2026年10月号
特集 主役登場
現場の声から、人とAIの共存をより確かなものに

原口和徳
NTT社会情報研究所 社会イノベーション研究プロジェクト
研究主任
私自身、この半年だけでも、AI(人工知能)が生活や仕事に深く入り込んでいると感じます。特に驚いたのは、スマートフォンに不慣れな私の親が、そうと認識せずにAIサービスを利用していたことです。強力なAIを多くの人が使える一方、安全に使える仕組みの必要性も痛切に感じています。
新しい技術の社会実装では、制度整備の遅れや社会不安、技術的課題も現れます。蒸気機関の普及時も、社会は痛みを伴う変化を経て制度を整えました。AIにも、その力と共存する仕組みが必要です。
具体例として、私が取り組んでいる「AIと声」で考えてみます。AI音声合成により、誰かの声を高精度で再現できるようになりました。原語版の声優の声質や表現を保った翻訳音声、声を失った人への本人らしい代替音声など、AIは創作や福祉の可能性を広げます。一方、著名人の声を無断で模倣したAIカバーや、本人の同意なく声を利用する事例が社会問題化しています。
技術が社会を変えたときは、法理論から守るべき価値を明らかにし、社会調査で人々の意識や受容性を把握します。その結果を踏まえ、社会規範の更新を支援し、対応策を技術で実装する必要があります。「AIと声」では、「声の権利」を提唱し、社会調査で規範意識と守るべき価値とのギャップをとらえています。さらに、合成音声の識別や声の一致判定、望ましくない音声の流通を防ぐ技術も求められます。
こうした取り組みには、学際協働が欠かせません。技術の詳細がみえないまま安全性を重視すると、AIの全面禁止に傾く可能性があります。しかし、AI技術者との対話で何が制御可能なのかが明確になれば、部分的な制限や運用上の工夫で安全な共存をめざせます。
人文社会科学の知見や当事者の声が、技術開発を方向づけることもあります。これまで、声優など多くの実演家のお話を伺ってきました。業界の知識が乏しい私に真摯に説明してくださる方々の切実な訴えや期待に触れ、なんとかしたいとの思いは強まりました。現在、AI技術者との協働が増えています。社会調査で得た知見を伝えることで技術開発が進み、その実装によって、あのときお話ししてくださった方々の期待に少しでもこたえられるかもしれない。現場の声を起点に、技術開発から社会実装までを構想し、人とAIの共存をより確かなものにしたい。そんな想いを胸に、日々の研究に取り組んでいます。
AIによる再現・代替は、声だけでなく人の容貌やパーソナリティにも広がり、新たな用途を生み、生活を豊かにする可能性があります。だからこそ、異なる強みを持つ専門家との対話を通して、AIの能力を誰もが安心して享受できる社会に向けたガードレールを構想し、構築したいと考えています。
なお、本稿で示した研究の方向性については、NTTグループのAI関連施策や事業部門とも連携し、人とAIの適切な分担、安全性、社会受容性等を考慮しながら、事業・サービスへの適用可能性を検討していきます。
