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グローバルスタンダード最前線

IEEE802.3における400GイーサネットおよびBeyond 400Gイーサネット標準化の最新動向

データセンタ網、テレコム網の通信帯域の需要増加にこたえ、高速イーサネット光インタフェースの標準化がIEEE802.3 WG(Working Group)で進んでいます。ここでは、IEEE802.3で進む標準化のうち、高速Point to Point(P2P)インタフェースである400Gイーサネット、および新しく始まったBeyond 400Gイーサネットの標準化動向について紹介します。

曽根 由明(そね よしあき)†1/山本 秀人(やまもと しゅうと)†2

NTTエレクトロニクスアメリカ Inc.†1
NTT未来ねっと研究所†2

IEEE802.3高速イーサネット標準化

IEEE802 LAN/MAN標準化委員会で標準化されるイーサネットは、アクセスからコアのテレコム網、データセンタ網、エンタープライズ網、車載網等、あらゆる産業の通信網に幅広く活用され続けている標準規格です。このうち、高速化需要に対応するリンク・物理層の標準化は同委員会内802.3 WG(Working Group)にて推進され、適用領域を拡大しながら高速化が進められてきました(図1)。現在、標準化が完了している最高速の規格は400GbEです。400GbEは2014年5月発足の802.3bs TF(Task Force)にて議論が開始され、2017年12月に最初の規格の標準化が完了しました(1)、(2)。その後、コスト最適化、適用領域拡大を実現する400GbEの拡張も進んでいます。最近は、さらに高速な次世代の通信速度の議論が始まり、2021年1月に次世代レート標準化開始を議論するBeyond 400G SG(Study Group)が発足しました。SGとは、具体的な技術仕様を定めるTF発足に先立ち、通信速度や伝送距離等の標準化対象を明確に項目化する役割を持ちます。Beyond 400Gの標準化は、今後の方向性を定める重要な初期段階にあります。

高速イーサネットのアプリケーション

Point to Point(P2P)の高速イーサネットの代表的な適用領域に、データセンタ網、およびテレコム網があります。データセンタ用途では、フロアの設備配備、および網階梯構成に合わせ、伝送規格が定められます。代表的なデータセンタの利用区分を図2に示します。サーバとラック内の集約スイッチ(Top of Rack switch)との間は距離30m以下の伝送規格であり、Twinaxケーブルや、MMF(Multi Mode Fiber)が用いられます。集約スイッチから、フロア内の上位階梯スイッチに対しては500mまでの伝送規格で、MMFもしくはPSM(Parallel Single Mode)が利用されます。これより少し長い10kmの領域はSMF(Single Mode Fiber)用の伝送規格が利用されます。一方、テレコム網では局内で利用する伝送装置のクライアントインタフェースとしての用途と、Non-WDM(Wavelength Division Multiplexing)のビル間接続の用途があります。テレコム用途の局内では10km未満の伝送規格を使うのに加え、10km、40km伝送規格で局間接続する用途が想定されています(図3)。

高速化の変遷

イーサネットでは、パラレルファイバや波長多重による複数レーンの採用、変調速度向上、変調多値度の向上等、複数の手法を採用することにより高速化が進められてきました。10GbEはシリアル伝送を中心に市場へ普及しましたが、40GbEや100GbEは、それぞれ約10Gbaud、25Gbaudの変調速度を利用した複数レーン方式が普及しました。200GbEや400GbEでは、それまでのNRZ(Non Return to Zero)方式から同一変調速度で2倍の情報を伝送できるPAM4(Pulse Amplitude Modulation)方式が初めて採用されました。

■400Gイーサネット規格

(1) 400GbEを策定した802.3bs
最初の400GbE規格は、400GbE SG(2013年5月開始)で検討した計画に基づき、802.3bs TF(2014年5月開始-2019年12月完了)にて標準化されました。このTFではデータセンタユーザ市場の要求にこたえ、400GbEと合わせて200GbEも標準化されています(REF1)。
標準化中のもの含めた200GbE、400GbE規格一覧を表1に示します。802.3bs TFでは、200GbE、400GbEそれぞれに対して、500m PSM(400GBASE-DR4、200GBASE-DR4)、2km SMF(400GBASE-FR8、200GBASE-FR4)、10km SMF(400GBASE-LR8、200GBASE-LR4)の規格が決められました。500m PSMはラック集約スイッチから上位階梯スイッチまでの接続について、ブレークアウトと呼ばれる4×100Gbit/s、もしくは4×50Gbit/sレーン分割接続を想定しています(図4)。パラレルファイバ1本当り(1レーン当り)の速度が、100Gbit/sもしくは50Gbit/sになることを利用した接続です。400GBASE-DR4では変調方式としてPAM4を採用したのに加え、802.3bsでは唯一である約50Gbaudの変調速度が採用され、100Gbit/s/laneの4レーンで400Gbit/sを実現する規格となりました。より長距離を伝送する性能が求められる2kmや10kmは、変調速度を100GbEと同等の約25Gbaudとし、50Gbit/s/laneの8レーンで400Gbit/sを実現する規格になりました。2km SMF規格は、データセンタは拠点内の代表ルータまでの接続、テレコム用途では同一局内のクライアント装置、伝送装置の接続が想定用途となります。400GBASE-LR8/200GBASE-LR4は、802.3bs TFでは主にテレコム網のビル間接続が想定となっていました。ただし、10kmインタフェースは、2kmに対して損失バジェットの点で利点があるため、データセンタ内の損失の大きいリンクにも活用されることになり、データセンタユーザにも活用される規格となりました。
(2) 400GbE標準の拡張
最初の802.3bs TFの後、2つの200G/400G規格拡張の動きがありました。1番目は、10km伝送を超える規格規定の動きで、400GbEだけでなく、25GbE、50GbE、200GbEの複数のレートで伝送距離10kmを超える規格規定を目的とした活動です。モバイルバックホール等のテレコム網のビル間接続が当初の主想定でしたが、検討の結果、ケーブル事業者網、およびDCI(Data Center Interconnect)といわれるデータセンタビル間接続の用途へもスコープが拡大しました。TFの段階になると400GbE関連の検討は、802.3cn TFと802.3cw TFの2つのTFに分かれて検討が進みました。802.3cnでは40km SMF伝送規格である400GBASE-ER8が標準化されました。この規格は400GBASE-LR8で採用されていた50Gbit/s/laneの伝送方式を最大限維持しながら、APD(Avalanche Photo Diode)という高感度受信デバイスを利用して、距離の長延化をする技術が想定されています(REF2)(3)。802.3cwでは、コヒーレント伝送を利用し、75GHz間隔Dense WDM (DWDM)80km伝送を実現する400GBASE-ZRの標準化が現在も進行中です。業界内で先行していた100GHz間隔DWDM伝送規格のOIF*1-400GZR(REF3)を流用し、IEEE802.3のアーキテクチャに基づいた仕様検討が進んでいます(4)。
2番目の仕様拡大の動きは、802.3cuによる“100Gbit/s/波長”化の動きです。50Gbit/s/laneを100Gbit/s/laneとすることでレーン数が削減され、省電力化、低コスト化が実現できます。大量導入を想定するデータセンタユーザからの強い要望が背景となり、検討が進みました。400GbEの規格では、100Gbit/s/lane PAM4で2km伝送する400GBASE-FR4と、6km伝送に対応する400GBASE-LR4-6が標準化されました。プロジェクト開始時は10kmがターゲットですが、IEEE802.3で伝統的に求められる既存標準との互換性、相互接続性を考慮した最悪条件を考えると6kmにリーチがとまることから6kmの伝送規格として標準化が決着しました。

*1 OIF: Optical Internetworking Forum.光伝送システムや光ネットワークプロトコルの実装仕様を規定する団体

■Beyond 400Gイーサネット規格

Beyond 400G Ethernet SGが2020年1月に発足し、標準化TF開始に向けて、標準化対象とするレート、伝送距離の議論が現在進められています。イーサネットMAC(Media Access Control)*2層のレートとしては800GbE、および1.6TbEが採用されることがすでに動議通過しているほか、データセンタ用途を中心として多くのインタフェース規格が標準化対象となる見込みです。
(1) Beyond 400GbEの現時点での検討状況
IEEE802.3内の有志メンバによるad-hocの活動により、2025年以降の通信帯域不足を見越して、現在の400GbEの次の通信速度を意味するBeyond 400GbEの検討開始の合意が形成され、Beyond 400G SG(REF4)が開始されました。市場調査データにより通信帯域のさらなる増加が予測されていること、5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)、VR(Virtual Reality)といった新たな通信需要が出てきていることから、2025年ごろのニーズに対応するために、400GbEを超えるレートの検討開始が必要と判断されました。
伝送距離に関する利用区分はおおむね400GbEと同じですが、データセンタにおけるレーン分割接続の利用がこれまで以上に明確に考慮されていることが新しい傾向です。このため、実現可能な最高のレーン速度とレーン分割接続時の分割数が標準仕様検討のうえで重要な要素になります。現時点では最大で200Gbit/s/laneの技術が想定されていて、4×200Gbit/s、8×100Gbit/sのレーン分割接続ができる800Gbit/s MACが次世代のレートとして最初に決まりました。1.6 Tbit/s MACは、200Gbit/s/laneを前提とすると4レーン分割は対応できず、8×200 Gbit/s分割に限られる可能性がありますが、大容量化のユーザ要求に迅速対応していくことを想定し、800Gbit/s MACと合わせてスコープに追加されました。
現在、Beyond 400G SGで動議通過した採用規格を表2に示しました。レーン分割接続の利用形態が明確な前提となっている、同一伝送距離で分岐数の異なる伝送規格が並列して決められる方向になっています。
(2) Beyond 400GbE今後の論点
Beyond 400GbEの光インタフェースは、次世代の51.2Tbit/s、104.8Tbit/sの容量のスイッチに適用することがデータセンタユーザ要望となっています。これらのスイッチでは、スイッチ装置内の電気伝送省電力化のため、スイッチASICとイーサネットPHY*3を統合する実装形態が想定されています。従来のイーサネット標準は、スイッチASICとイーサネットPHYとの間の電気接続仕様を明確に定め、プラガブルな光モジュールを実現していました。スイッチとPHYの統合は新しい実装形態になり、この構成への対応が論点になると予想されます。
また、現在は市場動向や技術動向を基に標準化対象を決める段階であり、実際の伝送方式はSGの次のステップにあたるTFで議論されます。一般的に高速化に伴い伝送距離維持の技術的難易度が上がるため、400GbEで主として採用されたPAM4方式の伝送性能で、どの利用形態まで対応できるかが議論されると予想されます。PAM4方式でカバーできない用途は、400GbEで初めて採用されたコヒーレント伝送方式が採用され、イーサネットへの利用が拡大していくと予想されます。

*2 MAC: OSI参照モデル第2層にあたるデータリンク層の一部を成す機能部。
*3 PHY: OSI参照モデル第1層の物理レイヤにあたる機能部。

■参考文献
(1) IEEE:“IEEE802.3bs-2017 – IEEE Standard for Ethernet Amendment 10: Media Access Control Parameters, Physical Layers, and Management Parameters for 200 Gb/s and 400 Gb/s Operation,”Jan.2017.
(2) https://www.ieee802.org/3/B400G/index.html
(3) 村本・吉松・名田:“超高速・高感度受光素子技術,”NTT技術ジャーナル,Vol.24,No.10,pp.57-60,2012.
(4) https://www.oiforum.com/wp-content/uploads/OIF-400ZR-01.0_reduced2.pdf