将来のデジタル社会を支えるネットワーク技術開発の取り組み
- デジタルトランスフォーメーション
- Cognitive Foundation®
- ネットワーク技術
社会がデジタル化していく動きに合わせて、デジタル社会を支えるネットワークも進化していく必要があります。そのため、NTTではデジタル社会におけるさまざまな課題を解決するネットワーク基盤「Cognitive Foundation®」の実現に向けた研究開発に取り組んでいます。本稿では、将来のデジタル社会を支えるネットワーク技術の研究開発方針である、①競争力のあるネットワーク基盤技術の研究開発、②グループデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるネットワーク運用の高度化・スマート化、③地球環境保護&エネルギー利活用、に基づいた具体的な研究開発成果を紹介します。
辻 ゆかり(つじ ゆかり)†1/ 立元 慎也(たちもと しんや)†2/ 小林 正樹(こばやし まさき)†3
NTTネットワーク基盤技術研究所 所長†1
NTTネットワークサービスシステム研究所 所長†2
NTTアクセスサービスシステム研究所 所長†3
デジタルトランスフォーメーションに必要なネットワーク技術
IoT(Internet of Things)の進展により、あらゆるモノがネットワークにつながり、大量のデジタルデータ(ビッグデータ)の効率的な収集・蓄積が可能となっただけでなく、AI(人工知能)を用いて、業務効率や生産性の向上に資する高度な分析・予測も可能となってきています。その一方で、我が国は、少子高齢化や労働力人口の減少といった社会的課題を抱えており、さらに、甚大な被害を及ぼす自然災害にも常に備えておかなければならなくなっています。そのため、さまざまな産業の垣根を越えたデータ流通によって社会的課題を解決し、社会に変革をもたらす「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への期待が高まっています。
社会基盤としてのネットワークも、 社会システムを運営するサービス事業者の多様な要望に対して、有限のICTリソースを最適な構成で迅速かつ安定的に提供することが求められています。このようなニーズにこたえ、DXを実現するオーバーレイソリューションが「Cognitive Foundation®」(1)です(図)。これは、クラウドからエッジコンピュータ、ネットワークを仮想化されたICTリソース群として扱い、マルチオーケストレーション機能をハブとしてレイヤの異なる複数のリソースを最適統合して一元管理し運用する技術です。
なお、さまざまな産業でAIやデータ活用によりDXが進む中、ネットワークにも、従来の音声通話、インターネット接続、映像配信サービスに加え、Smart City、MaaS(Mobility as a Service)、FinTechなどの新たなデジタルサービスをサポートする必要性が高まっています。DXを支える新たなネットワーク基盤の検討を進めるにあたって、研究所間にまたがる新たな所間連携の特別検討体制を立ち上げました。本体制を基にして、市場を立ち上げることを目的にユースケースを題材にしつつ技術検討を進めています。
以下では、将来のデジタル社会を支えるCognitive Foundationの開発方針である、①競争力のあるネットワーク基盤技術の研究開発、②グループDXを支えるネットワーク運用の高度化・スマート化、③地球環境保護&エネルギー利活用について、その方向性と具体的な研究開発成果を紹介します。
図 Cognitive Foundation ®の概要
3つの研究開発の方向性
競争力のあるネットワーク基盤技術の研究開発
1番目の研究開発の方向性は、高速・大容量化、接続性の高度化、低コスト化など、さまざまなネットワーク基盤技術の確立に向けた取り組みです。多様な観点からネットワークの利用価値を向上させていくことで、サービス事業者やサービス利用者にとって魅力あるネットワークの継続的な提供に貢献していきます。具体的には、光アクセス装置の一部をソフトウェア化することで次世代通信規格「5G」などさまざまな用途に入れ替えられる技術であるFASA®(Flexible Access System Architecture)や、特に都市部のような衛星信号の受信環境が芳しくない場合であっても位置計測精度を大幅に向上でき、また多彩な応用サービスへの展開も考えられるGNSS(Global Navigation Satellite Systems)測位技術などに取り組んでいます。
グループDXを支えるネットワーク運用の高度化・スマート化
2番目の研究開発の方向性は、サービスの多様化に対して極力人手をかけずに迅速に対応していくためのネットワークの自動運用や社会インフラの保全への展開も視野に入れた、NTTグループのDXを支えるネットワーク運用の高度化・スマート化技術の確立に向けた取り組みです。AI技術の活用による運用の高度化や稼動効率化など、さまざまなネットワーク運用技術を実現していくことで、各産業における多様なサービス需要に迅速にこたえるネットワーク提供に貢献していきます。具体的には、さまざまな事業者や産業の垣根を越えてサービスやICT・ネットワークリソースを連携させる技術や、光伝送網における故障発生時の迅速な設備復旧を実現するための故障検知・分析・復旧技術などに取り組んでいます。
地球環境保護&エネルギー利活用
3番目の研究開発の方向性は、SDGs(Sustainable Development Goals)が描く持続可能な社会の実現のため、脱炭素化をはじめとする地球環境に配慮したレジリエントなネットワークインフラの整備技術の確立をめざします。クラウドネイティブなネットワークにおける抜本的な省エネルギー化および給電ネットワークの仮想化を軸に自律的なエネルギー制御を実現していくことで、社会の脱炭素化および新たなエネルギー流通ビジネスに貢献していきます。具体的には、まずは機械室内装置配置の最適設計などによる抜本的な省エネ化の実現に取り組んでいます。
これらの研究開発の方向性にかかわる具体的な取り組み技術を表に示します。本特集ではそれら各技術についての取り組み詳細を2号にわたり紹介します。
表 3つの研究開発の方向性と具体的な取り組み技術
■参考文献
(1) 川添:“中期経営戦略の実現に向けて、“R&D for Smart World”の取り組みを加速、”BUSINESS COMMUNICATION, Vol.56, pp.34-37, 2019。
問い合わせ先
NTT情報ネットワーク総合研究所
TEL 0422-59-2033
FAX 0422-59-5600
E-mail injousen-pb@hco.ntt.co.jp
将来のデジタル社会を支えるネットワーク技術の実現に向けて、NTTネットワーク基盤技術研究所、NTTネットワークサービスシステム研究所、NTTアクセスサービスシステム研究所は研究開発を進めていきます。