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特集

NTTグループのICTソリューション

劇場にいるような臨場感あふれるマルチアングルVR配信「REALIVE360(リアライブ360)」

コロナ禍にあって各種イベントが中止・延期される中、「イベントの無観客オンライン配信」という新しいスタイルが立ち上がりつつあります。NTT西日本グループでは、マルチアングルVR(Virtual Reality)映像配信サービス「REALIVE360」の開発に着手し、都市部で開催されているコンサート等のイベントを、地方等遠隔地でも高臨場感に体験できるサービスとして「REALIVE360」をサービス化しました。本稿では「REALIVE360」の特徴と今後の展開について紹介します。

笹原 貴彦(ささはら たかひこ)/江村 正規(えむら まさのり)
深谷 崇(ふかたに たかふみ)
NTT西日本

コロナ禍における音楽ライブなどの現状

コロナ禍によってイベント業界は大きく様変わりしました。政府による緊急事態宣言下においては、ほぼすべてのイベントや興行が中止・延期または規模を縮小しての開催となり、東京オリンピックの延期をはじめ、プロ野球やJリーグまでもが開幕を延期するという状況に追い込まれました。緊急事態宣言の解除後においても、音楽フェスティバルや地域のお祭りなど2020年内に開催予定だったイベントは、軒並み延期や中止、規模の縮小となっています。イベントを実施後にクラスターが発生したケースなどもあり、自粛ムードが続いており、イベント自粛のあおりを受けてライブハウスの閉店が相次いでいます。新型コロナウイルス感染予防のためにフィジカルディスタンスを保とうとすると、収容人数の15%で「満席」となるといったシミュレーション結果も注目を集めました(1)。このようにイベントのオフラインでの開催はまだまだコロナ禍前のような状況に戻る見通しすら立っていない状況です。

イベントの無観客オンライン配信

オフラインでのイベント開催が前述のように厳しい一方、「イベントの無観客オンライン配信」という新しいスタイルが立ち上がりつつあります。
「サザンオールスターズ」が無観客配信ライブを実施し、そのチケット購入者数が約18万人となり、結果として推定6億5000万円もの売上を記録しました(2)。これは配信ライブの開催会場の収容人数(1.7万人)の10倍以上とオンライン配信のポテンシャルを広く知らしめることとなりました。
オンライン配信のメリットは、チケット単価が2000~3000円と通常の音楽ライブより安く設定されているため、この金額なら観ても良いと思える人にもチケットを購入してもらえます。また、平日の夜のイベントであれば、都合が悪くなかなか現地に行くことができない遠方のファンにとっても、オンライン配信であればと視聴してみようと思いやすくなるということが挙げられます。ライブ配信チケットの価格を抑えるというのは売上の減少につながるかと思いましたが、これまでチケットの購入を見送っていた層にチケットを販売することができたのと同時に、一度はライブ観劇から離れたファンである出戻り組も踏まえ、新たなファンを獲得することに成功したのです。

REALIVE360

そうした中、NTT西日本グループのスマートライフチームでは、新型コロナウイルス感染症流行前の2018年からマルチアングルVR(Virtual Reality)映像配信サービス「REALIVE360」の開発に着手していました(図1)。当初は「都市部と地方の“体験の格差・機会格差”をICTの力で解消する」をサービス開発のスローガンとしていました。音楽ライブをはじめ、エンタテインメント系のイベントの公演数や動員数などは都市部に集中しています。地方在住の音楽ファンにとって遠方から交通費・時間をかけて参加するのはハードルが高い点があります。さらにハンディキャップを持つ方や、シニア、小さな子どもを持つファミリーなど、音楽や演劇・スポーツが好きでも会場まで行くことが困難な方は多く存在します。そのような方たちに、都市部で開催されているコンサート等のイベントを、地方等遠隔地でも高臨場感に体験できるサービスとして「REALIVE360」をサービス化しました(図2)。サービス化に際してはNTT西日本グループの配信技術に加え、VR撮影・編集などを手掛けるアルファコード社などと協業体制を構築しました。2019年末には第1弾アーティストとして「ももいろクローバーZ」のライブを配信し、大きな話題を呼びました。その後、前述のとおり新型コロナウイルス感染拡大の影響でイベントのオンライン配信が主流となり、「REALIVE360」としてもFM802とのコラボレーションで、コロナ禍によって観客減やイベント中止に悩む音楽業界を支援する企画「REALIVE360 VR ZONE」の実施(図3)や、J-WAVEイノベーションワールドフェスタの配信、「誰ガ為のアルケミスト」の舞台を配信するなど実績を重ねてきました。

■4K/8Kの高画質360度VR映像をストリーミング配信

「REALIVE360」の特徴の1番目は今までにない「4K/8Kの高画質360度VR映像をストリーミング配信」していることです。独自の技術で従来、360度VRストリーミング配信が抱えていた画質の粗さを解消しました。「REALIVE360」ではNTT研究所にて研究開発され、NTTテクノクロスにて製品化された「パノラマ超エンジン」を活用し、4K/8Kの高画質VR配信を実現しています。まず、360度VR映像の場合、その瞬間には見えていない部分も含めた360度分の映像データが必要になるため、普通の平面ディスプレイで表示される16:9動画とは異なる考え方をする必要があります。平面ディスプレイで表示されている4Kの映像データは、その平面ディスプレイで4K解像度を表示しているのに対し、「4Kの360度VR映像」の場合、その瞬間には見えていない部分も含めた映像データが4K解像度ということになるので、実際に視聴できている視聴領域は4K未満になってしまいます。360度VR映像を視聴中、4K解像度なのにもかかわらず想定よりも画面がぼやけるということになります。一方で、視聴範囲の画質を上げるために解像度を8Kに上げると、配信ネットワークの必要帯域が大きくなるため、ユーザに求める視聴環境の条件が厳しくなってしまいます。すなわち、顧客のネットワーク環境が充分に整っている必要があり、サービス利用者の拡大に大きな影響を及ぼしてしまう可能性があります。そこで、視聴領域だけ高解像度、その他の見えていない部分は低解像度で配信することが可能な「パノラマ超エンジン」を採用することとしました。パノラマ超エンジンでは、4K解像度であれば約4分の1、8K解像度であれば約7分の1までネットワークの必要帯域を削減することができ、4G回線でも8K解像度の 360度VR映像を楽しむことができます(図4)。

■マルチアングル

2番目は「マルチアングル」です。複数のアングルからユーザが見たいアングルを自由に選択できるため、主体的・能動的に好みのアングルでライブを楽しむことができます。マルチアングルであるがゆえに、実際のライブ会場では体験できない「さまざまな座席の瞬間移動」を実現できるとともに、お気に入りのメンバの追っかけ視聴や出演者が見ているであろうステージ上からファンを見渡すアングルや天井からのアングルなど、通常では設定できないようなアングルを設定できます。マルチアングルだからこそ出演者をバストショットでしっかりおさえるメインアングルを設定しつつ、チャレンジングなサブアングルを設定することができます。

■立体音響

3番目が「立体音響」です。ボーカルの声は映像の右側から、ドラムの音は後方から聞こえるといった演出が可能です。実際の各アングルから聞こえる音をVR映像内でリアルに再現できます。アングルごとに音の聞こえ方が変わるのはもちろん、VR映像内の視聴している場所を変えるだけでも聞こえ方が変化します、臨場感を上げる工夫を映像だけでなく、音声でも実施しています(図5)。
その他、アプリケーションでサービスを実現していることから専用のゴーグルやヘッドセットなどは不要で、スマートフォンやタブレットだけでVRの世界を楽しめることも特徴です。
また、各社プレイガイドと連携していますのでユーザはプレイガイドでチケットを購入し、払い出されたシリアルコードで認証するとREALIVE360のアプリでイベントが視聴可能になります。

今後の展開

このように現在はエンタメでの利用をメインとしているREALIVE360ですが、サービス利用者であるイベント主催者の皆様にたくさんの機能拡張のリクエストをいただいており、現在、さまざまな機能を開発中です。
それは、「出演者と視聴者がインタラクティブにコミュニケーションを取れる機能」や、「スポンサーなどの広告を表示する機能」といったオフラインでイベントを実施する際に行っていたことをオンラインでも実現する機能や、「視聴者が配信者へのお礼や応援の気持ちを込めてお金を送ることができる投げ銭機能」や「視聴データ分析」機能といったオンライン配信だからこそ実現できる機能に加えて、現行のアプリケーションだけでなく「Webブラウザでの視聴やTVへのキャスト機能」といった視聴拡張性を向上させる機能です。
加えて今後は、エンタメ分野だけでなくB2B市場への展開として教育や観光などといった分野へのサービス拡大を予定しています。さらに、業界の垣根を越えたパートナーシップも視野に入れ、広く意見をいただきながらさまざまなビジネスシーンの課題解決や新規バリュー創出につなげていきたいと考えています。

■参考文献
(1) 沖縄タイムス:“ガラガラだけど「これで満席」 ある劇場の“問いかけ”に反響,” 2020.
(2) https://www.data-max.co.jp/article/36502

(左から)江村 正規/笹原 貴彦/深谷 崇文

NTT西日本グループは、ソーシャルICTパイオニアとしてVRをエンタテインメント分野での活用を契機に、将来的には医療や教育等の産業や日常で活用することで新たな利用シーンへ事業拡大し、地域や企業の抱える課題解決をめざしていきます。

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