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テクニカルソリューション

ローカル5Gの構築、運用、保守をサポートするローカル5Gテスタの開発

ローカル5G(第5世代移動通信システム)を構築するには、導入するエリアで最適な通信環境となるようにシミュレーションなどを活用して事前に基地局の設置位置や出力などを決定し、基地局の設置後にエリア内が所望の電波強度となっているか調査します。また運用中に電波トラブルが発生した際には、原因の切り分けのための電波調査が必要となります。これらの電波調査にはスペクトラムアナライザなどの高価な専用測定器が必要となり、その操作や解析には高度な専門スキルが必要となります。そこで、NTT東日本技術協力センタでは、市販のPCとローカル5G端末のみで現場で簡単にローカル5Gの電波調査ができる「ローカル5Gテスタ」を開発しましたので、その概要と活用事例について紹介します。

ローカル5Gの概要

高速大容量かつ超低遅延といった特徴を持つ「第5世代移動通信システム(5G)」の一形態であるローカル5Gは、工場や農場等の特定のエリア内で利用者自らが構築、運用できる独自の5Gネットワークであり、昨今企業や自治体での導入が進んでいます。NTT東日本では、構築、運用、保守をトータルでサポートするマネージド型のローカル5Gサービスとして、「ギガらく5G」を提供しています(1)
ローカル5Gを構築するためには無線局免許の取得が必要なるため、シミュレーションなどにより基地局の設置位置や出力などを事前に検討する必要があります。また、基地局設置後には電波強度が設計どおり届いているか確認するため、エリア内で電波強度を調査します。また運用中に、例えば使用端末のスループットが低下する等の電波に起因するトラブルが発生することがあり、その原因の切り分けのため高価な専用の測定器を使用して電波強度(SS-RSRP:Synchronization Signal Reference Signal Received Power)や信号対ノイズ比(SS-SINR:Synchronization Signal to Signal to Interference plus Noise Ratio)、スループットをはじめとした電波の品質に関係するパラメータの測定と解析を実施します。
このようにローカル5Gの構築、運用、保守においては電波の測定と解析が必要になります。そこでNTT東日本技術協力センタでは、現場で簡単に電波の測定と解析ができる「ローカル5Gテスタ」を開発しました。ここでは、ローカル5Gテスタの特徴とその活用事例について紹介します。

ローカル5Gテスタの概要

ローカル5Gテスタの外観を図1に示します。本ツールは、市販のノートPCとローカル5Gに対応した端末で構成され、PCに技術協力センタで開発したソフトウェアをインストールすることで使用できます。PCと端末について、要求するスペックを表1に示します。ローカル5Gテスタは測定モード、VIEWモード、ヒートマップモードの3つのタブがあり、用途によりタブを切り替えて使用します。測定モードでは、構築、保守を実施するうえで必要となる電波品質や基地局に関するパラメータの測定データ(表2)をリアルタイムに表示し、電波強度が不足する場合など簡易に状況を表示する機能を持っています。また、測定したデータはログファイルとしてPC内に保存されます。VIEWモードでは、測定モードで取得したデータを読み込み、グラフ表示をすることができます。ヒートマップモードでは、電波強度やスループットなどの分布図を作成することができます。これらの機能により、PCとローカル5Gに対応した端末だけで現場で簡単に電波調査を実施することが可能となります。

ローカル5Gテスタの機能と特徴

■測定モード

ローカル5Gの構築時には、測定モード(図2)での、基地局の情報、無線パラメータのリアルタイムデータ取得機能が役に立ちます。測定モードでは、画面左上に無線パラメータのリアルタイム値と最大値を示し、画面右側のグラフで基地局からの電波強度を表すSS-RSRP、電波強度の信号対ノイズ比を表すSS-SINR、通信速度を表すスループット、変調多値数と誤り訂正符号化率を表すMCS(Modulation and Coding Scheme)の時間による変動を確認することができます。スループットの測定方法は画面左中央のトグルからiPerf(2)や測定サイトによる実測のほか、理論計算値を表示することができます。iPerfでは、iPerfサーバとの通信時のスループットを表示します。iPerfのオプションコマンドは、画面右上の設定ボタンから追加することができます。測定サイトでは、4つのWebサイト(fast.com、speedtest.net、ブロードバンドスピードテスト、フレッツ光速度測定サイト)から選択したサイトに接続して計測したスループットの時系列データを表示します。また、スループットおよびMCSではアップリンク、ダウンリンクの切替が可能で、画面右上の設定ボタンから選択できます。
ローカル5Gの運用、保守時においては、測定モードの画面左中央の簡易判定機能が役に立ちます。簡易判定機能ではSS-RSRPとSS-SINRの変動をインジケータで表示し、これらの値が低下したとき、その原因をインジケータ下に表示します。図2では、受信強度が不足していることを示しています。この機能により、電波トラブル発生時の原因を簡単に把握することができます。

■VIEWモード

測定モードで取得したリアルタイムデータは指定のフォルダに自動保存されるため、VIEWモード(図3)で保存したデータを読み込むことで、各種無線パラメータの測定データの詳細な時間変化をグラフで確認することができます。タッチパネル液晶のPCを使っている場合には、画面ピンチアウトによりグラフを拡大表示できる機能や、上下のスライドバーにより測定データ範囲を変更できる機能があり、現場で測定データの確認を簡単に実施することができます。

■ヒートマップモード

ローカル5Gの構築、保守時には、サービスエリアの位置による各種無線パラメータの測定データの分布も重要な解析情報となります。ローカル5Gテスタでは、ヒートマップモードにより、あらかじめ作成した図面を読み込んだ後、測定したい位置に対応する図面上のポイントをクリックすることで、その位置での無線パラメータの測定データやスループットの最大値、最小値、平均値を同時に取得し、それらの分布図を簡単に作成することができます(図4(a))。さらに、分布図作成後は画面上部のプロット対象のプルダウンから、表示する無線パラメータやスループットを選択することも可能です(図4(b))。さらに、画面左下の測定設定により、1ポイント当りの測定時間を任意に設定することが可能であり、例えば無線パラメータの5秒間の平均値や最大値、最小値を記録することができます。画面下のレンジにて、表示カラーの最大値や最小値のレンジを変更することもできます。作成した分布図は画像ファイルでの保存に加え、json(JavaScript Object Notation)形式で作業中のファイル保存をすることもでき、後から分布図を読み込んで無線パラメータを切り替えて確認することも可能です。

ローカル5Gテスタの活用事例

ローカル5Gテスタの活用事例として、ローカル5Gの端末のスループット低下の原因調査で使用した事例を紹介します。
ローカル5Gのある導入エリアにて、同一基地局の2つの無線装置(RU: Radio Unit)がそれぞれセルA、セルBの電波の境界エリアを形成しています。セルA内で2台の端末X、Yがアップリンク通信をするとき、端末Xのアップリンクのスループットに比べ、端末Yのアップリンクのスループットが低くなる現象が発生しました(図5)。この原因を調査するため、図5に示すようにセルA内でローカル5Gテスタ2台を端末X、Yとして、その位置を変えた際の無線パラメータの測定データ〔SS-RSRP、SS-SINR、スループット、MCS、PCI(Physical Cell ID)〕の変動を調査しました。
その結果を図6に示します。端末Xと端末Yをそれぞれ位置①から位置②へ移動したとき、端末YのスループットとMCSの値が変動することを確認しました(図6(c)、(d))。このとき、端末Yが受信するSS-RSRPの値が-93dBm以下であり、端末Xが受信するレベルと比べて15~20dB低いことが分かります(図6(a))。また端末Yの接続先セルがAとBで時間により変動していること、端末Yが受信するSS-SINRの値がセルAに接続している場合に比べて、セルBに接続した際に約8dB低下していることが確認できました(図6(b)、(e))。このSS-SINRの変動と接続先セルの変動がスループットの変動と一致することから、端末Yが端末Xとは異なるセルBに接続した際に、端末X側の通信の影響により端末Y側のSS-SINRが低下することで、スループットの低下につながったものと推定されます。
対策として、2つのセルが重ならないように、RUの設置位置やビームの方向を変えることが挙げられます。

今後の展開

ローカル5Gテスタは手軽に使用でき、現場でのローカル5Gの構築、運用、保守時の電波調査に活用できるツールです。今後はツールの展開を推進し、ローカル5Gの円滑な導入を支援するとともに、現場での早期トラブル解決をめざします。
技術協力センタでは、引き続き現場の課題解決に向けた技術協力活動を推進し、通信設備の品質向上、信頼性向上に貢献していきます。

■参考文献
(1) https://business.ntt-east.co.jp/solution/local5g/usecase/
(2) https://iperf.fr/

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ EMC技術担当
TEL 03-5480-3711
E-mail gikyo-ml@east.ntt.co.jp