2026年7月号
挑戦するイノベーター
グリーン基地局における電力制御技術で通信サービスや電力需給の高信頼化を実現

NTTドコモは東日本大震災における基地局での長時間停電を教訓に、自前電源の所有へと舵を切り、いち早くグリーン基地局の設置に乗り出しました。また昨今は需給ひっ迫時に基地局が備える蓄電池を有効活用するデマンドレスポンスサービスへ参入するとともに、最先端のクリーンエネルギー源の発掘にも挑んでいます。NTTドコモ クロステック開発部の中村祐喜氏は、モバイル通信キャリアにおいては貴重な電力制御を専門とする研究者で本取り組みの中心人物です。今回の取材では一連の研究開発実績を振り返っていただくとともに、今後の展望やご自身のモットーについて伺いました。
中村祐喜
クロステック開発部 エネルギー技術開発担当
NTTドコモ
震災を契機に始まったグリーン基地局構想、通信キャリアならではの技術開発と海外展開
NTTドコモのグリーン基地局について教えてください。
私たちは2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに、グリーン基地局の開発に取り組んできました。発災時は電波を届けるアンテナ設備(基地局)において、長時間の停電が発生し、バックアップ電源も失われ、お客さまにサービスを提供することができなくなりました。
この経験を教訓に、停電時でも商用電力に頼らない自前の電源を持ち、通信サービスを維持できる仕組みの必要性が認識され、基地局にソーラーパネルを設置した「グリーン基地局」の研究開発が始まったのです。ここではソーラーパネルで発電した電力を活用し、停電時でも基地局に備わった蓄電池と連携しながら電波を継続して届けることができます。また、このシステムは化石燃料由来の商用電力に依存せず、再生可能エネルギーで基地局を運用できますから、近年政府が掲げているカーボンニュートラルの実現という目標にも貢献が期待され、一層設置に追い風が吹いています。
ここでの技術的なポイントはソーラーパネルで発電したエネルギーをいかに無駄なく電波に変換できるかという点です。具体的には、パネルで発電した電力を効率良く48 Vに変換し基地局の無線機へ供給する制御方法や関連の装置開発、そして蓄電池の充放電制御やソーラーパネルとの連携制御で、電力余剰時は蓄電池に充電し、不足時には放電して無線機へ電力供給するといった技術開発に取り組んできました。こうした研究成果で、電子情報通信学会 通信ソサイエティ論文賞や、「ICT分野におけるエコロジーガイドライン協議会」(一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会、一般社団法人電気通信事業者協会など主催)において、エコICT AWARD 2016優秀賞など社外表彰を受賞してきました。
また、ソーラーパネルの建設方法にも工夫がなされ、例えば無線信号の処理装置が納められた「収容函」の屋根にも設置できるようにしました。こうして、敷地内に遊休地がなくてもパネルを設置することが可能となり、グリーン基地局のさらなる拡大につながっています。
このように、グリーン基地局は2011年の震災をきっかけに研究開発が始まり、2014年には商用化されました。現在では、全国に329個所導入されており、災害対策と環境保全の両面で重要な役割を果たしています(図1)。また最近は、経済産業省の国家プロジェクト「令和6年度 二国間クレジット取得等のためのインフラ整備調査事業(JCM実現可能性調査)」を受託してフィリピンをはじめとする東南アジア各国への技術提供を推進しているところです。

近年はデマンドレスポンスの研究開発・商用化に取り組まれてきたようですね。
グリーン基地局の蓄電池は発電量が天候に左右されるソーラーパネルと連結しているため、余剰発電を充電して有効活用するためには、充電・放電を頻繁に繰り返す必要があります。そこで、従来使われてきた鉛蓄電池よりも充放電特性に優れ、充放電サイクルによる劣化も小さい新たな蓄電池候補の発掘に取り組む必要がありました。研究開発の段階ではニッケル水素電池なども検討していましたが、その結果、やはり携帯電話でも実績のあるリチウムイオン電池が性能面でもっとも優れていることが分かり、これを導入するに至りました。
また、この蓄電池については電圧や充電量等のパラメーターを遠隔から常時監視・制御し、効率的な充放電計画を立てているのですが、「この遠隔監視制御システムを別の用途にも活用できないだろうか」との発想がわき「デマンドレスポンス(DR)」に取り組むことになりました。
DRは、電力会社から需給ひっ迫時に節電要請を受け、それに応じて節電し対価を受け取るビジネスモデルです。これは節電だけではなく、逆の対応も可能で、電力会社から「この時間帯に電力をたくさん使ってほしい」という需要造成の要請が来た場合は、蓄電池を充電し一時的に需要を増やすことができます。こうした需給調整を基地局の蓄電池と、さらにドコモショップの災害用蓄電池とも連携したシステムがドコモのDRサービスです(図2)。
この取り組みは2016年に資源エネルギー庁の国家プロジェクトとして「バーチャルパワープラント構築実証事業」が開始したことを受け、当時のNTTファシリティーズ(2019年以降はNTTアノードエナジーへ事業承継)とともに2017年に参画し、2021年より商用運用を開始しています。
ところで、DRの仕組みでは、電力会社から「100 kW節電してほしい」といった大きな単位で節電要請が届きます。実は、ドコモの基地局個々での消費電力は家庭程度で、蓄電池から放電させても数kWしか節電できないのです。加えて、搭載している装置割合(4G/5G)によって消費電力は基地局ごとに異なりますし、放電できる時間もまちまちです。
このような少容量でかつバラバラな放電能力を持つ基地局を多数束ねることで、電力会社からの大容量な節電要請にこたえるのは技術的に課題がありました。すなわち、各基地局からの放電量を縦軸:放電可能電力、横軸:放電可能時間の長方形面積としてとらえると、電力会社から「100 kWで3時間放電してほしい」という要請に対して、小さな多数の(面積の異なる)長方形*1をいかに組み合わせるか、という最適化問題を解く必要がありました。ドコモはこうした技術を磨き続け、EMS(Energy Management System)基盤を実用化してきたのです(図2)。
このDRの成果はモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC:Mobile Computing Promotion Consortium)の主催する「MCPC award 2022」の「ユーザ部門」で「モバイルテクノロジー賞」を受賞しているほか、直近では2025年のNTTグループサステナビリティカンファレンスにおいて優秀賞を受賞しました。さらに社内でもベストサステナビリティ表彰の環境部門賞を受賞するなど、社内外双方で高く評価されました。
*1 各基地局において放電可能電力(縦軸)はおよそ一定、放電可能時間(横軸)は蓄電池の遠隔監視で常時モニター可能。よって各基地局の放電可能量はその長方形面積として簡略的に計算できます(図2参照)。

直近はグリーン水素燃料電池の基地局適用にも取り組まれていると伺いました。
水素インフラが将来国内で整えば、クリーンな水素ガス*2を電源とする燃料電池も基地局設置の再生可能エネルギー源の1つとして期待できると考えます。そこで、私たちはこの水素燃料電池が発電した電力を、高効率で基地局に供給する仕組みを開発しています。現在市場にある水素燃料電池システムは、出力をDC/AC変換させ商用電力経由で家庭や工場へ電力供給する形態をとっています。しかし、このシステムを使って基地局へ給電する場合はさらにACをDC48 Vへ変換する必要があり、一度、AC変換した電力をさらにDC変換するという2段の変換が必要となり効率は悪く、水素燃料電池で発電した電力を有効に使うことができません。そこで開発したのが水素燃料電池の直流出力をダイレクトに基地局へ接続する技術です。
図3はドコモが検討しているバックアップ電源に水素燃料電池を適用する際の系統図です。停電で商用電力の供給が止まると、まず無瞬断で蓄電池へ系統が切り替わります(既存設備の標準動作)。同時に停電が感知され、その通知で水素燃料電池は起動します。この水素燃料電池は給電可能な状態になるまで約1分を要し、その後、水素燃料電池からの給電に切り替わります。ここで、後付けで設置した水素燃料電池は既存の蓄電池と並列につないでいるため、電圧条件によっては蓄電池を充電させてしまう可能性があります。
蓄電池の充放電時での電力損失は20%に達することもあるといわれ、水素燃料電池から蓄電池に電力供給せず、直接基地局へ届ける技術開発に取り組みました。ここでは電池の出力電圧制御や電圧推移予測を中心に実験で実証しました。この研究成果についてIEEEが共催する英国で開催されたスマートグリッド分野の国際会議であるicSmartGrid2025で発表を行い、「First Best Paper Award(最優秀論文賞)」を受賞し、世界からも高く評価されました。
*2 本実験ではソーラーパネルなどクリーンなエネルギー源で水を電気分解して製造された水素ガスを燃料に使用しています。

今後の展望をお聞かせください。
昨今はカーボンニュートラルの社会的要請もあり、グリーン基地局やDRについて、さらに使命感をもって取り組んでいかなければいけないと感じています。
グリーン基地局の開発では、外国特許も取得していますので、フィリピンを皮切りに世界中のオペレータへ技術提供をめざしていきます。また、ソーラーパネルの材料は、従来のガラスを基板としたシリコン系以外に、最近では塗布型で軽量なペロブスカイト系など日本が力を入れている新素材も発展しており、そういった最先端の太陽電池を擁するグリーン基地局へも検討を広げていきます。
DRについては2021年に東京電力、2024年に四国電力、2026年には北海道電力と連携を進めてきました。今後は更なる地域の大手電力会社とも取り組んでいきます。そのような中で、ドコモには全国で約20万カ所以上の基地局が存在しますので、対象とする拠点が増えるほど組合せ最適化問題が発生し、制御が難しくなっていきます。例えば1万カ所ともなれば計算時間は膨大にかかってしまうでしょう。
また、DRは「1週間後に節電してください」と時間に余裕をもって知らせてくれるわけではありません。予測できない事象だからこそ急に節電要請が届きます。今、私たちが参加している容量市場では3時間前に要請が来ますので、それなりに計算猶予があるといえますが、需給調整市場では数分前に来ることもあり、計算を超短時間で実施しなければなりません。将来的にこういった要請の厳しい市場へも参入していく場面を想定し、莫大な数の最適化問題を解くのに優れている量子アニーリング*3手法を現在検討しているところです。
*3 量子アニーリング:組合せ最適化問題を量子力学の重ね合わせとトンネル効果を用い高速に解く技術。自然界がエネルギー最小になろうとする物理現象(焼きなまし)を応用しています。
ご自身の経歴やモットーとしていること、後進へのメッセージをお聞かせください。
東日本大震災以降、ドコモでエネルギー研究が立ち上がりました。当時の通信エネルギー分野はNTTやNTTファシリティーズの研究所の皆さんが主導されており、私も学会などでそういった方々に教えていただきながらドコモにおいて黎明期のエネルギー研究を推進してきました。
こうして入社以来、エネルギー分野の研究開発業務一筋に過ごしてきました。その間に、九州大学で博士号を取得し、電気学会や電子情報通信学会などで専門委員や常任査読委員を務め、大学院の客員教授も拝命するなど学術分野で幅広く活動を続けています。ドコモではエネルギー分野の研究者は今でも少なく、今後もこのフィールドを牽引していきたいと思います。
現在、私の課に所属する社員は11名で、多くは若手です。最近はキャリア採用に力を入れており、エネルギー分野に精通した方も採用されています。前述のとおり、私自身が研究畑の出身ですから、安易に短期的な成果は求めずに、じっくり仕事に取り組むよう指導しています。そして、自分のやりたいことを大切にしてほしいと常に伝えています。こうすることで成果創出のプレッシャーも軽減されると思いますし、自己裁量で進めていくほうが今の若手に適しているのではないかとも感じています。
最後に、私が好きな漢詩「鸛鵲楼(かんじゃくろう)に登る」を紹介します。この詩は鸛鵲楼という高い楼閣から眺める黄河の雄大な景色や夕日が沈む際の様子を見ると、もっと遠景を見てみたいと上段に登ろうとするさまを描いたもので、単なる風景描写にとどまらず、「より高みをめざして努力すれば、さらに広い世界が見えてくる」という、現状に満足せず成長をめざす向上心を説く教えとして広く親しまれています。私自身、大学ではワンダーフォーゲル部に所属し、現在もこれを趣味にしていることもあり、高い地点に着いたら一体どんな景色が見えるのだろうと、いつもワクワクしながら登っています。若い人には、今見えているところから目標を少しずつ上げながら一歩ずつ登り、一階層ごとに見えるその場その場で異なった景色をぜひ味わってほしいなと思います。
