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将来のデジタル社会を支えるネットワークの変革─ネットワーク基盤編─

モノづくりを革新する光ファイバ・光デバイス技術

これまでNTTが光通信分野の研究開発で培ってきた光ファイバおよび光デバイスの最先端技術を、三菱重工業株式会社が有する高出力レーザ加工技術と融合し、高品質なハイパワー・レーザ光の長距離伝送に世界で初めて成功しました。レーザ加工技術は自動車や航空機などの製造現場に急速に普及しており、今回の共同研究成果はB2B2Xの営みにより、多様な社会インフラのモノづくりの概念を革新する第一歩として期待されます。

松井 隆(まつい たかし)†1/ 辻川 恭三(つじかわ きょうぞう)†1/ 今井 欽之(いまい ただゆき)†2/ 赤毛 勇一(あかげ ゆういち)†2/ 坂本 尊(さかもとたかし)†2/ 半澤 信智(はんざわ のぶとも)†1/ 寒河江 悠途(さがえ ゆうと)†1/ 中島 和秀(なかじま かずひで)†1/ 森村 浩季(もりむら ひろき)†2

NTTアクセスサービスシステム研究所†1
NTTデバイスイノベーションセンタ†2

背景

今日、金属の切断や溶接をはじめとしたレーザ加工技術は、自動車や航空機などの製造現場に広く普及しています。レーザ加工に用いるレーザビームは、その性質からシングルモードとマルチモードに大別することができます(図1)。シングルモードのレーザビームは直進性が高く、光ファイバから出射されるビームを一点に絞りやすいため、高精度なレーザ加工を実現できます。最新のシングルモードレーザ発振器の出力は10 kW(光通信で用いる光強度の約1万倍)に及び、高精度で効率の良いレーザ加工が行えますが、従来の光ファイバで伝搬可能な距離は数mに制限されていました。
一方、マルチモードのレーザビームは既存の光ファイバ技術で数100m以上にわたって伝搬できますが、光ファイバから出射されるレーザビームの広がりにより加工精度が制限されていました。そのため、10 kW級のシングルモードのレーザビームを、加工に適した品質を維持したまま数10m以上にわたり伝搬することができれば、加工現場における加工場所や加工対象のサイズによる制約を大幅に緩和できると期待されています。さらにシングルモードの高出力レーザビームの方向や形状を自在に制御することができれば、切断・孔開けの加工形状制御や、効率的な肉盛加工*の実現が期待されます(図2)。

図1 現在のレーザ加工技術とマルチ・シングルモードの特徴

図2 NTTのICTを活用した新たなレーザ加工技術のイメージ

ハイパワー伝送用光ファイバ・光デバイス技術

今回、NTTが低損失・大容量伝送媒体として開発を進めてきたフォトニック結晶ファイバを、ハイパワー伝送用媒体として新たに最適化することで、10 kWの高品質レーザビームを30mにわたり伝送することに成功しました(1)。フォトニック結晶ファイバは無数の空孔で囲まれた領域に光を閉じ込めて伝搬する光ファイバで、空孔の直径や間隔を緻密に制御することで、10 kWのハイパワー入力時でもレーザ加工に適したシングルモードを維持することができます(2)。さらに、今回の三菱重工業株式会社との共同研究では、NTTが光スイッチや光メモリへの応用を考え開発を進めてきた、KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)結晶(3)と計算機ホログラム(4)の、レーザ加工への応用についても検討を行いました。KTN結晶および計算機ホログラムを用いることにより、それぞれレーザビーム方向と形状を自在に制御することができます。このため、フォトニック結晶光ファイバ・KTN結晶・計算機ホログラムの3つの技術を組み合わせることで、10 kW級のレーザビームを任意の加工現場に届け、柔軟かつ高品質で高効率なレーザ加工の実現が期待されます。

今後の展開

今回の取り組みは、競争力のあるネッ トワーク基盤技術の研究開発として推進してきた成果を、他業種の技術と組み合わせることで新たな付加価値の創出をめざしたものであり、今後、実際のレーザ加工におけるポテンシャル実証を経て、多様な社会インフラのモノづくりの現場を変革する技術として成長していくことが期待されます。

■参考文献
(1) https://www.ntt.co.jp/news2018/1804/180425a.html
(2) 松井・辻川・奥田・寒河江・藤谷・中島・白木:“フォトニック結晶構造ファイバによるハイパワー伝送技術、”第89回レーザー加工学会講演会、24A2-5、2018。
(3) 中村・宮津・佐々木・今井・笹浦・藤浦:“KTa1-xNbxO3結晶における空間電荷制御電気伝導とKerr効果による光偏向現象、”信学論(C)、Vol.90, No.12, pp.967-976, 2007。
(4) 八木・今井・黒川・遠藤・石原・芳山・久保・三輪:“積層光ROMカード、”信学論(C)、Vol.84, No.8, pp.635-643, 2001。

(上段左から)中島 和秀/松井 隆/辻川 恭三/寒河江 悠途/半澤 信智
(下段左から)坂本 尊/赤毛 勇一/今井 欽之/森村 浩季

最先端の光ファイバ・光デバイス技術により、情報通信ネットワーク基盤を支えるとともに新たな価値創造に貢献します。

問い合わせ先

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