2026年11月号
グループ企業探訪
NTTグループの知見を1つに束ね、自動運転を「日常に溶け込む社会インフラ」へ

NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモ、NTTドコモビジネスなど、グループ各社が個別に積み重ねてきた自動運転の実証知見を1つに集約すべく、2025年12月に発足したNTTモビリティ。バスやタクシーのドライバー不足、路線廃止が相次ぐ地域交通の課題に向き合い、自動運転車両の提供から導入・運用支援、遠隔監視までをワンストップで担っています。2026年5月には自社の実証フィールド「Co-Creation Hub」を武蔵野市に立上げ、レベル4自動運転に不可欠な遠隔監視基盤の共用化と、路車協調技術の確立を急いでいます。今回、山下航太社長に、設立の背景や事業の強み、今後の展望について伺いました。
NTTモビリティ
山下航太社長
NTTの知見を1つに集約し、自動運転社会の実装を加速する新会社
■設立の背景と会社の概要について教えてください。
NTTモビリティを設立したねらいは大きく2つあります。1つは、これまでNTT東日本やNTT西日本、NTTドコモ、NTTドコモビジネスなど、グループ各社が個別に進めてきた自動運転の実証知見を1つに集約し、商用化を加速することです。分散していた取り組みを1つの「器」に束ね、普及に向けたスピードを高めます。もう1つは、普及に求められる効率的な投資を行う主体となることです。これまでは予算や補助金の範囲内で仕組みを組み立ててきましたが、普及期を迎えるこれからは、自ら車両を購入して検証したりシステム開発を行ったりする先行投資が欠かせません。こうした投資を当社に集約することで、より機動的かつ効率的な投資を可能にしていきます。
事業としては、自動運転車両提供・管理サービス、自動運転導入・運用支援サービス、遠隔監視システム提供サービスの3つをワンストップで提供しています。自動運転ビジネスに取り組む企業は国内外に複数存在しますが、当社の特長は、単に車両を調達するだけでなく、品質管理や高信頼通信、運行支援までを一体で設計できる点にあります。
■事業を取り巻く社会環境や市場の状況について教えてください。
自動運転をめぐる市場環境は、グローバル規模で急速な拡大が続いています。特に米国や中国ではロボットタクシーを中心に商用化が進み、国家規模の投資が行われています。また、日本は課題先進の側面もあります。路線バスの廃線や深刻なドライバー不足、高齢化の進展、免許返納者の増加が複合的に発生し、地域交通の維持そのものが顕在化して既に一定の期間が経ちます。とりわけ公共交通業界の労働者不足は深刻で、日本バス協会の統計によれば、バスドライバー数は2020年の約12万5000人から2022年には約11万4000人まで減少し、そのうちの2割以上が60歳以上です。こうした状況を受け、政府はデジタル田園都市国家構想総合戦略に基づき、地域限定型の無人自動運転移動サービスを2027年度までに100カ所以上に導入し、2030年度には自動運転車両1万台の普及を実現するという目標を掲げています。
NTTグループはこれまで、各社が自治体と連携し、地域の課題に寄り添った実証実験を過去2年間で35件、2025年度までの累計では60件以上積み重ねてきました。当社設立後の推進体制では、自治体や交通事業者に向き合うフロントの役割は引き続きグループ各社が担い、自動運転だけでなくオンデマンド交通やシェアサイクル、決済、街づくりなどを組み合わせ、地域全体の課題に応じた提案を続ける役割を担います。一方、当社は自動運転領域のソリューションを開発・提供する唯一の主体として、走行に必要な車両の選定・調達、導入支援の体制構築、遠隔監視システムの開発などを行い、グループ各社へ提供する立場を担います。各社からの要望や現場の意見を反映しながら、競争力のある共通サービスへと進化させていく考えです。
3つの軸で展開する自動運転のワンストップサービス
■具体的な事業内容について教えてください。
当社は、定時・定路線バスやオンデマンドバス、ロボットタクシーなどを中心に、導入から運用支援までをワンストップで提供しています。事業は大きく3つの軸から成ります。
まず「自動運転車両提供・管理サービス」です。技術革新やベンチャーの台頭により、自動運転のソフトウェアや車両を提供する企業は国内外で増加しています。地域ごとの道路事情やコスト制約に応じて、最適なソフトウェアや車両を選定して提供します。すでにMay Mobilityをはじめ、Navya Mobility SASやティアフォー、先進モビリティなどと連携しており、今後も協業先の拡大を視野に入れています。特定の1社や技術に依存せず、柔軟に組み合わせて調達できる体制も当社の強みです。
次に「自動運転導入・運用支援サービス」です。自動運転の導入・運用には、走行ルートの設計や試験運行、品質確認と調整、システム構築、プロジェクト管理など多くのタスクがあり、このプロセスが不十分だと品質そのものが低下してしまいます。コストの制約下でもプロセスを丁寧につくり込む必要があり、品質要件の高いものの設計・導入・運用を担ってきたNTTグループの知見を活かせる、当社が得意とする領域だと考えています。
そして「遠隔監視システムの提供」です。ドライバーが不在となるレベル4自動運転車の運行では、遠隔での監視体制の整備が法制上も求められており、従来ドライバーが担っていた役割や責任を遠隔拠点側で補完します。この領域は各社の競争が激しさを増していますが、勝ち抜く鍵は、通信・システム自体の安定化と、多くの車両に共通の基盤・少ない人数で対応する効率性です。コストを抑えながら社会実装のハードルを大きく下げられる点は、NTTグループの総合力を活かせる当社ならではの優位性だと考えています。
「Co-Creation Hub」を拠点に、統合モニタリング化と路車協調を推進
■最近のホットなテーマについて教えてください。
2026年5月には、NTT武蔵野研究開発センタ周辺の公道を含むエリアに、自社の自動運転実証フィールド「Co-Creation Hub」を立上げました。自動運転車両やシステムの技術検証、遠隔監視サービスの効率化、路車協調の技術検証に、通年で取り組める環境を整えています。補助金を活用した短期間の実証実験では期間もルートも限られてしまいますが、自社主導で開発サイクルを回すことで、商用化に向けたサービス強化を加速させたいと考えています。
中心となる取り組みは、「統合モニタリング化」と「路車協調」の2つです。統合モニタリング化は、遠隔監視や運行管理機能の業界標準化に向けた取り組みで、自動運転レベル4(車内無人)の本格普及を見据え、遠隔での運行状況把握と運行業務支援を統合したソリューションとして、2026年7月より、「NTTモビリティ 運行アシスト」の提供も開始しました(図1)。自動運転のレベル4、すなわち「特定条件下における完全自動運転」では、遠隔監視・運行管理拠点に特定自動運行主任者の設置が義務付けられており、車両から当該拠点へ必要な情報を確実に送るための、高品質で途切れない通信が不可欠です。とりわけ、NTTが開発を進めるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想にも含まれるマルチ無線プロアクティブ制御技術「Cradio®」や「協調型インフラ基盤」は、大きな役割を果たすとみています。Cradioは無線ネットワークの品質を予測し、より品質を担保できる回線を先行して選択する技術で、すでに実証でも活用され、通信品質の維持に向けた実績が蓄積されています。また、遠隔監視はいかに少ない人数で多くの車両を管理・運用できるかがポイントであり、NTTが培ってきたインフラ運用の知見やAI技術も大いに活用できると考えています。
もう1つの路車協調は、車両のカメラやセンサだけではとらえにくい死角や道路状況を、道路側や周辺環境に設置したカメラやセンサで把握し、車両と連携する取り組みです(図2)。将来、数万台規模の自動運転車が街を走るようになれば、すべての車両に高価なセンサを積むよりも、一定間隔でインフラ側にセンサを設置して情報を共有したほうが、社会全体の経済効率は圧倒的に高くなります。こうした将来を見据え、今年度からこの取り組みを本格的に進めています。


■今後の展望についてお聞かせください。
私たちがめざしているのは、自動運転を普及させることそのものではありません。誰もが移動を諦めなくてよい社会を実現することです。地方でも都市部でも、人々が移動を通じて社会とつながり続けられる環境を未来に残すために、自動運転を「日常に溶け込む社会インフラ」として定着させたいと考えています。まずは向こう数年で、全国各地での導入・運用支援体制の拡充、レベル4自動運転サービスの実装、遠隔監視基盤の高度化、路車協調技術の活用、自治体・交通事業者との共創強化に取り組み、サービスを充実させていきます。そして2030年代には、当社を中核にNTTグループとして1000台以上の運行支援を担う規模へと成長し、日本の地域交通を支える新たな社会インフラの一翼を担っていきたいと考えています。
担当者に聞く
現場経験を積みながらレベル4対応の遠隔監視サービスを磨き込む
エンジニアリング部 部長
大鹿 智子さん

■担当されている業務についてお聞かせください。
私は現在、全国各地での自動運転実証走行のプロジェクト支援と、レベル4自動運転で必須となる遠隔監視のサービス「運行アシスト」の開発・運用を担当しています。実証初期と比べ、全国でレベル2自動運転の事例が増え、実証期間も拡大し、一般の方の試乗機会も増えている一方、まだセーフティドライバーや保安員などが同乗している状態です。「レベル4・完全無人のバスやタクシー」が普及する時代に備え、お客さまが不安を感じずに乗れること、交通事業者にとって運用しやすいシステムであること、これらの両立を意識しています。2026年度はまず、各案件・車両について、運行支援センタでモニタ業務を行い、経験を積みながら、レベル4対応機能の実装や意見交換を通じて磨き込みを図っていきます。
■今後の展開についてもお聞かせください。
遠隔でのモニタでは、車両からの車外・車内画像や地図、ダイヤ状況を見られますが、人の目で何時間も画面に集中し続けることはできません。オペレータにとって使いやすいUI(User Interface)や、新しい技術・AIの活用なども含め、確実な運行管理を実現し、安定した社会インフラとなることをめざしていきます。
ア・ラ・カ・ル・ト
■通信の会社が「車に触れる」というめずらしさ
NTTモビリティならではの面白さとして挙がったのが、車両そのものに日々向き合う仕事です(写真)。車両を保有・整備して提供する事業は、NTTグループの中でも前例が少なく、社内に経験者がほとんどいない中、今なお試行錯誤が続いているとのことで、車両を実際に扱う関連会社との連携は欠かせないそうです。その一方で、普段は目に見えないネットワークや通信技術を扱うことの多いNTTグループにあって、「車にたくさん触れられる、乗れる」ことは、車好きの社員にとってはたまらない魅力のようです。データや電波だけでなく、実際の車両というかたちのある存在と向き合えることも、NTTモビリティで働く醍醐味の1つになっているのではないでしょうか。

