高臨場VRサービスを実現するキャリアエッジコンピューティング基盤技術
- エッジコンピューティング
- VR
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NTTネットワーク基盤技術研究所では、通信事業者設備の計算資源を活用したエッジコンピューティングの技術検討を進めています。本稿では、VR(Virtual Reality)アプリケーションをエッジコンピューティング基盤経由で提供するユースケースについて、凸版印刷株式会社と共同で取り組んでいる技術実証の内容を紹介します。
岩澤 宏紀(いわさわ ひろき)/ 浦田 悠介(たまき しんや)/ 玉置 真也(たまき しんや)/ 川上 健太(かわかみ けんた)/ 中原 悠希(なかはら ゆうき)/ 小野 孝太郎(おの こうたろう)/ 石橋 亮太(いしばし りょうた)/ 桑原 健(くわはら たけし)
NTTネットワーク基盤技術研究所
背 景
現在、クラウドでアプリケーションを動作させてさまざまなサービスを提供するクラウドコンピューティングが広く利用されています。クラウドコンピューティングは、ユーザがサーバ等の計算リソースを管理する必要がなくなるメリットがある一方で、ユーザとクラウドとの間にさまざまなネットワークが存在するため、クラウドサーバとの距離や各ネットワークにおける通信帯域の制約・品質変動の影響を受けやすく、安定して低遅延・広帯域なサービスを提供することが難しいという課題があります。
そこで、ユーザ近傍にサーバ等の計算リソースを配置し、サービスを提供するエッジコンピューティングが近年注目されています(1)。NTTネットワーク基盤技術研究所(NT研)では、エッジコンピューティングの中でもユーザ近傍に位置する通信事業者の設備(通信ビル等)に計算リソースを設置する方式の技術検討を進めています。これにより、クラウドでは困難であった低遅延性・広帯域性を持つ新たなサービスを提供することをめざしています。
本稿では、エッジコンピューティングの有望なユースケースとして、低遅延性が求められるアプリケーションであるVR(Virtual Reality:仮想現実)について、凸版印刷株式会社と共同で取り組んでいる技術実証の内容を紹介します。
高臨場VRサービスを実現するエッジコンピューティング基盤技術
VRアプリケーションは、あらかじめ生成された映像を視聴するタイプ(360度視点動画等)と、ユーザの視点移動や操作に合わせて3D映像をリアルタイムに生成するタイプに大別できます。
あらかじめ生成された映像を視聴するタイプでは、仮想空間内を自由に移動したり、物体を動かしたりすることはできない制約があります。
一方、3D映像をリアルタイムに生成するタイプは、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサでHMD(Head Mounted Display)の位置・向き等のセンサ情報に対応した映像をリアルタイムに生成することにより、仮想空間内での移動や物体操作が自由に行える特徴があります。このタイプのVRの中でも特に高品質(高精細、高フレームレート)なものは、電子カタログに適用できると考えられます。VRを用いた電子カタログでは、例えば自動車販売店やハウスメーカ、各種ショールーム等において、仮想空間上で商品のパーツ・色・模様などを変化させてユーザに体験してもらうことができます。本稿ではこのような電子カタログをはじめとした高品質VRをターゲットとしています。
3D映像をリアルタイムに生成するタイプでは、VR酔いを回避するために、ユーザが端末を操作してから、3D映像が端末の画面に表示されるまでの一連のプロセスを極めて短時間(例:数10 ms)に完了させる必要があります(2)。そのため、従来このタイプはネットワークを介さずローカル端末で提供されてきました。しかし、スタンドアロン型のHMDやスマートフォン単体では高品質化が難しく、また、高性能なGPUを搭載した専用PCは、設備や運用面でコストが高くなる課題があります。そこで、エッジコンピューティングを活用することで、ユーザごとに高性能な専用PCを管理することなく、遠隔でも低遅延で高品質なVRの提供が可能になります。
今回の共同実験では、凸版印刷が持つ住宅展示場向けVRアプリケーションをNTTのエッジコンピューティング検証基盤で動作させ、スマートフォン端末のセンサ情報に基づいた映像をエッジコンピューティング基盤でリアルタイムに生成し、それらの映像データを端末へ配信する検証を行いました。本検証により、凸版印刷の保有する高品質なVR対応型電子カタログアプリケーションを、ネットワークを介した遠隔のエッジコンピューティング基盤経由で提供可能であることを確認しました(図)。
また、VR映像に特化したトラフィック制御による遅延揺らぎの抑制など、サービス高品質化に向けた独自の技術についても検証を行いました。
図 凸版印刷とのエッジコンピューティングを活用したVRデジタルカタログユースケース共同検討の概要
エッジコンピューティング基盤の研究開発
NT研は、VRをはじめとするエッジコンピューティングアプリケーションのみならず、その効率的な設備構築・増減設、高い運用性を低コストでサポートするエッジコンピューティング基盤の研究開発にも取り組んでいます。その一環としてNT研では、Linux Foundation配下のOSS(オープンソースソフトウェア)プロジェクト「Akraino」に参画しています(3),(4)。
Akrainoは、通信キャリアのみならず、さまざまな企業や業界が取り組んでいるエッジコンピューティングをエッジ固有のユースケースごとの要求条件や制約条件に合わせ、業界のベストプラクティスであるOSS技術の組合せにより実現するプロジェクトです。オープンコミュニティによって、グローバルなパートナーと共同で取り組むことで、スピーディでかつ効率的にエッジコンピューティングの研究開発を進めつつ、グローバルなエコシステムの構築にも取り組んでいます。
今後の展開
引き続き凸版印刷と共同で、超低遅延かつ高品質なVRサービスを、柔軟に提供できるエッジコンピューティング基盤の実現をめざします。
■参考文献
(1) Y. C. Hu, M. Patel, D. Sabella, N. Sprecher, and V. Young: “Mobile Edge Computing - A key technology towards 5G、”ETSI White Paper No.11, 2015.
(2) https://www.twentymilliseconds.com/post/latency-mitigation-strategies/
(3) https://www.ntt.co.jp/topics/akraino/index.html
(4) https://www.akraino.org/
(後列左から)川上 健太/小野 孝太郎/桑原 健/石橋 亮太
(前列左から)玉置 真也/岩澤 宏紀/中原 悠希/浦田 悠介
問い合わせ先
NTTネットワーク基盤技術研究所
コグニティブファウンデーションNWプロジェクト
TEL 0422-59-4949
FAX 0422-59-6364
E-mail hiroki.iwasawa.hs@hco.ntt.co.jp
NT研では引き続き、超低遅延かつ高品質なVRサービスを柔軟に提供できるエッジコンピューティング基盤の実現をめざします。