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特集

IOWNに向けたアクセスネットワーク技術

サービスを創造し支え続けナチュラルでスマートな社会を実現するアクセスネットワーク技術

NTTアクセスサービスシステム研究所は、お客さまとNTTビルを結ぶアクセスネットワークに関する研究開発を行っており、世界最先端・現場最先端の研究開発により、世界の通信インフラ技術を支えています。本稿では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想に向けたアクセスネットワーク技術の研究開発として、ネットワーク機能の高度化、運用のスマート化、アセット活用による新たな価値創出への取り組みについて紹介します。

青柳 雄二(あおやぎ ゆうじ)
NTTアクセスサービスシステム研究所 所長

はじめに

NTTアクセスサービスシステム研究所は、1972年7月に建設技術開発室として発足以来、いく度かの組織整備や、幕張(千葉県)、横須賀(神奈川県)の各ロケーション組織も加わり、1999年1月に現在の名称となりました。2014年に武蔵野(東京都)にも組織を構え、2021年7月にIOWN総合イノベーションセンタ発足に伴うNTT研究所の組織再編成において、実用化開発業務をネットワークイノベーションセンタへ移行し、コア研究開発業務を中心に取り組む研究所となり、2022年7月に設立50年を迎えました。
発足時は、屋外通信設備の研究開発、またそれらを効率的かつ安心・安全な方法で建設・保守する技術の開発・普及に取り組み、その後、インターネット接続サービスの普及・拡大期を迎え、高速なデータ通信サービスを経済的に実現するため、光アクセスシステムの研究開発に加え、光サービスの普及をサポートするオペレーションシステムの充実をはじめ、迅速な開通から効率的な保守運用に向けたさまざまな研究開発、ワイヤレスによるシームレスなアクセスの提供から、地下管路やとう道をはじめとした通信基盤設備までアクセスネットワークに関する研究開発に取り組んできました。
現在、サイバー空間とフィジカル空間の一体化(CPS)による持続可能で強靭な社会であるSociety 5.0への検討が進められています。それを実現する手段として、次世代の移動通信システムであるBeyond 5G/6Gは、2030年ころの導入に向けて検討が進んでおり、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想については、2030年実現の前倒しに向けて研究開発を加速させています。また、昨今のコロナ禍によるリモートワークの増加などにより固定ブロードバンドのニーズが引き続き強いことから、アクセスネットワークに対する期待がより一層大きなものになっています。
NTTアクセスサービスシステム研究所では、ミッションである「最先端のアクセスネットワーク技術の研究開発によりサービスを創造し支え続けナチュラルでスマートな社会の実現」に向け、5つのアクセスネットワーク要素技術である、アクセスシステム技術、ワイヤレスアクセス技術、オプティカルファイバアクセス技術、インフラストラクチャ技術、オペレーション技術を土台として、①エクストリームな要件やサービスの多様化を支える研究開発、②運用を抜本的にスマート化する研究開発、③新ビジネス領域へのアセットを活用した研究開発という3本柱に取り組み、IOWN構想の具現化をめざしています(図1)。
以降では、3つの方針で研究開発を推進している主な技術を紹介します。

エクストリームな要件やサービスの多様化を支える研究開発

エクストリームな要件やサービスの多様化を支える研究開発では、①ネットワーク性能の限界超えを実現する通信・インフラ技術の革新と②ユーザやサービスに合わせるネットワーク柔軟化技術の革新に取り組んでいます(図2)。

■ネットワーク性能の限界超えを実現する通信・インフラ技術の革新

通信・インフラ技術の革新では、無線および光の高速大容量化、アクセス区間のさらなる低遅延化を実現する技術、および海上、山間部、上空においても高速アクセスが可能なカバレッジの拡大に向けた技術の研究開発に取り組んでいます。
IOWN/6G時代には、さらなる高速大容量化に向け、これまでよりも高い周波数であるミリ波・サブテラヘルツ波帯も活用していく必要があります。しかし、周波数が高くなればなるほど、直進性が強くなり、アンテナから電波の届くエリアが限定されてきてしまいます。そこで、高速大容量化を実現する分散MIMO(Multiple Input Mul­ti­ple Output)技術では、アンテナを多数配置することで、移動・遮蔽環境下でも安定した大容量無線伝送を実現します(図2(a))。また、高周波数帯の利用・張出局の高密度展開に向けたアナログRoF(Radio over Fi­ber)を活用した高周波数帯無線エリア構築技術では、遠隔ビーム制御を主信号・制御信号を1波長で送るサブキャリア多重により実現したり、複数信号(アナログ・デジタル)の多重に際してレベル調整により信号歪を軽減したりと、張出局の小型化・低消費電力化による設置性・施工性の向上、運用コストの低減や所要波長数の削減による光ファイバコスト低減を実現します。
今後、遠隔操作の必要性が増し、高度な作業も遠隔で行う需要が高まる、エンド・ツー・エンドの低遅延・低ジッタ化だけでなく、ネットワークの輻輳時やエッジの過負荷状態でも即座に正常状態に戻すことが求められてきます。そこで、最適な光パスへの切替を行う伝送制御と、最適なエッジリソースへの切替を行うエッジ制御を行うリアルタイム制御技術に取り組んでいます(図2(b))。本技術では、タイムリーな情報収集と切替制御を行うことで、品質変動時にも即座に切替が可能となり、ドローンやロボットなどをストレスなく遠隔操作可能なサービスの提供を実現します。
カバレッジの拡大を実現するために、静止軌道衛星(Geostationary Orbit Satellite)、低軌道衛星(Low Earth Orbit Satellite)、高高度プラットフォーム(HAPS:High Alti­tude Platform Station)などのNTN(Non Terrestrial Networks)技術を用いたアクセスサービス「宇宙RAN(Radio Access Network)」について検討を進めています(図2(c))。宇宙RANを提供して超広域カバレッジを実現することで、災害対策だけでなく、離島などのエリア化、飛行機や船等の通信環境の飛躍的な改善など、利便性の向上や新たな付加価値の提供をめざしています。また、今後は通信の大容量化のために高周波数帯の無線を使う方向に拡張されていき、電波が見通し範囲外に回り込まず、カバレッジ確保が大きな課題となってきます。そこでメタサーフェス反射板(RIS: Reconfigurable Intelligent Surface)を用いて電波反射方向を制御する技術の研究開発を進めており、端末の動きに合わせて基地局からの電波の反射方向を動的に変更させて常に無線通信可能エリアを形成することを、世界で初めて実証実験において確認しました。

■ユーザやサービスに合わせるネットワーク柔軟化技術の革新

ユーザサービスに合わせるネットワーク実現に向けたワイヤレス技術への取り組みとして、ユーザやサービスがネットワークを意識せずとも最適な無線環境利用を可能とする、マルチ無線プロアクティブ制御技術(Cradio®)に取り組んでいます(図2(d))。Cradio®は、「把握」「予測」「制御」の3つの領域に分類されます。Cradio®は、これら3つの領域の技術を高度に実現し、相互に連動させ、さまざまなアプリケーションと協調することで、時々刻々と変化する無線品質の中で、多様なアプリケーション要件に適した無線アクセスネットワークをつくり出し、ユーザにとって最適な無線環境を提供します。
つながり続けるネットワークでは、多段ループ型光アクセス網構成法に取り組んでいます(図2(e))。今後、光へ求められるニーズが変化し、ビジネスモデルもマス売りからB2B2Xへ変化していくことから、IOWN構想を支える光アクセス網も、ビジネスモデルの変化に対応する必要があります。そこで、アクセス系通信網における光ファイバケーブル敷設ルートの設計法である本技術を用いることで、従来の光アクセス網を超える高い信頼性、不確実な光需要にこたえる需要変動耐力、自由度の高い光経路選択性を実現し、さまざまなサービス事業者の多様なニーズにこたえる光ファイバ回線を提供することができます。

運用を抜本的にスマート化する研究開発

設備・運用業務のデジタル化による究極のスマートアクセス実現の取り組みとして、スマートエンジニアリングやスマートメンテナンスの研究開発に取り組んでいます(図3)。
スマートエンジニアリングでは、遠隔光路切替ノード・光分岐技術があります(図3(a))。今後、エリアや心線数の予測が難しい光需要に対しても、迅速・柔軟なサービス提供が求められてきます。そのような需要変動に対応するため、先に紹介した多段ループ配線における上位ループと下位ループの接続点に設置した所外ノードを、所内から遠隔制御にて心線切替するノード技術や、既設光ファイバ心線から任意に分岐する光分岐技術について研究開発を進めており、スピーディなサービス提供の実現をめざします。
また、今後大幅に減少する現場施工者に対する施工負担軽減や安全性向上として電柱把持施工技術にも取り組んでいます(図3(b))。電柱素材、施工条件によらず、損傷・破壊なく、滑らずに把持する把持力制御・把持部構造や把持することで振れ止めの役割を機械に代替することで、安全性の向上や施工負担の軽減をめざします。
スマートメンテナンスでは、設備点検自動化、劣化予測等による業務・効率化として、MMS(Mobile Mapping System)などを用いて取得した画像から、複数のインフラ設備を識別し、それぞれのインフラ設備(道路附属物および柱上設備)に発生している錆などの劣化を検出する画像認識AI(人工知能)技術についても取り組んでいます(図3(c))。本技術は、自社設備点検と同時に他事業者設備の点検を実施可能であり、各事業者が個別に実施していた現地点検業務を共同で行うことによるコスト削減が期待できることから、デジタル情報による社会インフラ全体の効率的な維持管理をめざしていきます。

新ビジネス領域へのアセットを活用した研究開発

NTTの新たな収益源となる新ビジネス領域の開拓に向け、光・無線・線路・土木・オペレーション各分野で培った「運用ノウハウ」「通信設備」「通信技術」の各アセットを活用した研究開発に取り組んでいます(図4)。
運用ノウハウを活用したオペレーション技術では、業務のデザイン、ナビゲーションに向け、操作プロセス分類型業務デザイン支援技術に取り組んでいます(図4(a))。デジタルトランスフォーメーション(DX)には客観性の高い業務分析に基づく現状把握が必要ですが、複雑な業務プロセスの業務分析には専門スキルや膨大な時間が必要となります。そこで、本技術では、作業者のPCログを取得するとともに、分析や可視化においては、操作ログの共起性に着目し、操作手順のゆらぎを吸収しながら類似の作業に自動分類し、シーケンスアライメントにより頻出の操作フローを自動抽出することで、運用ノウハウに基づく業務のデザインを容易化します。また、RPAによる操作自動化シナリオを可視化した操作フローから自動生成する等、実業務への反映により、業務の継続的な進化を図ります。
通信設備を活用した光ファイバ環境モニタリングでは、NTTグループが所有するアセット(既設光ファイバ網)をセンサとして活用し、さまざまな社会サービスに還元可能な高付加価値情報を取得することに取り組んでいます(図4(b))。光ファイバ網が「感じている」振動を高精度光ファイバ振動測定技術により面的にリアルタイム収集し、大量かつ高精度な振動データをIOWNのAPN(All Photonics Net­work)による高速伝送とDCI(Data Centric Infrastructure)のコンピューティングリソースを活用した高度なデータ処理・解釈で環境情報へ変換します。本検討により、既設の光ファイバをセンサ媒体として、異常通信設備の遠隔検知、点検稼働の削減に加え、さまざまな現象を振動データとしてとらえ、それを環境情報として社会課題の解決に役立てることで、通信設備に新たな価値を付与し、光ファイバ網での新ビジネスを創出します。
その他、カーボンニュートラル実現に向け水素エネルギーの利用拡大が有力視されている中、水素を供給地から需要地まで輸送するコストの低廉化が課題となっていますが、既存通信基盤設備を活用した水素輸送の技術についても検討を進めています(図4(c))。

おわりに

IOWNに向けたアクセスネットワークの研究開発の方向性と3本柱の研究開発における主な技術を示しました。今後、IOWN構想具現化により社会システムのさらなる高度化に向け、これまでのアクセスネットワーク技術の研究開発の取り組み強化を推進するとともに、新たな収益源の確保に向け、新ビジネス領域の開拓を推進していきます。

青柳 雄二

ネットワーク機能の高度化、運用のスマート化、アセット活用による新たな価値創出に取り組むことで、IOWN構想の具現化を推進し、ナチュラルでスマートな社会の実現に貢献していきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
企画担当
TEL 029-868-6020
FAX 029-868-6037
E-mail aslab-ml@hco.ntt.co.jp

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