行委員会が主催する「むさしのサイエンスフェスタ」は、科学の面白さを体験として届けることを目的に、毎年秋、武蔵野総合体育館で開催されています。対象は市内在住または在学の小・中学生とその保護者で、無料で参加可能なイベントです。NTT武蔵野研究開発センタも毎年ブースを出展しています(NTT情報ネットワーク総合研究所として出展)。会場の武蔵野総合体育館から史料館までは徒歩数分のため、通常は土日祝日休館の史料館をイベント当日に特別開館しています。むさしのサイエンスフェスタの詳細については武蔵野市のWebサイトをご覧ください(4)
2025年のむさしのサイエンスフェスタでは、NTT武蔵野研究開発センタからは「紙コップ電話で光通信を体験してみよう!」を出展しました。出展ブースでは、“光が音を運ぶ”装置(紙コップとアルミホイルでつくった送話器に光を当てて反射させ、その光を受話器側のソーラーパネルで電気に変えてスピーカーで聞く装置)の工作を行いました。工作の前には、音を遠くへ伝える方法として電気・電波・光などを使う方法があることや、現代のネットワークが光による通信で支えられていることをクイズ形式で学べる座学も設けました。座学では、クイズ形式にするだけでなくそれぞれの通信方法を実演し子どもたちも体験できるようにすることで、子どもたちが興味を持って技術を体感できるように工夫しました。電気による音声通話の実演では、ダイヤル式黒電話2台を持ち込み実際に通話体験ができるようにしました。初めて黒電話をかける子どもが大半で、今のスマートフォンとは全く異なる黒電話の操作に苦労しながらも楽しそうに体験していました。

■武蔵野桜まつり

武蔵野市では春の桜開花時期の日曜日に「武蔵野桜まつり」を武蔵野市役所周辺で開催しています。武蔵野研究開発センタは市役所のすぐそばに位置しており、桜まつりの開催日に合わせて、通常は開館していない日曜日の史料館特別開館を実施しています。日曜の特別開館は、この春の桜まつりと前述の秋のサイエンスフェスタに合わせた年2回だけの貴重な機会です。特別開館日は特に家族連れでの来館が増えるため、まだ史料館の展示内容が難しい小さな子どもたちに向けては、子ども向けスタンプラリーや写真撮影用の手持ち顔出しパネル、塗り絵など、展示物以外でも楽しめる工夫をしています。武蔵野桜まつりに合わせた史料館特別開館の情報については史料館ホームページをご覧ください(3)

■TOKYO中高生職業体験

2025年8月には、東京都が実施する「TOKYO中高生職業体験サイト Job EX」へ参加し、NTT武蔵野研究開発センタにて中高生向けの職業体験イベントを実施しました。2日間のプログラムで、1日目は史料館見学と若手研究員も加わっての電子工作体験を行い、「研究とはどのような活動か?」を考える内容としました。2日目はNTT研究所の最新技術の見学を行い、その後にテクノロジを使ってどんな社会課題が解決できるのかを考えるディスカッションを行いました。参加した中高生は普段の生活ではかかわらない最新技術の展示などに触れて刺激を受けている様子でした。また、「AI技術者になるには何を学べばよいか?」などの質問も活発に出ました。「TOKYO中高生職業体験サイト Job EX」の詳細については東京都のWebサイトをご覧ください(5)

おわりに

人類は技術の発展による社会環境の変化に何度も直面してきました。そして、イギリスの産業革命期に起こったラッダイト運動のように、困難を乗り越え新しい知識や技術に適応してきました。AIの発展は、困難だけでなく、これまで大人数や大きな費用をかけなければ試せなかったアイデアを、少人数でも素早く実現できるようになるというポジティブな変化も生み出しています。その結果、個々人が自分らしい個性を見つけることができれば、その個性に根差したオリジナリティがより実現しやすくなっています。
社会環境の大きな変化への適応は簡単ではありませんが、好奇心とともにあれば前向きで楽しい営みにもなり得ます。より良い未来の共創をめざして、今後もNTT武蔵野研究開発センタはNTT技術史料館を中核に、次世代を担う子どもたちの興味と探究心を育めるよう教育支援に取り組んでいきます。

■参考文献
(1) https://www.unesco.org/en/articles/ai-and-future-education-disruptions-dilemmas-and-directions
(2) https://www.nature.com/articles/d41586-025-00823-8
(3) https://hct.rd.ntt/
(4) https://www.city.musashino.lg.jp/heiwa_bunka_sports/shogaigakushu_koza/koza_doyogakko/1018856.html
(5) https://kodomo-smile.metro.tokyo.lg.jp/shokugyo-taiken

(左から)横瀬 史拓/柴田 朋子/村上 真知子

各種子ども向けイベントの案内はNTT技術史料館ホームページで周知していますので、ぜひご覧ください。

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部

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