For the Future
期待と失望が渦巻くメタバース、最前線を「温故知新」で読み解く─前編─
旧Facebookが2021年にMeta Platforms(Meta)に社名を変えて一気に注目が集まった「メタバース」。同分野に年間1兆円もの巨費をつぎ込んだMetaは、投資に見合う成果が乏しく、便乗して参入した多くの企業も依然ビジネスモデルやユースケースは手探りの状態です。各社は総じて集客に苦戦し、メタバース事業の9割以上は失敗しているとの報告もあります。ただ、「9割以上が失敗」の裏には「1割に満たない成功例」があり、メタバース普及のカギもそこに隠れているかもしれません。本稿では前後編2回にわたりメタバースビジネスの最前線に迫ります。
原点はSF小説
FacebookがMeta Platforms(Meta)に社名を変更した2021年10月、メタバースの知名度は一気に高まり、雪崩を打ったように多くの企業が新規参入を果たしました。その現象が顕著となった2022年は「メタバース元年」と表現されるほどです(1)。
そもそもメタバースとは何でしょうか。本稿では、一般的な「インターネット上の3D仮想空間」と定義して論を進めます。1992年刊行のSF小説『スノウ・クラッシュ』で初めてメタバースの世界観が示されたとされます。メタバース元年の2022年には『スノウ・クラッシュ』が「メタバースの原典」として復刊(2)、人気を博したほか、メタバース関連書が相次いで出て飛ぶように売れていきました(表1)。
一躍有望市場にのし上がったメタバース領域は、足元の2022年で447億ドル、2030年にはその10倍超の4904億ドルまで拡大すると見込まれます(図1)。他のシンクタンクやコンサルティングファーム、投資銀行もこぞってメタバースの市場を展望し、総じて右肩上がりの明るい未来を予測しています。
特にデバイスの進化は目を見張るものがあり、軽量化と低価格を背景に普及が一段と進むとみられます。Statistaの調査によると、2010年代はせいぜい100億ドルだったAR(拡張現実)・VR(仮想現実)市場は、2027年までに520億ドルまで拡大すると期待されます(図2)。AR、VRともに伸び、特にVRデバイス(Hardware)が約200億ドルの市場へと成長すると見込まれています。
期待から幻滅へ
ただ、現在、その高揚感とは裏腹に、期待は失望、幻滅へと変わりつつあります。
鳴り物入りで投入されたMetaの「Horizon Worlds」は、MetaのVRヘッドセット「Meta Quest 2」を装着して興じるメタバースサービスです。アバターを通じて他の参加者との意思疎通やゲームを楽しめる空間です。しかし、Metaの思惑は外れ、当初50万人をめざしていたユーザ数は30万人ほどにとどまり、目標値を下方修正しました。2022年12月期の赤字決算に加え、大量の人員削減の発表で、メタバースに注力するMetaへの風当たりは相当に厳しいものとなっています。
Metaの苦境を見透かしたかのように、米調査会社Gartner「ハイプ・サイクル」には、メタバースの厳しい将来展望が映し出されています。ハイプ・サイクルは、テクノロジとアプリケーションの成熟度と採用状況や課題、潜在性などを図示したもので、毎年公表されています。
「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」の2022年版でメタバースを「過度な期待のピーク期」としていたのに対し、2023年版では「幻滅期」に入ったと位置付けられています(3)~(6)(図3)。
背景には高過ぎる期待があったかもしれません。
このMetaがメタバース傾注をぶち上げた2021年は、新型コロナウイルス感染症が依然蔓延し、世界中でリモートワークが常態化していた時期でした。Metaはその傾向が続くとの目論見のもと、非接触、非対面での会議や講演、企業訪問といったビジネスシーン、あるいは教育分野で、メタバースがデフォルト(標準)になる未来を描きました。コロナ禍に伴うリモートワークの継続、対面回避のトレンドに過度に期待していた節が見受けられます。
しかし思惑は外れてしまいます。コロナ禍が終息するにつれ、多くの企業で勤務形態をリモートワークから出社に戻す動きが出始め、会議も対面に切り替わるなど、メタバースの活用機会自体が減りつつあります。
加えて、メタバース空間の経済圏で活用が期待されていたNFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)などの新技術が、一時期の熱狂から一転、鳴りを潜めてしまったことも、メタバースビジネスに冷や水を浴びせている格好です。
米オンラインメディアBusiness Insider(BI)は2023年6月の記事で(7)、Metaの創業者、マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が社名変更に合わせて「華やかで欺瞞に満ちたプロモーションビデオで、人々が仮想世界でシームレスに交流できるようになる未来を描いた」とし、「(同氏の)大言壮語のせいで、人々はメタバースに大いに期待を抱くようになった」と非難しています。
VRとAR技術を開発するMetaの専門組織「Reality Labs」の 2021年通年の損失は、101億ドル、すなわち1兆円を超えています(8)。「大言壮語」のつけが回ったにしてはあまりに巨額です。
BIの記事は「Horizon Worldsは、このうえなく不便なOculusヘッドセットを装着しなければならない代物」「なぜ出来の悪いキャラのコンサートに参加するために不格好なヘッドセットをつけたがるのか」とこき下ろしてもいました。確かにヘッドセットの重さというデバイスの難点は各所でたびたび指摘され、その軽量化と低価格化がメタバース普及のための課題となっています。
ただ、メタバースが今一つ盛り上がらない大きな理由は別にありました。
歴史は繰り返す
・ネット仮想都市 “顧客”取り込め 国内企業が相次ぎ出店 現実社会での消費狙う
・中国が「国営仮想世界」
・企業が群がる仮想空間はバブルか、新しい現実か
・ネット「仮想空間」に大使館の開設続く
これらはいつごろの記事かお分かりでしょうか。実はすべて2007年のものです(上から順に「2007.10.24 岩手日報」「2007.10.18 産経新聞」「2007.07.24 週刊エコノミスト」「2007.05.31 NHKニュース」)。見出しから、メタバースに絡んだ最近の記事だと見まがっても無理はありません。
メタバースが今一つ盛り上がらない理由、それは2000年代に一世を風靡した「セカンドライフ(Second Life)」をめぐる栄光と失望の教訓の中に見出すことができるかもしれません。
Second Lifeは米ベンチャーLinden Labが2003年に開発した仮想空間で、その世界に住むResident(住人)はユーザの好みの装いをしたアバターを通じて交流し、会話を楽しんだり、独自の「Linden Dollar」を介して売買したり、はたまた人間拡張よろしく空を飛ぶこともできました(図4)。
先に紹介した記事の見出しのとおり、国内外の名立たる企業や自治体が仮想空間に進出し、訴求や集客に励みました。2007年7月には日本版が利用できるようになり、トヨタ自動車やNTTドコモ、富士通、野村證券、三越、テレビ東京といった大企業がこぞって参画しました。
最盛期には世界で1000万人を超える登録ユーザがいたとされ(9)、仮想空間内に東京タワーが建てられ、大使館の開設が相次ぐなど、現実と仮想の境目が揺らぎ、双方の行き来が増え始めていました。Second Lifeブームを背景に、総務省も2009年に「ICT利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)」として、「遠隔地教育での履修認定に向けた、仮想空間内での教育/試験実証実験」としてメタバースの活用を試みていました。メタバースが国内で公に言及された最初期の事例といえます(10)。
こうした未体験ゾーンに乗り遅れまい、ブルーオーシャンに漕ぎ出そうと、Second Lifeに参入した日本の企業や団体は上陸して間もない2007年7月20日時点で85に上ったといわれています(11)。翻って現状は、単純比較はできませんが、日本経済新聞が手掛ける業界分析ツール「NIKKEI COMPASS」の1カテゴリ「メタバース」に登録されている企業は55社です(12)(2023年11月1日現在)。
Second Lifeが全盛を誇っていた2007年当時、仮想空間の経済圏はバラ色の未来が描かれ、「2008 年末には、総加入者数は全世界で2億5000万人に迫り、仮想通貨の年 間総取引量は 1.25 兆円相当に達する可能性がある」との試算もなされたほどでした(13)。
しかし、その後、
・セカンドライフ 利用の難しさが壁に(2008.2.11 週刊エコノミスト別冊)
・仮想空間におけるプライバシー(2008.02.27 FujiSankei Business i)
といった批判的な論調の記事が目立つようになり、Second Lifeを取り巻く熱は急速に冷え込んでいきました。
要因としては、ユーザが集まって盛り上がれるイベントの少なさなど複数挙げられますが、最大の原因はPCの動作環境に左右されるスペックの不安定さでした。バグや接続制限、ダウンが頻発するようになり、ユーザの不満足へとつながっていきました。次第にユーザの足は遠のき、2009年までにはSecond Lifeに進出、出店した企業のエリアは閑古鳥が鳴くようなわびしい状況となっていきます。
加えて、新興のオンラインコミュニティの台頭がSecond Lifeの話題とユーザを奪い取っていきました。その新興勢力こそ、当時登場して間もなかったFacebook(現Meta)でした。
一時は2億人超えも夢ではないとされたSecond Lifeのユーザ数は、2020年代の現在60万人にまで減少し、青息吐息となっています。ただ、それでもいまだに存続していることにはある種の驚異の念をもって現代人に受け止められています。
失敗や失望も多かったSecond Lifeですが、デジタル空間におけるもう1人の自分、分身としてのアバター、Linden Dollarという換金性のある独自通貨など、今のメタバースの世界観に綿々と連なる原型は20年近く前に確かに芽吹き、それは確かに“メタバース”であり、今もなお脈々と息づいています。
Second Lifeが失速した最大の要因だったPCのスペックという問題点も格段に改善した現代、さまざまな教訓を今に伝えてくれているSecond Lifeの功績は、決して過小評価されるべきではないでしょう。
生成AIとの融合
図3の2023年版のハイプ・サイクルで幻滅期に堕ちたメタバースですが、その先を行くのが人工知能(AI)で「啓発期」に入ったとされます。さらに今を時めく「生成AI」は「過度な期待」のピーク期にあり、2022年版の「メタバース」とほぼ同じ位置に据えられています。
このハイプ・サイクルが同様の道を辿るとすれば、来年2024年版には生成AIもまた、「幻滅期」に甘んじているかもしれません。ただ、注目すべきは、「主流の採用までに要する年数」がメタバースは「10年以上」かかるとされていたのに対し、生成AIは「2~5年」と短く見積もられています。ここに両テクノロジに対する期待度の違いが表れているともいえるでしょう。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、今やさまざまなビジネスや教育、私生活に入り込み、あらゆる産業を根底から覆すほどの破壊力とスピードをもって世界中に広まっています。「プロンプト」と呼ばれる質問や依頼の文章を打ち込むことにより、膨大なデータを事前に学習したAIがその蓄積を駆使し、新たなコンテンツを生み出す仕組みです。
生成対象は文章や画像、動画、音声など多岐にわたり、メタバースに欠かせない3Dモデルさえ出力できます。さらにはメタバースそれ自体をも生成するサービスまで登場しています。
■「メタバース×生成AI」
多くの企業が生成AIの活用を模索する中、メタバース分野での応用も始まっています。
2023年5月に生成AI専門の「Generative AIセンター」を新設した日立製作所は、メタバースで電車の運転席を再現します。そのうえで、車両走行時の緊急停止などを想定し、人間では気付きにくい異音のパターンから、生成AIが原因を特定、回答するといった活用法を考案しています。臨場感のある、現実に近いビジネス環境の構築に役立つといいます。
東京電力と中部電力が共同出資するJERAは、火力発電所にデジタル技術を応用した「デジタル発電所(DPP)」に、メタバースを組み込みました。その一環として、遠隔監視する専門組織と現場作業員がメタバース空間でつながり、発電所の運営ノウハウに精通した生成AIが、トラブル発生時にそれに対する処置の最適解を瞬時に生成するといった利用法を取り入れています。
いずれもメタバース空間で職場や作業現場をリアルに再現することによって迫真性、緊張感が増し、そこに生成AIの高度なアウトプットを組み合わせ、より実践的で、実際に役立つ訓練を実現しています。
さらには、音声やテキストのプロンプトから、メタバース自体を自動生成できるといった技術検証も進んでいます。VRや自動翻訳を手掛けるメタリアルの一組織でメタバース先端技術を研究する「MATRIX GENESIS LABS」が2023年7月にβ版を公開しました。
やや漠としたイメージのある「メタバース」も、「メタバース×生成AI」にみられる事例のように、具体的な使い方が示されれば、徐々にその有用性が認められるでしょう。同様に、活用が期待される分野をみていきます。
■「メタバース」×「脳波」
メタバースの飛躍的な活用が期待される分野として、「メタバース×脳波」があります。脳波とデジタルを組み合わせた「ブレインテック」の分野は、世界の市場が2025年に5兆円まで拡大するともいわれ、メタバースとの有機的な結び付きが期待されます(14)。
英国のベンチャーMind Portalは意識するだけでメタバース空間での選択や意思疎通ができる画期的な技術を開発中です。利用者が被った専用のキャップに付いたセンサから脳波を読み取る仕組みで、利用者はヘッドセットを通じて眼前に浮かぶ文字や選択肢を、「考える」「意識を向ける」ことにより選んでいきます。現在のメタバースで一般的な両手に握るコントローラーが不要となる可能性があります。
こうした脳波などによって入出力を行うテクノロジは「ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)」と呼ばれます。Metaもかつて2017年に、思い浮かべるだけで文字を入力できる「夢の技術」の研究に入れ込んでいました(15)。脳波でVRを操作できると世間の耳目を集めましたが、技術的な壁にぶつかり、2021年に断念した経緯があります(16)。その後、目立った動静は聞こえてこないものの、Metaはブレインテックを含むAIの研究開発に余念がなく、商機を虎視眈々とにらんでいます。
BMIを含む脳科学とメタバースの分野は親和性が高いとされ、日本でも東京大学や玉川大学といった高等教育機関においても最先端の研究が進められています。
メタバースをめぐる海外動向
2021年のMetaの社名変更を機に注目度が一気に増したメタバースは、各国内でそのあり方や展望をめぐる議論が活発化しています。温度差、時間差はあれど、総じてメタバースを有望市場ととらえ、長期的な戦略を掲げています。国家戦略より先に企業が前のめりで取り組んでいるケースも少なくなく、産官学が協調しながら、メタバースの未来を見据えています。
一方、メタバース空間における著作権やプライバシー、差別的な発言をめぐるトラブルもたびたび報告されており、法制度やルールの整備が喫緊の課題です。
そうした背景から、国際間で統一のルールをつくろうという機運が高まっています。2022年6月には、メタバース分野の国際協調を図る団体として、Metaverse Standards Forumが発足しました。「オープンで包括的なメタバースのための相互運用性標準の開発を促進するための標準化団体と企業の協力の場」となることを標榜し、MetaやMicrosoft、NVIDIAのほか、中国のHuawei、日本からもソニー・インタラクティブエンタテインメントやNTTコノキューなどが加盟しています。加盟企業は増加し続けています。発足当初の会員は37社・団体でしたが、2023年11月現在2400まで拡大しています(17)。
こうした国際連携が進む中、メタバースに注力する主な国の政策や現状を見ていきます(表2)。
■米国
メタバース発祥の地、米国はメタバースの分野でもっとも先進的な国といえます。Metaをはじめ参入企業が盛んにビジネスを展開し、投資額もけた外れに大きく、メタバースビジネスの進展に期待が寄せられています。
一方、Second Lifeの際にぶつかっていた壁、課題が再び立ちはだかってもいます。
政府としては、そうした期待と課題の現状を取りまとめ、ビジネスに活かしてもらおうと推進には意欲的な姿勢です。2022年8月、連邦議会調査局が「The Metaverse: Concepts and Issues for Congress」 と題したレポートを公表、その中でエンタテインメントや不動産、教育などメタバースの利活用やイノベーションが期待できる分野を取り上げました(18)。また、メタバースを実現するうえで重要な技術として、先述のBMIなどの脳科学との融合や、5G(第5世代移動通信システム)や6G(第6世代移動通信システム)などの次世代通信網の発達を挙げています。
期待が大きい反面、持続可能なビジネスモデルの未確立や違法コンテンツの蔓延といった課題も指摘されています。メタバースでのトラブルを幅広く取り締まるには、法体系は不十分とされ、法整備に向けた議論が今後活発化してくると見込まれています。
Statistaによると、2022年に141億ドルだった米国のメタバース関連市場は2030年に1592億ドルまで伸長、年平均成長率は実に35%を超える高成長を遂げるとされます(図5)。
なお、次節で紹介する中国も、2022年の105億ドルから2030年に875億ドルと市場の急拡大が見込まれます。
■中国
中国で「元宇宙」といえばメタバースのことです。毎年中国の雑誌社が発表している流行語トップ10で、2021年にランクインするなど、メタバースはご多分に漏れず中国社会も賑わせています。その2021年、そして翌2022年と文化観光部などの省庁や中国人民銀行がVRやARなどメタバース関連技術の活用や監督方針を示し、北京市や上海市といった大都市もそれぞれ、「メタバースの革新的発展のための行動計画」(2022年8月)、「メタバース新分野育成のための行動計画」(2022年7月)を打ち出していました。
さらに、国家全体としての「メタバース産業革新発展3カ年行動計画(2023~2025年)」を、中国工業情報化部、教育部、文化・観光部、国務院国有資産監督管理委員会、国家広播電視総局の連名により、2023年8月29日付で発表しました。それまで国全体を包括する指針は出ていませんでしたが、今後はこの行動計画が拠り所となって企業や自治体のメタバース事業が進んでいくとみられます。
計画では、2025年までにメタバース技術の飛躍的な進展により、産業規模の拡大や構造の合理化を図り、世界先進水準の総合力を実現すると記しています。具体的な目標として、世界的影響力を有するメタバース関連企業3~5社と「専精特新(専業化、精細化、特色化、斬新化)」に合致した中小企業を育成し、3~5カ所の産業集積地を構築するとしています。
■欧州
欧州もまた、メタバースの関連企業が多く、賑わっている地域の1つです。
欧州連合(EU)の欧州委員会が2022年9月に「メタバースなどの仮想世界に関するイニシアチブ(Initiative on virtual worlds、such as metaverse)」の策定を発表(19)、これを受けて2023年7月に「Web 4.0と仮想世界に関する EU のビジョン」を提示しました(20)。
その中ではWeb4.0や仮想世界の定義を説明するとともに、仮想世界の世界市場が2022年の270億ユーロから2030年までに8000億ユーロに成長し、2025年までに欧州でXRに関連して86万人の新規雇用が創出されると予測しています。このほか、欧州議会は「メタバース」のメガトレンドとしての商機や倫理的課題、法整備の必要性などに幅広く触れた160ページ超の研究報告書も2023年6月に作成、公表するなど、メタバースをめぐる期待が着実に高まっています(21)。
国別では、フランス政府の委託を受けた研究者グループが、フランスのメタバース政策上の課題や戦略を提言しました。芸術や文化といったフランス独自の強みをメタバースと組み合わせる重要性を強調しています。隣国ドイツは、「Industrial Metaverse(産業用メタバース)」に執心するSiemensなどの大手企業が中心となり、産官学の連携を図っています。
さらに英国は、2020年に離脱したEUとは一線を画し、独自の戦略を打ち出しています。2023年2月に省庁再編で新設された「科学・イノベーション・テクノロジー省(Department for Science Innovation and Technology)」が旗頭となり、メタバースを推進していく方針です。
ほかにも、韓国が国を挙げて「メタバース新産業先導戦略」や指針となる「メタバース倫理原則」を立て続けに策定したり、メタバース経済圏で活用が期待されるNFTやブロックチェーンの規制が比較的緩いとされる東南アジアが注目を浴びていたりと、世界的なメタバースの潮流は時々刻々と変化し続けています。
後編では主に日本国内のメタバースの実情を、最新事例とともに紹介する予定です。
■参考文献
(1) https://www.qunie.com/release/20230523/
(2) https://www.asahi.com/articles/DA3S15192843.html
(3) https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20200910
(4) https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20211028
(5) https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20220901
(6) https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20230817
(7) https://www.businessinsider.jp/post-271154
(8) https://investor.fb.com/investor-news/press-release-details/2022/Meta-Reports-Fourth-Quarter-and-Full-Year-2021-Results/default.aspx
(9) https://pr.fujitsu.com/jp/news/2007/11/2.html#footnote1
(10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000069115.pdf
(11) https://www.seedplanning.co.jp/press/2007/0821_01.html
(12) https://www.nikkei.com/compass/search/Y2F0ZWdvcnk9Y29tcGFueSZ0aGVtZT0zOTMyMA
(13) https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1014286/www.mizuhocbk.co.jp/fin_info/industry/sangyou/pdf/mif_57.pdf
(14) https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20180720.html
(15) https://www.businessinsider.jp/post-33002
(16) https://thinkit.co.jp/article/18610
(17) https://metaverse-standards.org/members/
(18) https://sgp.fas.org/crs/misc/R47224.pdf
(19) https://state-of-the-union.ec.europa.eu/state-union-2022_en
(20) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_3718
(21) https://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/STUD/2023/751222/IPOL_STU(2023)751222_EN.pdf
(22) 佐藤:“世界2.0 メタバースの歩き方と創り方”,幻冬舎,2022.
主任研究員 南龍太