グループ企業探訪
個人や企業がweb3サービスやブロックチェーン技術を容易かつ安全に利用できる環境づくりを推進
銀行や証券、保険などの金融分野に、ICTを組み合わせることで新しいサービスや事業領域を生み出す“FinTech”という言葉が2000年代初期に米国に登場し、2008年のリーマンショックの影響でITエンジニアをはじめ多くの人材が金融業界を離れ、ベンチャーとしてFinTech企業を立ち上げました。その後FinTech関連市場は伸び続け、2021年の2450億ドルから、2030年までに1兆5000億ドルへと6倍に成長すると予測されています。FinTechに関する暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)等のweb3(ブロックチェーン)技術を意識することなく容易かつ安全に利用できる環境づくりをめざして取り組んでいるNTT Digital櫻井俊明取締役に、ユースケースの開拓事例と、それを人々にとって新たな価値を感じられるソリューション・サービスに仕立てていく思いを伺いました。
NTT Digital
櫻井俊明取締役
ブロックチェーン技術などを利用した商品・サービスを企画、開発し、「scramberry WALLET」サービスを提供
■設立の背景と会社の概要について教えてください。
NTT Digitalは、NTTドコモの子会社として2022年12月に設立され、2023年から本格始動しました。2024年7月に、NTTドコモ・グローバルの子会社となり北米・アジア・中東を中心にグローバル事業も展開しています。
「Free to Trust:人と人、人とモノ、社会のあらゆる繋がりに新たな意味が生まれるように。何を信じて、何を選ぶか。その自由に向き合い続けます」をビジョンに掲げ、最先端のデジタル技術の社会実装に向けて、個人や企業がブロックチェーン技術を容易かつ安全に利用できる環境づくりを推進しています。
■どのような事業展開をしているのでしょうか。
ブロックチェーン技術を利用した商品・サービスの企画、開発を行っています。具体的にはデジタルウォレットを開発しており、秘密鍵のバックアップや生体認証の活用、不正取引のフィルタリングなどにより、web3やブロックチェーンを意識せず安心して利用いただくことをめざしています。
個人向けサービスとして、2024年3月に「scramberry WALLET」をリリースしました。このサービスは、暗号資産やNFTを送受信・管理することのできるスマートフォン向けデジタルウォレットで、初めて暗号資産やNFTに触れる方でも直感的に使いやすい設計で、電話番号によるSMS認証で簡単に登録でき、リカバリーフレーズやチェーンといった専門知識がなくても利用できる点が特徴です。
さらに、2024年9月には法人向けサービス「scramberry WALLET SUITE」をリリースしました。これは、「scramberry WALLET」の各機能をAPI(Application Programming Interface)/SDK(Software Development Kit)にて提供し、お客さまのアプリにあらかじめデジタルウォレット機能を組み込むことができるサービスで、エンドユーザにとって新たなアプリのダウンロードや切替が必要なく、慣れ親しんだ体験をそのままアプリで使っていただくことができます。法人のお客さまにとっても、自社ブランドやサービスを引き続き訴求できるというメリットがあります。
■具体的取り組み事例としてどのようなものがあるのでしょうか。
2024年4月、W TOKYOが主催する「東京ガールズコレクション(TGC)熊本2024」のイベント参加者向け公式スマホアプリの企画・設計を支援しました。TGC熊本の公式アプリにウォレットを組み込み、会場でミッションを達成するとデジタルステッカーなどの特典をNFTとして受け取れる仕組みを構築しました。
2024年5月には、企業の枠を超えて、NFTを活用した新たなマーケティングの可能性を探索することを目的に、共創プロジェクト「web3 Jam」を立ち上げ、2024年10月現在20社に参画いただいています。
NFTが世の中に出てきたのは数年前です。特定の分野では、世界的に人気が出て取引価格の高騰もニュースにも取り上げられましたが、そこから先、どんな有効な使い方があるのかという観点から、現在は探索中の段階です。正解のない時代ではありますが、新たな企業間連携をベースにして、参画企業と知恵を絞って、具体的なテーマや施策を検討し、2025年初期にユーザ向けにサービス提供を予定しています。
また、NTTグループとJリーグが協働で取り組む気候アクションプロジェクト「TH!NK THE BALL PROJECT」の今後の展開として、NTT DATAの提供する「fowald」に弊社の「scramberry WALLET SUITE」を実装することにより、アプリを通じた気候アクションの活動証明やNFTリワードの獲得など、より快適で新しい利用体験を実現する予定です。
このほか、「scramberry WALLET SUITE」関連で、約6億人のユーザにゲームのプラットフォームを提供するnow.gg社(米国)と基本合意書を締結し、「scramberry WALLET SUITE」を利用するユーザがほかのユーザやゲーム配信企業との間で暗号資産やNFTを安心・安全に送受信することを可能とする環境構築を推進しています。また、卒業アルバム業界大手のマツモト社と基本合意書を締結し、卒業アルバムに「scramberry WALLET SUITE」のブロックチェーン技術を掛け合わせた“デジタル卒アル”の実証実験を、モデル校として選ばれた小中学校・高校とともに取り組んでいます。児童・生徒1人ひとりに「世界に1つだけの卒アル」を発行することで、進学や就職で離ればなれになっても、友人や恩師との絆を続けられる仕組みをめざしています。
デジタルデータの資産価値を応用するユースケースを開拓し、人々にとって新たな価値を感じられるようなソリューション・サービスに仕立て上げる
■市場環境はどのような状況でしょうか。その中、どのような事業に注力されていますか。
約20年前、日本にネットバンキングが登場し始めました。当時はウイルス付きメールやハッカーをはじめとするインターネット上のセキュリティ問題が注目され始めたころで、それらに対する懸念からネットバンキングが広く浸透するような状況ではなく、例えば振込み1つとっても銀行等の窓口に出向いていくことが一般的でした。
現在では多くの人が当たり前のように、PCはもちろんスマートフォンでネットバンキングを利用しています。それ以外のシーンでもスマートフォンで決済することが一般的になりました。これには各種アプリの登場・進化、スマホそのものの存在、UX(User Experience)の向上も大きな理由ですが、技術に対して大衆への認知が高まり、ユーザの意識・感覚が変化してきたことも大きいと考えています。
web3はこれまで価値を可視化できなかったモノやコトに新しい価値を付与でき、私たちの生活に大きな変化をもたらすテクノロジですが、ネットバンキングのケースと同様、多くの人々の生活に浸透するにはまだステップが必要だと認識しています。
今後NTT Digitalはユースケースを開拓することにより、ブロックチェーン技術のさらなる社会実装をめざしていきます。
■今後の展望についてお聞かせください。
web3は単独でソリューションとなるわけではなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)および注目を集めているAI(人工知能)などと組み合わせて取り組む必要があり、弊社の技術だけでお客さまに「価値を提供できる」ソリューションを組み立てるのは難しいと考えています。NTTグループを含めさまざまなパートナーの皆様と連携して、人々にとって新たな価値を感じられるようなソリューション・サービスに仕立ててお届けできるよう、中長期的に取り組んでいきたいと考えています。そのために、ユースケースをいかに早く、多くつくっていくのかということが今後のテーマです。
web3関連で何ができるのか等の質問があれば、気軽にお問い合わせください(pr@ml.nttdigital.io)。
*出典:「Global Fintech 2023: Reimagining the Future of Finance」、Boston Consulting GroupとQED Investorsによる共同調査レポート、2023年5月。
担当者に聞く
連携企業とともにブロックチェーンの社会実装をめざす
セールス&マーケティング部
伊藤 篤志さん
■担当されている業務について教えてください。
2024年5月にスタートした、ブロックチェーン技術を活用した企業間の共創プロジェクト「web3 Jam」を担当しています。
現代社会において、企業には利益の創出だけでなく、社会的価値のある取り組みも求められています。これを1社ごと個別に取り組むには限界があります。そこで、さまざまな企業が協力すれば経済性と社会的責任を両立できる可能性が高まります。しかしながら、ほとんどの企業では各社ごとに独自のデータベースが存在し、連携には多くの課題があります。「web3 Jam」は、ブロックチェーンを活用しユーザのNFT保有状況を企業間で共有できるようにするプロジェクトで、例えば各社ごとに設定されたミッションをクリアするとNFTが獲得でき、参加企業のNFTを集めることでスペシャル特典がもらえる、といったような、これまでは難しかった企業間の連携・相互送客に関する取り組みが可能となります(図1)。
このプロジェクトにおいて取り組む社会テーマとして、隠れた逸品や名店をアピールするなど、その地域の価値を実体化する「地域のポテンシャルを掘り起こす」、ゲームなどに夢中になっている間に、気付いたら健康になるといった仕組みをめざす「健康を遊びながら手に入れる」、推しをとおして自分の世界を広げ、やりがいや喜びを見つける人を増やす「本当に大切なモノや人とつながる」を掲げ、参画企業とワークショップを重ねながら具体的な相互連携施策を検討しています。
こうした魅力的な施策を提供し、ユーザを巻き込みながらブロックチェーンの社会実装をめざします。
ユーザが安心できるweb3体験を提供
サービス開発部
福田 雅浩さん
■担当されている業務について教えてください。
2024年3月にサービスリリースした、暗号資産やNFTを送受信・管理できる“みんなのデジタルウォレット”「scramberry WALLET」を担当しています。
「scramberry WALLET」は、使いやすさと安心・安全に焦点を当て、電話番号のみでスピーディに初期登録できることや、直感的で分かりやすいUI(User Interface)/UXが特徴で、ブロックチェーンに対して専門的な知識がない方でもスムーズに利用できることが特徴です。秘密鍵のバックアップや生体認証などの機能も搭載しており、ユーザが安心できるweb3体験を提供します(図2)。
また、2024年9月には、「scramberry WALLET」の各機能をAPI/SDKとして、法人のお客さまに提供するサービス、「scramberry WALLET SUITE」をリリースしました。既存のアプリやサービスにデジタルウォレットを組み込むことができるため、web3やブロックチェーンを意識しなくても、ユーザは新たなアプリのダウンロードや切り替えをすることなく、慣れ親しんだかたちでデジタルウォレットを体験することができます。
これらのリリースに先行して、2024年4月にイベントにおけるNFT活用のトライアルを実施しました。ファッションイベント「TGC 熊本 2024」の公式アプリに、NTT Digitalがデジタルウォレット機能を実装し、会場内でスタンプラリーなどに参加すると出演者のデジタルステッカーやドリンク引換券をNFTとして受け取れるサービスを提供しました。
ア・ラ・カルト
■社内部活動:映画部
NTT Digitalには映画部、ランニング部といった社内部活動が盛んに行われているそうです。中でも、2024年7月に発足して間もないのが映画部です。
普段の業務ではなかなか知ることができないお互いの趣味や人間性を、映画鑑賞をとおして理解し、チームワークマインドを育てたいとの思いに、スタートアップならではのイベントをやって楽しみたいという気持ちが加わって、NTT Digitalの会社発足のキックオフ後の懇親会でのアイデアから始まったとのことで、現在のメンバーは10人ほど、管理職からインターンまでいろいろな社員が参加しています(写真1、2)。
活動は、業務終了後に会議室に集まって、お菓子を食べながら映画を鑑賞するというもので、ITやスタートアップ企業を題材にした作品を中心に皆が観たいタイトルを出し合い、その都度決めています。7月に行った第1回の活動では30年前にタッチパネル搭載のスマートフォンをつくろうとした伝説的なベンチャーチームの物語『GENERAL MAGIC』を鑑賞しました。9月に第2回を開催し、以後不定期にて開催予定とのことです。
上映中は全員映画に集中していますが、興味深いシーンでは会話が生まれることもあるそうです。鑑賞後はすぐ帰る人もいれば、映画の中のスタートアップと自分たちを重ね合わせ、もっと頑張ろうといった会話をしたり、お互いの好きなことや感想などを話したり、自由な雰囲気の中に、スタートアップならではの思いが満ち溢れているそうです。