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テクニカルソリューション

ビジネスフォンのトラブル解析を支援するツール──スター配線用αコマンド取得装置の開発

NTT東日本技術協力センタでは、弊社が販売する通信機器の主力商品である、ビジネスフォンαシリーズのボタン電話機のトラブルシューティングのために、機器操作およびディスプレイやランプ表示動作などを可視化するツールを開発してきました。「ビジネスフォン制御コマンド可視化ツール」は、過去から現在に至る、複数の機器配線方式に対応しています。ここでは、ツール開発の歴史と最新の「スター配線用αコマンド取得装置」を紹介します。

ビジネスフォン制御コマンド可視化ツールの歴史

NTT東日本技術協力センタでは、通信回線および通信機器の配線、通信機器等、物理的な取替を行っても回復しない特異故障に対し、原因解析と故障解決に取り組んでいます。特異故障を解決するためには、ヒアリング等の結果から想定した原因個所に対して各種測定器を設置し、その測定結果により被疑個所ならびに原因を特定して対策を行います。ここでは、NTT通信機器の主力商材であるビジネスフォンのトラブルを解析するために開発したビジネスフォンの制御信号であるαコマンドを解析する、ビジネスフォン制御コマンド可視化ツール(αコマンド可視化ツール)を紹介します。
ビジネスフォンは、事業所等で利用され、複数の外線と内線を相互に交換、接続する業務用電話装置です。ビジネスフォンに関するトラブル解析で注意しなければならないのは、「お客さまが手に取って操作する端末機器」であるという点です。故障原因を特定する際に難しいのは「お客さまによる誤操作」の特定です。「お客さまの機器操作」状況はビジネスフォン本体のログに残せない場合がほとんどであるため、ビジネスフォンの操作状況が主装置~電話機間で制御コマンド(αコマンド)として流れることに注目して、αコマンド可視化ツールを開発してきました。
αコマンド可視化ツールは接続形態によって大きく3種類、バス配線・スター配線・LAN配線に分類することができます。バス配線とは図1(a)に示す、主装置に対して複数の機器を一筆書きで描いた1つの幹線(バス)から枝分かれした配線で接続する方式で、1988年に発売された初代ビジネスフォンαシリーズで初めて登場し、そのバス配線上を流れる制御コマンドを解析するツールとして「αバス配線モニタシステム」が開発されました。2005年には市中の方式で主流方式であった、スター配線方式のビジネスフォンαシリーズ導入に伴い、スター配線上で制御コマンドを可視化するツール「αスター配線モニタシステム」が開発されました(1)。スター配線方式とは図1(b)に示す、主装置から各電話機1台1台をそれぞれ1対の配線でつないでいく方式です。さらには主装置側のIP化によりバス、スターと並んでαシリーズのビジネスフォンでもLANケーブルで端末を接続する「LAN配線方式」が導入され、これに伴い「αLAN配線モニタシステム」が開発されました。こちらは従来のバス、スター配線とは異なり、「IPパケット」をキャプチャした「.pcap」形式のデータ(2)の解析が可能です。これまでの歴史の中で制御コマンドを解析するツールは3つの配線方式ごと(バス・スター・LAN配線)に異なるモニタシステムが存在していました。

スター配線用αコマンド取得装置の最新開発

最新のビジネスフォンαシリーズ(SmartNetcommunity αZX)は、システムの外線および内線収容数に応じて「Type H/S/M/L」と4種類のラインアップがあります。この中で「Type L」は主装置内の特定のIP区間をIPパケットキャプチャすることで、すべての端末の制御コマンドを取得することができます。しかし、「Type H/S/M」ではIPパケットキャプチャでは取得できないため、今回最新の開発では、個々のスター配線上で制御コマンドを取得し、それをIPパケットのキャプチャファイル形式に変換することによりType Lと共通して、「αコマンド解析支援ツール」(技術協力センタ開発ソフトウェア)(3)で可視化できるようにしました。
最新の「αスター配線コマンド取得装置」の特徴を紹介します。装置の大きさはコンパクトなD147×W147×H46mmであり電話機の収容スペースに十分収まります。また、機器配線の接続において、従来の電話機コードを用いたモジュラ形式だけでなく、ビジネスフォンの機器配線工事で一般的に使用される2心クイックコネクタも利用可能としました(図2)。さらに、電源はスターユニットからの給電で動作するため、ツール用に個別に電源を用意する必要はありません。これらにより電話機設置場所のスペースを利用することなく、本ツールは主装置直近に設置でき、電源の配線も不要であるため、お客さまの電話機設置環境を大きく変更せずに特異故障の調査が可能となりました。
次にαコマンド解析までの流れを紹介します(図3)。
① 「スター配線用αコマンド取得装置」を該当の電話機のスター配線上に割り入れます。
② 「スター配線用αコマンド取得装置」で取得したαコマンドはシリアル通信により装置背面に接続されたUSBケーブル経由でパソコンに送信されます。パソコン側ではあらかじめインストール済みの市販通信ソフトを利用し、測定中は常時αコマンドを取得してログファイル生成・保存します。
③ 保存したログファイルは、さらに変換ソフトを利用して従来のテキスト形式(.txt)からIPパケットキャプチャデータ形式(.pcap)に変換します。
④ pcapファイルを「αコマンド解析支援ツール」で解析することにより、「電話機のボタン、キー操作を可視化」することができます。
以上により、どのαZXタイプに対しても配線方式を問わずαコマンドが解析が可能となります(図4)。

ビジネスフォン制御コマンド可視化ツールの活用事例

本ツールを活用したトラブル解決事例を紹介します。
あるお客さまの事務所で、ビジネスフォンの更改後に特定の電話機で外線着信に応答し、保留後に別の電話機に転送しようとすると転送できず、再度保留している外線キーを押下して、その応答後に転送操作を繰り返さなければ転送ができないというトラブルが発生しました。この事象解析のため、本ツールと「αコマンド解析支援ツール」を使用して該当の電話機で状況を解析したところ、保留キー押下後にオンフック、オフフックしてから転送先の内線番号を押下していることが分かりました。このような操作を行うと転送準備状態が解除されるため、転送が行われません。正しくは、保留キー押下後に転送先の内線番号を押下していれば正常に転送できたという原因を明確にすることが可能となりました(図5)。
「お客さまの取扱不良」は「ビジネスフォン更改直後」に発生する頻度が高いです。それは上記の事例のように、「更改前後の電話機で操作方法が異なる」ことから発生します。「更改前の電話機の操作」をそのまま更改後のビジネスフォンで行うことに原因があることをお客さまに説明し、正常な操作に改めていただくことで正常な転送が行えるようになりました。
技術協力センタ ネットインタフェース技術担当では、これまで培ってきた通信にかかわるデータの解析手法やスキルを活用して、現場業務の効率化に資するような新たなツール開発を行っています。引き続き現場の課題解決に向けた技術協力活動を推進し、サービス品質向上・通信設備の信頼性向上に貢献していきます。

■参考文献
(1) 技術基礎講座:“ユーザ系特異故障事例の紹介,”Raisers,Vol.67,No.2,pp.28-30,2019.
(2) 技術基礎講座:“「意図しない発信」でワン切りがおこる事象の原因調査,”Raisers,Vol.65,No.6,pp.16-18,2017.
(3) 技術基礎講座:“現場のIP系トラブルに対する技術協力の取組み,”Raisers,Vol.68, No.5,pp.12-14,2020.

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部 技術協力センタ
ネットインタフェース技術担当
TEL 03-5480-3702
E-mail nif-ml@east.ntt.co.jp