2026年7月号
グループ企業探訪
東南アジアのすべての地域社会・コミュニティと地域密着型のDX・価値創造を実現

NTTイーアジアはベトナムにおける通信インフラの整備事業を皮切りに、NTT東日本グループの強みである地域密着の取り組みで、東南アジア各国のステークホルダーと信頼関係を地道に築きながら、現地でのFTTH(Fiber To The Home)基盤やデジタル基盤の整備を着実に進め、2026年に設立30周年を迎えました。こうしてテクノロジと現地の力を掛け合わせ、東南アジアの持続可能な未来をかたちづくる地域ソーシャルイノベーション企業として貢献するNTTイーアジア 長江靖行社長に、最新の取り組みについて伺いました。
NTTイーアジア株式会社
長江靖行社長
ベトナムでの固定電話共同事業から30年、 今では東南アジア各国とICTを推進
■設立の背景と会社の概要について教えてください。
NTTイーアジアは1996年に設立され、本年でちょうど30周年の節目を迎えます。設立当初の目的は、ベトナムにおいて現地国営通信事業者VNPT(Vietnam Posts and Telecommunications Group)と固定電話回線の敷設・運営に関する共同事業を行うことでした。このプロジェクト完了後は、ベトナムをはじめとする東南アジアを中心にICT分野の海外事業を形成・推進し、さらにオフショアを活用したソフトウェア開発や業務BPOサービスを新たな事業の柱として立上げ、現在に至ります。
事業の柱は大きく2つです。まず、アジア地域における現地国パートナー企業と連携した通信インフラ・デジタルサービスなどのICT事業です。そして、オフショア活用(NTT e-MOI社連携)などによるソフトウェア開発事業です。東南アジア各国には、社会インフラの整備、デジタルディバイドの解消、地球温暖化対策など、その地域固有の課題や日本と共通する課題も数多く存在しています。こうした課題を解決するため、NTT東日本グループのDXソリューションを当該国でも活用し、現地のパートナーと共に持続的な成長・発展に貢献することが当社のミッションです。また、日本国内においては、地域社会の課題解決に向けた新たなDXソリューション開発を下支えするソフトウェア開発のケイパビリティを提供しています。
こうした現在の姿に至るまでには、決して平坦ではない道のりがありました。ベトナムでの通信インフラ共同事業が満了となった後は、社内外の環境変化による海外事業への逆風が幾度となく吹き荒れました。それでも、現地国との関係性や人材、ノウハウを途絶えさせることなく継承し続けたことで、現在の事業が結実しているのです。
現地のパートナーと挑むデジタルディバイド の解消
■最近注力している通信インフラ事業について教えてくだ さい。
海外事業を担う戦略企画部では、現在3つの主要プロジェクトを推進しています。まず、インドネシアのPT Integrasi Jaringan Ekosistem(IJE)社への出資参画を通じた同国でのFTTH(Fiber To The Home)事業です。次に、ベトナム発スタートアップであるAWING Technologies & Media JSC(AWING)社への出資参画を通じた、Wi-Fi広告配信プラットフォーム事業。そして、ベトナムのホーチミン市(旧ビンズオン省)におけるVietnam Technology & Telecommunication JSCとのFTTH共同事業です。
その中で、2025年7月にIJE社へ出資し、FTTH事業へ参画した取り組みについて紹介します(写真1)。インドネシアはFTTHの世帯普及率が約15 %と周辺国と比較しても低く、インドネシアのプラボウォ大統領自らがその解消を公約に掲げるほど国家的な課題となっています。IJE社は、所得が高くない世帯にも利用可能な価格帯でFTTHの拡大を企図しており、当社はNTT東日本が培ってきた設計・構築・保守運用のノウハウを提供することで高品質なサービスの実現に貢献しています。
具体的には、地場通信建設会社の設計・構築・保守運用の品質向上を実現するため、IJE社と共にジャワ島内の5カ所で研修センタを立ち上げ現地技術者への指導を行っています。研修センタでは座学だけでなく実習を行える電柱等の設備も備えており、研修センタ立ち上げにもNTT東日本グループのノウハウが詰め込まれています。各研修センタへはNTT東日本グループよりエキスパートが派遣され、それぞれがIJE社のコア技術者と二人一組のバディ体制を取り、日々技術者の育成に取り組んでいます。引き続きIJE社の事業拡大に貢献し、将来的には日本より人口が多いインドネシアにおいてNTT東日本を上回る加入者数の実現をめざしていきます。

SESからSIへと事業を拡大
■最近オフショアを活用したDX支援にも取り組まれてい るそうですね。
オフショア活用によりソフトウェア開発・業務BPOサービスなどを廉価に提供し、グループ会社組織を含めた顧客のDXに貢献することを目的に、2021年にデジタル推進部を設立しました。立上げ当初はわずか2名で、SIの課題を解決するための機動力ある遊撃部隊としての組成でした。ベトナムオフショアの立上げ、NTT東日本内にとどまらない技術者集団の募集・組成、パートナー開拓など、やるべきことが山積みの中で案件は増え、事業は拡大していきました。「組織を大きくして複数の開発を一気通貫で実行できるチームに」という当初からの思いが、約5年越しでようやく実現しつつあります。その中心を担うのが、NTT東日本としては貴重な元大手SIer等のPM経験者たちであり、当社もさまざまな案件に対応できる実力が備わってきました。
当初はSES(System Engineering Service)*が売上の中心でしたが、2025年度はSI開発がSESの売上を逆転するという大きな転換点を迎えました。億単位の案件も含め、要件定義から上流工程のプロジェクトマネジメントまでを自社で担う案件が増えており、ベトナムでのオフショアなども活用しながら幅広くグループとしてのDXの内製化に寄与しています。開発手法は、OutSystemsを中心としたローコード開発を主軸としながら、近年はさまざまなシステム開発需要にスクラッチで対応するケースも増えています。また、BPO/ITO受託も急速に拡大しており、最近の注力分野としてAI(人工知能)技術者の養成やコンサルティング、実開発への挑戦も進めています。
* SES:エンジニアの技術力や労働力を時間単位で提供する準委任契約に基づくサービス。
担当者に聞く
通信キャリアとの協業モデルを構築しAWINGの展開を推進
戦略企画部
佐々木 勇蔵さん

■担当されている業務につい てお聞かせください。
私は現在、AWINGのフィリピン展開の事業開発を担当しています。AWINGは、フリーWi-Fiを活用した広告配信プラットフォームであり、この事業拡大には「Wi-Fiを保有する企業とのパートナーシップ構築」と「Wi-Fi経由で広告配信を行う広告主の獲得」が不可欠です(図)。この実現に向けて現在取り組んでいるのが、NTTグループも出資しているフィリピンの大手通信キャリアPLDTとの協業モデルの構築・推進です。AWINGをPLDTが提供するエンタープライズ向けマネージドWi-Fiの付加価値サービスと位置付け、迅速かつ広範な展開をねらっています。
一方、ベトナムのスタートアップであるAWINGとPLDTとの橋渡しをするうえでは、文化や意思決定のスピード、期待値やリスク許容度の違いといったギャップに日々向き合っています。まずPLDTの事業計画に即した実証(PoC)を設計・推進し、「目に見える成果」を着実に創出するスモールステップでの実績づくりを重視しています。次に、ベトナム・フィリピン双方の幹部が現地に赴き、直接意見交換できる場を設け、トップ層どうしが相互理解を深めるよう支援しています。さらに、先方のオフィスへの常駐を通じて日常的なコミュニケーションを確立し、課題の早期把握・解決にも努めています。

■今後の展開についてもお聞かせください。
PLDTとの協業を通じてサービス設計・営業プロセス・収益モデル・運用体制を一体的に整理し、通信キャリアとの協業モデルを確立することで、AWINGの海外展開を面的に拡大することが目標です。将来的には他国・他キャリアへの横展開も視野に入れ、複数国をまたいだ広告配信を実現させ、クロスボーダーで統一的な広告価値を提供できるプラットフォームへの発展をめざします。
組織として再現性ある開発体制を確立
デジタル推進部
吉田 航佑さん

小村 政樹さん

■担当されている業務についてお聞かせください。
私たちは現在、主にNTT東日本グループの社内システム案件で内製化・SIを中心に、プロジェクトマネジメントを担当しています。要件定義・基本設計などの上流工程から開発・運用までを通貫で担いながら、個別案件の推進と同時に、組織としての開発プロセスや品質管理の整備・定着にも取り組んでいます。加えて、生成AIを活用した業務DX需要への対応は待ったなしの状態であり、さまざまなケイパビリティ拡大にも積極的です。
顧客ニーズの多様化により開発案件はさまざまな種類のものがありますが、各メンバーの経験やスキルを最大限活かし、案件属性ごとに分担しながら対応をしています。
吉田はプロジェクトリーダーとして、主に生成AIに関する案件推進を担っており、小村はプロジェクトマネージャーとして、主に社内システム内製化推進を担っています。特に、上流工程を含めた開発品質の確保と、開発プロセスや進め方の型化・整理を通じて、個々人の経験に頼らない再現性ある開発体制の構築を進めています。
NTT東日本ではSI事業拡大に伴い経験者採用社員が多数参画し急成長している一方、品質・コスト・納期(QCD)のばらつきやナレッジ化不足、開発環境やルールの未成熟が課題です。こうした状況に対し、SIerとして「当たり前」の開発プロセスや品質管理の考え方を内製開発組織として機能するよう翻訳し、対話やすり合わせを重ね定着を図っています。また、個別案件での課題や工夫をフェーズゲートの設定などを通じて抽象化・共有し、経験やスキルに依存しないシステム開発体制をめざしています。
■今後の展開についてもお聞かせください。
NTT東日本グループのSI事業を単なる個別案件の集合ではなく事業の柱へと発展させていくことをめざします。一部の経験者や個人の力量に頼るのではなく、組織として安定的かつ継続的に価値を提供できる体制へと成熟させ、「地域通信事業にとどまらない会社」という認識を社内外に定着していきます。そのために、得られた知見やノウハウを再利用可能なプロセスや判断基準で整理・蓄積し、NTT東日本デジタル革新本部へと展開、さらにはグループ全体のスタンダードとして根付かせていく考えです。SIer出身者の開発知見・プロジェクトマネジメントの経験とグループで培った業務理解や顧客・地域との信頼関係を掛け合わせ、システム開発の切り口からも地域課題の解決に貢献できるSI事業へと発展させていきます。
ア・ラ・カルト
■現地に飛び込み信頼を積む——海外現場でのエピソード
海外とのやり取りが多いNTTイーアジアならではの日常を伺うことができました。東南アジアとの協業では時差に振り回され、現地出張中は定時前、国内にいるときは定時後の会議になりがちとのこと。当初は昼食を取れないことも多々あったそうですが、気付けば体内時計が2つになった気分で、すっかり慣れてしまったとのことです。
また、英語を共通言語とした会議ではまれに、合意したと思っていた内容が会議後に別の結論として出てくることもあるようです。言語だけでなく心理的な壁も影響しているとも感じており、会議後に食事を共にする機会を通じて相手の国の文化を知ることがもっとも重要だといいます。
ベトナムでは、度数の高いお酒や未知の料理を経験しながらパートナーとの関係性を深め、信頼を獲得し業務を円滑に進められるようになったそうです。さらに現地移動では、交通量の多い交差点を渡る際、途中で足を止めずに歩き続けることが重要だと言います。運転手が歩行者のスピードを考慮し運転しているため、この阿吽の呼吸を体得することが現地でのコミュニケーション向上にも通じているようです(写真2)。

