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オペレータの業務をピッタリとサポートする連携ナビゲーション基盤

NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)では、PCなどの情報端末上でのオペレーションの効率化に資する技術に長年取り組んできました。その流れを発展させた新しい技術として、「連携ナビゲーション基盤」を確立しました。連携ナビゲーション基盤を用いることで、多様な業務環境やオペレータの役割などに合ったデジタルトランスフォーメーション(DX)ツールを簡易に作成することが可能です。ここでは、「連携ナビゲーション基盤」の持つ機能や、それを活用して作成可能なDXツールの利用例などを紹介します。

小池 海希(こいけ ひろき)†2/田中 秀明(たなか ひであき)†2
小矢 英毅(こや ひでたか)†2/横瀬 史拓(よこせ ふみひろ)†1、2
中島 一(なかじま はじめ)†1、2/大石 晴夫(おおいし はるお)†2
NTTネットワークイノベーションセンタ†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†2

業務プロセスやシステム・アプリケーションの多様性に対するDXツールの適応

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目を集めるようになり、RPA(Robotic Process Automation)*1やDAP(Digital Adoption Platform)*2などのPC端末上で動作するDXツールが広く活用されています。一方で、従来のDXツールでは業務の効率化が困難な領域も多く残されています。
例えば、通信事業では物理的な装置や論理的な機能を複雑に組み合わせた多様なサービスを提供するため、従事するオペレータはリアルタイムに膨大な情報を取り扱う状況下で正確かつ効率の良い業務遂行が求められます。業務遂行にはさまざまな要素がかかわりますが、重要な要素の1つが業務システム・アプリケーションです。それらはそれぞれ独自のプロセスを持ち、業務はさまざまな業務システム・アプリケーション(例:スケジューラ、メール、受付システムなど)を組み合わせて遂行されます。業務が変わればそれらの組合せや使い方も異なるため、それらはそれぞれ独自のプロセスを持ちますが、その一方で、個々の業務に最適な業務プロセス*3とはいえません。なぜなら、業務はさまざまな業務システム・アプリケーション(例:スケジューラ、メール、受付システムなど)を組み合わせて遂行され、業務が変わればそれらの組合せや使い方も異なるためです。そのような場合でも、個々の業務ごとに各プロセスを統合して1つの業務プロセスとしてオペレータは業務を進める必要があります。しかし、特に複雑な業務プロセスにおいては従来のDXツールでは以下のような課題があり、十分な支援ができませんでした。

*1 RPA:ユーザの操作を自動化するソフトウェア技術の総称。
*2 DAP:新システム導入時などシステム・ツールの定着化支援を行うソフトウェア技術や製品の総称。
*3 業務プロセス:本稿では業務にかかわる作業の進め方の意味。過程・方法・手順などとも言い換えられます。

従来のDXツールが抱える課題

従来のDXツールでは改善ができなかった状況として図1のような代表的な2つの具体例があります。まず図1(a)のように“多様な業務環境に適した”ユーザインタフェース(UI)を提供することが困難でした。例えば屋外などでの現場業務とOA業務とで共通して利用する業務システム・アプリケーションがある場合、それぞれの業務に適したUIは異なります。このように多様な業務環境に合わせたUIを業務システム・アプリケーション自身に実装したり、既存のDXツールに対して業務ごとに作成したりすることは、高コストの原因になります。
次に図1(b)のように、複雑かつ高度な業務フローを“柔軟に”取り扱うことが困難な実態があります。業務プロセスには多様かつ複数のオペレータや業務システム・アプリケーションが介在しています。業務プロセスを細分化し、自動操作などの業務改善が可能なシーンをDXツールにて取り扱うことで業務効率は上昇しますが、改善を要するシーンやその数は業務ごとに異なり、個別にゼロからDXツールを作成することは非効率かつ現実的に困難です。
NTTネットワークイノベーションセンタでは、以上の課題を解決するために、NTTアクセスサービスシステム研究所で確立した技術をベースとした「連携ナビゲーション基盤」を開発しました。

連携ナビゲーション基盤の技術概要

連携ナビゲーション基盤は、Windows10、11端末上のローカル環境にて、バックグラウンドで常駐し動作するソフトウェアです。本基盤はDXツールで共通的に必要である主要な2つの機能を集約し基盤化したもので、①DXツールへ登録されたボタン、テキストボックスなどの画面要素(操作対象*4)を管理・制御する機能、および②オペレータの操作やその操作による画面変化などの業務プロセス間の操作状況(業務状況*5)を監視する機能を有します。以上の機能を一元化し、DXツールごとの構築を不要にしたことで、開発を要する大部分を「オペレータの業務環境や役割に合わせたUIや業務プロセスなど」(上位アプリケーション)の準備のみに注力すればよく、オペレータの業務環境や役割に合わせたDXツールを簡単に作成可能になります。
連携ナビゲーション基盤を活用し作成したDXツールの利用には上位アプリケーションと本基盤の接続が必要になります。図2のように、オペレータの業務や役割に合うような任意の上位アプリケーション(例:チャットボットや音声認識ソフトなど)を用意し、それらと本基盤を接続することでDXツールを作成します。そうすることで本基盤に搭載されている、①業務システム・アプリケーションの操作対象の管理・制御機能(操作対象抽象化機能)と②業務状況の監視機能(業務状況抽象化機能)を利用可能です。
(1) 操作対象抽象化機能
従来は自動操作機能を持つDXツールを利用する場合、その開発者は図3のようにDXツールごとに個別の方法で操作対象を特定する情報の登録・修正などの管理が必要でした。本基盤を利用することで、操作対象を特定する情報に対して、可読しやすい一意な名称(固有名)を付与し、対応付けた情報を基盤内の操作対象データベースで一元管理可能とします。加えて、業務システム・アプリケーションの画面から操作対象の候補を自動的に抽出することで操作対象データベースの自動作成(1)や、業務システム・アプリケーションの更改時では画面のUI配置や内部構造に基づいて操作対象の変動先を推定し、操作対象データベースへ登録された情報の修正を可能とします。
(2) 業務状況抽象化機能
効率的に業務を遂行するには、刻々と変化する業務状況に応じた早期の対応が理想的です。一方、業務プロセスは複雑かつ多様であり、従来ではDXツールから正確かつリアルタイムに業務状況を把握するには個別に仕組みを実装する必要があり、簡単な活用が困難であったため、オペレータ自身で把握する必要がありました。業務を最大限に効率化するべく、DXツールを活用した業務状況のリアルタイムな把握を簡単に実現する仕組みを開発しました。
本基盤は画面上に表示された業務システム・アプリケーションの操作対象の変化を監視することで業務状況を判定します。あらかじめ、検出したい業務状況を「イベント」として定義し本基盤内の業務イベントデータベースへ登録することで、DXツール実行時にリアルタイムに判定可能です。図4のようにPC端末上などでの操作時にログとして記録される操作の「順序」と、画面内容などの「状態」を組み合わせたパターン(監視条件)を「イベント」として定義します。これは従来の正規表現*6から拡張された形態を採っており、その柔軟性から複雑かつ多様な業務状況の表現が可能です。DXツール実行時にはイベントと、実際に画面を監視し記録された操作ログをパターンマッチすることで業務状況を判定します。この際、既存の正規表現エンジンを利用することで高速化を実現し、リアルタイムな業務状況の把握が可能です(2)

*4 操作対象:操作対象データベースへ登録された、業務システム・アプリケーション上の画面要素。
*5 業務状況:業務プロセスの中でオペレータが実施した操作内容(システムの起動・ファイルの更新・値の設定など)。
*6 正規表現:一定の規則を持つ文字列のバリエーションを1つの文字列で表現する方法。主にパターンマッチングで利用される技術。

ビジュアルな設定を支援する「開発者ツール」

前述した連携ナビゲーション基盤の機能を簡単に活用するために、ビジュアルに設定可能な「開発者ツール」が用意されています。
まず操作対象抽象化機能について、図5のような設定画面が用意されており、業務システム・アプリケーションの操作対象を特定可能な情報を取得します。その際、複雑な業務環境を考慮した複数の方法(カーソル位置、クリック、フォーカスなど)から実施できます。その後は一意な固有名を付与することで、操作対象データベースへの登録が可能となります。
また業務状況抽象化機能についても、図6のような設定画面が用意されており、操作対象データベースへ登録された画面要素に対し、監視したい操作の「状態」(対象の存在・表示の有無、値の設定、位置の変化など)を選択することで基本的な監視条件(基本条件)として設定します。単一の操作でなく連続的な操作を監視したい場合は、複数作成した基本条件の検出順序も考慮し、複合的に組み合わせた条件(複合条件例:基本条件1→基本条件2、あるいは基本条件2→基本条件1として設定可能です。その後、基本条件・複合条件をイベントとして定義することで、業務イベントデータベースへ登録することができます。
以上のようにNTTアクセスサービスシステム研究所の技術をベースとした機能を利用することで、DXツールの作成・管理に要した作業が大幅に削減可能なうえ、幅広い業務状況をリアルタイムに判定可能になるため、多様な業務環境や役割に合わせたDXツールを簡単に実現できます。

連携ナビゲーション基盤を利用したDXツール活用例

■チャットボットと組み合わせた提案型の操作支援

OA業務をするオペレータ向けのDXツールです。業務集約や多様化によりRPAにより自動化された操作内容(シナリオ)の管理数が増加する中で、オペレータは業務状況ごとに実行するシナリオを把握することは煩雑であり、自らそれらを実行することは非効率です。オペレータのスキルや業務経験によらない高い業務効率性を創出するため、業務状況に合わせて最適なシナリオを自動的に提案する仕組みが求められます。
チャットボットと本基盤を組み合わせることで、業務状況抽象化機能によりリアルタイムに検出したオペレータの業務状況に合わせて、チャットボット側から操作の提案を受けることができ、対話しながら自動化シナリオを進めることができます。対話的に業務を遂行する中、1人称でノウハウを獲得することもでき、年次や業務経験などに限らず高く安定した業務品質を創出可能とします(図7(a))。

■音声UIと組み合わせた音声ベースの操作支援

現場作業をするオペレータ向けのDXツールです。主に屋外などの現場作業を主とするオペレータによるモバイル端末などの業務システム・アプリケーションの操作場面として、工具などにより手がふさがるようなシーンがあり、また悪天候時に長時間操作することで端末故障の原因にもなり得ます。このため従来のUIであるタッチ、キーボード・マウスでの操作でなく、以上の課題を解決可能な新しいタイプをUIとするDXツールが必要になります。
音声認識・音声合成ソフトと本基盤を組み合わせることで、画面を見ずに音声による業務システム・アプリケーションの操作が可能です(図7(b))。音声を用いた、作業に必要なマニュアルの呼び出しや業務システム・アプリケーションへの情報投入などを可能にすることで、マウス・キーボードやタッチなどをUIとする操作が困難な作業環境に対しての作業効率化が図れます。

今後の展開

このように連携ナビゲーション基盤は、接続する上位アプリケーションを替えるだけで、オペレータに対し多様な業務環境や役割に適したDXツールを簡単に提供することが可能になる技術です。本技術は、2024年度にNTTグループ内での導入を予定しており、そのサポートを実施しています。今後は、一般市場におけるビジネス化を推進していく予定です。

■参考文献
(1) 小矢・小宮山・片岡・大石:“システム自動操作のための対象抽出とマッピング方法の提案と評価,”信学技報, Vol. 121, No. 13, ICM2021-8, pp. 41-46, 2021.
(2) 小矢・片岡・大石:“操作ログを対象としたクエリの表現および検索方法の提案と評価,”信学技報, Vol. 121, No. 399, ICM2021-47, pp. 29-34, 2022.

(後列左から)大石 晴夫/田中 秀明/中島 一
(前列左から)小矢 英毅/小池 海希/横瀬 史拓

NTT研究所では、NTTグループ会社と連携し、オペレーションの効率化に資する技術の確立・発展とビジネス展開に取り組んでいきます。

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