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from NTT東日本

林業での労災と獣害抑止サービスに向けた、山間部におけるLPWA電波伝搬の実地検証

NTT東日本では、LPWA(Low Power Wide Area)やローカル5G(第5世代移動通信システム)などの技術を、利用用途に応じてお客さまのプライベートネットワークに活用しつつ、 案件を通じて得られたデータや知見を通してデジタル技術を活用した地域のスマート化と社会課題解決をめざしています。今回の活動ではLPWAプライベートネットワーク構築による山間部通信環境の確保を通して、林業の課題解決と地域スマート化に関する実証実験を行ってきました。ここでは、私たちの山間部における電波伝搬環境の技術検証と得た知見について紹介します。

デジタルデザイン部の紹介

NTT東日本デジタルデザイン部は、光回線やさまざまなICTサービスに続くNTT東日本の新しい事業の柱を生み出すことを目的に、2019年7月に発足しました。AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、エッジコンピューティングといった新しいデジタル技術をお客さまの価値に変換し、社会課題の解決や地域活性化に貢献していくことが私たちのミッションです(1)

林業の課題解決に向けた取り組み

日本の林業における課題として、労働災害の発生率が他産業と比較して高い(2)ことやシカ等による新苗等への食害が挙げられます。食害は林業従事者の経営負担、 モチベーション低下といった産業課題だけではなく、植林が育たないことによる土砂災害誘因など社会問題にもつながります。こうした課題の解決に向けて、IoT/ICTの活用による労働災害抑止のための業務安全化や、獣害抑止のための害獣用罠の捕獲確認効率化などの対策が期待されますが、山間部ではIoT/ICTを活用するための通信環境そのものが整備されていない現状があります。そこでNTT東日本では、高出力マルチホップによる少ない機器数で、山間部への通信環境構築が可能なLPWA(Low Power Wide Area)*1規格のプロダクトを用いて、林業従事者間でのSOS発信やチャットコミュニケーション、害獣用罠の捕獲検知システムの導入について実証実験を行いました。従来無線の届きにくい山間部における通信環境構築により、安心・安全で効率的な林業経営に向けた取り組みが可能となります(3)。一方で、山間部における電波伝搬については、経験則から無線局の設置場所や電波伝搬傾向を推定している状態でした。そこで、デジタルデザイン部では、本実証実験においてNTT東日本におけるプライベートネットワーク構築の知見獲得を行いました。

*1 LPWA:低消費電力で長距離通信が可能な無線通信技術の総称。

電波損失3要素の影響確認

電波伝搬における主な損失要因としては距離減衰*2、シャドーイング*3、フェージング*4の3つがあります。これらが実際の山間部でどのように影響するかを確認するため、NTT未来ねっと研究所の協力を得て、実証実験対象領域の受信信号強度シミュレーションを行いました(図1)。距離減衰の検証では、3つのルートにおいて1〜4kmの各地点で受信信号強度を測定したところ、実測では電波が受信できない個所があり、距離減衰に加えて地形や樹木に大きく影響を受けることが分かりました(図1(a)〜(c))。この知見はその後のシミュレーション改善にも役立っています。また、シャドーイングとフェージングについては実測値どうしの比較検証を行い、10dBm程度の減衰影響を確認できました。

*2 距離減衰:自由空間伝搬損失および送受信間が非見通しであるために発生する遮蔽損失。
*3 シャドーイング:構造物や地形による遮蔽状況による損失。
*4 フェージング:複数反射波によって発生する数波長程度の短い区間における急激な変動損失。

山間部における樹木の影響確認

山間部は都市部と異なり樹木が多いため、樹木種別の違いによる影響と季節の葉の茂り具合の違いによる影響を確認する検証を行いました。検証は落葉樹の葉が落ちた3月と葉が茂った9月に測定しました。

■測定1:樹木種別の違いによる影響の確認

①落葉樹エリア、②落葉樹・常緑樹の混合エリア、③常緑樹エリアの各エリアにて受信信号強度を測定しました。その結果、落葉樹エリアのほうが常緑樹エリアよりも変動が大きくなり、樹木種別による遮蔽影響の違いを確認できました(表)。

■測定2:葉の茂り具合の違いによる影響の確認

落葉樹エリアにおける受信信号強度の変化を測定しました。その結果、3月よりも9月のほうが変動幅が大きくなり、夏場の葉による大きな遮蔽影響があることを確認できました(図2)。

まとめと今後の展開

検証結果から山間部におけるLPWAの無線局置局設計では、複雑な山谷などの地形影響、 樹木量と種別(落葉樹・常緑樹)、落葉樹の葉量の変動影響を考慮することが重要だと分かりました。例えば、無線局設置予定個所は夏場の落葉樹の葉が茂った際に実地測定を行い、十分に受信信号強度が得られることを確認するなどの対処が望ましいと考えています。このように実地検証や無線局設置における注意点などの知見はNTT東日本内でも展開し、実際に3つの案件でもエリア設計のための事前シミュレーションやLPWAネットワーク環境構築に役立っています。デジタルデザイン部ではAI/IoTなどのデジタルトランスフォーメーション(DX)技術も活用し、地方創生とさまざまな産業の抱える課題解決に引き続き取り組んでいきます。

■参考文献
(1) https://www.d3.ntt-east.co.jp/
(2) https://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/anzen/iti.html
(3) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20200122_01.html

問い合わせ先

NTT東日本
デジタル革新本部 デジタルデザイン部
テクニカルフィールド部門 フィールド担当
TEL 03-5359-4102
E-mail dd_field@east.ntt.co.jp