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テクニカルソリューション

インフラ設備の安全性を確認するための取り組み──マンホールの振動解析

全国津々浦々に存在する通信インフラは高度情報社会を支えるうえで必要不可欠ですが、地域住民と調和し共存することが必要です。NTT東日本技術協力センタでは、車両の通行に伴う振動と設備との相互作用を調べ、設備が振動を増幅しないか調査する取り組みを行っています。ここでは、マンホールを例とし、理論計算シミュレーション(有限要素法)および交通振動を模擬する検討について紹介します。

はじめに

NTTグループは、全国各地でさまざまな通信インフラ設備を運営しています。その中には電話局や通信基地局だけでなく、電柱やマンホールといった公共の道路上に設置されるものも含まれています。そうした公共空間に設置される設備は、地域の方々の生活と調和しながら、その地域に通信をつなげるという非常に重要な役割を果たしています。
NTT東日本技術協力センタでは、通信設備が地域住民の生活を妨げないことを確認する取り組みの1つとして、マンホール周辺の交通振動調査を実施しました。ここではその内容について紹介します。

生活圏で発生する振動とその制限について

私たちが日々生活している空間にはさまざまな振動が発生しており、振動の大きさや発生する時間帯によっては生活の妨げになってしまう場合も存在します。代表的な振動の発生源として、工場の機械(プレス機、圧縮機など)、屋外での土木建設作業、電車や大型車両の通行などが挙げられます。
これらの振動に対して、その地域の住民の生活環境を保護するため昭和51年に振動規制法(1)が制定され、振動レベル〔振動の大きさを表す指標。単位:デシベル(dB)〕の要請限度が定められて以降、行政によって事業者への指導や道路舗装の修繕などさまざまな対処がなされてきました。なお振動レベルの要請限度は振動規制法施行規則(昭和51年政府令)によって、表1のように定められています。

交通振動に対するマンホールの影響調査概要

生活圏においてさまざまな原因で発生する振動のうち、大型車両の通行に伴って発生する交通振動は当然ながら道路上で発生し、地面を伝搬しながら人や建造物に届いていきます。このとき、振動が伝わる道路地下部にはNTTのマンホールが埋設されている場合があります。そこで技術協力センタでは、マンホール周辺の振動レベル調査と、道路橋等でみられる交通振動との共振(2)がマンホールで起きていないことの確認するために、交通振動に対するマンホールの影響を調査しました。

■調査①:振動レベル調査

前述のとおり振動規制法によると、各種振動源による振動のレベルを測定し、振動レベルが要請限度を超過しているか、という観点で評価されます。今回の調査では住宅地に設置されたマンホールを対象に、その周辺の振動レベルを測定しました。
振動レベルの測定にはJIS C 1510:1995(振動レベル計)に定められた測定器を使用し、図1に示すように、マンホール近傍と、その付近のマンホールが埋設されていない場所で実施しました。また再現性を担保するため、高所作業車(約6t相当)を時速50kmで走行させ、その際に生じる振動をそれぞれの地点において測定しました。振動レベルはJIS Z 8735(振動レベル測定方法)にのっとり、鉛直方向の振動に対し80%レンジの上端値を算出することで評価しました。80%レンジとは、図2に示すように複数の振動レベル値をその大きさ順に並べ、最大値と最小値のそれぞれの側からデータ量10%分ずつを除外したとき、残った80%の範囲のことを指し、80%レンジの最大値が上端値に該当します。図2の例では、振動レベルは55dBということになります。
振動レベルの測定結果(80%レンジの上端値)を表2に示します。測定を実施した地点における振動の基準値は60dBであり、今回の調査では基準値を超える地点は確認されませんでした。またマンホール近傍とその他の地点において、観測された振動レベルに大きな差はなく、マンホール近傍で特異に振動が大きく(または小さく)なっているといった事象はみられませんでした。以上より、対象としたマンホールの周辺において同様の車両が通行した際、マンホールの埋設有無による振動レベルの変化はみられないことが分かりました。

■調査②:振動周波数調査

前述の調査①で、マンホール近傍とその他の地点で振動レベルに差異はみられませんでしたが、大型車両の通行時に発生する振動とマンホールの共鳴が起きていないことを確かめるため、第二の調査として交通振動の振動周波数を測定しました。調査の目的は、現地で観測した振動の周波数と、マンホール筐体の固有振動数を比較し、マンホールの共振の有無を確認することです。固有振動数とは、その物体が自由振動するときの振動数を指し、外部由来の振動が固有振動数と一致すると、共振が発生し、大きな振動を生じます。今回は事前にマンホール筐体の図面から3Dモデルを作成し、有限要素法を用いたシミュレーションで固有振動数を算出しました。シミュレーションの結果、該当マンホールの固有振動数は228.1~359.6Hzであると推測されました。
現地調査では3軸加速度センサを使用しました。現地に設置した加速度センサにより振動加速度を測定し、得られた鉛直方向の加速度データをフーリエ変換することで周波数に換算しました。測定地点は調査①と同様に図1に示した3地点です。
現地で観測された車両通行時の振動周波数を図3に示します。地点①~③すべてにおいて20Hz前後の振動周波数が顕著であった一方で、マンホールの固有振動数帯(図3オレンジ色)には特段大きな振動は確認されませんでした。この50Hz以下の振動が顕著である観測結果は、過去に技術協力センタで実施した同様の調査結果や関連の交通振動に関連する文献(3)(4)と同様の傾向となっていました。以上より、該当マンホールには交通振動に起因する共振が起きていない、つまりマンホールは交通振動に寄与していない、ということが示唆されました。

まとめ

今回の交通振動調査より、対象のマンホール近傍とその付近の地点で振動レベルに大きな差はなく、また現地で観測された振動周波数とマンホールの固有振動数が一致しなかったことから、マンホールは交通振動に影響を及ぼしていないことが推察されました。
NTT東日本技術協力センタでは、引き続き技術的なアプローチを通して通信インフラを守るとともに、地域住民の皆様と共存可能な設備運用に貢献していきます。

■参考文献
(1) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000064
(2) 讃岐・梶川:“プロフィルメータでの測定路面から実路面への近似法の提案,”構造工学論文集,Vol.47A,pp.400-410,2001.
(3) 五十嵐・畠山:“高架道路からの交通振動の卓越周波数について,” 応用地質調査事務所年報, No.3, pp.75-82, 1981.
(4) 松岡:“地盤の特性と交通振動について,” 騒音制御, Vol.3,No.2, pp.20-23, 1979.

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部 技術協力センタ 材料技術担当
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