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グローバルスタンダード最前線

ASTAP37参加報告

2025年4月21~25日に第37回ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)会合が、タイのバンコクにて、対面形式で開催されました(インダストリー・ワークショップ、ならびにオープニングおよびクロージングプレナリのみハイブリッド形式で開催)。19カ国から137名が参加し(うち35名がオンライン参加)、標準化会議に加え、産業界の動向に関するインダストリー・ワークショップが行われ、各国の取り組みが紹介されました。ここではASTAP37の開催概要について報告します。

中島 和秀(なかじま かずひで)
NTTアクセスサービスシステム研究所

ASTAPの概要と会議構成

アジア・太平洋電気通信標準化機関(APT: Asia-Pacific Telecommunity)は、アジア・太平洋地域におけるICT分野の開発促進を目的として1979年に設立された国際機関で、38カ国が加盟しています(1)。ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)はAPTが主催する標準化部門の会議で、1998年の設立以来、毎年1~2回の会合を継続的に実施しており、その主要な目的は、標準化分野におけるアジア・太平洋地域の協力体制を構築し、アジア・太平洋地域諸国の意向や施策を国際標準に効率的に反映することにあります(2)
表1にASTAPの会議構成を示します。ASTAPの会議体は、WG(Working Group)とEG(Expert Group)の単位で構成されます。

■WG PSC

WG PSC(Policy and Strategic Coordination)は、電気通信に関する各加盟国の政策・戦略について議論・共有を行うグループで、①国際電気通信連合-電気通信標準化部門(ITU-T:International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)に関するトピックを扱うEG ITU-T、②途上国支援と技術普及をスコープとするEG BSG(Bridging the Standardization Gap)、③政策・戦略等に関する議論を行うEG P&R(Policies and Regulations)、ならびに④グリーンICTと電磁界防護に関する課題を扱うEG GICT&EMF(Green ICT and Electro-Magnetic Field Exposure)、の4つのEGで構成されています。

■WG NS

WG NS(Network and System)は、①次世代網の議論を行うEG FN&NGN(Future Network and Next Generation Networks)、②災害対策に関する議論を行うEG DRMRS(Disaster Risk Management and Relief System)、ならびに③アクセスエリア通信に関する課題を扱うEG SACS(Seamless Access Communication Systems)、の3つのEGで構成されています。

■WG SA

WG SA(Service and Application)はサービスとアプリケーションに関する課題を所掌し、①IoTサービスに関する課題を議論するEG IoT(Internet of Things Application/Services)、②セキュリティを議論対象とするEG IS(Information Security)、③マルチメディアに関するトピックを扱うEG MA(Multimedia Application)、および④情報の利便性・可用性について議論を行うEG AU(Accessibility and Usability)、の4つのEGで構成されています。
初日のインダストリー・ワークショップに続き(後述)、4日間の日程でオープニングおよびクロージングのプレナリ、ならびに各WGおよびEGの会合が行われました。

ASTAP37の主要成果と今後の予定

表2に今会合における各WG・EGの主要な成果を紹介します。
WG PSCでは、アジア・太平洋地域におけるグリーンデータセンタの実現に向けた取り組みに関する質問状の発出、ならびにITU-T SG3との協調活動に関するリエゾンの発出が合意されました。また、EG ITU-T、BSG、およびP&Rでは、EG名の変更を含む検討課題に関する軽微な修正が行われました。
WG NSでは、6G(第6世代移動通信システム)以降のネットワークサービスに関する要求条件、ローカルエリア・プライベートネットワークにおける災害耐性の向上、ならびにスモールセル・アクセスネットワークにおけるミリ波伝送アプリケーションに関する3件の新規APTレポートの発行が承認されました。
またWG SAでは、アジア・太平洋地域における緊急時のリレーサービスの現状、および新型コロナウイルス感染症下におけるコンテンツデリバリーネットワークの課題と要求条件に関する2件の新規APTレポート、ならびにIoT(Internet of Things)資源のセキュリティ管理技術に関する1件の新規ガイドラインの発行が承認されました。また、中央省庁および行政機関における生成AI(人工知能)のユースケース、ならびに国家・地域間におけるデータ共有の実態に関する質問状の発出が承認されました。
表3にASTAP38に向けた各WG・EGの主要トピックを示します。APTレポートもしくはガイドラインの制定・改訂に向け、3WG合わせて計25の課題について継続審議が行われる予定となっています。このうち、今回のASTAP37では、非地上系ネットワークの災害時応用など、7件の新規課題が設定されました。また、37件中、15件が次回のASTAP38での承認・発行を予定しています。
なお、ASTAP37では、現検討体制の見直しと議長・副議長の任期に関する議論もなされました。一部の参加者からは、現行のITU-Tにおける検討体制を勘案した体制への移行と任期制の導入について提案がなされましたが、現在の議論・運営体制の維持を主張する参加者との間でコンセンサスが得られず、ASTAP38に向け議論を継続することとなりました。

インダストリー・ワークショップ

ASTAP37の標準化会議に併せて、表4に示す構成で、インダストリー・ワークショップが開催されました。2つのセッションがシリアルに行われ、セッション1ではAIの現状と標準化について議論がなされ、韓国、中国および日本における取り組みに関し、9件の講演がなされました。セッション2では、メタバースに関するトピックや取り組みが議論され、韓国、中国、および日本から5件の講演がなされました。

今後の予定

ASTAP38は2026年の開催を予定していますが、現時点で開催日と開催場所は未定となっています。次回もインダストリー・ワークショップとともに、ASTAP37と同様の形態で議論が行われる予定です。

■参考文献
(1) https://www.apt.int/APT-Introduction
(2) https://www.apt.int/APTASTAP