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グローバルスタンダード最前線

TIP OOPTにおけるオープン光伝送装置の最新動向

TelefonicaやVodafone等の欧州オペレータが中心となり、光とIPネットワークにおけるハードウェア・ソフトウェア分離とイノベーション加速をめざした活動がTelecom Infra Project Open Optical & Packet Transportにて進められています。ここでは、オペレータが協力して共通のユースケース・仕様を提示して新規ベンダの参入を促し、コスト削減をめざすTIP Phoenixプロジェクトに焦点を当て、プロジェクト発足の背景やこれまでの取り組みと、NTTグループの貢献について解説します。

穴澤 和也(あなざわ かずや)†1/張 笑誠(ちょう しょうせい)†2
鈴木 繁成(すずき しげなり)†2/西沢 秀樹(にしざわ ひでき)†1
NTT未来ねっと研究所†1
NTTコミュニケーションズ イノベーションセンター†2

TIP OOPT設立の背景

急激に増大しているSNSや画像配信サービスのトラフィックを効率的に処理するため、データセンタ内ではハードウェアとソフトウェアを分離する新しい技術の実装が進みました。1台の高性能なハードウェアを仮想化によって分割し効率良く使用するサーバ仮想化技術、複数のサーバハードウェアを1つのコンピュータに見立てて容量や耐障害性を向上させるストレージ仮想化技術が登場し、データセンタオペレータは効率化によるコスト削減だけでなく、仮想化技術により短期間にシステムを構築できる(迅速性・俊敏性)、高信頼かつ柔軟にシステムを拡張できる(柔軟性、冗長性)といったメリットを享受してきました。2011年には、高効率を実現するデータセンタファシリティの要素(サーバ・空調・電力等) のシステム仕様を検証し、そのナレッジをオープン化するOpen Compute Project(OCP)が設立され、Facebook(現Meta)・Microsoft等のハイパースケーラやホワイトボックスベンダ等が参加して市場を拡大しています。2016年、新興国から先進国まで、テレコムネットワークインフラを構築・開発するための新技術を各社が協力して生み出すことを目的としてTelecom Infra Projectが設立されました。データセンタ内をカバーするOCPに対し、TIPはデータセンタの外をターゲットとし、汎用のベンダニュートラルなハードウェア、オープン・インタフェース、ソフトウェアに基づいて、2G(第2世代移動通信システム)~5G(第5世代移動通信システム) RANソリューションを開発・構築するOpen RANや、光とIPネットワークにおけるハードウェア・ソフトウェア分離とイノベーション加速をめざしたOpen Optical & Packet Transport (OOPT)等のプロジェクトグループが設立されました。
ここで、OOPTで活動しているオペレータが抱えている垂直統合型市場に関する課題を図1(a)で説明します。オペレータがベンダAとベンダBから光伝送装置を調達・導入する場合、ベンダ各社の装置インタフェースおよび装置の操作・運用(パフォーマンスモニタ、ファイル更新、バージョンアップ等)がそれぞれ異なるため、オペレータはAとBの装置それぞれに対して、オペレーティングシステム開発とエンジニアへのトレーニングが必要になります。また、垂直統合の場合には調達の自由度が低く価格が高止まりしやすいうえ、発注から納品までの期間が長くなる(光伝送装置の場合は1年程度)といったデメリットが存在します。この課題を解決するため、OOPTは図1(b)に示す6つのサブグループ、Metaverse Ready Architectures for Transport Networks (MANTRA)、 Mandatory Use Case Requirements For SDN Transport (MUST)、Networking Operating Systems (OOPT-NOS)、Disaggregated Open Routers (DOR)、Physical Simulation Environment (PSE)、Disaggregated Optical Systems (DOS)を立ち上げて活動を進めています。ここでは、Disaggregated 400 G Transponder “Phoenix”にもっとも深く関連しているOOPT-NOSとDOSについて紹介します。

OOPT-NOS

このグループでは、オープンでディスアグリゲートされた光伝送装置用Network OS(NOS)であるGoldstoneの仕様・アーキテクチャとそのリファレンス実装を定義し、それを装置ベンダが商用実装することでオープン化を推進し、市場投入することをミッションとしています。Goldstoneは、装置上の各機能をコンテナとして実装しており、各ベンダやオペレータからの機能追加や改修を容易に行うことができるという特徴を持っています。
これまでNTT研究所では、オープン光伝送装置であるPhoenix向けに①AT&TやOrange等が仕様化をリードしているOpenROADM (1)やTIPにてTelefonicaやVodafone等が仕様化をリードしているOpenConfig(2)といった標準的な制御インタフェースによる装置制御を可能にするための機能、②NETCONFに加え、gNMI(3)といった標準的な通信プロトコルによる制御を可能にするための機能、③装置上のさまざまな情報を収集するためのストリーミングテレメトリ機能、をパートナーであるNECや富士通と開発し、世界のオペレータと連携して普及に貢献してきました(4)(5)。また、Phoenix以外にも、Disaggregated Cell Site Gateway (DCSG)の1つであるCSR320や、Aggregation Router AGR400への対応に向けた機能実装をIP Infusion社(IPI)と行い、その内容をコントリビューションしてきました。
パートナーであるNECは、Goldstone NOSをベースとしたNEC NOSを後述するPhoenixとともに商用化し、2023年10月にTIPよりネットワークオペレータによる100項目以上の検証にパスしたことを証明するSilver Badgeを獲得しました(6)
今後は、Disaggregated Cell Site Gateway (DCSG)やAggregation Router AGR400といったルータ・スイッチにプラガブルのコヒーレントモジュールを挿入することで光伝送機能を利用できるスイッチポンダ向けのプラットフォームへの対応を引き続き検討し、オープン化を推進していきます。

DOS

このグループは、オープンでディスアグリゲートされた光伝送装置の仕様を定義し、市場に投入することをミッションとしています。ハードウェア、ソフトウェアを分離することで、個別に最適な最新技術の適用や継続的な性能改善を迅速に行い、サービス要件の変化に対応することが容易になります。ここでは、DOSの代表的な成果であるオープンなパケット・光トランスポンダ「Cassini」と、異装置・異ベンダ間の違いと複雑なレジスターアクセスを隠蔽する光伝送のためのオープンなインタフェースであるTransponder Abstraction Interface (TAI)の取り組みを紹介します。
従来伝送装置の市場は、メインボードを製造して自社仕様のラインカードを実装するシステムベンダと、そこにラインカードを製造して供給するトランシーバベンダとが密に連携して高い伝送性能を追求する垂直統合型のビジネスモデルを形成してきました(図2(a))。一方、装置に実装されるソフトウェアはメインボード上とラインカード上に分散され、ベンダや方式ごとにインタフェースが異なることから、ハードウェアとソフトウェアを分離するのに不向きです。DOSサブグループは、ホワイトボックス スイッチ市場で世界トップシェアのEdgecoreと協力し、ハードウェアとソフトウェアが分離されたホワイトボックス スイッチのアーキテクチャ(図2(b))を光伝送装置に適用し、100 GbEスイッチングとレイヤ1光トランスポート機能をラインカードモジュールとして1つの筐体に統合してマルチベンダ・マルチジェネレーションのコヒーレントトランシーバに対応するCassini(図2(c))を実現しました。これには異装置・異ベンダ間の違いと複雑なレジスターアクセスを隠蔽するオープンなインタフェースが必要であったため、NTTグループやCumulus Networks(現 NDIVIA)が中心となり、そこにハイパースケーラやNTTエレクトロニクス(現 NTTイノベーティブデバイス)・Acacia等の主要コンポーネントサプライヤが協力してTransponder Abstraction Interface (TAI)の制定を進めました(7)。図3(a)は2018年に開催されたTIP summitの様子を、図3(b)はTAIが異装置・異ベンダ間の違いと複雑なレジスターアクセスを隠蔽し、各種NOSから共通のソースコードで制御・管理を可能とするイメージを示しています。IPIはTAIを自社の商用OSであるOcNOSに実装してCassiniに適用し、アフリカのブルキナファソ、チリ、パキスタン(8)等で商用導入を行っています。

Disaggregated 400 G Transponder “Phoenix”

2018年に開催されたTIPサミットにおいて、TelefonicaよりDisaggregated 400 G Transponder の計画が発表されました。400 Gbit/sのプラガブルコヒーレントトランシーバの普及を見据えて、Cassiniのようなスイッチポンダだけでなく、キャリアに広く活用されている、光信号と電気信号を変換するレイヤ1装置であるトランスポンダ・マックスポンダについてもハードウェア・ソフトウェアを分離した装置を実現するとともに、キャリアが協力して共通のユースケース・仕様を提示して新規参入を促し、コスト削減をめざすことが目標として掲げられました。後にPhoenixと名付けられたこのプロジェクトは、2019年12月に技術仕様を、2020年4月にVodafone、 Telefonica、 Telia Company、 NTT Communications、 DT、 MTNによる共同のRFIを発出しています(図4(a))。
DOSに参加しているオペレータはRFI発出後、ハードウェア、ソフトウェア、全体ソリューションの提案を計10件受領し、提案ごとにベンダからの製品説明、技術観点でのオペレータチーム議論、オペレータとベンダ間議論を実施しました。また、実機を用いた検証も行い2022年6月にコミュニティとしての推奨要件を策定し、detailed Technical Requirement Document (dTRD)として公開しました。dTRDではPhoenixに対する詳細な技術仕様を物理要件、光伝送規格、制御、監視運用、オーブン性等の観点で約200項目整理しました。オープン性については、Phoenixの特徴であるハードウェア・ソフトウェア分離の仕組であるTAIのインタフェース対応を含みました。
dTRD公開後、Phoenix Badge(dTRDの仕様を満たしているか)認定の公募を行いました。2022年10月にGalileo FlexTとNEC NOSのBronze Badge(机上で仕様を満たしているか)認定がされ、2023年10月に同プロダクトのSilver Badge(実機検証で仕様を満たしているか)認定がされ、前述したGoldstone NOSをベースとしたNEC NOSが世界で初めてPhoenixのSilver Badgeを獲得(図4(b))しました。今後は Gold Badge(商用レベルの環境で仕様を満たしているか)認定も実施する予定です。
NTTグループでは、Telia、 Vodafone、 DT、 Telefonica等のオペレータとともにRFI、dTRD、テストプラン等各資料の作成や、ベンダとの議論・検証を行い、Badge認定における評価も実施しました。dTRD作成においては約200項目中40項目を担当し、全体項目のレビュー、重要度付けにも貢献しました。2023年のNEC NOSに対するSilver Badge認定プロセスでは、MTNとNTT Communicationsが100項目以上のオペレータテストを分担し、南アフリカと日本にある検証環境でそれぞれベンダと協力しテストを実施しました。そのテスト結果を元にコミュニティとしてのBadge認定ができました。
TIPコミュニティではBadgeをベンダ製品に付与することで、該当製品がそのBadgeの所定した機能、品質レベルに満たしたことを公表しています。Badge制度はベンダにとっては、認定を受けることによって製品がコミュニティとして推奨され、製品の市場価値が上がります。一方でオペレータにとっては、製品選定時にBadge仕様に参照可能となり、従来のRFP策定と回答評価プロセスを一部簡易化できて、製品導入試験もBadgeに含まれた内容が省略可能、というメリットが生まれました。Phoenixハードウェアにおいては、新たにEdgecoreとPegatronがサプライヤとして参加を表明するなど、オープンな光伝送装置の市場拡大が進んでいます。

今後の展開

IOWN Global Forumでは、これまでは主に通信事業者の施設間で使われてきた光波長パスを、データセンタや医療拠点などといったユーザ拠点を端点とすることを可能とするIOWN(Innovative Optical and Wireless Network) APN(All-Photonics Network)アーキテクチャを策定してきました(9)。引き続きTIP OOPTでの活動を通してオープンな光伝送装置の普及を推進するとともに、IOWN Global Forumで定義されたOpen APN*1(10)やコグニティブ・ファウンデーション*2(11)のアーキテクチャでこれらの光伝送装置を収容することで、短期間でシステムを構築(迅速性・俊敏性)し、高信頼かつ柔軟にシステムを拡張(柔軟性、冗長性)可能な新しいサービスの実現をめざしていきます。

*1 Open APN:IOWN Global Forum にてオープンにアーキテクチャ策定が行われているフォトニクス技術をベースとした革新的ネットワーク。
*2 コグニティブ・ファウンデーション:IOWN構想の中で、あらゆるICTリソースを全体最適に調和させて、必要な情報をネットワーク内に流通させる機能を担っています。

■参考文献
(1) http://www.openroadm.org/
(2) https://www.openconfig.net/
(3) https://github.com/openconfig/gnmi
(4) https://github.com/oopt-goldstone/goldstone-buildimage
(5) https://github.com/oopt-goldstone/goldstone-mgmt
(6) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000408.000078149.html
(7) https://group.ntt/jp/newsrelease/2018/10/16/181016c.html
(8) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000383.000011476.html
(9) https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/11/14/221114a.html
(10) https://www.rd.ntt/iown/
(11) https://www.rd.ntt/iown/0004.html