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特集

NTT R&Dフォーラム2018(秋)特別セッション

デジタルディスラプションの時代をリードする

NTTデータのグループ企業であるeverisでは、65のメンバで構成されるチームが、ディスラプティブなアプローチによる既存企業向けソリューション作成に取り組んでいます。チームの半分はAI(人工知能)・機械学習・クラウドソーシング・ロボット工学・ブロックチェーンなどの技術の専門家で、残りの半分はデザイン・マーケティング・財務・法務などのビジネス分野の専門家です。本稿は2018年11月30日に開催されたNTT R&Dフォーラム2018(秋)における、everisチーフディスラプションオフィサーであるMarc Alba氏によるスピーチに基づき、デジタルディスラプションの重要性と、NTTグループによるディスラプションのイニシアティブについて紹介します。

Marc Alba

everis

デジタルトランスフォーメーションの進化と成熟

はじめに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の現在のすう勢、現在の立ち位置、私たちがどこから来て、どこに行くのか、おおよその状況をお伝えします。

DXの第1波

2012年ごろ、社会はDXの第1波を迎えましたが、それはまさにソーシャルとモバイルがもたらしたものでした。「デジタル」は「ガラス」の中にある私たちの生活の一部となっています。「ガラス」とはつまり、画面のことです。携帯電話、タブレットやその種のデバイスを使用し、スクリーンを通して「デジタル」を体験しました。それはチャネル、接続、インタラクションなどで言い表せるものです。ソーシャル・モバイル・アナリティクス・クラウドを表すS-M-A-Cの4文字は、10年足らずで世界を一変させました。これは第3世代のモバイル通信(3G)および4Gによってつながれていました。この波は、Google、Amazon、Facebook、Apple、そしてSamsung、いわゆるGAFASの著しい成長をももたらしました。

DXの第2波

約1~2年前、社会はDXの第2波を体験しました。その波をAI(人工知能)ファーストの世界と呼ぶことは、誰もが認めるところでしょう。すべての根本がチャネルおよびその使用方法に基づいていましたが、あるとき「デジタル」のコンセプトが突然「シリコ」に(ハードウェアに)戻ってきました。GPU(画像処理装置)、FPGA(現場で構成可能な回路アレイ)、そして特定用途向け集積回路などがそうです。ディープラーニングや機械学習に対し、十分な速さでAIを動作させるためのハードウェアを用意する必要があり、全く新しい世代の「インシリコ」のチップが作成されました。NVIDIAやXilinxのような企業は現在、GPUやFPGAへの取り組みを増大させています。
「デジタル」は新たなタイプの「シリコ」とマイクロコンピュータに移行し、今や「デジタル」は人間と機械の関係へと移行しています。私は米国のボストンに住んでいますが、そこで話題となっているものの1つはソーシャルAIです。それはつまり人間と機械の関係性で、ヒューマンロボティックイテレーション・デジタル共感・デジタル信頼など、新たな目玉となるものです。機械、つまりロボット(ソーシャルロボット・パーソナルロボット・サービスロボット)などのハードウェア、およびチャットボットやロボアドバイザーなど純粋にデジタルな存在と、人間の両方の関係性に対する私たちの研究は、人間がこれらの機械(広義におけるフィジタルとデジタルの両方)と非常に特別な関係を構築できることを証明しています。
私たちの研究では現在、子どもを対象としています。子どもたちは機械に対し非常に特別な共感を形成します。高齢者に対する研究も行っていますが、高齢者もまた機械と特別な関係を築いていることは驚くべきことです。AIは、例えば機械と人間の対立など恐ろしさのイメージもある冷たいAIから、ソーシャルAIへと移行しています。それが第2の波であり、その実現を可能とした技術には、AI・ロボット工学・機械学習・IoT(Internet of Things)・エッジコンピューティングがあります。そして現在、4Gから5Gへの移行に差し掛かろうとしています。第1波では、4つの技術が世界を変えました。今は、上記5つの新技術がこれら4つの技術に追加されています。つまり、9つの技術が同時にすべての産業、すべての地域、そしてすべての社会を変えようとしている時代です。あらゆるビジネス、およびあらゆる業界を変化させる可能性を持つディスラプティブテクノロジが同時にこれだけの数存在することは、人類史上初めての経験です。

DXの第3波

これから紹介するDXの第3波については、予測であり、間違っているかもしれませんし、正確であるかもしれません。「デジタル」の次なる大きな転換では、「デジタル」が3つの新しい領域に入ることになると私たちはみています。
(1) フィジオのデジタル
第1の領域は「フィジオのデジタル」です。この意味するところは、3D(3次元)プリント、積層造形、デジタルファブリケーションなどです。あなたが「デジタル」で何かをつくる初めての経験です。「デジタル」を使って、手に触れることのできる物体をつくることができるようになったのです。
(2) バイオのデジタル
第2の重要な領域は「バイオのデジタル」、つまり生体です。「デジタル」が生命として具現化するようになります。私たちの研究は部分的に、デジタル生物学・合成生物学・ゲノミクスに関連しています。今後私たちの人体は、ソフトウェアによる同一のルールを持たせることができます。それは動物よりむしろ人体に適用できるもので、完全に別次元の変化です。まだ始まったばかりですが、2020~2022年ごろにかけて成長するはずです。
(3) バーチャルのデジタル
第3の領域は「バーチャルのデジタル」です。これはVR(Virtual Reality)・AR(Augmented Reality)・MR(Mixed Reality)などを指します。これまでの限られた経験では、どういうわけかVRにはまだいくらかの誇張があることが示されていますが、2020~2022年までには、おそらくVRは現在の複雑な状況を克服できることでしょう。
DXの第3波は、物理的なモノとデジタル的なモノを組み合わせた造語で、「フィジタル」と呼ばれています。ここで起こっているのは「デジタル」の物体・人体・生体への浸透、および合成現実の出現です。
2020~2022年ごろに起こり、そして現在NTTで日々取り組んでいる主要な問題は、限界が近づきつつあるデータ負荷の増大に伴い発生するものです。ここでは量子コンピューティングと量子通信が非常に重要になるとともに、十分な計算能力を見出す必要があります。明らかであるのは、この第3波で5Gが離陸することです。5Gによって驚異的な能力を新たに得ることでしょう。
これら3つの波はすべて同じアイデアに基づいています。「デジタル」はウイルスに似ている、ということです。それは日常生活へ一層深く浸透していきます。その対象は人間でも、車でも、家でも、都市でも、スポーツでもあり得ます(図1)。「デジタル」の成熟段階においてこれらのさまざまな進化の項目をみると、共通のパターンがみえます。全項目のはじめには、何らかのかたちでつながり、ソーシャル化し、分析を内在させるための能力を増大させていく1つの実体があります。それはやがてインテリジェンスをプラグインして、よりスマートで自律的な存在になります。すべての項目は同じパターンをたどります。
これまでに提示した第3波についてのビジョンはすべて、私たち研究者が最善を尽くしたうえでの推測に過ぎません。この先何が起こるかは本当には分かりません。量子コンピューティングが何らかの理由で遅れた場合を想像してみてください。そして予想された結果のいずれかが変わったことを想像してみてください。明らかなことは、今後2、3年より後は何が起こるのか明確には分からないということです。これは大きな問題です。
この第1の障壁の根本的な問題は、私たち自身が想像できない世界に向けた準備です。仕事中のあなた、家族と一緒に家にいるあなた、人間としてのあなた。6年前、私と妻は初めての子どもに3つ子を授かりました。3年前の一番大きな問題は、この子たちをどの学校に入れるべきかということでした。なぜなら、ほとんどの学校はもはや存在しない世界を想定しているからです。それは、物事の暗記と計算スキルの発達が必要な世界であり、今では意義を失う一方です。私たちが必要なスキルについて考えるなら、それは変化し続ける能力、変化に適応する能力、そしてほぼ無限のデータと情報の海から意味があるものとないもの、信頼できるものとそうでないものを判断する能力ではないでしょうか。従来の学校はその訓練は行っていません。ですから、私たちの日常生活を変えるあらゆる巨大な変化の背後には、いくつかの基本的な疑問があります。

図1 「デジタル」による私たちの生活の変革:IoE(Internet of Everything)

デジタルディスラプション

明白なことは、この分野がディスラプションと呼ばれていることです。実は、ディスラプションという発想は大きく時代をさかのぼることができます。Joseph A. Schumpeterは1911年『The Theory of Economic Development』(経済発展の理論)と題する本を記し、創造的破壊について述べました。創造的破壊の背後にある発想は、その出現によりすべてを変化させる産業と新技術の存在です。何かを破壊して新しいモノを生み出すという手法は、ビジネスの運営と実行においては現在支配的になっています。このように、破壊やディスラプションは長い間存在しているのです。コンセプトそのものは、『The Innovator’s Dilemma』(イノベーターのジレンマ)の著者Clayton M. Christensenによって1995年導入されたときまでさかのぼります。ただし、「デジタル」との組み合わせによるディスラプションは、全く新しい次元のものです。このことについてお伝えします。
これから提示する事実の一部は、非常に恐ろしいものと感じられるかもしれません。しかし私が伝えようとしているメッセージは全く逆のものです。恐ろしさの背後にあるメッセージは、実は非常にポジティブです。その活用法を知る人には、膨大なチャンスがあります。
企業の寿命は減少しています。大企業であることはかつて競争上の優位性でしたが、いまやかつての回復力は失われています。2011年1月から2016年7月までの5年半で、ユニコーン企業の数は大幅に増加しました。ユニコーン企業とは、どこからともなく現れたようでありながら、単独で10億米ドルを超える株価を持つ企業です。これらの企業はすべて市場の新参者でありつつ、業界に改革をもたらしています。付け加えると、3年から5年前をみると、ユニコーン企業の多くは米国に集中していました。世界はますます平坦化しています。誰でもどこにでも新たなディスラプティブ企業をつくることができます。プレイヤが増えるほど民主化は進展します。
考慮すべきもう1つの興味深い要素は、技術寡占のコンセプトです。これはApple・Google・Microsoft・Amazon・Facebookについてのことです。これらの企業は、多様な市場で競争するためのエコシステムを有しています。当初これらの企業は自社の中核技術に集中していましたが、現在は小売・ヘルスケア・決済の分野に参入しています。加えて、スタートアップ企業を取り込み、あらゆる分野や業界を揺り動かしています。ビジネスエコシステムのディスラプション以外では、政治や社会システムなど他分野におけるさまざまなディスラプションもあります。
ここでお伝えしたいことは、これらを複雑なものごとを脅威と見なすばかりではいけないということです。脅威であることは間違いありませんが、大きな脅威の背後に大きなチャンスを見出すこともできます。脅威はイノベーションのようなものではありませんが、より密接にディスラプションとつながっています。
イノベーションとディスラプションの主な違いについて説明してみましょう。自動車を例に挙げてお話しします。イノベーションにおいては、「自動車を改善したい」というのが基本的な原理です。起点となるのは自動車です。マインドセットは車に固定されてバイアスを帯びるため、より良い車をつくり出すことに終始することでしょう。ディスラプションにおいては、「私は自動車を改善したい」ということはありません。代わりに「人と物はいつでもどこでも動き回る必要がある」と表現するでしょう。それはHyperloop・Waymo・Tesla・Wazeなどに続く新しい何かを創造する、さまざまなアプローチへと導きます。イノベーションにおいては、発想の基本は既存のソリューションを取り上げて、それを改良することです。ディスラプションにおいては、発想の基本は問題を取り上げて、さまざまな解決策を見つけ出すことです。数年前にはなかった今の大きな問題は、変化のスピードの速さです。技術が次々と導入され、私たちはますます多くの能力を獲得しています。イノベーションが多数のディスラプションと結合して新たな問題解決の方法が生み出されれば、誰もが数年で市場の支配的な地位に立つことだってできます。全く異なるように見える2~3のテクノロジをかけ合わせることから、IoTとAIとブロックチェーンとクラウドのような大きなディスラプションが生まれる可能性もあります。

NTT DATAおよびNTTによるディスラプション

私たちがNTTグループとして販売、構築しているものを図2に示します。このプラットフォームを、グループ全体として有するすべての能力をつなぎ合わせるものとしてつくっています。NTT研究開発の各研究所・グループ企業全社・ネットワーク・イノベーションセンタ・デザインスタジオをエコシステムでつなぎ、さらにスタートアップ・クラウドソーシング・学術界とつないでいます。NTTグループで構築しているのは、ディスラプティブなマインドセットとディスラプティブなアプローチを適用して問題に対処し、全く異なるソリューションを生み出すための工場です。
現在20の分野に取り組んでいます。私たちが解決しようとしている複雑な課題の類型をいくつか選んで紹介します。
図3に示すように、すべての業務用サービスがクラウドに移行しています。これは、ストレージ・アプリ・コンピューティングのいずれかに属します。今私たちが注目しているのは、企業が必要とするあらゆるものはオンデマンドシステムに移行できる、という新しい大規模なトレンドです。これは「リキッド・オーガニゼーション」と呼ばれるものです。誰もが何も、従業員さえ持たなくても、1個の企業をつくることができます。ここに掲載したものはすべて私たちのつくった製品です。このソリューションは基本的に、クラウドソーシングの利用により従業員を雇用することなく成り立ちます。また、このプラットフォームはクリエイティブエージェンシーやマーケティングエージェンシーを雇うことなく、あらゆるデジタルコンテンツを作成できます。これはまさに「クラウド化」のコンセプトの実現の過程です。企業が、ナレッジ・データ・AIからサービスとして必要とするすべての資産は、例外なくクラウドにプッシュされます。これがまさに私たちの取り組みのコンセプトです。
現在取り組んでいるもう1つの分野は、非常に戦略的でかつ興味深いものです。図4の左側は、現在の消費者のハイテク巨人とのすべてのインタラクションをモデル化したものです。私たちは消費者データ・生産者データ・財務データ・ソーシャルデータ・健康データなど、大量のデータを生み出しています。ここに挙げるプレイヤはすべて、取得したデータを何らかのかたちで運用に活用しています。良いサービスを受けられることは幸せですが、しかしその根底を支えるモデルは完全に非対称形です。1人ひとりがデータを所有し、データを生み出していますが、これらのサービスプロバイダやプラットフォーマの手にみすみす陥っているのです。私たちが構築しようとしているのは、全く新しいモデルです。つまり、消費者である自身が「データを所有する」「データを管理する」「データを収益化する」ということです。これに従い、一連の新たなエージェント(図の中央)を作成しています。最初に、自身のデータを自動的に入力する安全なデジタルIDのコンセプトを作成します。次に、「デジタルセルフ」のアプローチを作成します。これはデジタルによる複製といえるものです。チャットボットなどではなく、はるかに凌駕するものです。データの操作は自身のインタラクション、自身の知性により行われるようになります。各ユーザが各プレイヤと対話する現在のモデルから、各プレイヤとやり取りするデジタルメディエータが存在するというモデルに移行し、最終的には自身のデータ投資に対するリターンを実現するための新しいビジネスモデルを作成しようとしています。

図2 NTT DATAおよびNTTによるディスラプション

図3 「オンデマンド」から「なんでもオンデマンド」へ

図4 「私・あなたからのデータ」から「私・あなたのためのデータ」へ

欠乏から潤沢さへ

次は何が到来するのでしょう? 分かる人がいるとも思いません。これは私の最善を尽くしたうえでの推測に過ぎませんが、長い時間をかけて欠乏から潤沢さへと我々の社会は移行しています(図5)。すべてのデジタルルール、あらゆるものの中のすべての物理的オブジェクトがいったんプラグインされると、突然制限がなくなり、人間にハードコードされた項目を持たなくなり、地球上のあらゆるものをコーディングできるようになります。Ray Kurzweilの著作『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biol-o-gy』(シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき)を読むことを強くお勧めします。とても良い参考資料となります。2045年にはシンギュラリティ(特異点)が始まり、さまざまなことが変化します。すべての背後にあるコンセプトを理解することが絶対に必要になります。おそらく、人間としての自身からポストヒューマンとしての自身への進化に関することです。それは長期にわたるでしょう。
良いニュースとしては、長期的にみて、ディスラプションは今後ますます重要になることでしょう。変化の狂乱が一層大規模に、はるかに速くなるからです。
このアイデアはとても重要で、両手効きです(図6)。皆さんの企業、またはビジネスや組織のいずれかにおいて、これらの3つの次元を当てはめてみましょう。ビジネスの運営は非常に重要です。これができなければ企業体は死んでしまいます。ビジネスの進化もまた重要です。より防御的な戦略が得られるようになるでしょう。しかし改革は、新たなビジネスを生むために自身のビジネスの息の根を止めることにもなるのです。ビジネスの改造はディスラプションを意味し、ディスラプティブなイノベーションも非常に重要です。
大きな成功を収めている大企業に属することは、今後大きなアドバンテージにはなりません。新しく学ぶためには、学んだことを捨て去ることも必要です。ソクラテスは「私が知るすべては、なにも知らざることなり」と言いました。謙虚であることはとても大切です。子どもたちの視線で世界を見てみましょう。それが格言の裏側に隠された意味なのではないでしょうか。

図5 欠乏から潤沢さへ

図6 両手効きのリーダシップ