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電柱や管路に依存しない簡易敷設光ケーブル技術

NTT ネットワークイノベーションセンタは5G(第5世代移動通信システム)、6G(第6世代移動通信システム)需要や社会のIoT(Internet of Things)化進展に向けて光ファイバ網のさらなるカバレッジ拡大に取り組んでおり、電柱や管路に依存しない簡易敷設光ケーブル技術を開発しました。この技術では、これまで光ケーブル敷設をする際に必要とされていた電柱や管路等の基盤設備を必要とせず、道路掘削等の大規模工事をすることなく光ケーブルを敷設することが可能となりました。ここではアスファルト舗装面に形成した溝へ光ケーブルを敷設することで路面配線を実現した簡易敷設光ケーブル技術の概要と特徴について紹介します。

松橋 和生(まつはし かずお)/柳田 晃宏(やなぎだ あきひろ)
小林 駿(こばやし しゅん)/前原 泰弘(まえはら やすひろ)
清水 智弥(しみず ともや)
NTTネットワークイノベーションセンタ

光ケーブルの敷設技術と課題

現状、光通信を提供するために光ケーブルを敷設するには、ケーブルを保護するために基盤設備として地中に管路やマンホールを構築するか、地上に電柱を立ててケーブルを敷設する必要があります。特に、管路を構築する場合には道路の開削工事が必要となり、道路占用手続きや工事期間中の交通規制等が必要な大規模な工事となります。しかしながら、今後の光通信の需要はIoT(Internet of Things)デバイスの普及や6G(第6世代移動通信システム)基地局整備などに伴い、すでに無電柱化されている都市部や、基盤設備のない郊外エリアや農場や工事現場等への新しい需要に対しても柔軟かつ迅速に対応していくことが求められています(図1)。
例えば、既存電柱等の設備がない山間部においては、提供場所までの区間に新たに電柱を建てて光ケーブルを敷設する必要があります。また、国立・国定公園などでは景観保護の観点で電柱を立てることさえ困難である場所があり、従来技術では光ファイバの提供が困難であり、地下管路を構築して光ファイバを提供するには大規模な道路開削工事を行う必要があります。
また、すでに無電柱化されている都市部において街灯や地上変圧器、公衆電話ボックス等に新たに光ケーブルの敷設が必要となり、既設の管路が使えないなどで管路構築が必要な場合は、当該個所の道路を開削する大掛かりな工事が必要となります。そのため、交通量の多い都市部においては、新たな管路の構築に容易に道路工事許可が下りなかったり、深夜帯のみの工事許可となったりするなどの多くの制限事項があり、光ケーブルの敷設を困難としています。
そこで、管路や電柱などの基盤設備を構築することなく、迅速かつ低コストで簡易に光ケーブルを敷設する技術が求められています。

簡易敷設光ケーブル技術

■電柱や管路を介さない路面配線技術

私たちが開発した簡易敷設光ケーブル技術では光ケーブルを敷設する際に必要となっていた基盤設備の構築を不要とし、アスファルト路面に構築した溝内へ光ケーブルを敷設することで、迅速かつ低コストに光インフラを構築することができます。
図2は簡易敷設光ファイバ技術の構成例です。路面上に市中品のロードカッターを用いて溝を形成し、その中に路面配線用光ケーブルを敷設することでモバイル基地局等まで効率的に光ケーブルを構築します(図3)。また、光ケーブルどうしの接続は、一括接続コネクタを用いて接続ができるため、クロージャを設置することなく、短時間かつフレキシブルな構築が可能です。基地局等には路面上に形成した簡易な接続ボックスや路面配線用薄型クロージャを設けて路面配線用光ケーブルから路面配線用ドロップ光ファイバを分岐して引き込みが可能です。

■簡易敷設光ケーブル技術に用いる物品の基本的構造

簡易敷設光ケーブル技術に用いる路面配線用光ケーブルは、道路工事で使用される汎用のロードカッターの刃が8mm程度であることから、外径が約6mmの光ケーブルに最大40心の光ファイバ心線の実装をするため、ケーブルの外被には従来のLDPE(低密度ポリエチレン)より剛性の高いHDPE(高密度ポリエチレン)を用いて細径性と強度の両立を実現しました(1)。また、路面上に配線する場合は水平方向の曲げだけではなく、段差を超えるための垂直方向の曲げも加わるため、抗張力体(テンションメンバ)には従来物品より細径な抗張力体を8本、外被内に円周上に配置することにより、従来ケーブルと同等の機械的特性を担保しつつ、細径でケーブルの曲げに方向依存性のない可とう性を有するケーブルを実現しました(2)。従来物品と開発品の比較を表1に示します。
表2に示す一括接続コネクタは多心MPO(Multi-fiber Push-On)コネクタとアダプタ、ハウジングにより構成されており、24心の一括接続が可能です。従来であれば接続用クロージャに光ケーブルを固定し、光ファイバ心線を4心(1テープ)ずつ繰り返し融着接続を行い接続する必要がありましたが、本技術では工具などを用いることなく、コネクタどうしを勘合させることで容易に接続が可能となり、短時間に光ケーブルどうしの接続が可能となります。また、路面上に設置されることを考慮し、大雨等による長期浸水時においても品質を担保できるように防水機能を具備しています(3)
引込に用いる路面配線用ドロップ光ファイバは既存の架空ドロップ光ファイバと同様に最大8心とし、形状も既存の架空ドロップ光ファイバの構造をベースとしました。これにより、新たな物品や工法をつくることなく、既存の現場組み立てコネクタや構内キャビネット等での施工が可能となりました。

■簡易敷設に求められる特性

光ケーブルを敷設するアスファルト舗装路面は温度変化によって伸縮することが知られていますが、材料の固さの指標となる弾性率ではアスファルトは光ケーブルと比較して一桁以上高く固いことから、アスファルトは温度上昇に合わせて膨張し、それに合わせて光ケーブルには圧力が加わり強制的に変形させられることになります。そこで、光ケーブル、ドロップ光ファイバは従来の物品に求められる特性に加えて路面からの強制変位の影響を受けない特性が必要となります(4)
温度変化による道路全体の伸縮量は下記の計算に基づき推定が可能で、道路幅10mに対して伸縮量は5mm程度となります。

伸縮量=アスファルトの線膨張係数(K)×道路幅(D)×温度変化(Δt)
K=1×10-5 Δt=50℃ D=10m

本技術では形成する溝の深さを舗装面のアスファルト層の中間にとどめることにより、溝とアスファルト層が一体となって温度変化による影響を受けることで、路面伸縮による影響を幅8mmの溝に発生する影響のみに抑え、路面からの強制変位の低減を図りました。溝幅8mmにおいて発生する道路伸縮の影響は上記式から0.1mm未満となりますが、1mmの変形圧力が光ケーブルに印加されても影響を起こさない特性を担保することで、路面伸縮の影響を受けないことを目標に光ケーブルを開発しました。細径かつ路面からの強制変位を受けないケーブルを実現するために、光ケーブル外被の材料や、抗張力体の材料やサイズ、本数を変えて検証を繰り返し、外被材にはHDPEを、抗張力体には細径のアラミドFRP(Fiber Reinforced Plastic)を8本用いることで、細径性、可とう性を持ち、路面からの強制変位に耐えられる簡易敷設光ケーブルを開発しました。
今回開発した光ケーブルに路面からの強制変位を模擬してケーブル圧縮試験をした結果1670N/100mmの荷重において1mmの変位を生じ、この変位における光損失の増加は0.05dB/心以下であり、温度収縮による路面からの強制変位の影響がケーブル特性にあたえないことを示しました(図4)。

路面配線用光ケーブルの路面への施工方法

路面配線用光ケーブルの路面の施工手順は、(a)溝の形成、(b)溝への光ケーブルの敷設、(c)溝への充填材の充填の3つの手順で行います(図5)。
まず、路面への溝の形成にあたり、溝の形成予定の位置にチョーク粉等でマーキング作業を実施します。次に、マーキングした個所に沿って、市中品のロードカッターで切削し、光ケーブルを敷設するための溝を形成します。形成する溝の幅は、汎用カッター刃の厚さを考慮して8mmとしました。また、深さは一般的な舗装厚が50mm程度であることから、その中に光ケーブルが収まるように20~30mmとしています(図5(a))。続いて、形成した溝に光ケーブルを敷設します。ケーブルドラムからの繰出しについては、架空や地下ケーブルの敷設でも使用しているドラムローラを活用し、繰り出し作業が実施できます(図5(b))。最後に、溝に敷設したケーブルと道路舗装面の保護を目的として、一般的な道路補修工事などで用いられる充填材を溝へ充填します(図5(c))。
施工において特殊な工具や建設機械は用いることはなく、ロードカッターも管路構築をする際の道路開削工事で用いる市中品の建設機械であり、従来の基盤設備構築工事で用いる工具や建設機械で施工ができるようになっています。
なお、今回は主に直線区間における施工方法を記載していますが、曲線用の汎用ロードカッターを用いることにより曲線区間などへの施工も実施可能なほか、縁石や側溝を横断して施工する基本技術についても開発を行っています。

今後の展望

本稿では、電柱や管路などの基盤設備に依存することのない、路面への光ケーブルの敷設を実現した簡易敷設光ケーブル技術とその施工方法について紹介しました。IoTや6G基地局整備の推進のために、従来技術では提供が困難であった場所へも光ファイバ網をきめ細やかに提供する必要があります。この技術を用いることで、大規模工事が必要であった基盤設備の構築が不要となり、光ファイバを短時間かつフレキシブルに届けることが可能になります。今後もNTTネットワークイノベーションセンタでは、光ファイバ網のさらなるカバレッジ拡大に向け、引き続き取り組んでいきます。

■参考文献
(1) 櫻井・大矢・菊池・山田・鉄谷・谷岡:“路面配線光ファイバケーブルの機械特性に関する検討,”信学ソ大, B-13-15, 2021.
(2) 櫻井・大矢・菊池・山田・鉄谷・谷岡:“路面配線光ファイバケーブルの基礎検討,”信学総大, B-13-26, 2021.
(3) 柳田・小林・松尾・前原・清水・山田:“路面配線光ファイバケーブル技術の開発,”信学ソ大, B-13-03, 2024.
(4) 柳田・小林・松尾・前原・清水・山田:“路面配線光ケーブルが路面から受ける側圧特性評価の基礎検討,”信学総大,B-13-10, 2024.

(後列左から)小林 駿/清水 智弥/前原 泰弘
(前列左から)柳田 晃宏/松橋 和生

光ファイバ網のさらなる機能向上に向けた研究開発に今後も取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTネットワークイノベーションセンタ
アクセスインフラプロジェクト 光線路設備高度化グループ