グローバルスタンダード最前線
オペレーション標準化団体TM Forumの動向
オペレーションの標準化団体であるTM Forumでは、次世代のBusiness Support System(BSS)/ Operation Support Systems(OSS)のアーキテクチャであるOpen Digital Architecture、AI(人工知能)を活用したネットワークの自律運用(Autonomous Network)、デジタルトランスフォーメーション(DX)の浸透度を図るメトリクス化、デジタル化された組織への変革・各人のスキル要素等に関する検討が近年活発化しています。またさまざまなビジネスシーンを想定したCatalyst(PoC:Proof of Concept)プロジェクトでは、Smart-Xビジネスを題材としたインテントを活用したネットワークの自律運用にTM Forumのアセットを活用した取り組みがさかんに行われています。ここでは、これらの動向について解説します。
堀内 信吾(ほりうち しんご)/田山 健一(たやま けんいち)
NTTアクセスサービスシステム研究所
TM Forumとは
■TM Forumの位置付けとスコープ
TM Forumは、1988年にOSI(Open Systems Interconnection)/NM(Network Management) Forumという非営利団体として発足し、総合運用可能な「情報通信ネットワーク管理」を達成することを目的として活動を続けています。近年では、他産業と連携したネットワークサービスの促進を目的とした活動が進められています。加盟企業は、通信、IT業界における世界のリーディングカンパニーを含めて850社以上となっています。
■テーマとプロジェクト
TM Forumでは、他企業と柔軟な連携を可能にする「デジタルパートナー」への変革を重視しています。この実現のため、TM Forumでは、注力テーマとして「Cloud Native IT & Networks」「AI,Data & Insights」「Autonomous Operations」「Beyond Connectivity」「Customer Experience & Trust,The Human Factor」の6つを設定し、その中で16のプロジェクトに分かれて検討を進めています(図1)。ここでは、NTTが進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)やIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)コグニティブファウンデーション構想の実現に向けかかわりが深くなると考えられる4つのプロジェクトの動向を解説します。また、TM Forumにおける技術実証PoC(Proof of Concept)「Catalystプロジェクト」について解説します。
Open Digital Architecture (ODA)とOpen Digital Framework (ODF)
■ODAの各要素とコンポーネント実装
ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector) M.3400で規定されてきたTMN(Telecommunications Management Network)モデルが、Business Support System(BSS)/ Operation Support System(OSS)のアーキテクチャとして、長きにわたり実システムへの実装が進められてきました。昨今、他のビジネスパートナーとの連携や顧客体験(CX:Customer Experience)の多様化、AI技術などによるオペレーションの抜本的な高度化に対応するためTM ForumではOpen Digital Architecture(ODA)を規定しています。ODAは以下の機能を有します。
・Engagement Management:顧客やオペレータとの接点となる機能部、CXの向上を意識した管理
・Party Management:B2B2Xビジネスモデルでの登場人物や調達パートナーといった関係者との関係を管理
・Core Commerce Management:顧客管理やプロダクト管理、BSS領域に相当
・Production:Networkを含めたEnd to Endでのサービス・リソース管理、OSSの領域に相当
・Intelligence Management:各管理領域でClosed Loopを実現させるためのAI技術などの管理領域
現在各ODAの各領域に必要なコンポーネント定義を進めており、マイクロサービス化が進められています(図2)。
■ODFと既存アセット
現在ODAを実現させるために、ツールやMaturity Modelを活用するフレームワークであるOpen Digital Framework(ODF)の検討が進められています。この中で従来TM Forumで規定してきているビジネスプロセスeTOM、アプリケーションTAM、情報モデルSIDの活用・マッピングの検討が行われています。ODFのシステムを構築する際のBusiness要件としてeTOMが、Information SystemsとしてSIDが、Transformation ToolsとしてTAMの内容がそれぞれ活用されています。
Autonomous Network
■全体アーキテクチャとIntent(意図)
Autonomous Networkはネットワークの自律自動化の運用をめざした検討で、TM Forumの他、3GPP(3rd Generation Partnership Project)、ETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化機構) ZSM(Zero-touch network and Service Management)、ENI(Elastic Network Interface)などとも連携して、実現アーキテクチャやモデル、API(Application Programming Interface)の議論が進められています。全体アーキテクチャでは、ビジネスオペレーションレイヤ、サービスオペレーションレイヤ、リソースオペレーションレイヤに分けて、それぞれの管理レイヤを連携させることでAutonomous Networkの実現をめざしています。また、自動化の実現レベルを定義し、段階的なAutonomous Networkの実現を指向しています。Autonomous Networks LevelsはL0からL5まで規定されており、実行、認知、分析、決定、Intent、応用の各側面で、手動から自動へステップアップする定義となっています(図3)。
Autonomous Networkは、Business、Service、Resourceのレイヤで構成し、レイヤごとにClosed Loopを実現し、個々の管理レイヤを最適なかたちで自動化するとともに、各レイヤのClosed Loopが連携することで全体最適な自律運用をめざすアーキテクチャとなっています(図4)。この中で各レイヤのClosed Loopの目標をIntentとし、Autonomous Networkの各レイヤを連携させるキーとしてIntentを活用する取り組みに注目が集まっています。これらの実現に必要なAPI・情報モデルの議論が活発に行われており、多くの標準化関連ドキュメントの作成が進められています。
■Closed Loop
AI技術を活用したClosed Loopの機構によりAutonomous Networkを実現する参照アーキテクチャなどの議論も行われています。保全フェーズの自動化を、ODAを基に実現させるアーキテクチャであるClosed Loop Anomaly Detection &Resolution Automation (CLADRA)における機能等を、意思決定の枠組みであるObserve – Orient – Decide – ActのOODA構造を基に整理し、いくつかの具体的ユースケースとの対応関係についてTR284 Closed Loop Automation Implementation Architecturesでまとめています(図5)。
■Intent Management API
Intent Management APIはIntent Managerの役割を持つAutonomous Networkを構成するBSS/OSSやOrchestratorなどシステム間でIntentを扱うAPIの検討が進められています。Intent ManagerにはIntentを提供する側のIntent Ownerと、Intentに基づき実行するIntent Handerがあり、Intentの生成、変更、削除だけでなく、Intentのネゴシエーションに必要な以下の機能なども検討されています。
・JUDGE: 正常に処理できるベストなIntentの確認
・PROBE: HandlerがIntent受領後に導出したアクションが複数あり、判断が必要な場合にOwnerに確認
・BEST: Intentの実現可否の確認
Digital Ecosystem ManagementプロジェクトにおけるConnectivity as a Service (CaaS)
■CaaS
ネットワークサービスを利用するユーザが始点と終点やネットワークに求める特性のみを指定してサービス提供を行うサービス形態をConnectivity as a Service(CaaS)と定義しています。ネットワークを利用するユーザはネットワークの途中の経路などについて、具体的な要求を持っていない、または、分からない等のことがあります。ユーザからの要件に対して、提供可能なサービスを組み合わせて提供することによりCaaSを実現します。この実現に向けたAPIの検討が進められており、2023年度中にAPI要件をまとめたドキュメントを制定する予定です。
■Intentの適用
CaaSではユーザの曖昧な要件を含むオーダ内容から、具体的なサービスを導出することが求められます。Intent Management APIで検討されているIntentの要素を取り入れ、IntentをNetwork Sliceなどの提供条件として適用するための検討が行われています。NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)では、ユーザやオペレータとの対話からIntentを抽出し、ネットワークサービスへ反映する技術を検討しており、ユースケースや技術要件などをCaaS API(Intent Management API)として標準化する取り組みを行っています。
Human Factor関連議論
■Digital Organizational Transformation (DOT)
DXが進む中で、組織やオペレータの文化およびスキルを継続的に進化可能な形態にする検討が行われているのが、DOTプロジェクトです。本プロジェクトでは、Digital Maturity Model (DMM)やCustomer Experience Management(CEM)などの要素も考慮し検討が進められています。
DMMは、もともと通信事業者などのDX化がどの程度成熟しているかを客観評価するための指標であり、この考え方を参考にデジタル文化の成熟度のCulture Management、Strategic Alignment、Collaboration、Inclusion & Diversity、Digital Skills & Enablementなどの観点から指標化を進めています。CEMは従来顧客が通信サービスを認知・利用し、最終的に解約するまでの各フェーズと顧客にアプローチするチャネルなどを意識した分析が行われています。DOTでは、「Set up for success」「Frame the transformation」「Execute transformation program」「Transforming work,organization,skills & culture」をデジタル文化の変革に必要なフェーズととらえ、各フェーズでEnablerとなるStrategic LeadershipやOrganizational Modellingなどを整理してきています。
これらの整理を基に、Digital Organizational Transformation Culture and Skills Guidebookでは、デジタル文化について分析し、文化を変え続けていくために、イニシエーション、実現、持続、反復学習のアプローチから成り立っていることが示されています。
Catalyst(技術実証PoC)
■Catalystプロジェクト
Catalystは、TM Forumにおける技術実証を行うPoCのことを指し、通信事業者と3社以上のベンダでチームを構成し、Digital Transformation World(欧州イベント)やDigital Transformation World Asia(アジアイベント)などで展示を行います。このPoCを通じて技術要件への賛同者を増やし、また標準化ドキュメントへの要件反映においてその実現性・実用性を裏付けるものとなります。
■Catalystの動向
今年度はSmart X実現を題材とし、メタバース、デジタルツインなどを利用したものや、AIのガバナンスとしてAIのアルゴリズムに対する倫理感を扱ったCatalystなどが注目を集めています。
■Catalyst例:Autonomous networks hyperloops
AS研では、Orange、中華電信、Verizon、TIM、Beyond Now、Futurewei、UBiqube、そしてNTTの各社で構成するAutonomous networks hyperloopsというCatalystに参加しています(図6)。2023年度に4期目を迎え、3期目ではSmart Stadiumにおけるイベント主催者やイベント参加者のIntentに基づきさまざまなサービス提供シナリオを題材にPoC実証を進めてきました。4期目はIntentのほかに、ミッションクリティカルな状況下における要件を加えてシナリオの検討を開始しています。私たちのチームは2023年3月に開催されたDigital Transformation World Asia2023においてOutstanding Showcase Awardを受賞しました。