光伝送網における故障個所特定技術
- コアネットワーク
- 故障個所特定
- 光パラメータ
ネットワーク基盤を担うコアネットワークでは、あらゆる故障に対して、迅速な故障個所特定が求められます。本稿では、NTTネットワークサービスシステム研究所がNTTグループ会社と協力し、検討を進めてきた故障個所特定手法を紹介します。
久保 貴志(くぼ たかし)†1/ 河原 光貴(かわはら ひろき)†1/ 関 剛志(せき たけし)†1/ 岡 利幸(おか としゆき)†1/ 前田 英樹(まえだ ひでき)†1/ 木原 拓(きはら たく)†2/ 伊達 拓紀(だて ひろき)†2/ 穴田 悟(あなだ さとる)†2
NTTネットワークサービスシステム研究所†1
NTTコミュニケーションズ†2
背 景
大容量化が進むコアネットワークは多岐にわたるサービスを支えており、故障発生時には迅速な故障個所特定が求められます。ネットワーク保守者は伝送装置から発出される警報やPM(Performance Monitor)情報の監視によりネットワーク内の信号品質を把握しており、故障発生時にはそれらを基に故障個所特定を行い、設備復旧を実施してきました。
しかし、警報から故障個所を特定することが困難な故障が発生することがあります。例えば、WDM(Wavelength Division Multiplexing)信号の光パワーを光パス(波長)ごとに調整する機構が故障し、ある光パスの光パワーが増加した場合を想定します。この場合、光パワー増加によってファイバ非線形効果が顕著となり信号品質が劣化することに加え、同一の光ファイバ(セクション)を伝送されるほかの光パスにも信号品質の劣化が波及します。信号品質の劣化は光信号が終端されるトランスポンダ(TRPD: Transponder)で検出されますが、警報が発出された個所と故障個所が異なるため、影響範囲把握や原因の切り分けに時間を必要とし、設備復旧に莫大な時間を要することがあります。
故障個所特定手法
NTTネットワークサービスシステム研究所ではNTTグループ会社と協力し、実際に発生した特異かつ重大な故障事例を基に、迅速に故障個所特定可能な手法を検討しています。今回提案する故障個所特定手法の概要を図1に示します。コアネットワークを構成するNTTビル内の、光パワー調整機構が実装されている伝送装置が故障した場合を想定します。STEP1では最初に、TRPD内で監視している信号品質の時間的な劣化から故障検出します。次に、信号品質と今回新たに監視が可能となる光パラメータ(位相、振幅、周波数、偏波など)の時間分解能が高い時系列データを相関解析することで、信号品質劣化に寄与した光パラメータを特定します。光パラメータは伝送路状態と関係があるため、この情報を用いることで故障要因の推定が可能です。STEP1の結果として、信号品質が劣化した各光パス端点のTRPDから、推定結果がネットワーク制御サーバに通知されます。
STEP1はネットワーク制御サーバで行うことも可能ですが、伝送装置とネットワーク制御サーバ間を結ぶ監視・制御用IPネットワークであるDCN(Data Communication Network)に大量のデータを流出させると輻輳が発生します。本手法ではTRPDで故障検出および故障要因推定を行い、推定結果のみをネットワーク制御サーバに通知することで、DNCへの大量のデータ流出を抑制することができます。
STEP2では、NTTコミュニケーションズとともに検討を進めているネットワーク制御サーバを用います。ネットワーク制御サーバは管理するコアネットワークのトポロジ情報と通知されたSTEP1の結果から、NTTビルどうしを結ぶ伝送路であるセクションと品質劣化を受けた光パスとの関係を把握、故障が発生したNTTビルを特定します。その後、STEP1で推定された故障要因と従来手法を用いて交換対象の特定を行い、設備復旧を行います。
図1 故障個所特定手法
TRPDでの故障検出・故障要因推定
STEP1の故障要因推定までの詳細を図2に示します。TRPDは光信号をクライアント信号に変換する伝送装置です。コアネットワーク内を伝送された光信号は、最初にTRPD内の光デバイスで光パラメータの情報を保ったまま光電変換されます。その後、デジタル信号処理回路(DSP: Digital Signal Processor)で光パラメータの補償を行った後に、シンボル判定によってビット列に変換され、光パラメータの情報を喪失します。最後にOTN(Optical Transport Network)フレーマでビット誤り訂正およびデフレームが行われクライアント信号となります。現状では、光パラメータの情報が喪失されたビット誤り率などのパラメータを用いて信号品質を監視しているため、故障検出は可能ですが、信号品質劣化に寄与した光パラメータの特定はできませんでした。
NTT研究所はDSPで処理されるデータから複数の光パラメータを抽出し故障個所特定に用いることで、従来は把握できなかった伝送路状態を把握し故障要因を推定します。現在もOTNフレーマで取得しているビット誤り率と今回新たにDSPから取得する複数の光パラメータの高分解能な時系列データをそれぞれ取得します。信号品質の時間的な劣化から故障検出を行った後、すべての光パラメータと信号品質の時系列データで相関解析を行い、相関があることを相関係数が1に近い基準を用いて判定することで、信号品質劣化に寄与した光パラメータとして特定(故障要因推定)することができます。
図2 TRPDでの故障検出・故障要因推定
今後の展開
本手法は、警報が発出された個所と故障個所が異なり、影響範囲把握や原因の切り分けに時間を必要とする故障に対する個所特定手法ですが、パラメータを高分解能な時系列データとして取得することから、早期の異常検出、故障予兆検出への応用も考えられます。現在、机上検討とともに試作機の開発を進めており、実証実験を2019年の春から開始する予定です。
(上段左から)関 剛志/前田 英樹/久保 貴志/岡 利幸/河原 光貴
(下段左から)伊達 拓紀/穴田 悟/木原 拓
問い合わせ先
NTTネットワークサービスシステム研究所
ネットワーク伝送基盤プロジェクト
TEL 0422-59-3024
FAX 0422-59-4656
E-mail nechod-all-ml@hco.ntt.co.jp
今後も大容量化が予想されるコアネットワークに対して故障評定技術の発展が求められています。本検討をさらに発展させ、ネットワークの信頼性向上や保守稼働の削減に貢献できれば幸いです。