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DX施策の幅広い展開と適用をサポートする業務改善支援技術

企業や自治体では、全社的な業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現のために、デジタル技術を活用した現場主導の業務効率化やDX推進部署による施策の展開等が進められています。DX推進の効果をさらに高めていくためには、現場とDX推進部署が互いに連携して、優良なDX施策を効率的かつ的確に広範囲へ展開するようなDXサイクルを実現することが必要です。ここでは、上記をめざしてNTTで開発した「業務改善支援技術」について紹介します。

小川 新治(おがわ しんじ)†1、2/内田 諒(うちだ りょう)†2
深井 美沙(ふかい みさ)†2/高木 郁子(たかぎ いくこ)†2
坂本 昌史(さかもと まさのぶ)†1、2/大石 晴夫(おおいし はるお)†2
土川 公雄(つちかわ きみお)†3/若杉 泰輔(わかすぎ たいすけ)†4
NTTネットワークイノベーションセンタ†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†2
NTT情報ネットワーク総合研究所†3
NTTフィールドテクノ†4

現場主導DXとDX推進部署連携でのDX施策の展開の重要性

変化の激しい社会・経済状況に合わせた業務効率化と新たな価値創出の双方を推進できるビジネス変革を実現するためには、デジタル技術の活用が有効です。企業や自治体では、デジタル技術による現場主導の業務効率化(現場主導DX)やDX推進部署によるデジタル技術の展開等の全社的な業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されています。
現場主導DXは、昨今ではRPA(Robotic Process Automation)等のデスクワークの自動化を実現するツールの活用により、業務での作業手順の自動化や効率化が進んできました。一方で、現場主導DXは現場個々の業務に最適化されて設計・実装されることが多く、他の現場にとっては現場主導DXの活用条件が自身の業務に適合するかどうかの判断が困難です。現状では、DX施策と現場業務とをそれぞれ人手で観察して比較するしかなく、他の現場の多様なDX施策から適用可能な事例を選定するだけでも多くの稼働がかかります。今後は、社会のニーズに合わせてスピード感を持って業務のやり方・手順を柔軟に改善することが重要です。これはDX推進部署においても同様の課題であり、全社的に波及する抜本的な業務改善のためにもDX施策の円滑な展開が重要です。このように、DX推進の効果をさらに高めていくためには、現場とDX推進部署が互いに連携して、優良のDX施策を効率的かつ的確に広範囲へ展開するようなDXサイクルを実現することが必要です(図1)。

業務改善支援技術の概要

NTTネットワークイノベーションセンタでは、前述の課題を解決するために、NTTアクセスサービスシステム研究所で確立した技術をベースに現場やDX推進部署ですぐに利用できるツールとして「業務改善支援技術」を開発しました。「業務改善支援技術」は、PC端末上で行われた操作の履歴情報(操作ログ)を活用して、DX施策と適用を検討している現場の作業手順とを定量的に比較・可視化する技術です。
「業務改善支援技術」では、現場やDX推進部署ですぐに利用できる以下の2種類のツールを提供しています。
・操作ログ取得ツール:PC端末上での画面・GUI(Graphical User Interface)の操作履歴を操作ログとしてリアルタイムに記録するツール
・操作ログ分析ツール:取得した2種類の操作ログのデータを読み込み、操作ログを作業手順として単純化し、作業手順の類似性を定量的に比較し、人が理解しやすい形式で可視化するツール
これらのツールを利用することにより、DX施策や適用を検討している現場の作業に対して、日々の作業からリアルタイムに蓄積された操作ログデータを用いて定量的に比較することができるため、業務の実態に応じて客観的にDX施策の適合性を判断しやすくなります。

操作ログ取得ツール

ログ取得ツールは、PC端末上での画面・GUIの操作履歴を操作ログとしてリアルタイムに記録するツールです。本ツールは、Windows環境のPC内で常駐し、作業者やRPA等の自動化ツールによる操作に応じて操作ログをファイル形式で記録します(動作環境については表1参照)。ログ取得ツールはユーザの入力操作や端末画面上のアプリケーションやウインドウ状態の変化を検知し、ユーザが行った操作を操作イベントとして取得します。また、その内容を任意の場所へログファイル(テキスト形式)として記録・保存することができます。さらに、操作イベントの検出に合わせて操作画面をキャプチャ画像として記録・保存することもできます。

操作ログ分析ツール

操作ログ分析ツールは、取得した2種類の操作ログのデータから作業手順の類似性を比較し、人が理解しやすい形式で可視化するツールです。機能としては以下の3つがあります。
(1)作業手順からの類似個所自動抽出・可視化
2種類の操作ログデータから、作業手順どうしの類似性を定量的に評価し、類似・非類似個所を可視化します(技術詳細については、以降の「操作共起性による類似度評価」を参照)。図2の画面は、2種類の操作ログデータの類似個所を分析・可視化した例です。例えば、DX施策の操作ログデータを比較基準とし、適用を検討している現場の作業の操作ログデータを比較対象としたときに、DX施策に類似している操作範囲が抽出されます。この範囲は赤枠でも強調されるため、作業手順が類似している個所が一目で分かります。同様に非類似個所についても設定により抽出可能です。
(2)作業手順の類似個所の詳細比較
(1)により抽出した類似の操作範囲を操作ごとに横に並べて、それぞれの類似個所を詳細に比較します。図3の画面は、類似する操作範囲に対して、各操作を横並びにして可視化した例です。例えば、比較対象とする操作ログの背景色が青または緑の場合は類似の操作、赤色の場合は異なる操作と一目で分かります(背景色表示の詳細は表2)。また、各操作に対して人が直接読んで内容が理解できるよう自然言語で表現された説明文に変換して表示します(技術詳細ついては、以降の「操作の説明情報生成」を参照)。この機能により、操作レベルでDX施策を展開できる操作を把握することが可能になります。
(3)操作ログからのマニュアル素材生成
操作ログとして取得した操作履歴のテキストデータと画面キャプチャデータを組み合わせて、作業手順とその作業対象の画面を組み合わせた文書ファイルをマニュアルの素材として生成します。これにより、DX施策や現場の作業に関する具体的な作業手順を把握でき、またDX施策の展開に向けたマニュアル作成の補助として活用できます。

NTT技術の特徴

■操作共起性による類似度評価

操作ログには、作業時の状況によっては操作の手戻りや別操作の割り込み等の揺らぎが含まれていることが多くあり、そのまま操作個々の類似性を比較するだけでは、類似作業であっても正しく類似性を判定することが困難です。そこで、NTTアクセスサービスシステム研究所では、類似作業での操作は相互に共起性を示すという、操作共起性を活用した業務の類似度評価技術を開発しました。この技術により、操作の揺らぎを吸収し、操作の前後が完全に一致していない作業が含まれる場合においても、類似する作業であれば正しく類似性を評価し、その操作範囲を抽出することができます。
操作共起性による類似度評価技術は、ある操作ログを基準のログ(基準ログ)として、操作対象とする別の操作ログ(対象ログ)から基準ログと類似する個所を抽出します。本技術の流れは以下のとおりです(図4)。
①基準ログから互いに近傍に位置する操作イベントの情報を共起行列として保存します。
②次に、対象ログ内のある操作から前後数操作のコサイン類似度を①でつくった基準ログの共起ベクトルの情報を用いて算出します。これを、対象ログ内の全操作に対して算出します。この共起ベクトルと対象ログ中の前後数操作の類似度を用いる点が本技術のポイントで、操作ログの持つ順序性をほどよく丸めることで、人間が認識する意味的な類似性に近い類似度を機械的に算出することができます。
③最後に、類似度を元に操作をグルーピングし、一致個所、および不一致個所として抽出します。

■操作の説明情報生成

操作ログには、操作が行われた時刻やGUI部品情報など、操作履歴を示す情報が記録されていますが、機械語となっており、そのままでは人が見て理解するには適していません。
そこで、NTTアクセスサービスシステム研究所では、人が理解しやすいラベルはGUI部品に隣接して表現されるという性質を活用して、GUI部品と対応付け、説明情報として活用できる技術を開発しました。本技術により、操作ログから自動的に操作手順を説明する文章が生成できるため、手間をかけずに操作内容を可視化することが可能になります。また、人が行った操作だけでなく、RPA等の自動化ツールにより行われた操作に対してログを取得し説明情報を生成することで、自動操作シナリオの実行内容の理解を容易にします。
本技術の流れは以下のとおりです(図5)。
①取得した操作ログに記録された型式を基に、説明文章としてふさわしい文型と、文章を構成する品詞をルールベースで決定します。
②HTML上の親子関係・表示画面上の位置関係という2つの要素に着目し、画面上のGUI部品の周辺情報から操作個所のGUI部品を説明する名詞(ラベル)との対応付けを推定します。
③①で決定した文型と②で取得したラベルを元に説明文章を生成します。

ユースケース

最後に、本ツールの活用シーンの例を紹介します。
(1)現場とDX推進部署の連携によるDXサイクルの実現
現場主導のDX施策の作業と施策導入を検討している現場の作業に対して、DX推進部署が本ツールを活用して定量的に比較し、適合可能な施策かどうかを分析・判断できます。これにより、現場の業務に則したDX施策を効率的かつ的確に展開可能になります。
(2)RPAシナリオの適用性評価による自動化範囲の拡大
DX施策としてRPA等で自動化した作業と人手作業を比較することで、RPAシナリオの対象範囲を特定することができます。これにより類似個所をRPA化対象の候補とすることや、また、相違個所については、さらなる業務効率化の検討対象とすることが可能です。
(3)作業効率の高い社員との比較による作業スキル向上の支援
本ツールを活用して作業効率の高い社員との作業手順の違いを比較することで、他の社員が実施していない優良な作業を見出し、これをスキル向上の教材とすることができます。この教材の活用により、全体の業務効率化を実現する新たなDX施策の創造に役立つ可能性があります。

今後の展開

現場とDX推進部署が互いに連携して、優良のDX施策を効率的かつ的確に展開するようなDXサイクルを実現するための「業務改善支援技術」について紹介しました。現在、本技術はプロダクト開発を完了しており、さまざまなDXを推進する施策への活用が可能です。今後は、一般企業への導入を通じた実業務への適用や一般市場におけるビジネス化を推進していく予定です。

(後列左から)坂本 昌史/高木 郁子/大石 晴夫
(前列左から)内田 諒/深井 美沙/小川 新治
(左から)土川 公雄/若杉 泰輔

NTTアクセスサービスシステム研究所では、NTTグループ会社と連携し、オペレーションの効率化に資する技術の確立・発展とビジネス展開に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
アクセスオペレーションプロジェクト 協働型オペレーション基盤グループ
TEL 0422-59-6646
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