グローバルスタンダード最前線
ASTAP36参加報告
2024年5月20~24日に第36回ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)会合が、タイのバンコクにて、現地における対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。18カ国から152名が参加し(うち39名がオンライン参加)、4日間の標準化会議に加え、産業界の動向に関するインダストリー・ワークショップが行われ、各国の意見が交換されました。ここではASTAP36の開催概要について報告します。
中島 和秀(なかじま かずひで)
NTTアクセスサービスシステム研究所
ASTAPの概要と会議構成
アジア・太平洋電気通信標準化機関(APT:Asia-Pacific Telecommunity)は、アジア・太平洋地域におけるICT分野の開発促進を目的として1979年に設立された国際機関で、38カ国が加盟しています(1)。ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)はAPTが主催する標準化部門の会議で、1998年の設立以来、毎年1~2回の会合を継続的に実施しており、その主要な目的は、標準化分野におけるアジア・太平洋地域の協力体制を構築し、アジア・太平洋地域諸国の意向や施策を国際標準に効率的に反映することにあります(2)。
表1にASTAPの会議構成を示します。ASTAPの会議体は、WG(Working Group)とEG(Expert Group)の単位で構成されます。
■WG-PSC
WG-PSC(Policy and Strategic Coordination)は、電気通信に関する各加盟国の政策・戦略について議論・共有を行うグループで、①国際電通信連合-電気通信標準化部門(ITU-T:International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)に関するトピックを扱うEG-ITU-T、②途上国支援と技術普及をスコープとするEG-BSG(Bridging the Standardization Gap)、③政策・戦略等に関する議論を行うEG-PRS(Policies、Regulatory and Strategies)、ならびに④グリーンICTと電磁界防護に関する課題を扱うEG-GICT&EMF(Green ICT and Electro-Magnetic Field Exposure)、の4つのEGで構成されています。
■WG-NS
WG-NS(Network and System)は、①次世代網の議論を行うEG-FN&NGN(Future Network and Next Generation Networks)、②災害対策に関する議論を行うEG-DRMRS(Disaster Risk Management and Relief System)、ならびに③アクセスエリア通信に関する課題を扱うEG-SACS(Seamless Access Communication Systems)、の3EGを有しています。
■WG-SA
WG-SA(Service and Application)はサービスとアプリケーションに関する課題を所掌し、①IoTサービスに関する課題を議論するEG-IoT(Internet of Things Application/Services)、②セキュリティを議論対象とするEG-IS(Information Security)、③マルチメディアに関するトピックを扱うEG-MA(Multimedia Application)、および④情報の利便性・可用性について議論を行うEG-AU(Accessibility and Usability)、の4EGで構成されています。
1日目のオープニングの全体会合で、ASTAP全体の方針および各WGの状況と今会合の論点が共有されたのち、各EGの会合が2日間にわたりパラレルに行われました。
ASTAP36の主要成果と今後の予定
表2に今会合における各WG・EGの主要な成果を紹介します。
WG-PSCでは、ICTを活用した環境保全等に関する事例を取りまとめた新規APTレポート1件が承認・発行されたほか、ルーラルエリアにおけるICTソリューションの普及、あるいはアジア・太平洋地域における電磁界防護に関する取り組みに等に関する既存APTレポートの改訂・修正作業3件が計画どおり完了しました。
WG-NSでは、5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの構築における設備共有に関する新規APTレポート1件が承認・発行されました。本レポートの作成では中国および韓国からの意見提起が積極的になされており、無線インフラの設備共有に対する関心の高さが感じられました。
またWG-SAでは、高齢者支援を目的としたIoT技術に関する要求条件等を取りまとめた新規APTレポート1件が承認・発行されたほか、ITデバイスのセキュリティに関する参照情報をまとめた既存APTガイドライン1件の改訂作業が完了しました。
表3にASTAP37に向けた各WG・EGの主要トピックを示します。APTレポートもしくはガイドラインの制定・改訂に向け、3WG合わせて計21の課題について継続審議が行われる予定となっています。このうち11件が次回のASTAP37での承認・発行を予定しています。また、今回のASTAP36では、EG-FN&NGNにおいて、中国からの提案ならびにベトナムからのサポートにより、低空ネットワークとその実現技術に関する検討が新たな課題として合意・承認されました。本検討では、ドローンなどを活用した社会基盤の管理と、その実現に向けた要素技術などが議論される予定となっており、ASTAP39での承認・発行をめざすこととなりました。
インダストリー・ワークショップ
ASTAP36の標準化会議に併せて、表4に示す構成で、インダストリー・ワークショップが開催されました。3セッションがシリアルに行われ、セッション1ではサイバーセキュリティのサプライチェーンがトピックとして取り上げられました。日本および中国から、産業界と政府の協調活動、ならびに産業界における独自の取り組みについて、7件の事例が紹介されました。セッション2では、中小企業によるICT活用事例に関し、SDGs(Sustainable Development Goals)、ルーラルエリアにおける無線通信整備、ならびに量子計算など新たな技術領域、の3つの観点から、日本、中国、韓国、およびマレーシアにおける9件の技術紹介がなされました。最後にセッション3はAPTとITUの協調活動として企画され、標準化格差解消の観点からITUの尾上誠蔵局長、ならびにITUコーディネーションアドバイザの加藤彰浩氏から講演がなされ、参加者によるパネルディスカッションが行われました。
今後の予定
ASTAP37は2025年の開催を予定していますが、現時点で開催日と開催場所は未定となっています。次回もASTAP副議長がインダストリー・ワークショップを主催・併設することが合意されており、今年度と同様の形態で議論が行われる予定です。
■参考文献
(1) https://www.apt.int/APT-Introduction
(2) https://www.apt.int/APTASTAP