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特集2

個人にも寄り添う連鎖型スマートシティを実現する「街づくりDTC」

モバイルオーダによるロボット配送サービス

ビル街区において、清掃や警備、配送といった、入居者やビルオーナーにとって必要なサービスを、ロボットのような屋内モビリティを活用することにより、運用コストを削減する動きがあります。またこれらの異なるサービスに向けて複数台のロボットがビル運営で用いられることを想定し、異種・複数のロボット制御システムの実現をめざしています。本稿では、忙しいオフィスワーカーがオフィスにいながらにして小売購買が可能となるモバイルオーダによるロボット配送サービスの実現に向けて、ロボットの配送所要時間を正確に予測しながら最適な走行経路を探索し、予定どおりに配送する「ロボット最適制御技術」の取り組みについて述べます。

應治 沙織(おうじ さおり)/福本 佳史(ふくもと よしふみ)
松浦 伸彦(まつうら のぶひこ)
NTTコンピュータ&データサイエンス研究所/
NTTスマートデータサイエンスセンタ

ロボット配送サービスとは

ロボット配送サービスとは、利用者が注文先や受取地点・時刻を自由に選択して注文した商品をロボットが配送するサービスです。利用者は自身のスマートフォン等から専用のモバイルオーダサービスを使って店舗に対して注文と支払いを行います。注文情報はロボットに対しても送信され、注文情報に従ってロボットが店舗への集荷および指定個所への配送を行います。ロボットは配送完了した後に所定の場所に戻り、必要に応じて充電しながら次の注文が来るまで待機を行います。
図1に示すとおり、もし複数の注文が同時にあった場合は一度のロボット配送でまとめて配送を行います。もしロボットが出発後に新しい注文が来た場合は待機中の別のロボットを用いて配送を行います。
ロボット配送サービスをオフィスビルに導入することで、買い物に行く時間がない忙しいオフィスワーカー(ワーカー)に対して希望どおりの地点・時刻に商品をお届けする新しい価値体験を提供し、人手不足の店舗に対して追加人員不要で配送サービスが提供可能という新たな販売機会創出に貢献します。
ロボット配送サービスを実現するにあたり、従来は専用のオペレータが注文内容を見ながらロボットの走行経路を手動で算出・設定していましたが、私たちは「ロボット最適制御技術」を考案し、人手を介さない自動的かつ効率的な経路算出することを可能としました。

ロボット配送サービスの課題

ロボット配送サービスを実現するにあたり、五月雨式に発生する注文に対して最小限のロボットかつ最短時間で配送すること、利用者がスムーズに商品を受け取れるように配送所要時間をあらかじめ予測して提示することが要件となります。走行時間に影響を与える要因は大きく3点あります。
まず、ロボットは走行中に障害物の接近を検知した場合は減速または一時停止によって衝突の回避を試みます。この回避行動によりロボットの走行時間が長くなるため、経路上の混雑状況やビル設備利用状況(エレベータ等)を考慮する必要があります。
次に、店舗の作業時間を考慮する必要があります。店員は注文内容を見ながら対象商品を集め、ロボットが店舗前に到着すると当該商品の積み込みを行います。商品によっては温めるといった追加作業も発生します。一連の作業に要する時間は常に一定ではなく、注文された商品の特徴や店舗の混雑状況によって大きく変化するため考慮が必要です。
最後に、ロボットどうしの競合を考慮する必要があります。例えばロボット2台が並走した場合はお互いを動く障害物だと判定して減速や一時停止を繰り返し行い、ロボット2台が通路ですれ違う場合では、お互いの回避がうまくできずにスタックして配送自体が停止する危険性もあります。またロボットの並走やすれ違いは来街者の邪魔になる可能性が高く、そもそも発生させないことが重要となります。

ロボット最適制御技術について

前述のロボット配送サービスの課題を解決する技術として、街区やビルなどのロボット配送サービスの対象空間の経路をグラフ化し、各経路・各地点の走行時間および複数ロボットの競合関係を考慮して最適な経路を探索する「ロボット最適制御技術」を考案しました。当該技術は①経路の所要時間予測技術、②店舗の積込作業時間予測技術、③グラフ上での最適経路探索技術、④ロボット競合解消のための優先制御技術の4種類の技術の集合体になります。なおグラフのノードはロボットの待機地点、店舗の積込地点、利用者の受取地点および経路の分岐地点(エレベータ乗込のため待機地点も含む)を表現し、エッジはノード間の通路を表現します。

■経路の所要時間予測技術

経路の所要時間予測技術の概要を図2に示します。人流情報やエレベータの稼動状況などを収集し、各地点の混雑状況を数値化します。そして過去の実績値を基に未来の混雑状況を機械学習によって予測し、さらに予測された混雑状況から各経路の走行時間を予測することで、配送開始時刻での経路(エッジ)ごとの走行時間を取得することができます。求めた走行時間はグラフ構造上の対応するエッジのコストとして利用します。
経路ごとの走行時間は経路上の混雑状況によって大きく変化します。これは経路上に多くの人(ランダムに動き、かつロボットが衝突を回避する必要のあるもの)がいることで、ロボットの急停止が繰り返され、停止なく走行した場合に比べて多くのイレギュラーな走行時間を要するためです。これはグラフ上での最適経路探索でも同様のことがいえ、最適経路および正確な所要時間の見積もりを実現するためには、混雑状況に応じた経路選択が必須になります。所要時間予測技術は環境や時間変化を考慮した配送時間の見積りにより、実測値と見積り値の乖離を抑制し、正確な所要時間を用いた運行計画の立案を実現します。

■店舗の積込作業時間予測技術

店舗の積込作業時間予測技術の概要を図3に示します。商品準備からロボットへの積込までの一連の作業時間は、注文された商品の特徴や店舗の混雑状況によって大きく変化します。そこで注文された商品の基本情報(名前、説明文等)を基に、例えば温める必要があるカテゴリやドリンクホルダ等で固定化する必要があるカテゴリといった商品の積込作業に影響を与える特徴別に分類を行い、当該特徴と店舗の混雑状況を基に積込作業時間を予測します。予測した積込作業時間はグラフ構造上の各店舗に対応したノードのコストとして利用します。
積込作業時間予測技術は注文された商品の特徴に応じた作業時間の算出が可能となり、実測値と見積り値の乖離を抑制します。

■グラフ上での最適経路探索技術

グラフ上での最適経路探索技術は、上記2種類の技術で算出したコスト付きグラフを用いて、走行時間が最小となる経路を算出します。注文情報に基づき配送されるタイミングでのグラフを予測・作成し、配送にあたって経由する地点(待機地点、積込地点、受取地点、待機地点)のそれぞれの間で最短となる経路をグラフから算出します。なお、もし複数の注文が同時にあった場合は、配送先が近い注文を順にグルーピングしていき、各ロボットに割り当てた場合の最短経路・走行時間を算出し、合計時間が最小化するように割当てを行います。図4に概要を示します。
グラフ上での最適経路探索技術は環境や時間変化を考慮し、複数ある経路の中で最適な経路を選択し、無駄のない運行計画を立案します。

■ロボット競合解消のための優先制御技術

最後に、ロボット競合解消のための優先制御技術の概要を図5に示します。複数ロボットを同一のエリア内で運行させるため、各ロボットが計画している走行経路の重複・競合を回避する必要があります。例えば図では2台のロボットが地点Cから地点Nに移動するにあたり複数の重複個所が存在しています。それぞれが同一時間に同じ経路を通らないように、迂回経路を採用したり待機時間を設定したりすることで経路競合を解消します。これにより最小の追加時間でロボットどうしの衝突やスタックを回避した最適な経路を算出することができます。ロボットが3台以上ある場合も同様の手順で競合を解消していきます。
ロボット競合解消のための優先制御技術を用いることで、複数のロボットを同時に稼動した際に発生する走行経路の重複・競合とそれに伴う走行時間の遅延という、グラフ上での最適経路探索では抑制できない運行計画の遅延要因を抑制することができます。

実証実験と評価

ロボット最適制御技術を活用したロボット配送サービスの検証として、オフィスビルを対象に実証実験を実施しました(1)。ロボット最適制御技術を構成する4つの要素のうち、経路の所要時間予測技術、グラフ上での最適経路探索技術の2点に関して実証をとおして評価を行いました。
実証では、当該ビルに勤務するワーカーを利用者として、専用のモバイルオーダサービスを用いてビル内の飲食店の商品を注文できるシステムを構築しました。ロボットはエレベータと連携して階をまたがった移動が可能となっており、飲食店前の積込地点から利用者が勤務するフロアの受取地点までロボットが自立走行可能となっています。ロボットが受取地点に到着して10分経過しても商品が受け取られなかった場合、利用者が受取不可の状態であると判断してロボットは店舗に戻ります。店舗に戻った商品は店舗での取り置き状態となり、以降は利用者が直接店舗に受け取りに行くことになります。
注文形態として希望時間配送と即時配送の2パターンを用意しました。希望時間配送は、1日を30分間隔で分割して1スロットとして扱い、希望のスロットを選んで注文を行う形態となります。即時配送は配送可能なもっとも早いスロットを自動的に選んで注文を行う形態となります。ロボット配送サービスは上記2種類の注文を受け取った後、ロボット最適制御技術を用いて最適な経路探索し、ロボットがそれに従って動作するようスケジューリングするとともに、予想された所要時間を基に到着予定時間を算出して利用者に前もって提示します。
混雑状況はサーモパイル型センサを利用して取得しました。サーモパイル型センサは非接触の温度センサを内蔵しており、人の放射熱を検知・測定することができます。天井に設置されたサーモパイル型センサから真下の検知範囲内の人数を計測し、当該地点における混雑度として利用しました。
実証は2022年10月から2023年3月にかけて行いました。期間を前半と後半に分け、前半は主に基礎データ収集と店舗の運用フロー確認および利用者のヒアリングに、後半は実際に利用者から注文をしてもらいながら評価を行いました。
評価では利用者に提示する予測した到着時間と実際の到着時間の比較を行いました。下記の3種類の比較パターンを用意しました。
•パターン1:ロボットベンダが初期設定時に設計した走行時間を基に算出した到着時間と実際の到着時間を比較したパターン。ロボット最適制御技術を適用しなかった場合の参考として評価。
•パターン2:単純に誤差を少なくするようチューニングしたモデル(誤差抑制モデル)を用いて予測した到着時間と実際の到着時間を比較したパターン。
•パターン3:予測値が実測値よりも小さくならないようにチューニングしたモデル(下振れ抑制モデル)を用いて予測した到着時間と実際の到着時間を比較したパターン。
利用者視点では提示された到着時間に受け取りに行くようプランを立てるため、予定時間前にロボットが到着する分には問題ないという声を受けてパターン3の下振れ抑制モデルを用意しました。パターン3はパターン2の誤差抑制モデルに比べて誤差は大きくなるものの、予想到着時間にはロボットが到着しており商品の受け取りができる可能性が高いモデルとなります。
結果を表に示します。
パターン1とパターン2の比較により、誤差(MAE)が215秒から25.8秒に、さらに予定より到着が遅くなって利用者を待たせることになった下振れオーダ数が190件から99件とロボット最適制御技術を用いることで大幅に改善しました。
またパターン2とパターン3の比較により、下振れ抑制モデルを利用することで誤差は大きくなるものの、下振れオーダ数を4分の1程度に削減することができると判明しました。状況に応じて誤差抑制モデルと下振れ抑制モデルのどちらを採用するか選ぶことが重要となりますが、利用者視点では下振れ抑制モデルのほうが待ち時間が少なく有効なことが多いと考えられ、運用者視点では誤差抑制モデルのほうがより無駄なくロボットの運行計画を立案できると考えられます。

今後の展望

ロボット最適制御術を用いることで正確に走行時間を予測し、最適な経路探索が可能となることが分かりました。今後は店舗の積込作業時間予測技術およびロボット競合解消のための優先制御技術に関しても実証実験をとおした評価・改善を行い、さらに最適化されたロボット最制御技術の実現をめざします。
また、配送用ロボットのみならず清掃や警備など異種複数のロボットを統合基盤上で制御することで、街区全体で最適化・省力化を実現します。

■参考文献
(1) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/10/03/221003a.html

(左から)應治 沙織/福本 佳史/松浦 伸彦

ロボット最適制御技術を用いて異種複数のロボットを活用することで、最適化されたロボットの運用とそれに伴うユーザの体験価値の向上に貢献することができます。今後は異なる用途のロボットの最適制御や街区全体でのロボットの最適制御により、さまざまなサービスを提供し、人々の生活をより豊かにしていくことをめざします。

問い合わせ先

NTTコンピュータ&データサイエンス研究所/
NTTスマートデータサイエンスセンタ
E-mail sdsc@ntt.com