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2026年11月号

明日のトップランナー

将来、光通信ネットワークの新たな基盤となる「マルチコア光増幅器」

現在のネットワーク環境では、このまま通信需要が拡大すると、2030年以降には必要な伝送容量を支えられなくなるといわれています。この懸念を払拭すべく、1本の光ファイバに複数の通信路を設ける「マルチコア光ファイバ」により、通信容量を大幅に増加させる新しい光通信の基盤研究が進められています。今回はこの「マルチコア光ファイバ」を用いた長距離伝送に欠かせない光増幅器の研究開発のトップランナー、和田雅樹特別研究員にお話を伺いました。

和田雅樹
NTTアクセスサービスシステム研究所
特別研究員

PROFILE

2009年北海道大学 工学部 情報エレクトロニクス専攻卒業。2011年北海道大学 大学院 情報科学研究科修了。同年、日本電信電話株式会社に入社。2018年北海道大学 情報科学研究科で博士号(工学博士)取得。高速・大容量通信用の光ファイバ、光増幅器の研究に従事。2016年電子情報通信学会 学術奨励賞 等受賞。2024年からIEC(International Electrotechnical Commission)での国際標準化活動に従事。2025年から国際会議Optical Fiber Communication Conference (OFC)、Subcommittee D4 メンバーを務める。

「マルチコア光ファイバ」で実現する近未来の長距離光伝送技術

■従来の光ファイバの進化形「マルチコア光ファイバ」について教えてください。

現在の社会環境では、動画配信やクラウドサービス、生成AI(人工知能)、遠隔医療、自動運転といったデータトラフィックの急増に伴って、伝送容量拡大への要求がますます高まっています。この伝送容量拡大に対応するため、現在もさまざまな研究が行われています。光通信の基盤として現在広く使われている光ファイバは、光の通り道であるコアを1つ持つ「シングルモードファイバ(SMF)」と呼ばれるものです。これまではこのSMFの1つのコアにできるだけ多くの情報を詰め込むことで伝送容量を増やす手法が研究されてきました。実際に、「波長分割多重技術」「多値変調技術」「偏波多重技術」など、高度なデジタル信号処理技術を導入することで1本のSMFで伝送できる容量は継続的に拡大してきました。
しかし、1本のSMFで伝送できる容量には物理的な限界があります。伝送する光信号を詰め込み過ぎると、光信号どうしが干渉し合うことで信号が乱れ、さらに高い光パワー(1W以上の光)ではファイバヒューズと呼ばれる物理的な損傷現象が生じるおそれもあります。また、利用できる波長帯域にも限りがあるため、長距離伝送におけるSMF1本当りの実用的な伝送容量は、おおむね100Tbit/s程度が限界と考えられています(図1)。
このまま通信需要が拡大を続けると、2030年以降には必要な伝送容量を支えられなくなる可能性があります。そこで研究開発が進められているのが、これまで十分に活用されてこなかった「空間」を新たな通信路として利用する空間分割多重技術です。その代表的な伝送媒体が、「マルチコア光ファイバ」になります。SMFが光の通り道であるコアを1つしか持たないのに対して、「マルチコア光ファイバ」はその名のとおり、1本の光ファイバの中に複数のコアが配置されています。例えば4コアの「マルチコア光ファイバ」では、1本の細いガラスの中に4つの光の通り道を設けることができます。
コア数が4倍になるのですから、当然伝送容量は4倍程度に増加しますが、長距離伝送を実現するためには通信路を増やすだけでは十分ではありません。各コアの信号を送受信し、その信号を増幅する装置が必要になります。光通信の伝送容量拡大には、光ファイバ単体の進化にとどまらず、送受信モジュールや増幅技術を含めたシステム全体での総合的な技術革新が不可欠となります。

■「マルチコア光ファイバ」の実用化における課題点について教えてください。

前述したように「マルチコア光ファイバ」を用いて長距離伝送を実現するには、伝送中に弱くなった光信号を増幅する装置が必要です。その代表が「エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA : Erbium-Doped Fiber Amplifier)」であり、励起光から得たエネルギーを利用して光信号を増幅します。EDFAの1台当りの消費電力は大きくありませんが、数1000kmに及ぶ長距離ネットワークでは数10kmごとに多数設置するため、全体では無視できない電力消費となってしまいます。加えて「マルチコア光ファイバ」の導入に伴い増幅器をコア数分並列させる必要があり、電力消費はさらに増加します。特に海底光通信システムでは、中継器の電力やスペースに制約があるため、通信容量の拡大と低消費電力化の両立が重要です。そこで私は、複数のコアを一括で増幅できる「マルチコア光増幅器(MC-EDFA:Multi-Core Erbium-Doped Fiber Amplifier)」の研究に取り組んでいます。このMC-EDFAには、各コアを個別に励起する分割方式(コア励起方式)と、複数のコアをまとめて励起する一括方式(クラッド励起方式)という2つの方式があります(図2)。
分割方式は信号光と励起光を同じコア内に閉じ込めて伝搬させるため、励起光を信号光の増幅に利用しやすく、高い光変換効率を得やすい方式です。ただし、コアごとに励起光源や光部品が必要となるため、コア数が増えるほど装置全体の部品数と消費電力が増加しやすいという課題があります。これに対して、私が研究しているクラッド励起方式は、少数の励起光源からクラッド内に入射した励起光によって複数のコアを一括して増幅します。励起光源数を削減できることに加え、電気から光への変換効率が高い高出力マルチモードレーザを利用できるため、分割方式よりも、装置全体の省電力化が期待できます。このため、一括方式は将来の大容量光通信システムに向けた集積化・低消費電力化に有望な技術として注目されています。
しかし、一括方式が持つ省電力化の可能性を十分に引き出すには、クラッド内を広がって伝搬する励起光を各コアに効率良く吸収させる必要があります。現状では、励起光の一部が増幅に使われないまま残留し、光エネルギーとして失われることが課題です。私は現在、この課題に対して2つのアプローチで研究を進めています。1つは、光増幅器そのものの効率を高める研究です。もう1つは、廃棄されてしまう信号光や残留する励起光を回収し、再度活用する研究です。これらを組み合わせることで、将来のAI社会やIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)を支える大容量光ネットワークにおいて、通信容量の拡大と低消費電力化を両立することをめざしています。

光エネルギーを無駄なく活かす増幅・再利用技術

■これまでの研究成果や将来の展望について教えてください。

私の研究は「光エネルギーの有効活用」がメインテーマです。前述したように、1つは「マルチコア光増幅器」自体の効率を高める研究で、もう1つが従来利用されずに失われていた光エネルギーを回収して再利用するエネルギーハーベスティング(Energy harvesting)の研究になります。「マルチコア光増幅器」の高効率化については、励起光をより効率良く利用できる新しい増幅用光ファイバ構造を提案しました(図3左)。
この新構造では、光ファイバ径の最適化とともに光ファイバ内に配置された4つのコアの中央に「励起光非伝搬領域」を設けることで、励起光をコア周辺に導き、光信号への変換効率を、従来の5%から10%強まで高めることができました。これは現在の「マルチコア光増幅器」としての世界トップデータであり、課題だった電力効率の改善に一歩踏み出すことができたと自負しています。そして2030年までには、光ファイバ構造と増幅器構成の最適化により、分割方式に対して省電力効果が見込める20%超の変換効率をめざしています。
一方、光の再利用技術については、従来の光増幅器において廃棄されていた信号光を効率的に回収し、電力へ変換する技術を提案しました(図3右)。
4コア光増幅器を用いた回収実験では、廃棄光の93%の回収に成功し、光から電力への変換を含めて40%のエネルギー回収効率を実現しました。その結果、1台の光増幅器から約45mW(ミリワット)の電力を取り出すことに成功しており、これは光通信システムのエネルギーハーベスティングとして世界トップレベルの成果です。さらに、この電力だけを用いて温湿度センサを連続動作させることにも成功しています。現在、すでに実用化されている海底用の12ファイバペア、すなわち1つのケーブルに24本の光ファイバを収容する海底光ファイバケーブルの中継器にこの技術を適用すれば単純計算では1 Wを超える電力が回収可能になります。これは従来失われていた光エネルギーだけで、ネットワーク内のセンシング機能や監視機能の一部を駆動できる電力量に相当します。
このような研究を通じて、将来は光増幅器を単なる信号を増幅する中継装置ではなく、エネルギー供給やセンシングなども担う光ネットワーク機能装置へ進化させたいと考えています。そのために、変換効率や回収電力の向上だけでなく、実際の通信ネットワークに導入した際の消費電力削減量、装置の省スペース化、そして信頼性を定量的に示すところまで研究を進めます。NTTが掲げるIOWN構想においても、長距離ネットワークの消費電力削減や大容量化などの面で貢献していきたいと考えています。

■所属されているNTTアクセスサービスシステム研究所について教えてください。

NTTアクセスサービスシステム研究所は、新しい原理や技術を生み出す基礎研究から、実際の通信設備やサービスとして社会へ届けるための研究開発まで、1つの研究所の中で幅広いテーマに取り組んでいます。研究者だけではなく、事業会社での開発・運用経験者や、通信設備の建設・保守に携わってきた現場のプロフェッショナルまで、多様な人材が所属しています。
また、個人の意思を尊重してくれる風土もあり、私自身、入社以来希望し続けてきた事業会社での開発経験を叶えるため、入社9年目から3年間ほど出向させていただきました。新しい技術を社会実装する際の難しさや、現場におけるシステムの品質・信頼性に対する考え方を学べたことは、私にとって非常に大きな財産となっています。
さらに、NTT研究所全体に息づく「横のつながり」という強みも実感しています。「光増幅器」の研究においても、自部署だけですべてを完結することは難しいため、伝送実験やデバイス開発など各分野に強みを持つ部署と連携することもあります。それぞれの知見や技術専門性を結集することで、完成度の高い実用的な技術へと発展させています。

■最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

学生の皆様をはじめ、これから研究の道を歩む方々には、現在の専門にとらわれず、新しい人や分野との出会いを楽しんでほしいです。NTTは研究者1人ひとりの意向を尊重し、さまざまな背景を持つ方が集まって研究に取り組んでいます。まずはWebサイトで案内しているインターンシップなどを通じて、研究開発の雰囲気を実際にぜひ体験してみてください。学生の方はもちろん、これまでの専門性や経験を活かして研究所の取り組みにかかわりたい方にも関心を持っていただければと思います。
また、今回紹介した光ファイバや光増幅器の研究も、研究所のメンバだけで実現できたものではありません。ファイバや部品のメーカー、標準化に携わる方々など、多くのパートナーとの議論を重ねながら現在も研究を進めています。特に通信インフラ技術は学会での成果だけではなく、実用化のためにデバイスの安定製造や、長期使用の可否、既存設備との互換性なども重要です。多角的な視点と多様なアプローチが求められる現代の技術開発において、こうした議論のプロセスそのものが大きな意義を持っています。本研究の推進にあたり、ご意見やご協力をいただいているすべての関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。

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