テクニカルソリューション
無線サービスのトラブル解決をサポートする無線電波可視化ツールの開発
デジタルコードレス電話の通話途切れや、無線LANに接続できないなどの無線通信トラブルが発生した場合は、その原因を特定するために電波測定などを実施します。電波測定にはスペクトラムアナライザなどの高価な専用測定器が必要となり、その操作や解析には高度な専門スキルが必要となります。そこで、NTT東日本技術協力センタでは、無線通信のトラブルを手軽に解決できるよう「無線電波可視化ツール」を開発しました。ここでは、その概要と事例について紹介します。
無線通信トラブルの現状と課題
NTT東日本が提供する無線サービスとして、1.9GHzを利用したデジタルコードレス電話や2.4GHz帯、5GHz帯を利用したギガらくWi-Fiなどがあります。デジタルコードレス電話ではPHS(Personal Handy-phone System)とDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)の2種類の方式を利用しています。これら無線サービスでは、通話途切れや接続不良といった故障が発生することがあります。無線サービスにおける通信トラブルの原因を究明するためには、スペクトラムアナライザなどの高価な専用測定器を使い、電波の干渉や受信強度不足などの確認をする必要があり、その操作、解析にはこれまで高度な専門スキルを必要としていました。NTT東日本技術協力センタではスペクトラムアナライザ等の装置を用いて現地トラブルの解決や支援を行っていましたが、このような無線通信のトラブルを高価な専用測定器を用いずに現場で手軽にトラブル解決できることを目的として、無線電波可視化ツールを開発しました。ここでは、ツールの特徴や現場で発生した故障案件での活用事例について紹介します。
無線電波可視化ツールの概要
無線電波可視化ツールの外観を図1に示します。本ツールは、市販のノートパソコン(PC)とソフトウェア無線機(SDR:Software Defined Radio)で構成され、PCに技術協力センタで開発したソフトウェアをインストールすることで使用できます。ソフトウェアを動作させるために必要なPC、SDRの仕様を表に示します。主な機能として、デジタルコードレス電話の干渉判定・解析や、各種無線サービスのスペクトラム表示、受信した電波強度の分布図(ヒートマップ)作成を行うことが可能です。
無線電波可視化ツールの機能と主な特徴
■デジタルコードレス電話の簡易干渉判定・詳細解析機能
干渉判定機能は、技術協力センタへの相談の割合が多いデジタルコードレス電話での通話途切れや、通信切断といった故障の原因を簡単に特定するための機能です。デジタルコードレス電話で使用する1.9GHz帯ではPHS方式とDECT方式の異なる通信方式の端末が混在しています。通信方式は異なりますが同じ1.9GHz帯を利用するため、各端末の電波強度が強いと電波干渉が発生することがあります。また、近くに携帯基地局が設置されている場合に、その影響を受けることがあります。そこで、これらPHS方式、DECT方式、3G(第3世代移動通信システム)/LTE(Long Term Evolution)などの電波の強度を、5段階のインジケータで表示する簡易干渉判定機能を備えました(図2(a))。さらに、それぞれの干渉パターンを右側に示しています。通常は灰色ですが、PHS方式とDECT方式の受信強度の差が20dB以内の場合、また、本ツールで測定した3G/LTEの受信強度が−30dBm以上ある場合には干渉の影響や、携帯電話基地局の影響を受ける可能性があるため干渉パターンは赤色に点灯します。これらにより、ひと目で簡単に電波の受信強度や電波干渉の有無を確認することができます。
また、電波測定などの知識を有する保守者向けにデジタルコードレス電話で利用する1.9 GHz帯の詳細解析機能を用意しました。例えば図2(b)に示す画面では、1.892~1.904GHzの帯域でPHS制御チャネルとDECT信号がどのように干渉しているかを周波数と受信強度を表すスペクトラムで観察することが可能です。さらに本機能では、受信強度の時間変動を表すスペクトログラムを確認することができるため、PHS方式とDECT方式との干渉の有無を詳細に確認することができます。
また、本ツールでは、時々しか発生しない無線サービスのトラブルの解決のために、長期監視モードを搭載しました。長期監視モードによる測定データはPC内部に保存されます。保存データは、図2(b)下部にあるスライドバーにより任意の時間のデータを呼び出すことができるため、日時を指定することでトラブル発生時の測定結果を確認することができます。
■各種無線サービスのスペクトラム表示機能
本開発品はビジネスホンやWi-Fi、携帯電話以外の各種無線サービスにも対応しています。例えば、420MHz帯を利用する特定小電力無線や920MHz帯を利用するLPWA(Low Power Wide Area)など、表示したい各種無線サービスを選択するだけで、それら無線サービスが利用する周波数帯域のスペクトラムを表示することができます(図3(a))。登録済みの無線サービス以外にも、SDRで計測可能な1MHz~6GHzの広い周波数帯において任意の周波数帯域のスペクトラムを測定することができます。本機能では、任意のスペクトラムから受信強度を確認し、受信強度が仕様を満足しているか、同じ帯域に別の電波がないかなどを簡単に調べることができます。また、この任意のスペクトラム表示機能についても前述の詳細解析機能と同様に長期監視モードを搭載しています。
■ヒートマップ作成機能
電波の到達エリアや干渉源の探索を行うためには、電波の強度とその位置情報そして分布が非常に重要な情報となります。そこで本ツールではヒートマップを簡単に作成する機能を組み込みました(図3(b))。まず調査対象の図面をJPEG形式として読み込み、測定する無線サービス(周波数)を選択します。電波強度測定を実施しながら計測場所に対応する図面上のポイントをクリックすることで、その場所の電波強度を記録します。調査範囲内を複数地点で測定することでヒートマップを作成することができます。ヒートマップでは、受信強度の弱い個所は青色、受信強度が強い個所は赤色で表示されます。受信強度を表現するカラーの最大値や最小値は任意に設定可能です。また、作成したデータはBMP形式で外部出力可能です。
無線電波可視化ツールの故障案件における活用事例
デジタルコードレス電話の故障において、本ツールを活用した事例を紹介します。お客さまはビジネスホン主装置(αA1Pro)にてデジタルコードレス電話端末(A1DCL-PS)7台を利用されていました。設備状況を図4に示します。主装置を更改した直後から、デジタルコードレス電話で通話途切れが発生し、特に図4のA点で頻発するとの申告がありました。原因究明のため、現象が頻発するA点において、本ツールのデジタルコードレス電話の簡易干渉判定機能により電波強度の測定と電波干渉の発生有無を確認しました。その結果、携帯電話基地局(3G/LTE)からの電波による干渉の可能性があることを確認しました(図5)。さらに、スペクトラム表示機能を用いて、携帯基地局からの電波の受信強度を測定した結果(図6)、特に1805~1825MHzのLTEの測定値が−27dBmであり、電波干渉の基準値である−30dBmを超えていることを確認しました。対策として、デジタルコードレス電話の端末を携帯基地局からの電波干渉に強い基地局対策品に交換しました。その結果、故障が頻発していた図4A点において通話途切れが発生しないことを確認しました。
今後の展開
無線電波可視化ツールは、デジタルコードレス電話の簡易干渉判定やさまざまな無線サービスをスペクトラム表示することで、電波を可視化することができるツールです。そのためデジタルコードレス電話やその他の無線通信でトラブルが発生した場合に、高価な専用測定器を用いることなく、現場で手軽に解決することができます。
技術協力センタでは、引き続き支店等の現場の課題解決に向けた技術協力活動を推進し、通信設備の品質向上・信頼性向上に貢献していきます。
問い合わせ先
NTT東日本
NW事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ EMC技術担当
TEL 03-5480-3711
FAX 03-5713-9125
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