2026年7月号
挑戦する研究者たち
唯一無二の物質創製技術とともに――新高温超伝導体の薄膜創製と超伝導機構解明をめざす

ある温度以下で電気抵抗がゼロになる超伝導。その発現温度をいかに高めるかは21世紀最大の難問の1つです。NTT物性科学基礎研究所の山本秀樹上席特別研究員は、NTTで構築し進歩させてきた独自の世界最高水準の薄膜合成技術を用いて、新たな超伝導体の創製に挑み続けています。未踏領域にある高温超伝導体の創製と、その超伝導発現機構解明に迫る研究は将来的にカーボンニュートラルに資するものと期待されています。
山本秀樹
上席特別研究員
NTT物性科学基礎研究所
薄膜合成法による室温超伝導体創製をめざして──複合酸化物から複合窒化物へ
現在、手掛けている研究について教えてください。
私たちは長年、NTT独自の装置を構築・発展させながら、非常にクオリティの高い既知の複合酸化物の薄膜の作製や未知の新超伝導物質の創製、さらにその物性を調べる研究を行ってきました。これまでに、結晶構造で大別して6種類の新超伝導体と2種類の新磁性体を合成・発見しました。新超伝導体の中には、人工超格子構造をデザインすることで実現した新しいタイプのもの(1)(2) も含まれます。超伝導とは、ある物質を超伝導転移温度(Tc)以下に冷却したときに電気抵抗がゼロになり、また磁場を排除する「マイスナー効果」を示す現象です。この超伝導性を示す物質を「超伝導体」と呼び、すでに数千種類が知られています。ただし、いまだに室温超伝導体は見つかっていません。
最初に超伝導を発見したのはヘイケ・カメルリング・オネス(1853-1926)というオランダの物理学者で、自身が液化に成功したヘリウムを用いて、1911年に水銀の電気抵抗が約4.2 K(ケルビン)、すなわち摂氏マイナス269 ℃という極低温で突然ゼロになることを見出しました。その後、超伝導物質は次々と発見されましたが、Tcの上昇スピードは極めて緩やかでした。1986年に銅酸化物超伝導体の発見というブレークスルーがあって、集中的な研究により、数年間でTcが一気に 100 ℃以上も上がりました。このように高いTcを示す物質は「高温超伝導体」と呼ばれています。液体ヘリウムよりずっと安価な液体窒素で冷却するだけで超伝導を発現する物質も含まれ、すでに電力ケーブルへの応用や高磁場発生マグネットなどの用途で実用化も始まっています。さらに2019年には、200万気圧という超高圧下ではあるものの、マイナス25 ℃という室温に近いTcを示す水素化合物も発見されました。これは未発見の室温超伝導体の存在を強く示唆します。最近では、銅酸化物と似た結晶構造を持ち、高いTcが期待されるNi(ニッケル)酸化物の超伝導体にも注目が集まっています(図1)。
一方、近年、「室温超伝導の発見」とされる論文の捏造や撤回もありました。もし常圧下で室温超伝導を示す物質が発見されれば、送電線や回路内配線の電気抵抗(電力の損失)をゼロにでき、カーボンニュートラルの実現に大きなインパクトをもたらします。そのため各国で競争が続いており、功を焦る人がいても不思議ではありませんが、非科学的な報告は厳しく排除されなければなりません。
なお、低温超伝導の発現機構についてはBCS理論*1で明らかにされていますが、高温超伝導のほうは未解明です。私自身も高いTcを持つ新超伝導体の探索・合成に挑むとともに、並行して高温超伝導の発現機構の解明、さらには高温超伝導を示す物質の設計指針の構築に取り組んでいます。私たちの新超伝導体創製の最新成果としては、薄膜合成したRuO2(ルテニウム酸化物)での超伝導発現があります。この物質はバルク*2では超伝導にならず、薄膜試料でのみ超伝導を発現することが知られていました。その原因は基板から薄膜結晶に加わる歪みにあると考えられていましたが、研究チームのKrockenberger主任研究員が中心となってRuO2薄膜をさまざまな結晶方位に成膜し構造解析を行ったところ、そもそもバルクとは違う新たな結晶相で超伝導が発現することが明らかになりました(3)。同じ化学式で表される物質であっても構造の違いによって異なる物性が現れるという、非常に興味深い結果です。
新超伝導体に関しては2021年ごろから複合窒化物の創製にも取り組んでいます。その理由の1つは、窒化物は酸化物に比べると共有結合性が高い、つまり、電子を原子どうしで共有して結びつく性質が強いためです。私は、銅酸化物超伝導体がそうであるように、結晶内のある部分に共有結合性が高い構造を含む物質ほどTcが高くなる傾向にあると考えており、複合窒化物が銅酸化物を凌ぐTcを持つ超伝導体になり得ると期待しています。空気の約8割は窒素(残りはほぼ酸素)であるにもかかわらず、これまでに合成された窒化物は酸化物に比べて圧倒的に数が少なく、未開拓の物質群です。これは、「多くの金属は空気中に置いていても窒化されることがない」ように、できにくい、あるいはつくりづらい物質だからだと考えられ、そこに魅力を感じています。瀧口耕介研究員やKrockenberger主任研究員が中心となって、すでに私たちは全く新しい複合窒化物の薄膜合成に成功しています。これを足掛かりに、まずは現在の窒化物での最高記録の約25 KのTc(4)を更新する物質の創製・発見をめざしています。
こうした研究のベースにはNTTが誇る世界最高の薄膜合成技術があります。良く知られた物質であるTiN(窒化チタン)では、最近バルクを凌ぐ世界最高品質の超伝導単結晶薄膜を作製し、その物性を明らかにしました(5)。このように私たちは、唯一無二の技術を継承・改良しながら、超高品質の薄膜材料をつくってその物性を調べ、さらには未知の超伝導体を探索するという、他に類をみない研究を行っています。
*1 BCS理論:1957年にJohn BardeenとLeon N. Cooper、John R. Schriefferによって提案された超伝導の基本理論。通常の単独の電子どうしは同じ電荷を持つため反発し合いますが、金属中では電子が結晶格子をわずかに歪ませ、その格子振動(フォノン)を介して別の電子との間に引力が生じることがあります。この相互作用により2つの電子が結びついた「クーパー対」が生じると、電子が一体となってまとまった状態で流れるようになり、電気抵抗がゼロになります。ただしBCS理論では高温超伝導の発現を完全には説明できません。
*2 バルク:物質自体の「塊(かたまり)」(通常ミリメートル以上の大きさ)を意味し、基板と呼ばれる「土台」の上に作製される薄膜(厚さはナノメートルからマイクロメートル)とは異なります。

薄膜合成に携わってきたからこそ独自の超伝導機構仮説を導き出せた
どのようなご苦労があったのでしょうか。
酸化物・窒化物共通の技術として、薄膜を構成する複数の元素の供給量(蒸着レート)を同時に、高精度に制御する技術があります。常圧の10兆分の1程度の高い真空(宇宙空間に匹敵)中で、薄膜の土台となる基板と呼ばれる単結晶上に、原料を原子や分子のかたちで供給し反応させて薄膜を合成するという、分子線エピタキシー(MBE)法を用いて成膜しています。複合酸化物・窒化物に関してはNTTで開拓し、ノウハウを蓄積してきた独自技術です(図2)。
その薄膜を構成する元素の供給量の精密制御に、NTTでは1990年代から電子衝撃発光分光法(EIES)というキーテクノロジを用いてきました。これは、各元素の原料源から真空中を飛んで来る原子の流束にフィラメントから出た電子を加速してぶつけ、各原子が放つ発光をセンシングするものです。いわば、花火の色からどんな発色剤がどれくらい使われているのかを判別するセンサのようなものです。このEIESを使うことで、薄膜を構成する各元素の供給レートを原子レベルで精密に制御することができるのです。ところがこのEIES装置は、製造元の製造中止や買収など、たびたび存続の危機に見舞われてきました。結局、2025年には完全に製造中止となりましたが、私たちはこの事態を予見し、約5年をかけてNTTオリジナル装置を開発するに至りました。技術を潰えさせることなく次世代の研究者に継承できる見通しが立ち、ほっとしています。
次に窒化物に特化すると、すでに述べたように、非常につくりづらいという課題がありました。窒化物(新物質を含む)の合成には、時に1000 ℃を超える温度が必要になります。私たちはレーザ加熱方式を採用することにして、ポーランドの企業から装置を導入しました。単に装置を買って取り付けただけと思われるかもしれませんが、実際には、成膜装置全体の他の機能と両立させながら成膜温度の高温化技術を開発し、それを再現性高く稼働させる技術を確立するには大変な苦労がありました。さらに、超高真空下という成膜環境下でどうやって効率的に窒化を行うのかにも腐心しました。プラズマソースに工夫を凝らして効率的に原子窒素を生成できるようにしたり、窒化力の強さを系統的に変えることができるようにしたりと、独自の技術開発をしています。

独自の研究に不可欠な装置開発に苦労されたということですが、なぜ薄膜に着目したのでしょうか。
物性研究は光り輝くバルクの大型単結晶の試料で行うのが王道であり、薄膜や多結晶の試料での実験結果に勝る、というドグマのようなのものがありますが、薄膜の示す物性がバルク単結晶を凌ぐ科学的な理由があれば薄膜試料が真実を語ることもあります。この観点からも、世界に誇れるNTTの成膜技術を潰えさせるわけにはいきません。
また、薄膜研究から得られた着想もあります。私の研究の柱の1つに高温超伝導機構の解明がありますが、高温超伝導体が、なぜある結晶構造的・化学結合的特徴を共通に持つのか、さらにどんな物質をつくれば高Tcを示す物質となるのか、自分なりの解釈と戦略を持てたのは、まさに薄膜を研究してきたからこそです。例えば銅酸化物の薄膜はバルクに比べて表面積/体積比が格段に大きく、また膜厚方向の酸素の拡散に要する距離が圧倒的に短いことから、酸素量や酸素の配置のわずかな変化で物性が大きく変わることに気付けました。また通常、共有結合は強い結合とされますが、銅酸化物超伝導体中で超伝導を担うCuO2面でのCu―O結合のように弱い共有結合があり得ることにも気付きました(図3)。
高温超伝導の発現機構については、すでに間接的な証拠に基づく有力な仮説がいくつか出ていますが、私自身は異なる仮説を立てています。多くの研究者が支持しているのは、物質の中にある反強磁性的な秩序の揺らぎが電子の持つスピンを媒介して電子をペア(クーパー対)にすることで超伝導が発現する、というものです(スピン揺らぎ機構)。一方私自身は、高温超伝導もBCS理論を拡張することで説明できる可能性があると思っています。詳細は省きますが、銅酸化物超伝導体のように、弱い二次元的な共有結合金属の層(超伝導発現層)が、イオン結合の層(電荷貯留層)に挟まれて辛うじて安定化されているような状況では、BCS理論では想定されていなかったような大きな格子と電子の相互作用が実現して、高いTcが発現する可能性が残されているのではないか(電荷揺らぎ機構)と考えているのです。
なお、高温超伝導の発現には、CuO2面のような二次元的な構造自体(二次元性)が重要だとする説もありますが、もしそうであれば、薄膜をより薄くしていくと超伝導性が増強されると考えられます。実際にはそのような事象は観測されません。これは高品質な薄膜試料を再現性良く作製できる実験技術があって初めて分かることです。理論や仮説を検証するうえで高度な実験でしか培われない勘所や審美眼があるのです。いずれにせよ、私のように考える研究者はマイノリティで、なかなか賛同を得られない、という苦労もあります。
一方最近では、長年の薄膜研究の経験から、どのような実験を行い、何を明らかにすれば決定的な証拠を得られるのか、道筋が見えてきました。逆に、なぜこれまでその実験ができなかったのかも分かってきました。簡単にいうと道具が未発達だったのです。

その実証のためにどのような取り組みをされているのですか。
光電子分光法やX線吸収分光法などを用いて電子の振る舞いを調べています。そのため、2024年4月から東北大学(仙台市青葉区)に隣接した敷地内で運用を開始した世界最先端放射光施設「NanoTerasu」を使って計測を始めました。放射光とは、電子を光速近くまで加速してリング状の軌道を走らせたとき、リングの接線方向に放射される光のことです。放射光施設といえば、国内最大のSPring-8(特に波長0.1nm以下の硬X線領域の光が強い)が有名ですが、NanoTerasuは軟X線領域(波長0.1~10nm)に強く、これまで見えなかった電子の状態や化学結合などをナノレベルで調べるのに適しています。
NanoTerasuで特徴的なのは官民地域パートナーシップで建設された点で、NTTはコアリションメンバとして施設建設費の一部を負担したため、優先的に実験の予約ができるメリットがあります。高輝度・高品質な光を使うことで、2日程度で十数種類のサンプルの電子状態を調べられるなど、従来に比べると非常に短時間での実験が可能になりました。今後はさらに NanoTerasuでの測定装置の高度化にも寄与できればと思っています。
2015年から研究部長としてマネジメントに携わってきましたが2024年3月で退任し、現場に戻って2年が経ちました。いまだに勘を取り戻すのに苦労していますが、やはり現場はしっくりきます。今後も引き続き新超伝導体の合成・発見への挑戦と並行して、高品質薄膜試料と先進分光技術の組み合わせによる高温超伝導機構の解明に注力していきたいと思っています。
オンリーワンの研究を生み出すために複数の専門性を
後進に向けたメッセージをお願いします。
地道な共同研究が知名度の高い論文誌への掲載といった大きな成果に結実することがあります(6)~(8)。NTTで作製した唯一無二な高品質の試料の物性を、共同研究先の協力のもと、海外の大型放射光施設を含む先進的な分光手法で調べ成果につながった例が挙げられます。海外機関との共同研究は契約締結だけでも苦労が多く時間もかかりますが、オンリーワンの成果が見込めるのであれば積極的なチャレンジをお勧めします。世界をリードする研究の遂行には海外での研究経験や海外との交流も非常に重要だからです。
一方近年、研究も世界情勢と無縁ではないと再認識する場面が増えています。欧米では日本よりはるかに物価が高く円安もあって、研究費の据え置きは実質目減りを意味します。また、米国で開催された伝統ある物質科学分野での最大・最高峰の国際会議に、特定の国の研究者がビザの関係でほぼ参加できないこともありました。近年は中国開催の国際会議への参加も厳しいのが実情です。このような厳しい情勢ではありますが、世界的に見てオンリーワンの成果や長年の蓄積に基づく迫力のある成果を創出すれば、インターネットを通じて瞬時に世界中に情報共有される時代でもあります。ぜひ、そのような成果を出せるよう腰を据えて研究を継続していきましょう。
次に、複数の専門性を持てるよう研鑽していただければと思います。例えば、高品質TiNの作製とその物性研究の中心を担ったのは、2023年当時まだ入社2年目の瀧口研究員です。彼は実験家としての腕を磨きながら北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)に滞在して共同研究を行い、計算科学の技術を身に着け、バルクと異なる構造の薄膜の電子状態を自ら計算しました(5)。複数の専門性が成果に結実した好例です。
最後になりますが、特に定説に反するような実験結果や解釈がでた場合、例えhigh profile誌でなくとも論文にしておくことをお薦めします。私自身の例でいえば、高温超伝導発現の鍵を握る「電子相図」――物質の電子状態が温度やドーピング*3によってどう変わるのかを示した地図――に関する研究があります。後に別の方が行った研究を契機に急に注目されたり、あるいは20〜30年後の測定技術の進歩によって明らかになった事実によって再評価されたりすることもあります。ここ30年での測定技術の進歩には目を見張るものがあり、私が研究を始めたころには想像もしていなかったような測定が可能になりました。この好機をぜひ活かしていただければと思います。
*3 ドーピング:物質にわずかに別の元素(不純物)を加えて、電子の数や振る舞いを意図的に変える操作のこと。
■参考文献
(1)A. Ikeda, Y. Krockenberger, Y. Taniyasu, and H. Yamamoto: “Designing Superlattices of Cuprates and Ferrites for Superconductivity,” ACS Appl. Electron. Mater., Vol.4, No.6,pp.2672–2681, 2022.
(2)A. Ikeda, Y. Krockenberger, Y. Taniyasu, and H. Yamamoto: “On the criteria for superconducting superlattices using CaCuO2,” Supercond. Sci. Technol., Vol.37, 055002, 2024.
(3)Y. Krockenberger, J. Ruiters, H. Irie, Y. Taniyasu, and H. Yamamoto: “Polymorphism and Superconductivity in RuO2,” J. Phys. Chem. C, Vol.129, No.40,pp.18157–18163, 2025.
(4)S. Yamanaka, K. Hotehama, and H. Kawaji: “Superconductivity at 25.5 K in electron-doped layered hafnium nitride,” Nature, Vol.392,pp.580–582, 1998.
(5)K. Takiguchi, Y. Krockenberger, T. Ichibha, K. Hongo, R. Maezono, Y. Taniyasu, and H. Yamamoto: “Electronic transport properties of titanium nitride grown by molecular beam epitaxy,” Phys. Rev. B, Vol.112,224520, 2025.
(6)M. Kang, J. Pelliciari, A. Frano, N. Breznay, E. Schierle, E. Weschke, R. Sutarto, F. He, P. Shafer, E. Arenholz, M. Chen, K. Zhang, A. Ruiz, Z. Hao, S. Lewin, J. Analytis, Y. Krockenberger, H. Yamamoto, T. Das, and R. Comin: “Evolution of charge order topology across a magnetic phase transition in cuprate superconductors,” Nature Physics, Vol.15,pp.335–340, 2019.
(7)L. Martinelli, K. Wohlfeld, J. Pelliciari, R. Arpaia, N. B. Brookes, D. Di Castro, M. G. Fernandez, M. Kang, Y. Krockenberger, K. Kummer, D. E. McNally, E. Paris, T. Schmitt, H. Yamamoto, A. Walters, K-J. Zhou, L. Braicovich, R. Comin, M. M. Sala, T. P. Devereaux, M. Daghofer, and G. Ghiringhelli: “Collective Nature of Orbital Excitations in Layered Cuprates in the Absence of Apical Oxygens,” Phys. Rev. Lett., Vol.132,066004, 2024.
(8)Y. Seki, Y. K. Wakabayashi, T. Takeda, K. Inagaki, S. Fujimori, Y. Takeda, A. Fujimori, Y. Taniyasu, H. Yamamoto, Y. Krockenberger, M. Tanaka, and M. Kobayashi: “Correlated Ligand Electrons in the Transition-Metal Oxide SrRuO3,” Phys. Rev. Lett., Vol.135,046402, 2025.
