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特集2

5G SA方式におけるコアネットワーク技術概要と無線基地局装置の開発

5G SA方式に対応した無線基地局装置の開発

NTTドコモは、2020年3月にNSA(Non-Standalone)方式で5G(第5世代移動通信システム)商用サービスを開始し、さらに5G専用のコアネットワーク設備である5GC(5G Core network)と5G無線基地局を組み合わせた「5G SA(Standalone)方式」を2021年12月に商用サービスを開始しました。本稿では、5G SA方式の商用サービスを提供するために実施した5G無線基地局装置の開発内容について解説します。

齊藤 敬佑(さいとう けいすけ)/長嶋 嶺(ながしま れい)
星﨑 祐哉(ほしざき ゆうや)/宇野 暢一(うの のぶかず)
NTTドコモ

まえがき

NTTドコモは、2020年3月に4G(第4世代移動通信システム)/5G(第5世代移動通信システム)の無線装置と4Gのコアネットワーク装置を連携したNSA(Non-Standalone)方式により、5Gサービスの提供を開始しました。NSA方式では、需要の高いエリアなどを中心に、5Gの特長の1つである「高速・大容量」のサービス展開を行ってきました。「高速・大容量」に加え、その後さらに「高信頼・低遅延」「多数端末同時接続」にも対応したネットワークサービスを提供するため、5G SA(Standalone)*1方式の商用サービスの提供を2021年12月から開始しました。本5G SA方式の導入に伴い、ネットワークスライシングによるアプリケーションを意識した柔軟なサービス提供、MEC(Mobile Edge Computing)*2による低遅延サービスの提供などにより新たな産業創出を実現していきます。
本稿では、5G SA方式のシステム構成、「高速・大容量」に寄与する機能、呼処理制御機能、「安心・安全」を実現するためのアクセス規制機能について解説します。

*1 SA:スタンドアローン方式。端末が単独の無線技術を用いて移動通信網に接続する形態。
*2 MEC:移動通信網において、ユーザにより近い位置にサーバやストレージを配備する仕組み。低遅延により、リアルタイム性の高いサービス提供が可能となります。

SAシステム構成

5G SAサービスを実現するRAN(Radio Access Network)*3システムの構成について解説します。
2021年12月よりNTTドコモは、SA方式に対応した5G商用サービスを法人顧客ユーザ向けに導入し、さらに2022年8月にコンシューマユーザ向けに高速化や音声対応などの機能を追加しました。NTTドコモでは、SA方式として無線装置gNB(next generation NodeB)とSA方式専用のコアネットワーク(5GC:5G Core network*4)のみでサービス提供をするネットワーク構成(Option2アーキテクチャ)を採用しています。Option2アーキテクチャなどのネットワークアーキテクチャに関する技術的な概要は、文献(1)をご参照ください。
図1に示すように、NTTドコモで採用しているgNB - gNB間はXnインタフェースを用いて接続し、gNB - 5GC間はNGインタフェースを用いて接続します。
図1では、SA方式の構成図を解説するため、便宜上SA方式に関する記載のみとしていますが、実際のNTTドコモ商用ネットワーク運用では、1つのgNB装置にてNSA方式とSA方式の双方を運用するため、実運用を踏まえた5Gネットワーク構成は図2となります。なお、gNB装置でのSA機能対応にあたっては、新規ハードウェア導入は不要であり、ソフトウェアアップデートのみで対応可能です。

*3 RAN:コアネットワークと移動端末の間に位置する、無線レイヤの制御を行う基地局などで構成されるネットワーク。
*4 5GC:5Gのアクセス技術向けに3GPPで規定された第5世代のコアネットワーク。

「高速・大容量」に寄与する機能の導入

スマートフォン対応5G SA方式のサービス開始に伴い、NTTドコモでは「高速・大容量」に寄与する機能を併せて導入することで、高速・大容量化を実現しました(表)。以下では、導入した主な3つの機能に関して解説します。なお、今後はNSA方式と比較してSA方式の拡張に、より注力する方針の下、タイムリーに「高速・大容量化」関連機能を開発・導入することで、モバイルネットワークのいち早い高度化、ならびにお客さま体感の向上につなげていきます。

■3.7GHz帯・4.5GHz帯と、28GHz帯のAggregation(NR - DC方式への対応)

5G NSA方式では、LTE(Long Term Evolution)運用の周波数と、NR(New Radio)運用の周波数をDC(Dual Connectivity)にて組み合わせるEN-DC(EUTRA-New Radio DC)*5により、LTE/LTE-Advancedと比較して高速・大容量化を実現し、これにより、3.7GHz帯と4.5GHz帯との組合せで下り最大4.2Gbit/s、28GHz帯の使用で上り最大480Mbit/s(LTEとNRの合計)のサービスを提供しています(スマートフォン対応5G SA方式サービス開始前時点)。NTTドコモは2022年8月のスマートフォン対応5G SA方式サービスの開始にあたり、SAサービスにおける高速・大容量通信を実現するため、3.7GHz帯もしくは4.5GHz帯と、28GHz帯を束ねて同時通信を実現する技術として、NR-DC*6を世界で初めて商用ネットワークに導入しました(図3)。NR-DCの導入により、3.7GHz帯および4.5GHz帯で100MHz幅、28GHz帯で400MHzを組み合わせた最大500MHz幅の広帯域通信を実現し、ピークレート向上および大容量化を実現しています。

*5 EN-DC:NRノンスタンドアローン運用のためのアーキテクチャ。LTEとNRをDCにより束ねて同時通信を実現します。
*6 NR-DC:MN(Master Node)とSN(Sec­ond­ary Node)が2つのNR基地局に接続し、それらの基地局でサポートされる複数のキャリアを用いて同時に送受信を行うことにより、高速伝送を実現する技術。

■上りリンクMIMO方式の拡張(2×2 UL MIMO)

上り通信に用いるPUSCH(Physical Uplink Shared CHannel)に関して、NSA方式では3.7GHz帯および4.5GHz帯におけるレイヤ数は最大1レイヤでした〔LTE:1レイヤ、NR(3.7GHz帯および4.5GHz帯):1レイヤ〕。SA方式では上りリンクの高速化を目的に3.7GHz帯および4.5GHz帯において最大2レイヤの2×2 UL(UpLink) MIMO(Multiple Input Multiple Output)を新たに導入します。
本機能の導入により、3.7GHz帯および4.5GHz帯における上り通信のピークスループットが2倍に向上し、周波数利用効率*7も向上します。上り通信の高速化により、動画のアップロードなど、近年ニーズが高まっている上り通信のユーザ体感の向上が期待されます。

*7 周波数利用効率:単位時間、単位周波数帯域当りに送ることのできる情報ビット数。

■下りリンク変調方式の拡張(256QAM)

下り通信に用いるPDSCH(Physical Downlink Shared CHannel)*8の変調方式に関して、28GHz帯において従来は最大64QAM(Quadrature Ampli-tude Modulation)の適用でした。3GPP(Third Generation Partnership Project)Release -16仕様で、28GHz帯の下りリンク256QAMに関する性能が新たに規定されたことを受け、NTTドコモでは5G SA方式の導入に合わせて本変調方式を導入しました。
256QAMの適用によって1サブキャリア当り最大8ビットを送信することが可能となり、従来の64QAM(1サブキャリア当り最大6ビット送信)と比較して約1.3倍のピークレート向上を実現します。

*8 PDSCH:下りリンクでデータパケットを送受信するために用いる物理チャネル。

5G SAシステムでの呼処理制御の導入

NSAシステムでは、LTEバンドがアンカーとなる方式であるのに対し、5G SAシステムでは、NRバンドをアンカーとして、サービスを提供します。
NRをアンカーバンドとするため、gNBで端末・コアノードとの制御信号でのやり取りを行い、これにより待受けやハンドオーバなどのモビリティや音声、ネットワークスライシングなどの呼処理制御(Call Processing)を実施します。
以下では、スマートフォン対応5G SA方式サービスの開始で導入した呼処理制御機能のうち、主な機能に関して解説します。

■モビリティ

(1) 待受け制御
5G SAシステムは、待受け状態の端末に対して、接続手順に必要となるシステム報知情報*9の配信、着信時のページング配信、優先待受けシステムの指定を行い、待受け状態の端末を管理しています。
•システム報知情報配信:5G SAシステムは、LTE同様に端末がセルへの接続手順に必要となるシステム情報などの報知情報〔MIB(Master Information Block)*10/ SIB(System Information Block)*11〕の配信に対応します。また、LTEシステム側でも、SIB24での周辺5G SAセル情報の配信に対応します。
•ページング配信:5G SAシステムは、LTE同様に、着信時に5G SA待受け中の端末を呼び出すページング配信に対応します。
•優先待受けシステムの指定:5G SAシステムは、LTE同様に端末の優先待受けRAT(Radio Access Technology)を指定でき、5G SAシステム優先かLTEシステム優先かを指定する制御に対応します。また、LTEシステムでも、5G SAシステムのエリアの広さや端末の能力や契約情報に基づいて、端末ごとに待受けRATを制御することに対応します。
(2) ハンドオーバ制御
5G SAシステムは、5G SAシステム内でのハンドオーバ(Intra-RATハンドオーバ)と5G SAとLTEのシステム間でのハンドオーバ(Inter-RATハンドオーバ)に対応し、端末の移動に伴うエリア品質の変化が要因の通信断を回避することで、ユーザビリティの向上を図っています。
(3) 再接続制御
5G SAシステムは、LTE同様に端末のセル品質劣化検出やハンドオーバ失敗を契機とした再接続制御に対応することで、早期の通信断の回復を実現します。

*9 報知情報:移動端末における位置登録要否の判断に必要となる位置登録エリア番号、周辺セル情報とそのセルへ在圏するための電波品質などの情報、および発信規制制御を行うための情報などを含み、セルごとに一斉同報されます。
*10 MIB:無線基地局から移動端末へ一斉同報される報知情報を受信するために必要な報知情報であり、cellBarred状態情報や物理層の情報などが含まれます。
*11 SIB:無線基地局から移動端末へ一斉同報される報知情報は、無線ブロックに分割されており、そのブロック単位を示します。SIBのうちSIB1には、ランダムアクセスを行うために必要なULキャリア情報やランダムアクセス信号構成情報などが含まれます。

■その他の呼制御

(1) 音声制御
5G SAサービス開始初期においては、5G SAシステムは音声機能に非対応のため、LTEシステムが音声サービスを提供します。5G SAで待受け、もしくは通信中の端末に音声サービスを提供する際は、LTE回線交換システムへのEPS(Evolved Packet System)フォールバック*12のためのLTEへのリダイレクション*13を行い、LTEシステムで音声サービスの提供を行います。
(2) ネットワークスライシング制御
5G SAシステムは、単一のネットワークを異なるサービス要求条件に応じた複数のスライスに分ける、ネットワークスライシング制御に対応します。
(3) LTE同等機能への対応
5G SAシステムは、その他、既存LTEシステムと同等の制御を実現可能とするため、次のような処理を可能とする手順、メッセージもサポートされています。
•緊急地震速報配信
•NAS(Non-Access Stratum)メッセージ転送
•RRC(Radio Resource Control)コネクション管理
•無線ベアラ管理
•無線セキュリティ設定
•測定項目設定、報告制御
•対向ノード間のNG/Xnリンク管理

*12 フォールバック:音声発着信時に移動端末を5G SAシステムから、それと重なって存在するLTEシステム回線交換ドメインに切り替える機能。
*13 リダイレクション:端末とネットワーク間の通信を一度切断し端末を待受け状態としたあと、端末からの再接続要求信号により接続した通信セル・基地局において通信を再開する通信技術。

「安心・安全」を実現するためのアクセス規制機能の導入

スマートフォン対応5G SA方式サービスにおいて、NTTドコモでは「安心・安全」を実現するためのNRのアクセス規制機能を導入します。以下ではNRのアクセス規制機能の導入目的および機能概要について解説します。

■背景・目的

高速・大容量時代の移動通信システムにおいて、さまざまな環境下でも安定したサービスを維持するうえで、通信トラフィック・輻輳制御の重要性は極めて高いものです。
5G SAシステムでは、無線区間における端末からの接続要求信号を規制し、緊急呼などの重要通信の接続性を確保しつつネットワーク装置を保全するためのトラフィック制御技術を採用・実装しています。また、遠隔監視作業者によるネットワークコントロール*14実現の一手段としての手動アクセス規制や、装置負荷軽減を目的とした自動アクセス規制・段階規制制御解除機能を具備しています。

*14 ネットワークコントロール:災害時などにおいて通信設備の処理能力を大幅に上回る通信の集中によりネットワーク障害を引き起こすおそれのある場合に、重要通信の確保を目的に、ネットワーク側で通信を制限すること。

■主な特徴

NRの規制では、保守者がオペレーションにより手動で規制の実施・解除を行う機能と、gNBが装置負荷状況をかんがみ、自動で規制の実施・解除を行う機能を有します。また、規制の実施状態が変化した場合は、gNBからオペレーションシステムへ随時最新の状態が通知され、保守者がリアルタイムでgNBの規制状態を監視可能な機能を有します。
規制機能としては大きく「アクセス不可規制」「工事中規制」「UAC規制」「段階規制解除」の4つが存在します。
(1) アクセス不可規制
アクセス不可規制では、主に装置や回線の故障によりSAサービスが提供できなくなった場合に、すべての端末からのアクセスを自動で規制します。実現手段として、報知情報(MIB)のcellBarredをbarredとすることでアクセス不可規制としています。
(2) 工事中規制
工事中規制を実施することで、サービス開始前などに、保守用の端末などの特定呼のみアクセス可能とすることができます。
実現手段として、報知情報(SIB1)のcellReserved-ForOperatorUseをReservedとすることで工事中規制としています。
(3) UAC(Unified Access Control)規制
NRでは、LTEにおいて複数存在していたアクセス規制方式を統一したUAC規制を新たに実装しました。UACでは端末における各種通信要求は1つのAccess Categoryと1つ以上のAccess Identityにマッピングされ、gNBはこの組合せごとに規制が可能となります。
呼種別はAccess CategoryとAccess Identityに分類され、音声通話・データなどのサービス種別単位を規制対象として指定することができます。保守者は装置の負荷状況やトラフィックの変化を監視し、UAC規制を手動で実施することができます。また、装置自律でのUAC規制機能も有し、gNBもしくは上位ノードが過負荷状態となり輻輳と判断された場合に、gNB自身と、上位ノードから通知された上位ノードの過負荷状態の両者を考慮し、gNBは自動で適切な呼種別、規制率でUAC規制を実施します。輻輳状態の判定については、パラメータ変更によって柔軟にチューニングすることができます。NRでは、規制率の変更に加え、装置ごとの過負荷状態の判定ロジックの実装により、装置の特性に合わせた規制が可能となっています。
実現手段としては、報知情報(SIB1)のbarringInfoSetの設定内容を更新することでUAC規制としています。
(4) 段階規制解除
装置や回線の復旧時に、一気に呼が流入することによるgNBと上位ノードへの大量アクセスを防ぐため、自動で段階的に規制率を下げていき、呼を徐々に入れていく機能を有します。

あとがき

本稿では、5G SA方式の商用サービス提供を行うための無線基地局装置について解説しました。今後もタイムリーに機能拡張を実施し、5Gの特長を活かしたサービスをさまざまなパートナーと協創することで、豊かな社会の実現に貢献していきます。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30 No.4、2023年1月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1)  寒河江・澤向・大渡・清嶋・神原・高橋:“5Gネットワーク,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.28,No.2, pp.24-38,July 2020.

(左から)齊藤 敬佑/長嶋 嶺/星﨑 祐哉/宇野 暢一

5G SA方式を実現する5G無線基地局装置の開発内容を紹介しました。引き続きネットワークの高機能化に取り組み、新たな価値提供・新たな産業創出をめざします。

問い合わせ先

NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com