2025年7月号
グループ企業探訪
フィールドDXを通じて、地域経済活性化に貢献する会社
近年、キャンプ人気が高まり、「ソロキャンプ」から「グランピング」まで、その楽しみ方は多様化しています。自治体が保有する公営キャンプ場の多くは、トイレや炊事場などの水回りを中心とした設備や建物が老朽化しており、お客さまが訪れないという悪循環に陥っていますが、自治体は売上が上がらないうえに維持に費用をかけざるを得ず、赤字運営している状況です。こうした厳しい現状に対して、DX(デジタルトランスフォーメーション)のノウハウ等を活用して施設の運営効率化、魅力向上による人流創出と周辺施設への送客により、地域経済の活性化に貢献するNTT Landscape松尾雄大副社長に、本事業と、地域貢献への思いを伺いました。
NTT Landscape
松尾雄大副社長
「自然と、人の知恵と、テクノロジーの融合を通じて、地域に新しいLandscapeを生み出し、世の中にたくさんのワクワクと笑顔を提供する」ことをめざす
◆設立の背景と会社の概要について教えてください。
キャンプやアウトドアの需要が高まる一方で、キャンプ場を中心とした多くの施設はさらなる経営の効率化が求められています。こうした中、NTT Landscapeは、NTT東日本グループが得意とするDX(デジタルトランスフォーメーション)のノウハウ等を活用して施設の運営効率化を図り、施設の魅力向上により域外からの人流創出と周辺施設への送客を実現することで、地域経済の活性化へ貢献することをめざして、2024年11月1日に設立されました。
ミッションステートメントとして「私たちは、自然と、人の知恵と、テクノロジーの融合を通じて、地域に新しいLandscape(環境・資源・コミュニティ)を生み出し、世の中にたくさんのワクワクと笑顔を提供することをめざします」を掲げ、さまざまな地域の皆様やパートナー企業の皆様と手を組みながら、フィールドDX(地域の自然やコミュニティとDXを融合し、新たな価値を創造する事業)を通じて地域の素晴らしい自然や魅力をより多くの人々に伝えるべく、事業を進めています。
◆事業を取り巻く環境・課題はどのようなものでしょうか。
近年、キャンプ人気が高まり、1人で楽しむ「ソロキャンプ」から、充実した設備でゆったりと過ごす「グランピング」まで、その楽しみ方も多様になっています。キャンプ場は全国におよそ5000施設強あり、そのうち2000が公営キャンプ場、3000が民営キャンプ場となっています。キャンプ場宿泊市場は、800~900億円規模で、コロナ関連による特需(2022年:1000億円)以降も堅調に推移し、コロナ禍のキャンプ人気を経て、新たなライフスタイルとして定着してきています(図1)。
こうした中、公営キャンプ場の多くは1990年代につくられたものが多く、トイレや炊事場などの水回りを中心とした設備や建物が老朽化しており、それによりお客さまが訪れないという悪循環に陥っています。しかし、公共サービスの一環でもあるため閉鎖することもできず、自治体は収支が取れないうえに維持に費用をかけざるを得ず、赤字運営している状況です。このため、利用者のニーズに合う施設開発ができていない、老朽化した設備の改修が行き届いていない、といった状況になっています。また、民間キャンプ場も含めて、キャンプ場の運営は人手のみで対応しており、収益を上げるためのキャンプ関連製品や食材等の物販など付加価値の拡充まで手がまわらず、運営スタッフの確保や効率化が課題となっています。このことからキャンプ場はリノベーションやDXのニーズが多く存在しており、さらなる魅力・価値向上の余地があります。
◆どのような事業展開をしているのでしょうか。
NTT Landscapeが展開している事業は、「キャンプ場運営事業」「DX推進事業」「アウトドア研修事業」「トレーラー活用事業」の大きく4つがあります。
キャンプ場運営事業は公営キャンプ場を中心に展開し、公募等により運営権を取得し、リノベーションによるキャンプ場の魅力向上やDXによる運営効率化により経営改善を行います(図2)。キャンプ初心者の方も、熟練の方も、従来と比べてより快適にキャンプを楽しんでいただける施設運営を行います。DXによる運営効率化により、自治体の委託料を軽減することで、自治体の財政改善にも貢献していきます。また、キャンプ場予約時に地域の魅力的な周辺施設の入場券のセット販売や、アプリ等を活用して周辺施設への送客を行い、キャンプ場に訪れた方が回遊することで、地域経済の活性化を図っていきます。NTT Landscapeの最初のキャンプ場として、2025年4月に伊豆市の萬城の滝にある、「LScamp中伊豆」をオープンしました。また、山中湖にも7月にキャンプ場を開業予定です。
DX推進事業はキャンプ場の運営を効率化するDXサービスを、民間も含む全国5000のキャンプ場へ販売します。DXサービスの販売に関しては協業パートナーであるR.project社が運営する、キャンプ場予約最大手サイトの『なっぷ』を通じて効率的に全国のキャンプ場へ販売していきます(『なっぷ』は全国のキャンプ場とユーザをつなぐプラットフォーム)。現在、キャンプ場の受付業務は運営稼働の30%を占めていますが、NTT Landscapeが提供するスマートフォンアプリを活用することでチェックイン時の受付稼働削減とお客さまの利便性向上に貢献します。従来は対面で15分程度お客さまへ注意事項を説明するため、受付待ちの行列ができていましたが、スマートチェックインアプリを使うことで説明時間や待ち時間がなくなり、お客さま満足度の向上にもつながります。アンケートでは9割以上の方が、スマートチェックインが導入されているキャンプ場を優先して利用したいとお答えいただいています。その他DXサービスとして、24時間買い物可能な「スマートストア」の仕組みやセンサを使った見守り監視、AI(人工知能)カメラやドローンによる鳥獣対策等も展開していく予定です。
アウトドア研修事業は企業や教育機関を対象に、キャンプ場のフィールドを活かして体を動かしながらミッションに取り組むチームビルディング研修を展開します。具体的には世界的ベストセラー『7つの習慣』と、アウトドア社員研修を組み合わせた「7つの習慣®Outdoor*」研修などを提供します。昨今のリモートワークの普及により、コミュニケーションやチームビルディングに課題を持つ企業が多く存在しており、受講者からは大変ご好評をいただいております。アンケートを見ても研修満足度が高く、約95%の企業がリピートを希望している状況です。研修会場として自社のキャンプ場を活用することで、キャンプ場運営の最大の課題である平日稼働の向上も図ります。
トレーラー活用事業は、建物建設が困難なエリアへの設置や移動できる居住・店舗として、キャンプ場・防災活用に注目が高まっているトレーラーハウスを扱います。平時はキャンプ場内の宿泊利用や店舗として活用し、災害時は従来の仮設住宅より迅速な配備が可能となる、「防災型トレーラーハウス」を自治体や民間企業に販売し、地域レジリエンスの強化にも貢献します(図3)。特に循環型のトイレトレーラーハウスは災害時に活用できると自治体を中心に高い評価をいただいています。
*7つの習慣®Outdoorは、フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社、株式会社JTB、株式会社JOWAの共同開発商品です。
地域への人流創出と回遊による地域経済活性化を実現し、世の中にたくさんのワクワクと笑顔を提供
◆今後の展望についてお聞かせください。
今後は、スマートチェックインだけでなくスマートストアやお子様の見守りサービスなど、NTTグループのDXサービスを全国5000のキャンプ場に広げていきたいと考えています。
キャンプ場の運営については、今後15施設程度まで増やし、NTT Landscapeのサービスのショーケースとして展開していきたと考えています。キャンプ場の利用者は基本的には域外の方となるので、地域に人流を創出できる貴重なコンテンツだととらえています。地域を訪れた方に回遊してもらい地域経済の活性化に貢献するとともに、より多くの地域の魅力を伝えたり、さまざまな体験プログラムを提供していくことで、関係人口の創出につなげ、地域に貢献していくことをめざします。地域に人が集まる新しいLandscapeを生み出し、世の中にたくさんのワクワクと笑顔を提供することをめざしていきます。
担当者に聞く
焚火プログラムをメインイベントとした、大人でも涙を流すほどの強烈な体験によるチームビルディング研修を提供
経営企画部 課長
長田 拓也さん
◆担当されている業務について教えてください。
経営企画業務として、NTT Landscapeの事業計画、各組織の事業戦略の策定をしています。2024年度に設立したばかりの会社のため、制度設計や社内ルールの整理など、チームメンバにとって働きやすい環境の構築にも尽力しています。
また経営企画業務だけではなく、アウトドア研修業務も兼務しており、「7つの習慣®Outdoor」認定講師の資格を取得し、アウトドア研修を実際に行う研修講師としても活動しています。アウトドア研修は、企業・学校などさまざまなお客さまに対して、「チームビルディング力」や「コミュニケーション力」を醸成していただくことを目的としています。企業内の20代の新入社員から、50~60代の幹部社員まで対象範囲は広く、また、学校などの教育機関からも多くの引き合いをいただいております。「研修」というと座学をイメージされる方が多いかと思いますが、私たちが提供するアウトドア研修はこれとは真逆のもので、広大な自然の中で身体を動かし、チームメンバどうしで話し合い、「楽しみながら学ぶ」ことをもっとも重視しています。企業等においては、「上司と部下」「先輩と後輩」「部署と部署」といった肩書が付きまといますが、この研修ではそういったものは徹底的に排除し、心理的安全性が高いからこそ生まれる会話や気付きを大切にしています。特に、メインイベントともいえる焚火プログラムでは、肩書を廃して相手の「強み・チャンス(私たちは自身の課題や弱みをそう表現します)」を共有する時間があります。中には大人でも涙を流す人もいるくらいの強烈な体験を提供しています。ぜひ、「チームビルディングに課題がある、新しいチャレンジを行う人間関係の土壌をつくりたい」と思ったら、お問い合わせいただければ幸いです。
◆今後の展望について教えてください。
経営企画部の観点では2つあります。1つは「市場における、NTT Landscapeのプレゼンス向上」です。当社は前述のとおり4つのドメインで事業を行っていますが、それらのドメインでの影響力を高めていくことです。もう1つは、メンバにとって「NTT Landscapeで働くことが誇らしい会社」にすることです。具体的には、自己成長や自己実現が得られること、やりがいをもって日々業務と向き合えていること、事業とともに社会への貢献を感じられること、何より楽しみながら働いていると実感できる組織にしたいと思っています。当社のミッションステートメントの「たくさんのワクワクと笑顔を提供すること」という部分が私のお気に入りなのですが、その理由は、この部分が社会や関係する人々に対するものであると同時に、チームメンバや自分自身も含まれているところです。それを実現するために、日々メンバとのコミュニケーションから感じる個々人の小さな要望や課題を聞き逃さないことを大切にしていきたいです。そのうえで、前例踏襲の意識を捨てて、知恵を絞って、「たくさんのワクワクと笑顔」があふれる会社にしていきたいです。
アウトドア研修の観点では、1人でも多くの方に本研修を受講いただき、企業・事業者のチーム力向上の助けとなれるように、研修講師としても努力していきます。
スマートチェックインサービス等を提供する、スマートキャンプ場プラットフォームを業界標準として、業界の変革をめざす
事業開発部
土屋 諒さん
◆担当されている業務について教えてください。
DX推進事業において、スマートチェックインサービスの開発およびプレセールスに注力しています。開発はNTT東日本のデジタル革新本部にご協力いただいており、NTTグループ内製での取り組みとなっています。パートナーであるR.project社の知見や、現場のキャンプ場スタッフの意見を収集し、より利便性の高いサービスをめざす一方で、開発サイドと連携し実現可能性やコストを加味して仕様策定を行うのが私の業務です。すでにトライアル提供を開始しており、70を超える施設に先行してお試しいただき、確かな稼働削減効果と、お客さまの満足度向上を実感いただいています。
キャンプ業界は特にシステム化が進んでおらず、施設の運営においてまだまだ人手によるアナログな業務が多くを占めています。また、ホテルや民泊と異なり、キャンプ場ごとに細かなルールや運用があり、これらの差分をいかに平準化しシステムで代替するかということが難しいところですが、逆にやりがいでもあります。とにかく現場に足を運び、目と耳で運営業務を学ぶことで、より多くのキャンプ場で簡易に利用でき、かつ最大の効果を発揮するためのサービス開発に取り組んでいます。もちろん、実際にアプリを使っていただくキャンパーにとっての利便性も重要なポイントですので、UX(User eXperience)の検討にも深くかかわっています。
◆今後の展望について教えてください。
スマートチェックインサービスの価値は、スマートフォンアプリをベースにしている点だと考えています。このアプリを起点とし、旅マエ(前)から旅アト(後)までを包括的に価値提供できるサービスを付加していくことで、全国のキャンパーが当たり前に利用するプラットフォームとしての地位を確立し、「業界のスタンダード」として、業界を変革していくための土台にしていきたいと考えています。
今後は施設の業務効率化や収益拡大、およびキャンパーへの利便性向上や新たな価値提供に注力し、新たなサービス開発へと取り組んでいく予定です。例えば、キャンプ場だけではなく周辺の観光施設への回遊も同時に促し、地域全体の活性化に寄与する仕組みづくりや、場内で24時間買い物を可能とするスマートストア、安心・安全を守る技術活用などです。加えて、ルーラルエリアに存在するため、多くのキャンプ場に共通する課題である、携帯電話キャリアのサービスが行き届かず、通信環境が弱いという課題に関しても、中継無線や衛星通信、LPWA(Low Power Wide Area)などの無線技術を駆使して解決に取り組んでいきます。
ア・ラ・カルト
■「ぱちぱちラジオ」でチーム力強化
NTT Landscapeは、社員一人ひとりがミッションを遂行する自覚を持ち、一体となって業務遂行をめざすべく、週に1回メンバ全員で仕事に関係のない話をする時間を設けているそうです。焚き火を囲んで年代・職責の枠を越えて話し合うイメージから、「ぱちぱちラジオ」と名付けられ、各人の人生紹介や、カードを用いた価値観の表面化を行っています(写真)。業務では気付きづらい価値観をそれぞれが理解することで、より社内での風通しが良くなり、チーム力の強化につながったとのことです。
