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2026年9月号

トップインタビュー

「技術を実装し続ける組織」であるために、正しい問いを立てる力、戦略を実装までやり切る力、そして知識・見識・胆識を磨き続ける

「技術を語る組織ではなく、技術を社会・事業価値に実装し続ける組織へ」を基本姿勢とするNTT技術企画部門。AI(人工知能)時代の競争はもはや単体技術の優劣ではなく、エコシステムを設計し、動かし続ける力の勝負です。部品レベルから、データセンタ、ネットワーク、AIコンピューティング基盤、ソリューションまでそろうAI時代のフルスタック事業体であるNTTの強みを、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)をAIOWNへと進化させ、社会実装で世界と勝負している海老原孝NTT技術企画部門長に、注力している技術領域と技術企画部門の姿勢について伺いました。

NTT常務執行役員
技術企画部門長
海老原孝

PROFILE

1990年日本電信電話株式会社入社。2014年NTT東日本 経営企画部 中期経営戦略推進室長、2016年NTT技術企画部門 ビジネスプロセス戦略担当部長、2022年NTT東日本 執行役員 デジタル革新本部長、NTTイーアジア代表取締役社長を経て、2025年より現職。

「机上の検討」から「社会で使われる技術」へと変えていく

技術企画部門長に就任して1年が経ちました。この一年を振り返り、どのような実感をお持ちですか。

私は2025年6月に技術企画部門長に就任して以来、NTTグループ全体を技術の力でどう底上げしていくかというテーマに向き合ってきました。技術企画部門には過去にも在籍していましたが、現在はネットワークだけでなく、AI(人工知能)、IT、セキュリティなど扱う領域が大きく広がっており、部門自体も変わり続けなければならないと感じています。
持株会社の役割は、事業会社だけでは解決が難しい課題に取り組み、少し先の未来を見据えた方向性を示すことにあります。また、NTT東日本・西日本、NTTドコモ、NTTデータをはじめ、それぞれ異なる強みや役割を持つグループ会社と方向性を共有し、同じ方向へ導いていくことも重要な使命です。実際には大変なエネルギーを要する仕事ですが、グループとしての力を最大限発揮するためには欠かせません。技術企画部門長として私自身が託されている役割は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)やAIといった新しい技術を研究成果のまま終わらせるのではなく、社会へ実装することだと考えています。そのため、着任から特にIOWNの実装とAI活用の推進に力を注ぎ、「机上の検討」から「社会で使われる技術」へ変えていく取り組みに注力してきました。

研究成果を社会実装するという過渡期にあり、重責を担われているのですね。現在、注力している技術領域について教えてください。

私が現在もっとも注力しているのは、IOWNの実装とAIの活用です。先ほどお話ししましたとおり、IOWNは研究フェーズから実装フェーズへ移行する重要な段階にあり、APN(All-Photonics Network)の全国展開やAIコンピューティング基盤の整備を進めています。また、その先にあるAIOWNの実現も見据えています。AIについては、社内業務への実装とガバナンスの両面を重視しています。
単に生成AIを利用して便利になったというレベルではなく、業務プロセスや品質、お客さまへの価値提供そのものを変革するために、AIエージェントやデータ活用基盤の整備を進めています。
こうした技術に注力する背景には、社会全体でAI活用が急速に進んでいることがあります。AIを本格的に活用するためには、AIそのものだけでなく、それを支えるネットワーク、データセンタ、コンピューティング基盤が必要です。私は若いころ、光アクセスネットワークの研究開発に携わりましたが、当時も「本当に価値が生まれるのか」と上司や周囲に問われながら先行投資を続けてきました。おそらく、現在のAIやIOWNも同じだと思っています。技術企画部門は将来必要となるインフラを先行して整備しながら、その活用方法も同時に考えることが重要です。AIを支えるインフラ整備と実際の活用を連動させながら実装していくことが、今の技術企画部門、ひいてはNTTに求められている役割だと考えています。

信頼関係を大切にしながら、技術を社会価値へ変えていく

社会の未来を築くという意味でNTTに対する期待も大きいと思います。中でも、技術企画部門に求められている力とは何でしょうか。

私は、技術企画部門に求められているのは、優れた技術を生み出すことだけではなく、それを社会や事業の価値へと結び付ける力だと考えています。AI時代の競争は単体技術の優劣ではなく、AI、ネットワーク、IT、エネルギーなど多様な技術を組み合わせ、エコシステムとして価値を生み出せるかどうかにかかっています。そのため技術企画部門には、研究成果を理解し、事業会社やパートナーと連携しながら社会実装まで推進する力が求められます。
また、目の前の課題に対応するだけではなく、将来の大きな課題、いわゆる「Big Rock」を見つけ出し、その解決に取り組むことも重要な役割です。私は、技術企画部門が「技術を語る組織」ではなく、「技術を実装する組織」であり続けなければならないと考えています。
その組織を現実のものとするために私自身が大切にしている姿勢があります。まず相手の話に耳を傾けることです。それは現場や事業会社が何を考え、何に困り、どのような未来をめざしているのかを理解することが、変革の第一歩だと考えているからです。また、知識だけでなく、本質を見抜く見識と、決断して踏み込む胆識を磨き続けることも意識しています。持株会社の仕事は未来を創ることです。私は、人と人、技術と事業をつなぎながら、社会実装を加速し、グループ全体の変革を牽引していきたいと考えています。

あらゆるもの、人を「つなぐ」というご姿勢はNTT人生の中でどのように培われてきたのですか。

私は1990年にNTTへ入社し、通信設備の建設・保守という現場からキャリアをスタートしました。その後、光アクセスネットワークの研究開発、国際標準化、通信政策、経営企画、ネットワーク運営、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進、海外事業、そして現在のAI活用推進へと活動の幅を広げてきました。
また、シンガポール国立大学へのMBA留学や米国CSISへの出向、ベトナム事業の運営などを通じて、技術だけでなく経済や社会、国際情勢を俯瞰して考える視点も養うことができました。そして、東日本大震災では通信復旧に携わり、通信が人々の暮らしを支える社会インフラであることを改めて実感しました。振り返ると、私のキャリアは現場と研究、技術と経営、日本と海外など、異なる世界をつなぐ経験の連続だったと思います。
その中で学んだのは、信頼関係の大切さと、自分自身の強みを磨き続けることの重要性です。若いころには、自分が必要だと思ったことを先走って進め、上司から「そこまでやってはいけない」と叱られたこともありました。しかしその経験から、自分の領域だけで仕事は完結せず、相手が何を考えているのかを理解しながら進めることの大切さを学びました。
例えば、ベトナムでは現地の商習慣に馴染むよう家族ぐるみのつきあいをし、シンガポールでは英語力を獲得するため、ディベート活動に挑戦し、多様な価値観や文化を持つ人たちとの議論を重ねました。その経験を通じて、まずは相手の話に耳を傾け、理解しようとする姿勢が重要だと実感したのです。現在も、信頼関係を大切にしながら、技術を社会価値へ変えていくことに取り組んでいます。

目の前の課題への対応だけでなく、その先にある未来を見据える

公私ともに幅広く、国内外でさまざまなご経験を重ねてこられたのですね。一言で表現するのは難しいかもしれませんが、トップとして大切にしていることを教えてください。

私がトップとして常に意識しているのは、目の前の課題への対応だけでなく、その先にある未来を見据えることです。技術企画部門の役割は、日々発生する課題への対応にとどまらず、将来のNTTグループや社会にとって重要なテーマを見つけ出し、その解決に向けた道筋を描くことにあります。そのためには、正しい問いを立てる力、戦略を実装までやり切る力、そして知識・見識・胆識を磨き続けることが欠かせません。また、組織を動かすうえでは、繰り返しになりますが、相手の話をよく聞くことを大切にしています。現場や事業会社が抱える課題や思いに耳を傾け、共感を得ながら進めることが変革の第一歩だと考えているからです。
今後、技術企画部門にはさらに広い視野が求められます。AIが社会のさまざまな分野で活用される中、ネットワークだけでなく、AI、IT、エネルギー、セキュリティを含めた社会インフラ全体をデザインする役割が重要になります。私は、IOWNを実装フェーズへ進めるとともに、その先にあるAIOWNの実現を通じて、AI時代を支える社会基盤づくりを進めていきたいのです。そして、技術企画部門自身も変革を続けながら、技術を社会実装し続けることで、日本そして世界の社会課題解決に貢献していきます。

技術者や技術企画部門の皆様、そしてパートナーの皆様へメッセージをいただけますか。

技術者の皆さんには、まず自分自身の専門性を徹底的に磨いてほしいですね。私は、どのような時代であっても、自分は何で価値を出せるのかを明確に持つことが大切だと考えています。そのうえで、技術は持っているだけでは価値になりません。社会やお客さまの現場で使われ、役立って初めて意味を持ちます。だからこそ、技術を知るだけでなく、それを実装し、価値へと変えていくことに挑戦してほしいと思います。変化の激しい時代だからこそ、専門性を磨き続けながら、新しい環境にも柔軟に適応できる人材になってほしいと願っています。
また、技術企画部門のメンバには、技術を社会実装することに全力で取り組んでほしいと伝えています。研究成果や基礎技術を実際の価値につなげるためには、多くの関係者と協力しながら汗をかくことが必要です。その経験は必ず将来の糧になるはずです。そしてパートナーの皆様には、AI時代に一社だけで価値を生み出すことはできないということをお伝えしたいと思います。これからはグローバルなエコシステムの中で、それぞれの強みを持ち寄りながら価値を創造していく時代です。私たちはオープンな姿勢で学び続け、そして、技術を社会実装し続け、皆様とともに社会課題の解決に取り組んでいきます。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

仕事に向かう姿勢や戦略について、どっしりとした声でロジカルでありながらドラマティックに語られる海老原技術企画部門長。IOWNやAIといった最先端技術を論じる際に感じるのは「人の話に耳を傾ける」「信頼を築く」というぶれないご姿勢です。そんな海老原部門長にはもう1つ、ジャズシンガーとしての顔があります。「TAKA」としてステージに立ち、Nat King Coleの「Stardust」やMichel Legrandの「What Are You Doing the Rest of Your Life」を愛唱されているというのです。即興と対話を重ねながら1つの音楽をつくり上げるジャズの世界は、人と技術、研究と事業をつなぐ海老原部門長の仕事観ともどこか重なります。共感と調和をアーティスティックに力に変える匠の技に魅了されたひとときでした。

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