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特集

インテントを用いたネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション連携技術

Mintent実現に向けた多様かつ曖昧なインテントの抽出・変換技術

本稿では、Mintentにおいてユーザやサービス提供者が抱えるさまざまな要求(インテント)を汲み取ったオペレーションを実現するため、次世代の通信サービスを利用・運用する各者が抱えるインテントを定量的な要求条件として汲み取るためのインテント抽出技術、さらにこれらをMintentにおける制御に活用可能な設定値に落とし込むためのリソース要件変換技術に関する取り組みについて紹介します。

恵木 則次(えぎ のりつぐ)†1/堀内 信吾(ほりうち しんご)†2
NTTネットワークサービスシステム研究所†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†2

はじめに

通信サービスを利用するユーザやサービス提供者にとって有益なサービスを実現するにあたり、各々がサービスに求める多様な要求であるインテントに近年注目が集まってきています。ユーザやサービス提供者が抱えるインテントを正確に汲み取り、各者のインテントをベースとしたネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション情報の連携、協調制御(Mintent*)を実現することで、ユーザやサービス提供者の要求に応じたサービス提供が可能となるだけでなく、インテントに応じた最適なリソース設計・制御を実現することにより、ユーザやサービス提供者の満足度を下げることなく運用の効率化を実現可能とします。
Mintentの実現に向けては、ユーザやサービス提供者がサービスに対して抱えるインテントを正確に理解し、オペレーションに活用可能な定量値として汲み取ることが重要です。以降では、インテントおよび関連技術に対する取り組みについて紹介します。

* Mintent:NTT研究所で取り組んでいる、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーションなどのマルチレイヤでインテントに基づき協調制御させる技術コンセプト。

インテントとは

これまでにネットワークを利用した多くのサービスが登場しており、これらのサービスを利用するユーザやサービス提供者はそれぞれにサービスに対する多様な要求を抱えています。例えばVR映像サービスでは、リアル空間にいるような視聴覚体験を実現したい、eスポーツであればパフォーマンスに影響のないスムーズな操作を実現したい、自動作業・運転ロボットであれば人間と同等あるいはそれ以上の精度・時間で運搬作業や物体検知等の必要なタスクを達成したいなど、サービスにより多様な要求が存在します。一方で、サービス提供者側はこれらのユーザ要望を実現したうえで、データ伝送量を最小限に抑えることで運用コストを削減したい、クレームに迅速に対応しユーザの満足度を維持したいなどの要求があります。私たちはこれらの要求をインテントとして定義し、ユーザやサービス提供者の抱えるインテントをベースとしたサービス提供、運用を可能とするオペレーションの実現をめざしています。
インテントベースのオペレーションの実現に向け、ユーザやサービス提供者が抱えるインテントの活用に向けての要素技術について図1に示します。インテントはスポーツ鑑賞を楽しみたいような定性的な表現だけでなく、「リアルな視聴」「高い精度を実現」等のように具体的な指標や値ではない曖昧な表現であることも想定されます。このような曖昧なインテントをオペレーションに活用することは困難であるため、これらの曖昧なインテントは具体的な指標として分解し、各指標を定量値として定義する必要があります。そのうえで、各サービスのユーザやサービス提供者が各指標に求める要求条件を汲み取り(インテント抽出)、この要求条件をMintentにおいて制御可能な設定値に変換する(リソース要件変換)ことで、Mintentを実現します。以降では、関連する取り組みについて紹介します。

インテント抽出技術

インテント抽出技術の検討においては、ユーザやサービス提供者が抱えるインテントに関連した情報を収集し、これらの情報を定量的な要求条件に落とし込むことをめざします。
ここで収集するインテント関連情報として、①サービス利用時に取得可能なユーザ周辺情報や②あらかじめ用意した入力インタフェースを経由して得られる言語情報を活用することを検討しています。①のユーザ周辺情報の例として、サービス利用時における操作ログ情報が挙げられます。これらの情報を解析することで得られる行動パターンの変化から、ユーザが抱えるインテントを汲み取ります。例えば、遠隔操作を行うサービスにおいて、操作ログから特定の作業に要する時間が長くなる傾向が見られるようであれば、そのユーザからは時間の観点から高いパフォーマンスを実現したいというインテントを汲み取ります。②の言語情報の例としては、利用者向けポータルに用意したチャット機能を活用して入力される言語情報が挙げられます。入力情報に対して言語処理技術を活用することで、具体的な顧客要望や懸念事項に関するインテントを汲み取ります。例えば、パブリックビューイングなどでスタジアムでの試合の高品質映像を提供するサービスにおいて、サービス提供者から「観客に不審者がいる」「選手のケガが発生」などの言語情報が与えられた場合に、それぞれ該当エリア映像による不審者の特定、該当選手に対する遠隔診断の実現といった必要なインテントを抽出します。さらには、サービスが提供可能な機能群に対して、先ほどの言語情報に基づき必要機能を自動的に選定し、要求に応じて動的にサービスの提供機能プランを切り替える技術による柔軟なサービス提供の実現をめざします。
このようにして汲み取ったさまざまなインテントに対して定量的な要求条件に落とし込みます。そのためには、各インテントに対応した有効な指標を定め、前記指標に対する定量的な要求値を設定する必要があります。例えば、不審者の検知というインテントであれば、不審者の割り出しを行う映像配信および検知技術を実装するために必要な処理性能(例:CPU 7GHz以上)に加え、映像解析において一定の検知精度(例:正答率90%以上)を達成することが要求されます。パフォーマンスに関するインテントに対しては、タスクの達成時間・精度に関する定量的な指標、要求値に落とし込みます。多様なインテントに対して定量的な要求値に落とし込むことを可能とするために、あらゆるインテント群に対応した汎用的な指標および各指標の定量値の定義、さらにはこれらの定量値を効率的に計測する手法について検討を進めています。

リソース要件変換技術

Mintentにおけるリソース制御に活用するためには、インテント抽出技術により抽出した定量的要求条件を、リソース制御において制御可能な設定値に変換する必要があります。標準化での議論状況などを参考に、インテント抽出に加えてさらに2つのステップの機能が必要と考えています(図2)。
・Step1:サービスに対する定量的な要件からネットワークの品質(QoSなど)のようなより制御対象に近いレイヤの定量的な要件への変換機能。
・Step2:制御対象のレイヤにおける定量的な要件を具体的な制御に必要な設定値等への変換機能。
なお、Step1はビジネスレイヤから具体的なネットワークのドメインの中の制御対象への何段階かの変換が必要になることがあると考えています。
私たちはすでにクラウドサーバ領域におけるStep2の技術について、機械学習を用いて実現する技術を確立しており、VDI(Virtual Desktop Infra­structure)サービスやWeb会議サービスなどクラウド上で提供されるサービスに対して効果があることを確認しています。
標準で規定されるように、オペレーションは管理対象とその業務をいくつかのレイヤで分けるアーキテクチャがBSS(Business Support System)/OSS(Operation Support System)などのシステムをつくるうえでのベースとなります。その管理対象の性能などを表現するKPI(Key Performance Indicator)は、それぞれのオペレーション管理レイヤごとに存在し、レイヤ間にまたがった関係性(構造)を持っています。前述の定性的なインテントの抽出やStep1を実現する技術は、従来の機械学習だけでなく、階層的なKPI構造やKPIが持つインテントに対する意味合いを考慮することで実現できると考えています。
また、標準化でのインテント議論は、オペレーションの自動化に向けたAutonomous Networkを実現させる各レイヤにおけるClosed Loopの機構における目的として扱われています(図3)。私たちがめざすユーザの抽象的な要件の汲み取りによるインテントはオペレーションの自動化だけでなく、ユーザの満足度を高め顧客管理の高度化に資する側面も持っています(1)
さらに、私たちが対象とするサービスは、5G(第5世代移動通信システム)のネットワークスライスのようなCaaS(Connectivity as a Service)だけでなく、そのサービス上で提供されるアプリケーションの機能なども含めたエンド・ツー・エンドでのサービスに対して、ユーザの要件を抽出できるように技術確立をめざしていきます。

おわりに

ここでは、ユーザやサービス提供者のさまざまなインテントに対応したオペレーションの実現に向け、インテントに関連した検討技術について紹介しました。このような技術開発検討に加え、技術の認知度の向上、適用ビジネスシナリオの発掘のためにTM ForumでのPoC(Catalystプロジェクト)へ参加し、幅広いビジネス要件に活用できる技術となるよう研究開発を進めていきます。さらに、必要に応じてインテントのモデルやAPIに関する要件、およびインテント指標の定量化に関する標準化も視野に入れて進めていきます。

■参考文献
(1) https://www.tmforum.org/resources/how-to-guide/ig1230-autonomous-networks-technical-architecture-v1-1-0/

(左から)恵木 則次/堀内 信吾

通信サービスの多様化が進む中で、あらゆるサービスに対してユーザやサービス提供者が抱える要求であるインテントを正確に汲み取ることが求められます。私たちは、Mintentにおける制御にて活用可能なかたちでインテントを取得するための技術確立を進めていきます。

問い合わせ先

NTTネットワークサービスシステム研究所
通信トラヒック・品質・オペレーションプロジェクト
TEL 0422-59-4008
FAX 0422-59-6364
E-mail noritsugu.egi.bn@hco.ntt.co.jp