AIを用いたデバイスごとのポリシー制御技術
近年、ネットワークカメラやTV等、ネットワークに接続されるIoT(Internet of Things)デバイスが多様化・大量化しており、またデバイスごとにネットワークに求められる要件も多様化しています。本稿では、IoT時代を見据えたキャリアネットワークにおいて、各デバイスの通信のふるまいから、種類・機種等を自動で特定し、デバイスごとに最適なネットワーク制御を実現するポリシー制御技術について紹介します。
西原 英臣(にしはら ひでたか)/ 岩橋 宏樹(いわはし ひろき)/ 栗田 佳織(くりた かおり)/ 松尾 和宏(まつお かずひろ)/ 野口 博史(のぐち ひろふみ)/ 磯田 卓万(いそだ たくま)/ 片岡 操(かたおか みさお)/ 山登 庸次(やまと ようじ)
NTTネットワークサービスシステム研究所
IoT時代のポリシー制御技術
世の中にあるさまざまなモノがネットワークに接続され通信を行うIoT(Internet of Things)の進展や、4K/8K映像の普及に伴い、さまざまな利用シーンやアプリケーションが登場し、またデバイスの種類も多様化しています。さらに、デバイスの用途に応じて、高速大容量の転送や、小容量だが多数セッションの転送など通信の特性や要求される品質も多岐にわたります。
このようにネットワークに接続するデバイスが多様化・大量化する中で、デバイスごとの多様なネットワーク要件に柔軟にこたえるために、NTTネットワークサービスシステム研究所では、デバイスの種類や特性に応じて最適なネットワーク制御を実現する、IoT時代のポリシー制御技術の研究開発に取り組んでいます。本稿では、本技術を構成する2つの要素技術と全体システムを紹介します。
ポリシー制御技術
ポリシー制御技術とは、ユーザの多様なニーズに応じて柔軟な付加サービスを提供するために、アプリケーションや特定ユーザのトラフィックを識別し、識別結果に応じて個別の制御ルール(ポリシー)に従ってトラフィックを制御する技術です。具体的な制御例として、フィルタリング、QoS(Quality of Service)、帯域制御が挙げられます。
ポリシー制御技術は主に、PCEF(Policy and Charging Enforcement Function)とPCRF(Policy and Charging Rules Function)と呼ばれる機能によって実現され、これらはキャリアネットワーク内に配備されます。PCRFでは、ユーザやアプリケーションに応じて適用するポリシーを決定し、PCEFに対して制御指示を行います。PCEFは、PCRFからの指示に従い、入力するトラフィックを識別し、適切な制御を行います。
ふるまい自動分析技術
ふるまい自動分析技術とは、ネットワークに接続されているデバイスの種類や機種を通信情報から自動で識別する技術です。例えば、宅内やオフィスのネットワークにつながっているデバイスが、ネットワークカメラや視聴用モニタであることを識別することができます。デバイスの種類が明らかになることで、最適なネットワーク制御の判断や大量デバイスの効率的な管理を行うことが可能となります。また、本技術は、デバイスを通常使用する際に発生する通信を利用して識別を行うため、識別対象のデバイスには、高い性能や特別なソフトウェアが必要ないことも利点の1つです。
本技術は、通信情報の特徴量化と類似性の判定という二段階の処理で構成されます(図1)。通信情報の特徴量化とは、デバイスが送受信するパケットを一定の時間間隔で収集し、その数やヘッダ情報を基に抽象化したデータをつくります。このデータをデバイスの特徴量と呼びます。次に、類似性の判定ではデバイスの種類や機種ごとにあらかじめ用意した特徴量と、識別対象デバイスの特徴量とを比較してもっとも類似するものを判定します。このとき、特徴量の比較には機械学習を用います。以上の処理によって、デバイスの種類や機種を識別します。
図1 ふるまい自動分析技術構成
全体システム
従来のポリシー制御技術では、契約回線単位での制御を実施しています。そのため、1契約回線に複数のデバイスが収容されている場合に、ネットワーク側でデバイスを個々に特定できない課題がありました。そこで、ふるまい自動分析技術を活用し、特定したデバイスの識別結果から、PCRFで各デバイスに応じたポリシーを自動で選択する技術を実現しました。本システムの全体構成を図2に示します。具体的には、ふるまい自動分析技術を搭載したAI(人工知能)をキャリアネットワーク内に配備し、ミラーリングパケットを入力させ、①ふるまい自動分析技術でデバイスの種別や機種を識別します。AIにて識別完了後に、当該結果と契約回線情報(送信元IPアドレス等)をPCRFへ通知し、②PCRFでは通知される情報に基づき、あらかじめ登録されている契約回線に紐付くデバイスごとのポリシーから、最適なポリシーを自動的に選択します。そして、PCRFからPCEFに対してデバイスの通信単位で当該ポリシーの適用を指示します。
本技術を活用することで、契約回線配下にある個々のデバイスを特定し、デバイスに応じた最適なネットワーク制御を実現することができます。
図2 IoT時代のポリシー制御システム構成
今後の展開
本稿では、ネットワークに接続するデバイスが多様化・大量化する中で、デバイスの通信のふるまいから自動で種類・機種を特定する、ふるまい自動分析技術と、それらと連携してデバイスごとに最適なネットワーク制御を実現するポリシー制御技術について紹介しました。
ふるまい自動分析技術については、通信情報の特徴量化や類似性の判定にさまざまな手法があるため、適用するネットワークを意識しながら技術の向上とサービス化に向けた検討を進めていきます。
ポリシー制御技術については、ユーザにサービスを提供するサービス事業者がデバイスごとに独自のポリシーを設計・設定し、柔軟なサービス提供を可能とするAPI(Application Programming Interface)について検討を進めていきます。
(後列左から)野口 博史/山登 庸次/栗田 佳織/西原 英臣
(前列左から)磯田 卓万/片岡 操/松尾 和宏/岩橋 宏樹
問い合わせ先
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転送サービス基盤プロジェクト
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NTTネットワークサービスシステム研究所では、多様なニーズに柔軟に対応可能なネットワークを実現するために、AIと連携したポリシー制御技術等の転送技術の発展にこれからも取り組んでいきます