特集2
国策との協調により社会実装の早期実現をめざす
佐藤 晋也
NTTインフラネット
スマートインフラ推進本部 インフラDX推進PT
私が所属するNTTインフラネット スマートインフラ推進本部では、2019年5月NTT持株会社発表の中期経営戦略における、人・技術・資産を活用した新事業の取り組みである「スマートインフラ事業」を推進しています。
これまで、各インフラ事業者の「設備」「施工」「データ」等のリソースは、それぞれが所有するスタイルでしたが、既存設備の共同利用や、新規構築設備の共同構築、データの相互利用等により効率化を図り、インフラ事業者が抱える設備の老朽化や技術者不足といった共通課題の解決に向けて取り組んでいます。特にデータの相互利用においては、各インフラ事業者の設備情報のデジタル化に加え、共通の位置情報やインデックスなどのデータの統一的な規格の制定が必要不可欠です。そこで、国を巻き込み、データの相互利用を含む社会課題の解決に向けた取り組みの提案や実証への参画などを通じて国策へ昇華させることにより、社会実装の早期実現をめざしています。
2023年から、国土交通省都市局がさまざまなプレイヤと連携し推進する都市デジタルツイン実現プロジェクト「PLATEAU」に参画し、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化に取り組んでいます。都市再開発等における建設計画時には、周囲の地下インフラ設備への影響が懸念されることから、各インフラ事業者と個別に調整しながら各社が保有する設備情報を収集する「埋設物調査」により周囲の埋設物状況を把握し、必要により対策を講じています。このため、埋設物調査に時間を要し、さらに、設備情報のデータ仕様が各社異なることから、データを統一的に読み解くことが非常に困難であり、協議のやり直しや手戻りなどが発生し大きな負担となっています。
私は2008年にNTTインフラネットに入社し、算定や工事監督、埋設物調査、近接施工、設備管理、渉外、現在の地図事業と多岐にわたる業務分野に携わってきましたが、過去に埋設物調査の際に、前述の課題を実際に体験し、苦慮したことを覚えています。
さて、2023年の実証実験では大手町・丸の内・有楽町エリアおよび品川駅港南口エリアを実証フィールドとして、電力・ガス・上水道・下水道・通信・熱供給の各インフラ事業者から地下埋設物データ提供にご協力いただき、これを基にデータクレンジングや三次元情報の付与、高精度3D空間情報を用いた位置補正等を行い、データ形式を国際標準規格であるCityGML(Generalized Markup Language)形式にすることにより、標準製品仕様書に基づく3D都市モデル(地下埋設物モデル)を整備しました。このデータ再構築手法を方法論として確立し、地域特性を考慮することで全国的な三次元地下埋設物モデルのデータ整備として拡大を図ることができます。
また、作成した地下埋設物モデルを用いて、3DWebGIS(Geography Information System)エンジンとデータベースを統合したシステムを開発しました。このシステムでは希望する範囲の地下埋設物モデルのダウンロード、BIM(Building Information Model)のインポートおよび表示、三次元的な掘削範囲情報の入力による地下埋設物の影響判定が可能です。これにより、ステークホルダーの埋設物情報収集に要する時間の大幅な削減、ダウンロードした地下埋設物モデルをBIMソフト上で表示し地下埋設物位置情報を把握しながらの設計や、影響が想定されるインフラ事業者の判別が可能となります。
実証実験では、デベロッパー、建設設計事業者および各インフラ事業者の方々に開発したシステムを体験いただきましたが、埋設物調査の稼働削減効果に関するコメントが多く寄せられ、1日でも早い社会実装への期待をいただきました。一方で、社会実装に向けて、地下埋設物情報のセキュリティ担保やシステムの運用方法の整理、地下埋設物モデルのデータ更新手法の確立等の課題も指摘されました。
近年、建設・土木業界でもICTの導入が進んでいます。一方で、従来のやり方を踏襲した業務・作業も多く残っています。先人たちが築いた社会インフラがあるからこそ、私たちはこの便利な世の中で日常を送ることができています。今回紹介した取り組みを社会課題解決の一助とし、後世の人たちにより良い、暮らしやすい世の中を提供していきたいと思います。