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from NTT東日本

地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業への転換に向けたNTT東日本の新たな挑戦“地域循環型ミライ研究所”

NTT東日本グループは「地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業」への転換をめざしています。地域の課題に向き合ってきたNTT東日本がさらに地域活性化を加速させるため、2023年2月に新組織「地域循環型ミライ研究所」(ミライ研)を設置しました。ミライ研では、日本各地にあるさまざまな資産や資源、地域の魅力を活かして、ヒト・モノ・カネ・データが循環して新たな地域価値を創り出す地域循環型社会の構築に取り組んでいます。

地域循環型ミライ研究所設置の背景

NTT東日本は1999年の設立以来、光ブロードバンドサービスの提供・拡大を通じて、地域が抱えている課題の解決に努めてきました。光ブロードバンドサービスの世帯カバー率が99%を超えた今、当社は、通信事業者という枠を超えた地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業への転換を図っています。
この5~6年は、通信領域を超えた地域活性化に向けたチャレンジとして、中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援、再生可能エネルギーやドローン、農業、eスポーツによる学校教育等、さまざまな取り組みを進めています。しかし、地域に根付いた「文化」や「食」といった領域への取り組みはまだあまりありません。地域活性化をさらに加速させるため、各地域の根底にある「文化」・「食」そして「自然」・「歴史」といった資産や魅力、またそれらに携わる「人」にも着目し、新たな人やお金の流れを生み出し、地域循環型社会の仕組みをつくっていくことに挑戦する考えです。
そこで、NTT東日本は“地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業”をめざすべく、「地域循環型ミライ研究所」(ミライ研)を設置し、地域価値の創造や循環型社会の構築に取り組み始めました(図1)。

活動概要

ミライ研は、研究所という名前から察せられるとおり、シンクタンクです。地域の価値創造に特化した調査・研究を行うので、「地域シンクタンク」と呼んでいただくほうがよいかもしれません。現時点の主な活動内容としては、地域の資源・魅力を調査するとともに、さまざまな技術を持った人、地域で活躍されている人など、キーマンをネットワーキングして、情報発信を開始しているところです。いくつかの具体的な取り組みを以下に紹介します。

地域文化の保護継承・活性化

■お祭り文化の保護と継承

我が国ではまだあまり馴染みのない言葉だと思いますが、海外ではデジタル技術で文化・芸術作品の価値を高めるCulTech(Cultural Technology)という言葉が注目されています。日本でも、デジタル田園都市国家構想会議において、デジタル技術を活かして全国各地の埋もれた文化資源を掘り起こして地方創生につなげようという議論が展開されており、CulTechによる地域振興の取り組みが各地で芽生えつつあります。NTT東日本グループの取り組みでも、NTT ArtTechnologyによる葛飾北斎の八方睨み鳳凰図の高精細デジタルリマスター版の制作・展示等、デジタル技術を活用して地域の観光振興に貢献する事例が生まれています。ミライ研としても、このCulTechによる地域振興の取り組みをさらに盛り上げようと、日本各地の「文化」・「食」・「自然」・「歴史」といった地域資源の魅力や課題を調査するとともに、文化・芸術領域でのデジタル技術の活用方法を模索しています。
CulTechの取り組み事例の1つが「お祭りの映像アーカイブ」の作成・発信です。日本全国に数多あり、各地域に根差す「お祭り」は、その地域の「文化」を継承する重要なイベントであり、NTT東日本グループでも各地のお祭りへの参加や運営の支援に取り組んできました。ミライ研では、各県に拠点を置くNTT東日本の支店の協力を得て、各地のお祭りのデジタル映像を撮影・保存・発信することに取り組んでいます。各地のお祭りの模様を映像データとして保存することで、今後の地域活性化活動等への利用や、自治体等への政策提言への活用を検討するとともに、地域の魅力を配信するプラットフォームとすることも視野に入れ、現在、制作を進めています。
また、お祭り運営のプロデュース事業を展開している株式会社オマツリジャパンと連携し、全国の祭り・イベント関係者に対して「お祭りにおけるデジタル活用の可能性と課題」に関する調査を実施しました。回答結果より、新型コロナウイルス感染症の影響により、運営面、発信面ともにデジタル活用ニーズは高まる一方で、活用するための情報・ノウハウ不足や、導入にあたっての資金不足などの課題がみられました(図2)。

■メディア芸術による地域活性化

ミライ研が取り組むCulTech事例としてほかに「メディア芸術案内所(仮)」事業の構想があります。これは、文化庁が運営する漫画やアニメ、ゲームなどに関するデータベースである「メディア芸術データベース」に、地域の情報を付加し、作品から地域、地域から作品への「ヒト」の循環を生み出すことを考えています。本構想は、2023年9月に開催された文化庁主催「第4回メディア芸術データベース活用コンテスト」において、アイディア部門の優秀事例賞、テーマ該当事例賞をダブル受賞しました。
具体的には、メディア芸術作品にゆかりのある地域の情報提供や、好きな地域から作品を逆引きできる機能を持つアプリをつくり、いわゆる「聖地巡礼」を後押しします。さらに、自治体などから集めた地域の観光情報なども併せて提供することで、「聖地」だけでなく地域の魅力も知っていただき、地域活性化および関係人口・交流人口の創出にもつなげていくことをめざしています(図3)。そして、メディア芸術産業の振興や「メディア芸術データベース」自体の認知度向上など、文化領域におけるデジタル技術を活用した新たな価値創造の取り組みとして、構想の実現をめざしていきます。構想内容の詳細やプレゼンテーション動画はURL(https://www.mediaarts-db-contest.com/results)よりご確認いただけます。

地域にかかわる人の流れの創出・盛り上げ

■地域の関係人口創出――佐渡におけるワデュケーションの実証

ミライ研では、CulTechの探究のみでなく、NTT東日本グループの社員と地域社会の人と人との結び付きを強化する施策も進めています。人口減少が進んでいる地域では、地場産業や文化を支える担い手不足が顕在化しています。こうした地域課題に対して、現在ミライ研では、ワデュケーション(Woducation:Work+Education+Vacation)のモデル確立に取り組んでいます。これは、リモートワークを活用できる社員が地域に出向き、NTT東日本グループの本業とは別に、その地域の仕事等を実際に体験し、同時に地域の魅力にも触れることで、その地域への理解を深める取り組みです。リモートワークを最大限に活用し、社員がより能動的に関係人口として地域課題解決に取り組める施策として企画し、新潟県の佐渡市と連携して、2023年10月より第一弾の実証を行いました。
本実証では、社内公募で集まった社員有志が3タームに分かれ、それぞれ4日間ずつ、佐渡市の廃校を活用した酒蔵のコワーキングスペースにおいて本業のリモートワークを実施しました。それ以外の時間を活用して、JA羽茂の「おけさ柿」選果場にて、佐渡の現地の方と一緒に、地域産業である「おけさ柿」の選定・箱詰め作業を体験しました。その模様は地方紙やローカル局のTV番組でも取り上げられたほか、佐渡市の観光情報サイト上でも紹介される予定であり、佐渡市や地元住民の期待の大きさを感じることができました。また、参加者からは「1つの文化ともいうべき地域の誇る産業に地元の方々とともに汗を流す体験ができたことで、佐渡島を一層身近な存在として感じることができた」「現地の作業者の多くが70歳以上の高齢者であることなど、一次産業のリアルな課題を肌で感じることができた」などの声がありました。
本実証で得られた効果・知見・課題等は、報告書としてまとめ、政策提言等に活かしていく予定です。さらに今後は、交通費・宿泊費の負担軽減等の課題を整理しつつ、佐渡島以外のロケーションも選択肢として増やすこと、子どもの体験の場も用意し、家族単位で地域の理解を深める機会を創出すること、NTT東日本グループのみならず他の企業等の参加を促すこともスコープに入れて、「地域文化を学びながら新たな人の循環を生む施策」として展開を進めていく考えです。

■社員の地域貢献活動の盛り上げ――地域エバンジェリストの取り組み

NTT東日本グループには、約6万人もの従業員が在籍しています。地域の魅力を発見し価値創造に取り組むためには、全国各地にいる社員1人ひとりが、地域課題を自分事としてとらえ、その地域で見たこと、聞いたこと、課題に思ったことなどの情報を発信し、蓄積することが重要です。そのための仕組みとして、社員の地域活動への参加を後押しする「地域エバンジェリスト」の取り組みを開始しました。NTT東日本グループには、業務外のプライベートな時間を利用して、さまざまな地域貢献活動に参加している社員が数多くいます。その活動内容は、野球やサッカーのコーチといった地域のスポーツ振興活動から、お祭りの運営やオーケストラ活動、自然・文化の保護活動、学生・高齢者や障がい者の支援、子ども食堂の運営、住民参加型の委員会活動まで多岐にわたっており、その活動が地域社会を支えています。ミライ研では、熱い想いを持って地域社会の活動に参加している社員を「地域エバンジェリスト」として認定し、その活動を会社が応援する取り組みも展開しています。
NTT東日本グループ24社に参加を募り、2023年7月に認定を開始、これまでに約300名の社員を「地域エバンジェリスト」として認定しました。現在、地域エバンジェリスト認定者へのインタビューを実施し、それぞれの地域への想いや活動の背景、苦労している点等を伺いながら、地域とのかかわりによって得られた良い影響、やりがい等を記事にして全社に発信する活動を進めています。これは、それぞれの地域で熱い想いを持ち地域振興に取り組んでいる社員の活動を紹介することで、他の社員に対しても「自分も居住エリアで何か行動してみよう」という行動変容を促すねらいです。また、これまで業務を通してではつかみきれなかった地域のリアルな課題の把握や、地域コミュニティで尽力している各地域のキーマンとの関係構築を推進することも期待しています。
今後は、地域エバンジェリストの拡大や活動の活性化を促すために、同種の活動に取り組む地域エバンジェリストどうしを集めるイベント「地域エバサミット」の開催も計画しています。活動テーマごとに開催し、エリアを問わず共通的な地域課題の洗い出し、課題解決の共同検討、ビジネスの可能性の模索にも取り組んでいく予定です。

今後の展望

ミライ研は、当面、地域密着で事業展開をしてきたNTT東日本グループの組織力を活かしつつ、各地域の拠点と連携しながら、小さくとも、目に見える成功事例の積み重ねを図っています。地域で実証事業を進めるにあたっては、時間をかけて地域の方々の話を聞き、共感し、価値創造の取り組みの実装まで、ロングタームで伴走することを大事にしています。
地域における提言や政策の実装・伴走はロングタームで腰を据えて取り組んでいく一方で、シンクタンクとしての情報発信はショートタームで実施していきます。社内に散在している情報やノウハウの集約化のためのナレッジサイトを開設し、蓄積したナレッジをベースに、レポートや提言を社外発信するプラットフォームの構築も進めています。ナレッジの一元化や情報発信を通じて、社内情報のハブとしてのプレゼンスも高めていくとともに、社外有識者、キーマンとのリレーション構築を推進していく考えです。
また、前述したCulTechという概念は、欧米諸国や台湾等に比べると、日本ではまだあまり浸透しておらず、文化とデジタル技術の融合には、まだまだ広がっていく余地が十分にあります。伝統文化に限らず、日本には世界に誇れる魅力的な地域資源がたくさんあります。それらをデジタル技術によって永く継承するとともに、より魅力的な発信・活用ができるようにすることで、日本全体の成長にも寄与していきたいと、地域循環型ミライ研究員一同、考えています(図4)。

問い合わせ先

NTT東日本
経営企画部 地域循環型ミライ研究所
TEL 03-5359-6210
E-mail  mirai_labo-ml@east.ntt.co.jp