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グローバルスタンダード最前線

超大容量通信時代を支える光伝送網技術

5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things)、高精細画像、ビッグデータ解析と人工知能等、アプリケーション進化とともに今後激増する通信トラフィックと多様化するサービス需要に対応できる大容量かつ高信頼な基盤網を維持、発展させるための光伝送網技術に関する国際標準化動向について、主にITU-T(International Telecommunication Union- Telecommunication Standardization Sector) SG15(Study Group 15)活動を中心に紹介します。

村上 誠(むらかみ まこと)
NTTネットワークサービスシステム研究所

光伝送網技術国際標準化の概要

ITU(International Telecommunication Union)は国連機関の1つであり、先進国から開発途上国までの全国連加盟国地域を対象とする公的位置付けのde jure国際標準機関です。ITUの中には主に無線通信と電波周波数等に関するITU-R(Radiocommunication Sector)、開発途上国の情報通信環境発展に関するITU-D(Development Sector)、情報通信の国際標準化を担当する部門であるITU-T(Telecommunication Standardization Sector)があります。ITU-Tには11のSG(Study Group)があり、その中でSG15は通信の基盤となる光伝送網の広範囲にわたる技術領域を担っています。図1に示すQ1~18までの15課題(Questuon)体制により、アクセスおよび宅内からメトロ、コア領域までの全ネットワーク範囲、光ファイバやメタルのケーブルと管路、屋外設備、光波長多重伝送等の物理層から時分割多重伝送、パケット伝送、同期信号伝送、さらに全体アーキテクチャと装置管理・制御までの技術を扱っています。
光伝送網国際標準化はITU-T SG15が中心となっていますが、昨今の国際標準化は単独組織のみで行われることは稀で、いくつもの標準化組織が連携して進められています。図2に光伝送網にかかわる標準化組織を技術領域ごとに示します。
レイヤ0と呼ばれる光の物理層の中でも光部品や光ファイバおよびケーブル、屋外設備についてはIEC(International Electrotechnical Commission) TC86(Technical Committee 86)等と連携しています。ITU-Tは通信事業者ネットワークでの利用を対象としている一方、IECは通信以外にも工場、車載等の一般的産業用途までを対象としており、各国から多くの製造業者が参加し、より詳細な仕様、試験法等を規定しています。OIF(Optical Internetworking Forum)は光関連部品およびモジュール製造業者が中心となり、MSA(Multi-Source Agreement)と呼ばれる相互接続可能な実装規格を策定し、他の標準化組織に提供しています。
レイヤ1と呼ばれる時分割多重伝送の領域においては、かつて電話主体の時代にはSDH(Synchronous Digital Hierarchy)が用いられましたが、近年は、よりデータ伝送を指向したOTN(Optical Transport Network)等が開発され、基本的にITU-T SG15のみが標準化を議論しています。
レイヤ2のパケット伝送技術に関しては、EthernetはIEEE802.3、MPLSはIETF(Internet Engineering Task Force)で標準化されており、ITU-TSG15はその基本構造に通信事業者での利用に必要となる監視制御や切替等、高信頼化と保守運用性向上のための機能を付加し、それぞれCarrier EthernetおよびMPLS-TP(Transport Profile)として標準化しています(1)(2)。また、パケット網での時刻同期については、IEEE1588を基本として通信事業者利用の観点から標準化しており、近年の5G(第5世代移動通信システム)等のモバイルサービスに向けた仕様に対しては3GPPと連携して進めています(3)
ネットワーク全体のアーキテクチャはITU-T SG15独自のアトミックファンクションモデルを使い、信号収容から伝送、ネットワーク動作までを記述しています。装置管理および制御に関しては、UML(Unified Modeling Language)による情報モデルをONF(Open Networking Foundation)と連携して検討し、プロトコルに依存するデータモデルはIETFで議論されているYANGモデルを基本としています。また、TMF(TeleManagement Forum)、MEF(Metro Ethernet Forum)、BBF(BroadBand Forum)等の関連する団体ともLiaison文書の交換や合同会合を通じて協調しています。
前述した組織の中でITUとIECは国単位での参加が基本となるde jure国際標準機関であり、WTO(World Trade Organization)のTBT(Technical Trade Barrier)協定の対象となる標準規定にかかわることから、ITU-TSG15は情報通信技術委員会(TTC)、IEC TC86は電子情報通信学会規格調査会に対応する国内審議の場を設けています。

アクセスおよびホーム網

アクセス領域の主な伝送手段はPON(Passive Optical Network)であり、これまでG-PON等を標準化してきましたが、近年では波長当り10Gbit/sの高速化による40G-PONを完成させ、さらに波長当り25Gbit/sあるいは50Gbit/sの超高速PONの議論が始まっています。また、一層の大容量化のための波長多重によるWDM-PONや64分岐、50km以上へ適用領域を拡大するSuper-PON(IEEE 802.3での呼称)、柔軟なサービス提供のためのPONスライス等も検討しています。
光アクセスが世界的に普及している一方で、依然として同軸、電話線等のメタル系伝送媒体によるADSL/VDSL等への需要もあり、100Mbit/sから1Gbit/s級の伝送速度を実現するG.fast、さらに数Gbit/sまでのG.mgfastを標準化しています。また、宅内網に関しては、高精細ビデオサービスやスマートグリッドに適用できる電力線等を使った数10から数100Mbit/s程度の伝送装置や5m程度の範囲で50~500Mbit/sの伝送を実現する可視光通信が検討されています。

光物理媒体と波長多重伝送

屋外設備はあらゆる環境において通信ネットワークを保護し、安定運用のために重要ですが、ITU-T SG15では通信設備の保守運用方法、心線対照法等の測定技術、光ファイバ分配および接続に必要なボックス、クロ―ジャ等の要素技術に関する標準化を行っています。機械的特性や粉塵、温度湿度等の環境耐力にかかわる詳細仕様についてはIEC TC86と連携しています。また、光ファイバケーブル特性と評価法やG.65xシリーズで規定される種々の光ファイバ特性を議論しています。近年は、将来大容量化のために1本の光ファイバに複数のコア領域を配置する、あるいは複数の伝搬モードを利用することで空間多重する技術も検討しています。
光波長多重伝送は伝送網大容量化を支える基本技術であり、これまで光波長位置と帯域、波長当り伝送速度、送信および受信光電力等の規定により安定動作する光伝送システム仕様を実現してきました(4)。図3に示す光波長レベルでの送受信器相互接続を規定するG.698.xシリーズでは光波長多重信号を光分岐挿入も含めて数100km程度光増幅中継する構成において、波長当り10Gbit/sから100Gbit/sまでのインタフェースを規定しており、さらに200および400Gbit/sへの拡張を検討しています。一方で、10~20 km程度の範囲でモバイルフロントホール等への適用をめざした波長当り25Gbit/sの低コスト波長多重伝送技術の標準化が議論されています。
海底ケーブルシステムに関しては、昨今の傾向を反映して陸上の伝送端局装置と光ケーブルおよび中継器等の海底部分を異なるベンダで接続する構成について勧告化しました。さらに、海底中継システムによる海中センシング等の新たな応用分野について標準化等を検討しています。

時分割多重伝送

クライアント信号を効率良く収容、多重したうえで光波長多重信号として長距離にわたって伝送するための時分割多重方式としてITU-T SG15が標準化した方式がOTNです。OTNインタフェースはG.709として勧告化され、図4に示すようにクライアント信号に制御用OH(オーバーヘッド)を付加して階層的に多重し、ODU(Optical channel Data Unit)と呼ばれる形式に収容します。最終的にReed-Solomon(255、239) FEC(Forward Error Correction:符号誤り訂正)を付加して4行4080バイトの固定長フレームを基本とするOTU(Optical channel Transport Unit)フレームを構成し、光波長多重信号として伝送します。電話が主要クライアントであった時代のSDHは信号速度が変わってもフレーム長は128μsで8kHz周期に固定されていたことに対し、OTNではフレーム構成が固定で伝送速度に応じてフレーム長が変化することになります。また、クライアントとしてSDHを想定していた時代と異なり、Ethernet等の多様な信号を収容する必要から種々のODUサイズが規定されてきました。近年では、100Gbpを超えるクライアント信号高速化に対応するため、複数の光波長信号を使って伝送するFlexible OTN等、G.709.xシリーズが標準化されています。Flexible OTNでは従来OTNと異なり、ODUフレーム構成も変更され128行に、さらに長距離用インタフェース勧告G.709.3では距離や信号速度に応じて、より高性能の誤り訂正符号方式であるStaircase FECやoFEC*1が採用されています。さらに、IEEEで検討されている400Gbit/sを超える次期超高速Ethernetを伝送するためのBeyond 400G OTN規格についても議論が始まっています。
モバイル信号伝送に関しては、IMT-2020/5Gモバイルフロント/ミドルホールのDU (Distribution Unit)およびCU(Central Unit)をつなぐRAN(Radio Access Network)トラフィック伝送のためのネットワークをMTN(Metro Transport Network)として一連の勧告化を議論中です。MTNはOIFで規定されたFlexE*2を基本に通信事業者ネットワークに必要なパス状態およびエラー監視、接続確認、単/双方向遅延測定等のOAM(Operation、 Administration and Maintenance)機能やプロテクション等の高信頼化技術を付加しています。MTNパスのクライアント信号は64B/66B Ethernet MACフレームとし、66Bブロック単位で処理されます。OTNおよびMTNを構成する標準化技術は図5に示すように、アーキテクチャ、インタフェース、装置機能および管理、プロテクションそれぞれについて勧告化しています(5)
大容量化の一方で、最近は新たに1G以下の小容量を扱うOTNとMTN標準化への要望も出てきていますが、ほとんどのサービスがパケット伝送技術で賄えることや既存システムへの影響等を考慮し、その必要性をサービス要求条件の観点から明確化するための議論が続いています。

*1 oFEC:Open ROADM MSA(Multi Source Agreement)で規定された標準規格。
*2 FlexE:EthernetのMAC層とPCS層の間にFlexE Shimと呼ばれる時分割多重層を設けることで複数の物理インタフェースを使って自由な信号粒度でEthernet信号を伝送する方式。

パケット伝送技術

キャリアグレードパケット伝送とはEthernet等のパケット伝送の持つ高効率、経済性に加えて、従来SDH等で実現されてきた高信頼性と運用性を両立した通信事業者ネットワーク向けの伝送技術です。ITU-T SG15では、図5に示すようにキャリアグレードEthernet技術に関して、G.80xxシリーズとして全体アーキテクチャやサービス要件、ユーザパケットを収容するインタフェースとOAM機能、装置機能と管理、プロテクション方式等を勧告化しています(2)
MPLS-TPはMPLSの基本転送機能に高信頼化のためのOAM、装置機能と管理、プロテクション等の機能を加える一方でコネクションオリエンテッドなパス端点間の管理を困難にする機能や制御プレーン障害時の主信号切断等の通信事業者ネットワークとして問題となる機能を削除したもので、G.81xxシリーズとしてEthernetと同様に勧告体系を構成してきました(5)
パケット伝送技術の勧告化はほぼ完成しており、近年は、装置管理情報モデルやデータモデルの議論の他、IEEE等での仕様更新に整合させるための文書改訂を行っています。

アーキテクチャと管理・制御

ITU-T SG15では伝送網のアーキテクチャと装置管理制御に関して、特定の技術、プロトコルに依存しない一般的なものとOTNやEthernet等の個別技術に特化した標準化を推進してきました。アーキテクチャに関してはそれまでASON(Automatically Switched Optical Network)およびTransport SDN(Software Defined Networking)を個別に議論していましたが、図6のように、これまでのEMS(Element Management System)、OSS(Operation Support System)等も含めて管理・制御を統一的に扱うことにし、MCC(Management Control Continuum)として議論しています。ASONはG.7703、Transport SDNはG.7702とし、両者に共通する部分をCommon Control Aspectsと呼びG.7701として勧告化しています。
Transport SDNは複数コントローラを階層構造にし、CPI (Control Plane Interface)を介して接続する構成により、異なるドメイン間連携、コネクション管理とネットワークの抽象化管理、経路最適化を集中制御します。さらに、新たな検討課題として複雑な障害時の高度な故障原因分析にAI(人工知能)・機械学習を適用可能とするためのMCアーキテクチャ、既存MCC要素との関係、インタフェース等について議論が始まっています。
装置管理に関しては、図7に示すように、従来の装置からEMSまでベンダ個別仕様に依存する構成から、ベンダロックイン回避と調達コスト削減をめざしたディスアグリゲート型装置と共通管理制御が期待されています。短期的にはベンダ EMS/コントローラを併用し、NMS(Network Management System)でパス等を統合する構成、長期的にはEMS/コントローラ共通化によるマ統一管理制御実現のため、装置およびネットワークの管理情報モデルに加え、プロトコル、デ―タモデルの共通化が議論されています。一般に、情報モデルはプロトコル非依存、概念的で実装およびサービスから抽象化されたもの、データモデルは実装およびプロトコル依存、具体的、詳細な装置要素から抽象化されたものとされていますが、ITU-T SG15では装置、制御技術、プロトコルに依存しない共通情報モデルとしてG.7711を勧告化しています。また、OTN、Ethernet、MPLS-TP等の各技術依存の情報モデルもそれぞれG.875、G.8052、G.8152として勧告化しており、変換ツールによるプロトコル依存のデータモデル生成についても議論しています。一方、ONFではCORD(Central Office Re-architected as a Datacenter)、ONOS(Open Network Operating System)コントローラ、OpenFlowプロトコルを基本とした情報モデル、インタフェース、実装と相互接続等を検討しています。IETFはITU-TやONFで定義されている情報モデルからYANGモデルへの変換規定等のドラフト化を進めています。

今後の展望

Beyond 5G、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)といった今後の大容量で多様な通信サービスを収容伝送する高信頼な基盤として光伝送網の役割が一層重要になってきています。そのため、ITU-T SG15を中心とした国際標準化活動を通じた仕様共通化による低コスト化、市場活性化と開発期間短縮化が期待されています。今後もNTTとして国際的なサービス要求条件と最先端技術開発状況を把握し、最適な光伝送網構築に向けて積極的に活動していきます。

■参考文献
(1) 村上・小池: “MPLS-TPの国際標準化動向、” NTT技術ジャ-ナル、 Vol. 25、 No.3、 pp. 53-56、 2013.
(2) M. Murakami and Y. Koike:“Highly reliable and large-capacity packet transport networks: technologies、 perspectives、 and standardization、”IEEE J. Lightwave Technol.、 Vol.32、No.4、pp. 805-816、2014.
(3) 新井・村上:“5Gモバイルネットワーク実現に向けた高精度時刻・周波数同期技術の標準化動向、”NTT技術ジャーナル、Vol.30、 No.11、 pp.44-48、 2018.
(4) Optical fibres、 cables and systems (https://www.itu.int/pub/T-HDB-OUT.10-2009-1/en)
(5) https://www.itu.int/itu-t/recommendations/index.aspx?ser=G