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世界最速の1波600 Gbit/s光伝送と587 Gbit/sのデータ転送実験に成功 ―― 先端科学技術研究で得られるビッグデータ転送の高速化に向けた600 Gbit/s波長ネットワークとそのフル活用プロトコルの実現に目途
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立情報学研究所(NII)とNTT東日本、NTTはこのたび、東京都と千葉県に実証実験用として1波600 Gbit/sの伝送環境を構築し、そのフルスループット(伝送路で送受信可能な最大データ量)の確認、その上での汎用サーバを用いた587 Gbit/sデータ転送の実現、光波長変更と伝送レート変更による伝送経路変更実験に成功しました。
本実験では、商用環境に1波長600 Gbit/sにおいて世界最長となる約102 kmの伝送環境を構築し、データ転送にはNIIが開発したファイル転送プロトコル「MMCFTP(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)」を用い、サーバ1台での世界最速の587 Gbit/sのデータ転送速度を記録しました。また光ネットワークの高信頼化に向けた伝送経路切り替えでは、伝送距離を考慮し、光波長の変更に加え600 Gbit/sから400 Gbit/sへの伝送レート変更を行い、円滑な経路切り替えに成功しました。
実証実験の概要
今回の実験では、2018年11月に、NII(千代田区一ツ橋)と千葉県柏市の間に1波長で600 Gbit/s伝送可能な光伝送ネットワーク環境を構築し、3種類の実験を行いました。
(1) 実験1
NIIを起点に柏市で光ファイバを折り返すかたちでネットワークを形成し、伝送実験を行いました(図)。600 Gbit/s伝送環境は、NTTが開発した世界最先端のデジタル信号処理技術、ならびに最大100 GbE(ギガビットイーサ)を6本多重可能なOTUCn技術*を1チップで実現することにより1波100 Gbit/s~600 Gbit/sの伝送レート可変トランスポンダを実現し、NTT東日本が600 Gbit/sでデータ転送可能なネットワーク(実験3では400 Gbit/s経路も)を構築しました。600 Gbit/s信号のフルスループットは試験用テスターで確認しました。商用環境において約102 kmファイバを介した600 Gbit/s伝送の実証は世界初となります。
(2) 実験2
600 Gbit/s伝送環境下にて、MMCFTPを用いて1台のサーバから2台のサーバへのデータ転送、および2台のサーバから1台のサーバへのデータ転送を行いました。実験の結果、587 Gbit/sおよび590 Gbit/sのデータ転送速度で40 TByteの大容量データを転送完了させることに成功しました。40 TByteは一般的な25 GByteのブルーレイディスクに例えると1600枚分で、この大容量データを約9分で転送できることになります。この結果により1組のサーバで587 Gbit/sのデータ転送を可能とする見込みを得ました。
(3) 実験3
柏市にも伝送装置を設置して伝送距離の異なる2つの伝送経路を構成し、伝送路の障害を想定した経路切り替え実験を行いました。伝送装置の経路変更機能、光波長変更機能および伝送レート変更機能を用いて、経路切り替えに合わせ、波長変更を行ったうえで1波600 Gbit/sから1波400 Gbit/sへの速度変更を行い、通信回線が再確立されることを確認しました。データ転送では、経路切り替え前には600 Gbit/s波長で580 Gbit/sを計測し、経路切り替え後には、データ転送が再開され、400 Gbit/s波長で393 Gbit/sのデータ転送速度を計測しました。
なお、本実験の一部は、総務省の委託研究「巨大データ流通を支える次世代光ネットワーク技術の研究開発」により得られたデジタルコヒーレント光伝送技術を利用しています。
* OTUCn技術:100 Gbit/s超のサービス(超高速イーサネット信号等)を収容し、光ネットワーク上を高信頼にデータ伝送する技術。
図 実証実験ネットワークの構成
今後の取り組み
問い合わせ先
NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
TEL 0422-59-3663
E-mail inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2018/1812/181211a.html
研究者紹介
高速・高信頼な通信を経済的に実現する次期学術情報ネットワークに向けて
栗本 崇
国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 准教授
学術情報ネットワークSINET(Science Information NETwork)は、日本全国の大学・研究機関等の学術情報基盤として構築・運用されている情報通信ネットワークです。教育・研究に携わる900以上の組織、300万人以上のコミュニティ形成を支援し、多岐にわたる学術情報の流通促進を図るため、全都道府県に設置したノード(ネットワークの接続拠点)間を100 Gbit/s回線で接続した超高速ネットワークです。2019年度には、400 Gbit/s回線の導入を予定しています。
高エネルギー分野や天文分野等での最先端研究においては、センサ感度向上によるデータ量増加や高精度コンピュータシミュレーションサイエンスなど膨大なデータ流通への要望が高まっています。またIoTやビッグデータサイエンスの広がりに伴いデータ処理と情報流通が融合した研究分野が飛躍的に立ち上がりつつあります。このような需要の高まりを受け2022年からスタート予定である次期SINETでは、全国的な400 Gbit/s回線さらには1 Tbit/s回線の導入を検討しています。
さらに次期SINETに向けては光伝送レイヤでの経路切替技術の適用も検討しています。近年、自然災害等が猛威を振るい通信ケーブル等への被害が大きくなる一方、災害時の通信確保は重要になっています。光伝送レイヤでの経路切替技術は、通信ケーブル障害時における代替通信確保を、より経済的に実現するための技術として期待しています。
これら、先端的な伝送技術を踏まえながら、次期に向けた超高速・高信頼なネットワーク方式の検討を進めています。
担当者紹介
大容量伝送可能な光伝送ネットワーク技術
関野 智啓
NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 高度化推進部 ネットワーク開発部門 リンクシステム開発
NTT東日本では、100 Gbit/s×88波の伝送が可能な光伝送システム(PTS)を用いたフルメッシュのネットワークを導入しています。今後、4K/8Kの高精細な映像配信、次世代モバイル通信5G等によるトラフィックの急増が見込まれるため、より大容量の伝送装置の開発・設備導入を進めています。
現在導入されている光伝送システムは、1度に2ビットの信号を送ることができる光伝送技術(QPSK)を用い、1波100 Gbit/sの伝送を実現しています。今回実験した1波600 Gbit/sの大容量伝送は、1度に6ビットの信号を送ることができる光伝送技術(64QAM)を用い実現しました。しかし、1度に伝送するビット数を増やすと、ノイズの影響を受けやすく、フィールドでの長距離伝送が課題となっていました。
そこで、1波600 Gbit/s伝送可能なネットワークを実現するために、装置の置局検討や光ファイバの特性を検証し、高品質な伝送ネットワークを構築しました。今回の実証実験では、国立情報学研究所(NII)、NTT研究所と共同で、600 Gbit/s伝送装置とデータ転送サーバを用い、フィールド環境おいて1波600 Gbit/sでのデータ転送を実証しました。
今回の実証実験の結果を踏まえ、さらなる高速・大容量の伝送システム導入に向けて開発を推し進めていきます。
研究者紹介
超大容量伝送を実現する光伝送技術研究の奥深さ
河原 光貴
NTTネットワークサービスシステム研究所
ネットワーク伝送基盤プロジェクト 超高速光リンクDP
現在、映像データの流通拡大やモバイルデータの普及に伴い、大容量クライアント信号の必要性が高まっています。近年、IEEE P802.bsにおいて400 Gbit/s Ethernet規格が標準化され、800 Gbit/sや1.6 Tbit/s Ethernet規格の標準化に向けたロードマップも示されています。
このような大容量トラフィックを経済的に光リンクに収容するソリューションとして、100 Gbit/s/λの光信号を送受信する光伝送システムが商用導入されており、より高速化した200 Gbit/s/λの光信号に対応した光伝送システムの開発が進んでいます。また、ビット当りのコストをより低減するため、チャネルのさらなる高速化に向けた研究も進んでいます。
本取り組みは、国立情報学研究所(NII)、NTT東日本、NTT研究所との共同実験プロジェクトとして、600 Gbit/s/λの光信号に対応した光伝送システムの実用化に向けて検討してきました。
私自身は、600 Gbit/s光信号をリアルタイムに送受信可能なトランスポンダの試作とフィールドでの100 km伝送の実証実験を担当しました。100 km伝送を実証するには多くの課題があり、当初は雲をつかむような状況でした。しかし、試作直後から実験本番の直前まで、光信号特性を最大化する調整や装置構成の工夫を行い、いかにより良い伝送品質を得られるかを追求し続けたことで、何とか100 km伝送の実証に至りました。
大きな共同実験プロジェクトならではのプレッシャーも感じましたが、光伝送技術の奥深さと面白さを実感しました。私たちの光伝送技術が今後の国内の基盤ネットワークの発展に役立つことを願っています。