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テクニカルソリューション

光ファイバケーブル予防保全に向けた光損失予測ツール

光ファイバケーブルは、経年劣化により敷設後しばらく経過してから伝送損失が増加することがあります。進みゆく経年劣化に対して通信の品質を維持するためには、定期的な光試験により状態を把握するとともに、必要な設備更改を計画的に行っていくことが重要です。そこで設備更改の計画性向上に向けて、光定期試験データの解析により光ファイバケーブルの損失変化を予測するツールを開発しました。ここでは、その概要と機能等について紹介します。

開発の背景

光ファイバケーブルは、情報通信サービスのみならずさまざまな社会活動を支える社会基盤として全国各地に敷設されており、多様な敷設環境の影響を受けます。例えば、地下区間のような多湿環境に長期間さらされると、図1のように光ファイバ被覆の内部に水泡が形成されることがあります。このような光ファイバでは、目に見えない小さな曲げ(マイクロベンディング)が連続的に加わることで、通常よりも大きな伝送損失が生じます。局所的には小さな損失であっても、数百m~数Kmにわたってマイクロベンディングが発生すると、サービス提供に影響を及ぼすほど伝送損失が増加することがあります。光ファイバ伝送路を正常な状態に維持するためには、定期的に試験を行い伝送損失の状態を把握するとともに、必要な設備更改等の対処を計画的に行うことが重要です。
NTT東日本グループでは、東日本管内の光ファイバケーブルを対象にOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)による光定期試験を毎月実施して光ファイバケーブルの正常性を確認しています。OTDRは、試験光を光ファイバに入射し、後方に伝搬する散乱光や反射光の強度を光ファイバケーブルの距離に沿って検出する測定法です(1)。OTDRによる測定波形の一例を図2に示します。経年劣化等により伝送損失が大きくなったケーブル区間では、図2赤枠部のように距離に対する波形の傾きが大きくなります。このようにOTDR波形を参照することで、光定期試験では測定したその時点における異常の有無を確認することができます。しかし、異常が発覚し光ファイバケーブルを更改する必要がある場合、設計から構築完了まで数カ月~1年程度の期間を要するため、その間の空き心線の確保が困難になる場合があります。進みゆく経年劣化に対して通信品質を保ちながら需要にこたえていくためには、ケーブル更改等の必要な対処を事前に行うことが重要です。
これまでNTT東日本技術協力センタでは、蓄積された光定期試験データを活用することで、伝送損失の異常を事前に把握できるデータ解析ツールを開発してきました(2)。本稿では、本ツールの最新版となる「光損失予測ツール1.1」について紹介します。

光損失予測ツールの概要

「光損失予測ツール1.1」の概要を図3に示します。本ツールには、主要な機能として「伝送損失の時系列解析」、「将来の伝送損失値の予測」および「伝送損失分布の最新状態の自動解析」があります。以下ではこれらの機能について解説します。

① 伝送損失の時系列解析
本ツールの1番目の機能は、光ファイバケーブルの任意の距離区間における伝送損失の時系列変化を可視化する機能です。はじめに、蓄積された光定期試験データが格納されたフォルダを本ツールで指定すると、指定フォルダ内のすべてのデータが一括で読み込まれます。ここで読み込まれる光定期試験データは、OTDRで測定された後方散乱光強度と距離情報のほか、測定日等の情報も含まれています。次に、解析したい距離区間を指定することで、読み込まれた光定期試験データすべてに対して、指定した区間の距離情報と後方散乱光強度を突合し、伝送損失を自動で解析します。解析された伝送損失値は各光定期試験データ内の記録された測定日情報と対応付けられ、図4に示すように、測定日順に並べてグラフ表示されます。このように伝送損失の時系列変化がグラフで可視化されることにより、指定した区間の伝送損失の劣化傾向を把握することができます。

② 将来の伝送損失値の予測
本ツールの2番目の機能は、任意のケーブル区間における伝送損失の将来予測値を出力する機能です。本機能では、①の解析により算出された実測値を学習データとして用いて回帰分析を行い、得られた回帰直線を任意の予測したい日付まで外挿することで、将来の伝送損失の予測値を算出します。このとき伝送損失の予測値だけでなく、予測誤差の推定値も同時に算出されます。ここでの予測誤差は、指定した信頼度の値(予測値が誤差範囲以内に収まる確率)と予測対象時期に基づいて自動で推定されます。伝送損失の予測値と予測誤差は、最終測定日から予測対象時期まで1カ月ごとの値が算出され、図5に示すように一覧表で参照することができます。本機能により、将来の伝送損失の予測値と誤差範囲を定量的に把握することが可能になり、ケーブル更改の計画策定に役立てることができます。

③ 伝送損失分布の最新状態の自動解析
①および②の機能は旧版の「光損失予測ツール1.0」でも実現できていましたが(2)、解析対象の距離区間を指定する際、ツール利用者がOTDR波形から後方散乱強度の推移を見て目視で異常被疑区間を判断する必要があったため、利用者に一定以上の経験やスキルが要求されていました。そこで最新版の「光損失予測ツール1.1」では、距離に対する伝送損失分布の最新状態を簡単に把握できる機能を追加しました。本機能では、光定期試験データの中から最新の測定データを抽出し、図6左側~中央のように一定距離区間ごとの伝送損失を自動解析します。このとき、伝送損失の解析誤りを防ぐために接続損失や反射が含まれる区間は解析対象から自動で除外されます。解析された各距離区間の伝送損失は、図6右側のように一覧表で参照することができます。本機能によって、利用者はOTDR波形解析スキルを必要とせずに、一覧表の伝送損失値を見て異常被疑区間を簡単に見つけることができます。

今後の展望

ここでは、光ファイバケーブルの将来の損失を予測するツールについて紹介しました。本ツールを用いることで、経年劣化による伝送損失増加に起因する故障に備えた計画的な設備更改に貢献できると考えています。今後はNTT東日本・西日本の関連部署と協議を行いながら、要望に応じてさらなるツール改良を進めていきます。
NTT東日本技術協力センタでは、長きにわたって技術協力活動を行ってきました。引き続き全国の現場で生じる難解な故障の解決に向けた技術支援を行いながら、技術支援で得たノウハウや知見等を蓄積・活用し、現場の技術力向上や効率化に貢献するようなツール等の開発を行っていきます。

■参考文献
(1) テクニカルソリューション:“光ファイバ故障時における探索方法,”NTT技術ジャーナル、Vol.18,No.10,pp.53-54,2006.
(2) 技術基礎講座:“光損失予測ツール1.0 ~光ファイバケーブル予防保全の実現に向けて~,”Raisers,Vol.71, No.4, pp.18-20,2023.

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