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2026年9月号

挑戦する研究者たち

NTT発の次世代グリーン半導体――AlN半導体でカーボンニュートラルに貢献

半導体デバイスのさらなる高効率化は、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な課題の1つです。その切り札となるのが、NTTが世界に先駆けて半導体化に成功した窒化アルミニウム(AlN)。従来のシリコンや窒化ガリウムを超える特性を持つ「ウルトラワイドバンドギャップ半導体」として、遠紫外LEDやレーザ、パワーデバイス、高周波トランジスタなど、幅広い応用が期待されています。NTT物性科学基礎研究所の谷保芳孝上席特別研究員に、その研究の歩みと将来展望について伺いました。

谷保芳孝
上席特別研究員
NTT物性科学基礎研究所

NTT発のAlN半導体が世界の注目を集める理由

ご研究の分野について教えてください。

私たちの研究グループでは、次世代の革新的な半導体を創出し、実社会への応用を念頭に原理実証まで手掛けています。特に着目しているのが窒化アルミニウム(AlN)という材料です。AlNは1862年に初めて合成された古い材料で、長い間、絶縁体だと考えられてきました。熱伝導率が高く、優れた圧電性*1を持つことから、半導体のパッケージやスマートフォンの高周波フィルタなどに活用されています。それを私たちが2002年に世界で初めて半導体として利用することに成功し、半導体デバイス応用への道を拓きました。いわば、AlNは「NTT発の半導体」というわけです。
ここ数年、チームのメンバも増え、それぞれが主要学会で招待講演の機会をいただいたり、若手も奨励賞を受賞したりするなど、業界で注目される存在になってきています。その背景には、私たちの研究が、半導体デバイスの効率を飛躍的に高め、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献するだろうという期待があります。
ご承知のように、半導体は現代社会を支える「情報」と「エネルギー」の処理・変換・伝送を担う基盤技術です。PCやスマートフォンに搭載される集積回路は情報処理を担い、発光ダイオード(LED)やレーザは電気エネルギーを光に変換し、太陽電池は光エネルギーを電気に変換します。また、電源や電気自動車などに搭載されるパワー半導体は、交流(AC)を直流(DC)に変える重要な役割を担います。現在、生成AI(人工知能)の普及に伴いデータセンタの膨大な消費電力が課題となっていますが、その省エネにおいても半導体の効率化が鍵を握ります。
そうした中、半導体の「伸びしろ」として期待されているのが、AlN半導体に代表される「ウルトラワイドバンドギャップ半導体」です。バンドギャップとは、物質内で電子が絶対に存在できないエネルギー領域のこと(図1)。半導体はそれぞれ固有のバンドギャップエネルギーを持ちますが、これが大きくなるほど、電気が流れにくくなり、絶縁体に近づきます。また、LEDやレーザ、太陽電池では、バンドギャップエネルギーが大きいほど、発光・吸収する光の波長は短くなります。このように、バンドギャップは半導体の性質を決める基本量となります。
例えば、現在、半導体材料として広く使われているシリコン(Si)のバンドギャップは約1.12 eVであるのに対し、青色LEDを実現した窒化ガリウム(GaN)は約3.4 eVと、約3倍広いバンドギャップを持っています。GaNは、高耐圧・低損失といった特性を持つことから、パワー半導体として急速充電器や5G(第5世代移動通信システム)の通信基地局などで活用されています。
なお、私たちが手掛けるAlNはGaNと同じⅢ-V族化合物半導体*2ですが、さらに倍近い6.0 eVのバンドギャップを持ちます。熱に強く2000 ℃以上でも分解しないことに加え、放射線にも強いことから、宇宙などの過酷な環境下での活用にも期待が寄せられています。

*1 圧電性:力を加えると電圧が発生し、逆に電圧を加えると変形する性質のこと。
*2 Ⅲ-V族化合物半導体: 周期表のⅢ族元素とⅤ族元素を組み合わせてつくられる半導体。Siよりも高速な通信や高効率な発光が可能なため、無線通信や、LED、レーザなどに使われています。

なぜ、NTTでAlN半導体をつくることができたのでしょうか。

半導体の作製には、原子が規則正しく並んでいる結晶をつくる技術が欠かせません。NTTは世界最高品質の薄膜結晶をつくる技術を有しており、これが重要な役割を担いました。この技術を用いて、私たちは2006年、世界に先駆けてAlNによるLEDの作製に成功し、半導体発光素子としては世界最短波長210nmの遠紫外発光を観測しました。この成果は『Nature』に掲載されるなど、高く評価されました。このときにAlNのpn接合*3を実現し、動作実証できたことが、AlN半導体デバイス研究の大きな第一歩になりました。
しかし最初から「AlNが半導体になる」と確信があったわけではありません。GaNにAl(アルミニウム)を混ぜるとバンドギャップが大きくなることは分かっていましたが、AlGaNのAlの含有量を増やしてAlNに近づけていくと半導体ではなくなってしまうのです。一方で、GaNのように、原子の抜けや不純物の混ざりが少ない、きれいな結晶をつくることができれば半導体になるかもしれない、という期待もありました。
市販の装置では温度が低すぎたため、メーカとともに、1500 ℃という高温での結晶成長に耐える独自のMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)技術を開発して挑みました。これにより、AlNの結晶欠陥と不純物密度を従来の100分の1程度に低減させ、世界最高品質の結晶成長技術を確立しました。今から振り返れば、高品質なAlNの結晶づくりこそがもっとも困難な挑戦であり、そのときの苦労を語り出せばキリがありません。

*3 pn接合:電子の多いN型半導体と正孔の多いP型半導体をつなぎ合わせた構造で、半導体デバイスの動作の中心となる部分。

世界初の遠紫外LEDから広がるAlN半導体デバイスの可能性

AlN半導体デバイスの開発にも取り組んでおられますね。

GaN半導体ができたことで青色LEDが実現し、LED照明が世の中に広く普及して省エネに大きく貢献したことから、2014年に赤﨑勇先生らがノーベル物理学賞を受賞されました。AlN半導体を広めていくためには、GaNと同様に、実際にデバイスを開発して、原理実証することが欠かせないと考えています。
例えば、前述のAlN半導体による遠紫外線LEDは、ウイルスの不活性化や水処理での殺菌や消毒に活用できます。現状は水銀ランプやガスレーザなどが光源として使われているため、これを置き換えることができれば、無害かつ高信頼・長寿命なデバイスが実現できるでしょう。
さらに最近、私たちはAlN系LED技術を高度化して、単色性と直進性に優れた半導体レーザの開発に成功しました(2025年)。これは微細加工や材料分析、細胞の選択的処理などの医療分野での活用が期待されます。残念ながら世界初ではなく、ノーベル賞を受賞された名古屋大学の天野浩教授らの研究グループなどに先を越されてしまい、大変悔しい思いをしました。
もう1つ私たちが注力しているのが、AlN半導体を用いたパワーデバイスの開発です。パワーデバイスはPCやスマホ、家電などの電源や、データセンタ、電気自動車などの電力制御に広く利用されています。ただ、現状はPC電源や充電器が熱を持つように、エネルギーの一部が熱となって失われている状態であり、さらなる高効率化が求められています。また現在、世界の電力需要が増加する中、低炭素社会の実現に向けて太陽光や風力などのクリーンエネルギーの増強が進められていますが、クリーン発電の電力変換、生産地と電力消費地を結ぶ大容量の送配電網といった大電力領域においても、電力損失を極力抑えたパワー半導体が期待されています。
このパワーデバイスにAlNを用いることができれば、省エネに大きく貢献できるでしょう。AlNの絶縁破壊電界*4は半導体としては最大級であることから、素子のサイズを小さくしつつ、素子抵抗を低減できます。理論上の計算では、現状のSiの20分の1、GaNの半分ほどと、電力損失を大きく減らすことが可能になるのです(図2)。
これを検証すべく取り組みを進め、私たちは2022年に世界初となるAlNのトランジスタの動作に成功し、絶縁破壊電圧についても1.7 kVと高い値を実現しました。また、500 ℃という高温でも安定して動作することを確認し、その後さらに1000 ℃での動作も確認しました。理論上は1500 ℃でもデバイス動作が可能です。また、高温下において、半導体トランジスタの性能を示すON/OFF比も世界最高を達成。現状のSi半導体の限界は200 ℃であることを考えると、AlNは高温エレクトロニクス応用において実に有望な半導体であることが分かります。

*4 絶縁破壊電界:絶縁性を失って、電流が流れ出してしまう限界の電圧。高いほど高電圧動作に適した半導体といえます。

高温エレクトロニクスはどのような応用が考えられますか。

熱に強い電源をつくることができることから、現在問題となっているデータセンタの冷却エネルギー消費を、大きく低減できると考えられます。また、宇宙や地底など、500 ℃を超えるような過酷な高温環境での探査も可能になるでしょう。さらには、1000 ℃を超えるような高温プラントや、1500 ℃を超えるような航空機のジェットエンジンの制御など、応用の範囲は広がります。放射線にも強いことから、原子炉などで使う半導体デバイスとしても有望です。
さらに私たちは無線通信や衛星通信、レーダなどで使われる高周波トランジスタに、AlN半導体を活用すべく高出力化に向け取り組んでいます。現状はGaN半導体が使われていますが、私たちはAlNとGaNとの混晶であるAlGaNに着目して研究を進めています。前述のようにAlNは半導体の中で最大級の絶縁破壊電界を持つことから、高出力高周波デバイス性能指数(Johnson性能指数)はSiとは桁違い、GaNと比較しても5倍高い性能が期待されます(図3)。
ただしこれまで、AlGaNのAlの割合(組成)が75%を超えると、高周波トランジスタの作製・動作は困難だと考えられてきました。これに対して「分極ドーピング」という従来とは異なる手法を用いることで、高Al組成のAlGaNによる高周波トランジスタの作製・動作に成功しました(2025年)。この成果は、IEDM(IEEE International Electron Devices Meeting)という、電子デバイス分野における世界最高峰の国際会議に採択され、高い評価を得ました。なお、今回紹介した研究については、本誌2026年3月号特集で詳細を掲載していますので、ぜひご覧ください。

「魔の川」を越えて社会実装へ

今後の展望と後進へのアドバイスをお願いします。

よく、基礎研究から応用研究、開発を経て、製品化されて市場に普及するまでには、「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれる、いくつもの困難が待ち受けているといわれます。私たちの現在地は基礎研究ですが、まさにこれから「魔の川」を渡ろうというところです。AlNのポテンシャルをさらに引き出し、これまでの材料を凌駕する性能を達成するためには、デバイス物理、電極形成、酸化膜界面物性といった、基本特性の理解に基づくデバイス応用開発が不可欠です。そしてさらに応用研究、開発へとフェーズを進めていくためには、デバイスウエハの作製技術の確立や回路・システムの試作による検証などを、メーカとともに取り組まなければなりません。そうしたことから、今後は大学との共同研究やメーカとの共創にも注力しながら、基礎研究とデバイス開発の両輪で挑んでいきたいと考えています。
日本では今再び半導体産業が注目されており、GaNのような日本発の成果も開花しつつあります。一方で、ウルトラワイドギャップ半導体研究に関しては、米国で大きな予算がつくなど、今後、競争の激化も予想されます。AlNは非常にポテンシャルの高い材料であり、GaNで培った基盤技術も応用できることから、この強みを活かせるよう、周知にも努めていきたいと思います。
NTT物性科学基礎研究所は長期的な視点で夢を持って研究に取り組める、非常に恵まれた環境だと思います。しかし、ただ夢を語るだけでは説得力はありません。必ず、どういうアプローチで進めるのかという武器が必要であり、誰にも負けない自分なりの手法を身につけてほしいと思います。私の場合はひたすら手を動かしているうちに会得した強みが多く、特に実験科学においては、地道に量を重ねていくことも大切だと感じています。
それから、私は、昼休みに仲間とサッカーをしています。仕事を忘れて違う分野の人と交流するのは、とてもいい気分転換になり、発想を豊かにしてくれます。そのような時間を持つことをお勧めします。

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