2026年5月号
特集
NTT技術史料館25周年のあゆみ
- NTT技術史料館
- 開館25周年
- 通信の歴史
NTT技術史料館では2000年の開館以来、日本電信電話公社が発足した1952年以降の約半世紀を中心に、NTTグループの技術開発に関する歴史的価値のある史料を体系的に展示しています。本稿では、史料館の設立経緯にはじまり、館内展示の概要、設立後の運営や各種の取り組み、そして掲げるミッションについて、その歩みをたどりながら紹介します。
辻 ゆかり(つじ ゆかり)†1/村上 真知子(むらかみ まちこ)†2
横瀬 史拓(よこせ ふみひろ)†2/柴田 朋子(しばた ともこ)†2
NTT情報ネットワーク総合研究所 所長†1
NTT情報ネットワーク総合研究所†2
25周年を迎えて
NTT技術史料館(史料館)は2025年11月に開館25周年を迎えました。
同館は2000年の開館以来、日本電信電話公社発足(1952年)以降の半世紀を中心に、NTTグループの技術開発に関する歴史的価値のある史料を体系的に展示しています。開館当初は招待制の予約見学を基本としていましたが、2010年より一般の方も自由に見学いただけるよう一般公開日を設け、今日に至るまでたくさんのお客さまにご来館いただいています。
25周年を機に改めて伝えたいのは「温故知新」の重要性です。古き史料の中に現代へのヒントが隠されていることは少なくありません。史料館はNTTの技術的史料を収集・保存する役割だけでなく、NTTグループの研修施設としての役割や次世代教育の場としての役割も持っています。史料館が担うこれらの役割は、現在の研究開発や人材育成の支えにも確実になっています。蓄積された歴史や史料は新たな発想の源となり、若手育成や社会への情報発信を通じて、未来を創造する基盤となっています。
NTTの技術開発史の集大成をめざして
■設立の理念
史料館設立の端緒となったのは、1997年9月、当時の日本電信電話株式会社(現NTT株式会社)社長・宮津純一郎による提案でした。宮津には「デジタル化の完了とNTT再編を機に、これまでの歴史を体系的にまとめ、後世に伝えたい」という強い思いがありました。その意志を受けて、NTTにおける技術開発の歴史を体系的にまとめ上げ、その系譜を後世に伝えることを使命としたプロジェクトが始動しました。
幸いにも、NTTグループでは「技術開発の歴史を後世に伝えることは、将来の技術発展に不可欠である」という認識が当時から存在しており、電電公社時代の1971年にはすでに設備保存の取り組みが進められていました。現場設備が撤去される際、その中で技術史上重要と判断された機器については、廃棄せず保存されていました。
史料館の方向性を定めるうえでは、まずこれら保存史料の状況把握が不可欠であり、これが最初のステップとなりました。加えて他社の企業博物館の調査も行い、宮津との意識合わせを重ねながら、史料館の具体像を徐々に固めていきました。
こうした検討を経て、NTTグループの歴史的価値のある資産を体系的に整理・活用し、同グループが有する技術力と信頼性を広く発信することを目的として、史料館設立のねらいを以下の3点に整理しました。
① 技術の系譜化:電気通信技術に関するノウハウを系譜として整理し、NTTグループのみならず、電気通信に携わるすべての人々に対し、学術的資産として共有する。
② 国民的資産の構築:情報通信分野の関係者や一般からの見学・史料提供の要請にこたえられる体制を整備し、史料館を国民的な資産として公開する。
③ NTTグループのイメージ向上:NTT再編後に各社が共有する歴史的背景を明確化し、お客さまや国内外の通信関係者に対するNTTグループへの信頼性向上を図る。
■技術の系譜化
史料展示にあたっては、「技術の系譜化」という視点が重視されました。NTTの各技術分野を単に年代順に並べるのではなく、技術がいかに発展してきたかを理解できるよう、時代の流れとネットワークの構造的視点に基づき、体系的な分類・整理が行われました。
また、来館者(一般来館者と専門家)の予備知識の違いにも配慮し、利用者のニーズに応じて柔軟に見学できる構成としました。具体的には、NTTの事業史と技術史を合わせて表現する展示導線と、技術分野別に系譜を示す展示導線の2つを組み合わせることで、技術の流れを来館者が多面的に理解できる構成としました。
■史料館の基本設計〜施工まで
史料館の設立にあたり、副社長を委員長とする「史料館設立委員会」が組織され、NTTグループ全体から選ばれた委員が分科会(コンテンツ、史料、展示、建設、運営)と技術分野ごとのワーキンググループを構成しました。この体制の基で展示内容を詳細に検討し、来館者が技術の流れを理解しやすくなるように展示コンセプトを決定しました。
基本の展示コンセプトについては3層構造とし、第1層は「NTT50年の技術とサービスの概観」、第2層は「NTT50年の自主技術の系譜」、第3層は「分野別収蔵展示」としました(第1層は現在の「歴史をたどる」エリア、第2層は現在の「技術をさぐる」エリアにつながっています)。
史料展示では、実物を中心とし、動態展示にこだわらず機器を分解して要素技術を示す方法や、映像・模型による補完を用い、多角的に理解できる工夫が行われました。また、膨大な史料情報をデータベース化し、来館できない人向けにホームページでの情報公開も整備されました。建物の空間デザインでは、1階のエントランスから地下1階へ自然に誘導するための上から下へ半径を変えた螺旋階段や、自然光が入る明るい空間とするための地下1階から3階まで見通せる大規模な吹き抜けを採用するなど構造を工夫し、史料が引き立つように装飾は抑えた設計となりました。
■2000年11月開館
2000年11月28〜29日に開催された「NTT R&Dフォーラム2000 in 武蔵野」に合わせ、史料館は開館の日を迎えました。フォーラム来場者は、史料館ではNTTグループの過去の技術開発を俯瞰するとともに、メイン会場では未来を創出する最新技術を体感することで、技術の過去から未来への連続性を一望し、NTTのR&Dビジョンを共有できる場となりました。
見学方式は、来館者の自由見学を基本としつつ、専任アテンダントによる案内も用意し、来館者の要望に合わせた説明ができるように体制が整備されました。
史料館の基本的な展示構成
史料館は地下1階から3階まであり、来館者の関心に応じて見学いただけるよう、展示を 2つのエリアに分けています(1)(2)。
・歴史をたどる(情報通信の流れを大きく理解する展示)(3)
・技術をさぐる(分野ごとに技術の発展を詳しく紹介する展示)(4)
■「歴史をたどる」エリア
ペリー一行が幕府に電信機を献上した時代から20世紀の終わりまで、日本の情報通信の発展を大きな流れとして見渡すことができます。展示はまず、電信・電話の始まりから1952年の日本電信電話公社の発足までを紹介する地下1階の前半と、公社発足以降の歩みを扱う後半に分かれています。後半の展示では、電話不足の解消や、全国どこへでも電話交換手を介さずダイヤル操作だけで電話をかけられる体制の実現が課題だった1950年代から1960年代(地下1階)、移動体通信やデータ通信、画像通信といった新しいサービスが生まれ始めた1970年代から1980年代前半(1階)、そしてデジタル化とマルチメディア化が急速に進展した1980年代後半以降(2階)という3つの時期を通して、戦後50年にわたる日本の情報通信の歴史が描かれています(3)。
■「技術をさぐる」エリア
電電公社発足からの約半世紀を中心に、情報通信技術の発展を分野ごとに詳しく紹介しています。1階ではサービスとネットワークをテーマに、ネットワークの中核を担うノードやオペレーション、トランスミッション、ファシリティといった基盤技術を展示しています。2階ではアクセスとターミナルを取り上げ、電話系システムや所外インフラ、ユーザ機器、そして基礎・基盤研究など、ユーザに近い領域の技術を紹介しています。さらに3階ではコンピュータとモバイルの分野を扱い、文字や画像の通信技術とそのサービス、移動体通信、インターネットの技術まで、現代の情報通信を支える多様な技術の広がりを分かりやすく示しています(4)。
設立から10年を迎えての運営の取り組みと展示構成の見直し
■史料館運営について
史料館の設立から10年が経過し、設備の老朽化対策や展示内容の更新など、今後の史料館運営の方向性を明確にする必要が生じました。このため、2010年には5カ年計画となる「第1次グランドデザイン」が策定され、2000年以降の技術史の更新や一般公開に向けた取り組みが進められました。一般公開に向けた体制が整った後、2015年には「第2次グランドデザイン」が策定されました。この計画では、史料のデジタルアーカイブ化に向けた情報調査や、ホームページやパンフレットの多言語化を進めるとともに、次世代へ理系マインドを継承することを目的としたOBガイドによる学生向け特別見学会の実施、さらに小中学生向けワークシートの導入(現在は小学校5年生を対象とした社会科見学へと発展)など、4つのテーマを軸に取り組みが展開されました。このような設立後10年間の取り組みは、当初の設立理念を基盤としながら進められ、史料公開や多様な活動を通じて、現在の史料館運営の基礎を形成するものとなりました。
■展示構成の見直し
2000年以降の技術史料を展示に反映するため、史料館では展示内容の見直しを進め、「モバイルネットワークの技術」コーナーを更新するとともに、「情報流通の新技術」コーナーは新たに「インターネットの技術」コーナーに変わりました。
「モバイルネットワークの技術」コーナーでは、音声通話から始まり、文字・画像・動画まで扱えるようになったモバイル通信の進化を実感でき、年代順に並べられたさまざまな携帯電話端末は、今でも人気の高い展示となっています(写真1、2)。
「インターネットの技術」コーナーは、2013年のR&Dフォーラムに合わせて公開され、技術史年表や57点の史料を通じて、インターネット技術の誕生から現在に至るまでの歩みを紹介しています。併せて、NTTグループが日本だけでなく世界のインターネット発展にどのようにかかわってきたかを理解できるような展示エリアです。2025年にはインターネットの仕組みを学べる体験型展示を新たに公開し、クイズ形式で楽しみながら学べる内容として、子どもから大人まで幅広い層に親しまれています (写真3、4)。
また、1階ロビー前の「体験展示コーナー」では、電信電話の歴史や通信の仕組みを、子どもから大人まで楽しみながら学べるようになっており、来館者にとても人気があります。ここでは、電信による文字伝送や、手動交換・自動交換による電話のつながり方、光通信の仕組みなど、複雑な技術を実際に体験しながら理解できる展示が並んでいます。展示物の中には、OB運営サポーターが復元した貴重な機器もあり、倉庫の部品を集めて組み立てられたA形自動交換機(2013年公開)や、資料の少ない中で再現された磁石式手動交換機(2014年公開)では、当時の交換手がどのように作業していたのかを実際に体験することができます。




■東日本大震災に端を発した史料の保管環境の見直し
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、史料館内でも転倒や落下により21カ所の破損が生じました。館内でひときわ目を引いていた天吊り展示の衛星試験モデルは落下こそ免れたものの、揺れによってワイヤーの緩みが確認されたため、安全を最優先し、天吊り展示を中止して3階での展示へと切り替えました。
また、臨時休館中に空調・換気設備を停止したことで、一部の史料に傷みが発生する事態となり、史料の保存環境について基本方針を見直し、史料館全体の環境整備を改めて強化する取り組みが進められました(写真5)。

史料館の取り組み・ミッション
■実物史料の保管管理
史料館では、来館者が自由に見学できるフロア以外にも、多くの史料を収蔵しています。展示されていない史料は「実物史料室」に保管されており、スペースなどの制約から常設展示には適さないが実物展示として価値が高いものや、展示史料との比較検証に有用な史料が収蔵されています。これらは、史料館の利用者による調査や、史料の貸出・問い合わせ対応にも活用され、重要な役割を担っています。
また、史料館には貴重な技術史料が数多く展示されており、その中には外部機関から価値を認定されたものも含まれます。重要科学技術史資料として16件(表1)、情報処理技術遺産として3件(表2)が登録されているほか、分散コンピュータ博物館には、3階「技術をさぐる」エリアの「コンピュータとモバイルのひろば」「文字・画像の通信とサービスの技術」の一部が登録されています(写真6)。
これらの史料は、技術がどのように発展し、現代の情報通信技術がどのようにかたちづくられてきたかを分かりやすく伝えるものであり、来館者が実物をとおして技術の重要性や社会への影響を実感できるようになっています。そのため、教育的・歴史的観点からも非常に価値の高い展示となっています。



■NTTグループの接遇施設から一般公開へ
開館当初、史料館はNTTグループの接遇施設として位置付けられており、見学できるのは海外パートナー企業やビジネスユーザなどNTTグループ関係のお客さま、NTT社員やOB、大学(学生)、学会関係者に限られ、招待制・予約制で運営されていました。現在でも接遇施設としての役割は続いていますが、2009年からはNTTグループ社員の招待がなくても予約をすれば見学できるようになり、2010年には木曜日の午後に一般公開が始まりました。現在では、木・金曜日の13〜17時が一般公開日となっています。
■地域貢献活動
史料館では、開館して間もないころから地域とのつながりを大切にし、近隣の方々を招いた見学会を継続的に行ってきました。現在も、武蔵野市で開催される地域イベントに合わせて、年に数回、休日に特別公開を実施しています。子ども向けの体験コーナーやワークショップなども取り入れ、家族連れのお客さまにも楽しめる内容となっています。休日の特別公開を心待ちにしていたお客さまの中には、遠方からお越しになる方もおり、1日に2000名を超える日もあります。これらの取り組みを通じて、多くの方々にNTTの技術や歴史に触れていただき、今後も地域社会との交流を深めていきます。
■次世代教育活動
子ども向けの科学教室や学生特別見学会にも積極的に取り組んでいます。これらの活動は、子どもたちや学生が科学技術や通信に興味を持つきっかけをつくることを目的としており、同時に史料館そのものの認知度を高め、NTT R&Dの取り組みをより身近に感じてもらう機会にもなっています。
「夏休み体験型科学教室」では、NTT研究所の研究員が講師を務め、研究の第一線にいる専門家から直接学べる貴重な場となっています。実験を交えた体験型のプログラムは、子どもたちが科学への興味を自然と深められる内容になるよう工夫しています。「学生特別見学会」では、通信技術の歴史や発展の流れを専門的に学べ、将来の進路を考えるうえでも役立つ機会となるよう開催しています。OB運営サポーターによる実物史料の解説を通じて、技術が社会にどのように貢献してきたかを具体的に知ることができます。
■OB運営サポーターの展示ガイド・知見やノウハウの展開
史料館では、設立後にボランティアガイドとして「OB運営サポーター制度」が導入されました。初期はNTT研究所OBが多く所属する日比谷同友会を通じて募集が行われ、初回は15名のOBで活動していました。現在では、28名となり、展示案内だけでなく、子ども向けイベントや学生見学会など幅広い場面で活躍しています。
一般公開が本格化してからは、お客さまへの展示説明スタッフとしての役割に加え、OBが持つ技術的な経験や知識が史料館の運営に大きく活かされています。史料整理のサポート、データベース化、復元・修理、外部への情報提供など、多方面で支えとなっています。
また、過去の研究開発のノウハウ・技術を継承することを目的に体験談を映像化したNTT語り部シリーズ「温故知新」(5)を制作しています。電気通信の歴史をつくってきた技術者たちの“つなぐ”ことへの挑戦や想いを伝える映像となっています。
おわりに
史料館には、古い機器や設備が数多く展示されています。これらは、研究者たちが数々の困難に直面しながら、絶え間ない試行錯誤を重ねて築き上げてきた成果であり、彼らもまた前世代の技術を受け継ぎ、それを基盤として新たな技術を創り出してきました。こうした継承と発展の積み重ねが、今日の技術の礎となっています。
史料館を訪れると、過去の史料や技術から、現代の課題につながる示唆や、最新技術との思わぬ共通点が見つかることがあります。そうした気付きが、新たな発想や研究の深化を促すことも少なくありません。
この史料館が今後も変わらず、先人の歩みを次世代へ橋渡しする場であり続けるために、その価値を丁寧に守り、確かなかたちで後世へ受け継いでいくことが私たちの責務です。積み重ねられてきた技術的遺産を大切にしながら、未来へとつながる知の継承を一層推進していきたいと考えています。
史料館では、見学の後アンケートにご協力くださった方へ、史料館限定のオリジナルペーパークラフトをプレゼントしています(写真7)。展示している貴重な史料をモチーフにし、細かな部分まで丁寧に仕上げたものですので、多くのお客さまからご好評をいただいています。
また、ホームページでは史料館全体の雰囲気を感じていただけるよう、館内の様子を紹介する動画も掲載しています。よろしければ、ぜひご覧ください。

■参考文献
(1) “基本構想から開館までNTT技術史料館設立のあゆみ,”
(2) “NTT技術史料館フロアガイド,”
(3) https://hct.rd.ntt/area/history_index.html
(4) https://hct.rd.ntt/area/tech_index.html
(5) https://hct.rd.ntt/video/kataribe_index.html

(左から)村上 真知子/柴田 朋子/辻 ゆかり/横瀬 史拓

今後も当館は、研究所の知見と現場の経験をつなぎ、未来の技術創出のための思考の場であり続けたいと考えています。どうぞお気軽にお越しください。ご来館を心よりお待ちしています。